モールで買い回りをしやすく【鈴木雅也 クロスカンパニー IT・通販事業部 統括マネージャー】

「アースミュージックアンドエコロジー」など複数の女性向けアパレルブランドを展開するクロスカンパニーは10月10日、6つのブランドを集約した仮想モール「CROSS COLLECTION(クロスコレクション)」を開設した。「アース」「イーハイフンワールドギャラリー」「グリーンパークス」など従来は個別に運営していたブランドを1つの場にまとめた。モール化の狙いや今後の取り組みなどについて、EC事業の責任者である鈴木雅也氏に聞いた。 (聞き手は本誌・比木暁)

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ネットとリアルで回遊してもらえれば

セット購入で客単価アップへ

─-6つのブランドを仮想モール「クロスコレクション」に集めましたが、まずはその狙いから教えてください。

今まで当社は自社直営で通販を行ってはいましたが、ブランド区切りの通販サイトでした。会員は各サイトで共通でしたので、その方々への利便性を高め、買いまわりのしやすさを向上させるのが目的の1つです。もう1つは、「アース」は知っているけども「イーハイフン」を知らないですとか、「グリーンパークス」を知っているけども、実は「アース」を知らないですとか、そういった方に各ブランドの認知度を高めていくという目的もあります。「クロスコレクション」ではお客様にブランドを選んでいただくと、ブランドで区切ったページに遷移します。アイテムを選んでいただければ、ブランドを横断して商品を探すことができます。その結果、知らないブランドに出会うこともあるでしょうし、それをきっかけに初めてのブランドの顧客になっていただければいいかなと思っています。

─―従来のブランド別のサイトでは、他のブランドの通販サイトは見てくれなかったのでしょうか。

各ブランドの通販サイト内に別ブランドへのリンクを貼っていたものの、回遊性がそこまで活発ではありませんでした。やはりブランド区切りでしたで、そのブランドのイメージ見せていく中で他のブランドのロゴを強調して出せないというところがありました。

─逆にブランドを1つの売り場にまとめたことで、どういう形で各ブランドのエッジを立たせていきますか。

それぞれ区切りは入れています。ブランドごとのページを設けていますので、そこでブランドイメージの打ち出しはします。オフィシャルサイトもありますので、ブランドイメージや今何をやっているのかといった訴求はオフィシャルサイトに任せようかと思っています。ただ、通販サイトではあっても、その時々のカタログのイメージやCMのイメージを使いながら、ブランドのシーズン性はきちんと訴えていこうとも思っています。

─モールの見せ方やデザインの部分で工夫した点はありますか。

サイト自体があまり“個性を持たない”ように気をつけました。あくまで商品が主役なので、サイトばかりが目立ってはいけないので「白」を基調にしました。お客様に買ってもらう場としては、商品をニュートラルに見てもらいたいです。ブランドロゴは色を使いますが、ほかはそんなに色を多めには使っていないと思います。

─6ブランドの客単価については大差はないんでしょうか。

そんなにありません。今までブランドごとのサイト単体で購入されていたお客様が、ブランドを横断して購入してもらうことが可能になったことで、セットでの購入率が増えると予想されます。結果的に、現状では全体の客単価は6500円程度ですが、これが恐らく7000 ~ 8000円くらいまで上がるのではないでしょうか。

─ブランドごとに客層でバラつきはあるのでしょうか。

あまりないです。やはり20代前後を狙っているブランドが多いので、そこが一番“山”になります。そういう意味で、ブランド全体の顧客層もある程度は合致しています。

─モールになったことで商品発送でのリードタイムに変更はありますか。

リードタイムに関しては、変更はありません。基本的にはECの商品についてはすべて岡山にある倉庫から発送していますので、お客様に届ける時間に変更はありません。今のところ、保管場所を移すといった話も出ていません。

─大手のファッションECを見ると、複数ブランドを1つのサイトにまとめるという動きは以前から見られますが、御社としてはもっと早くやりたかったのでしょうか、もしくはこのペースで良かったのでしょうか。

私自身、クロスカンパニーに入って1年半程度です。この事業の責任者になってからまだ1年経っていません。本来はもっと早くやったほうが良かったのではないかなと思う反面、他社さんのようにブランド数が2桁とかあるわけではないので、ブランド数だけで見るとモール化するところのメリットは薄いのかなという気はします。ただ、今後のことを考えると、新規のブランド開発は進んでいくと思いますし、ある程度モールの基盤を作っておいて、新しいブランドの認知度を上げるための媒体という使い方もできると思います。

在庫表示で店頭への販促に

─「クロスコレクション」ではブログポータルを設けました。

お店のほうで書いている店舗ブログというのがあり、ブランドごとにバラバラでした。内容は店頭のスタッフがコーディネートを見せたり、今お店でやっていることを書いていましたが、結構見られていました。毎日更新されていて、読み物としてだけでなく、自分の家の近くにこういうお店があるんだなという“気づき”という意味でも、お店からお客様へ情報提供していくためにブログをひとつにまとめました。まだまだブログという媒体は当社のブランドのお客様には訴求ポイントになり得ると感じています。

