アプリユーザーをECに誘導せよ 「使ってもらう」ための工夫がカギ!

商品のバーコードをスキャンして「ほしいものリ スト」に追加

スマートフォンでの買い物が当たり前になった昨今、専用のアプリをリリースしているネット販売企業も多い。しかし、多様なアプリがある中で、ユーザーにとって「買い物アプリ」の優先度は高くないのが実情ではないか。今回は店頭で気になる商品を「ブックマーク」して通販サイトから買えるような仕組みを取り入れたアプリや、コミュニティーを活性化するための手段として定期購入サービスを開始したアプリなど、「使ってもらう」ための工夫を施しながら、ECへの導線を探るアプリを紹介する。ECを主目的としたアプリではないが、「集客」や「アクティブ率向上」へのヒントが見えてくるかもしれない。

事例① 東急ハンズ「東急ハンズアプリ」

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買い物スタイルを変革するための足がかりに

東急ハンズでは近く、同社のハンズクラブカード会員向けの新しいアプリとして、「東急ハンズアプリ」の提供を開始する予定だ。ポイント管理など、これまでの会員カードに代わる機能だけではなく、同社の店頭で気になる商品をバーコードでスキャンして「ほしいものリスト」に入れ、後日通販サイトから購入できる機能や、店舗在庫の確認、アプリで店舗の商品を「取り置き」できる機能などを設けた。

オムニチャネル購買をサポート

アプリのコンセプトの一つは「オムニチャネル購買のサポート」だ。同社の長谷川秀樹執行役員オムニチャネル推進部長は「3つの顧客の購買行動をサポートしたい」と話す。

まず、1つ目は「パソコンやスマートフォンなどで取り置きをして、後日店舗で購入する」というもの。実は、店舗にかかってくる問い合わせのうち、70%程度は「目当ての商品の在庫があったら取り置いてほしい」というものだという。これを解決するとわけだ。

2つ目が「うけたまわり機能」。これは、行った店舗で扱いのない商品を取り寄せるというもの。長谷川執行役員は「問屋や他店からの取り寄せなど、今までは店員がアナログでやっていた部分をテクノロジーで代用していこう、ということだ」と説明する。

3つ目は「“一目ぼれ”をサポート」。店舗で「いいな」と思ったとしても、その場で買わないというのは良くあるケースだが、それをカバーする。つまり、ネット販売に良くある「欲しい商品のブックマーク機能」を店舗でも実装したというわけだ。長谷川執行役員は「家電量販店などが、商品のバーコードをスキャンして検索し、他店と価格比較する機能を持つアプリを出しているが、それとはコンセプトが違うもの」と話す。

店頭でブックマークしたとしても、ハンズの通販サイトから買わずに、より安い価格で販売しているサイトで買われてしまうケースも考えられる。東急ハンズは基本的には値引き販売をしていないこともあり、「『買い物をする際に価格が最優先』という消費者は、そもそもあまりハンズには来ないのではないか」(長谷川執行役員)。

目当ての商品を見るために、電車賃や時間をかけてハンズに来るくらいなら、最初からネットで検索した方が手間はかからない。「(ブックマークした商品が他社で買われてしまうケースは)ゼロではないだろうが、まず自社の会員を大事にする必要があると思っている」(長谷川執行役員)。

顧客の「ランキング」も

その他の機能としては、購買履歴の確認や、お店のフロアガイドの確認など「店員が良く聞かれること」(同)をアプリでできるようにした。

面白い取り組みとしては、利用者を順位付けする「ランキング」機能がある。順位が上がることで、ハンズネットのキャラクターである「コレカモ」の見た目がパワーアップするという仕組みも取り入れた。

商品購入のほか、店舗に来店することで順位が上がる。ランキング上位となっても優待などは行わず、いわばおまけの機能となるが、長谷川執行役員は「購入金額だけでランクを決めるのは簡単だが、1回に買う金額は少なくても、頻繁に店舗に来てくれる消費者も会社にとっては嬉しいので、購入額と来店頻度を勘案してランク付けしている」と話す。

アプリにはGPS機能がついているので、店舗の近辺に来た際にクーポンを発行することも可能だ。また、購入金額や来店頻度、年齢などによる、顧客の細かいセグメント分けに基づいた販促ついては「今後の課題」(同)だ。これまでハンズでは、居住地域によるメールマガジンの出し分けや、「ヘアケア商品を買った人に対するダイレクトメールの発送」といった販促は行っていたが、「特定の顧客像(ペルソナ)を想定した販促など、もっと細かいセグメント分けはしていく必要があるだろう」(長谷川執行役員)とする。

今後、長谷川執行役員が「試してみたい」というのは「クロスセル」という。「EC専業の人に話を聞くと『なかなか思ったようにいかない』という答えが返ってくるが、まずは実験してみたい」(同)。例えば、「シャンプーと一緒に買われている商品」を割り出して、シャンプーしか買っていないユーザーにおすすめしていく、などというもの。

長谷川執行役員は「うまくいかないかもしれないが、ある層に対しては効率良く販促できる、といったパターンが見出せる可能性はある」と話す。また、店舗での滞留時間が把握できるようになるため、例えば「滞留時間を長くするためにコーヒーチケットを出したら、購入率が上がるかもしれない。いろいろ試したい」。

「使ってもらう」ための工夫を

長谷川執行役員は「今までの買い物スタイルを変えていく足がかりにしたい」と意気込む。店舗での利用を前提としているため、来店頻度の高い人にとっては便利なアプリではあるが、やはり悩みとなるのが「どれだけ使ってもらえるか」ということだ。

「起動してもらうための“クセづけ”をした方がいいのだろう。例えばコンテンツを配信するやり方もあるが、小売りのやるべきことなのかという気もするし、これは課題となるのではないか」(長谷川執行役員)。プッシュ機能によるセール通知やクーポン配信なども「マス的なものではなく、自分に合ったものを配信する」(同)ことが「アプリを消されない」ために重要となりそうだ。

東急ハンズの長谷川秀樹執行役員が語る

今後のオムニチャネル戦略

現行のハンズクラブカードから移行してもらうためのアプリなので、50万~100万ダウンロード程度を見込んでいます。今までの買い物スタイルを変えてもらうための足がかりにしたいと思います。

今後は、顧客が「店員と話したい」と思っている時に、その意図を店員がキャッチするような機能を追加したいと思っています。

今は「話したい」と思っていても周囲にいなかったり、他の客を接客していたりというのは良くあるケースですよね。店舗では商品を買うだけでなく、何かアイデアやヒントをゲットして帰ってもらいたいと思っているので、そのためにはファーストコンタクトをやりやすくする必要があります。ボタンを押しての店員の端末への通知や、順番札のような仕組みなども考えていますが、煩雑にならないようなやり方が必要です。

「欲しい物の写真を撮影するとそのまま通販で購入できる」というような仕組みが出てくれば、店舗のショールーム化がますます進むでしょう。そのとき、小売店はどうなるのか。手に取って体験ができる場に特化しているかもしれないし、店員とのコミュニケーションが取れる場になっているかもしれませんが、いずれにせよ、これまでの物販中心から違う場になってくるわけです。

消費者にとって便利であり、小売企業にとっても効率が見込めるような売り方や場を、両者で作っていけるような仕組みを推進していきたいですね。

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