─新たに店頭在庫の表示機能も搭載しています。

通販サイトとしてネット販売するだけではなく、店頭に送客するという媒体としてお客様にサイトを活用してもらうことも重要だと思います。通販で便利に買って商品が届くということに加えて、「今使いたい」とか「明日着たい」という場合は近くのお店に行かれたほうが利便性はあると思います。何点までといった細かな表示まではできませんし、ある程度お客様のほうからお店にコンタクトをとっていただいて在庫の確認は必要になりますが、それでも顧客のニーズはあると思います。また、店舗を持っているブランドが通販を行う場合、お店が売れないと通販も売れないと思います。やっぱりそこ(実店舗)を元気にしていかないとブランド自体も元気になっていかないので、在庫表示機能によって店頭への販促になればと考えています。

─同じタイミングでスマートフォンアプリの配信も開始されました。

通販サイトの機能がそのままアプリでも使えます。加えて、ブランドのブログもアプリの中に入れていきます。今後、(ECと実店舗との)会員の統合などを行っていきますので、そのツールとして使っていただけるよう機能をどんどんアップデートしていきます。

─実店舗のポイントカードの会員200万人とECサイトの会員約40万人を統合していくわけですね。

アプリをメーンに活用して、店頭とECのポイント連携を進めます。アプリはそのためのツールという位置付けでもあります。ポイントも含め個人情報をきちんと管理して、分析をしていくための“データの入口”というイメージです。このアプリにより、お客様は店舗と通販のどちらでご購入いただいても同じようなサービスを受けることが可能になります。

─新サイトの開始で見込めるシナジーはどんなところでしょうか。

クロスカンパニーのブランドの中で、ネットとリアルでグルグルお客様に回遊してもらえればと思います。要は通販で商品を見てもらって、「店には在庫があるんだ」ということで店頭に足を運んでいただいて、店頭で買い物をしていただいて、そこでお気に入りの店員さんができて、その店員さんのブログを見て、時間がない時は通販で買っていただくというようなサイクルを回していきたいです。私としては、お客様は「クロスカンパニーのお客様」だと思っていて、“店頭のお客様”や“通販のお客様”という区別はしたくありません。お客様が自分に合ったその時々の使い方をしてもらえたらうれしいです。

自社EC比率を7割に高める

─今後、ECと店頭の在庫一元化も実施していくということですが。
あくまで予定ですが、そこを目指していかければ全社的な売り上げや機会損失でのリスクを避けることができないと考えています。

─在庫一元化は直営のECと店頭に限ってでしょうか?

フェーズ1としては直営に限ってです。フェーズ2では出店先の取引先さんを含めすべて実施していく方針で、そう遠くない時期をメドに行っていきたいです。

─アパレルブランドの在庫一元化という動きはどんどん活発化しています。

ワールドさんが通販に関しては受発注という形ですが直営も取引先さんもすべて一元化しています。それによってデファクトスタンダード(業界標準)を作っていますので、この流れが各社さんでも加速化していると思います。当社としてもそこに乗っかったほうがいいという気はし
ています。後は、足回りの部分で取引先さんの物流に何日で届けるのかという問題はあります。

─在庫の一元化を進めていく中で、直営の自社の売り場だけでなく徐々に広げていって出店先のモールでもやるとなると、交渉も含めて結構大がかりになるんじゃないでしょうか。

そうなりますね。どういうやり方にするかはまだ分かりませんが、取引先さんに渡す商品データをこちらで作成・管理して、在庫もどこかのモールで商品が売れるとすべての売り場で連動して在庫数が変わるというようなイメージです。場合によっては在庫だけ、あるいは商品データだけといった部分部分での連携の仕方もあるかもしれませんが、理想は在庫も商品データもすべて連携して自社でコントロールすることです。

─現状、よく売れている売り場にたくさん在庫が積んであり、売れてないところには少しの在庫しかないと思いますが、在庫一元化によりどこで売れてもすぐに発送できるというスキームを構築していくわけですね。

メーカーのスタンスで言うと、それが一番理想的です。ただ、取引先さんからするとそれが理想的かどうかは分かりません。何を指標にしているかによっても変わってきます。トップライン(売上高)なのか、粗利なのか。ただ、商品を投入するだけで倉庫代は発生するわけです。売れる売れないに関わらず。加えて、ささげ(撮影・採寸・原稿作成)業務の費用も掛かります。そこの固定費の部分も考慮する必要があります。

─前期(2013年1月期)の通販(EC)売上高は全体で23億円、自社直営で行っている比率は6割程度でおよそ14億円ということです。今回のモールの部分は直営の6割ということだと思いますが、数値目標などはありますか。

直営だけの数値はありませんが、中期経営計画では来期(2015年1月期)の段階で、自社と他社を合わせた通販全体の売り上げで40億円にする計画です。

─現状、通販全体の6割を占める自社EC比率についてはいかがでしょうか。

自社の割合は高めていきたいです。というより、高めざるを得ないと思います。他社の取引先さんと自社とで伸び率を比べると、自社の伸び率のほうが高い。そういう中で、直営のほうを優遇するわけではありませんが、施策の小回りという意味でもやはり自社のほうがやりやすいですし、機能開発の面も「クロスコレクション」でシステム構築のAMSさんと組んだことで良くなっていくと思います。ですから極力早い段階で自社の比率を7割程度にまでもっていきたいです。

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