ヤフー×アスクルの通販サイト10月から始動、初年度黒字化、年商180億円へ

 2012年4月末に発表された法人向けオフィス用品通販最大手のアスクルと言わずと知れた日本最大の利用者数を誇るポータルサイトを運営するヤフーとの資本業務提携。両社はBtoC向けのネット販売事業を展開すると明言。年内をメドに新たに通販サイト「YASKUL(仮称)」を新設し、先行するアマゾンや楽天を凌駕する規模のネット販売事業を作り上げると豪語し、その動向が注目されていた。そしてその「YASKUL」の進捗状況がようやく見え始めた。10月をメドに新サイトを始動させ、初年度で年商180億円、黒字化を達成。5年後には年商ベースで2000億円程度を目指すと非常に強気の目標を掲げている。注目される新たなメガサイト、その勝算はいかに…。

4月末の両社の資本業務提携の説明会での様子

 

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「軽い生活」を提案する
 

 ヤフーとアスクルが10月をメドに稼動させる「YASKUL」と仮称される新たな通販サイトはヤフーの仮想モールをけん引する「ヤフー!ショッピングの中核店」という位置付けで展開。今年に入りヤフーの新たなトップに立った宮坂社長が標ぼうする「スマホファースト」にならい、「YASKUL」もスマートフォン向けのサイトを軸に、PC向けサイトを展開する模様だ。
コアターゲットは30、40代の主婦層。取扱商材はアスクルが本業の法人向けオフィス用品通販でも展開し、同商材だけですでに年間400億円を売り上げているというティッシュペーパーやミネラルウォーターといったいわゆる“日用雑貨”がメーンとなる。配送面でもアスクルが本業で培った物流の仕組みや配送子会社をフル活用し、翌日配送などの即時配送や時間指定、週末まとめ配送なども行う考えだ。
 こうしたサイトを構築することで、「忙しく働いている世帯の暮らしを軽くしたい」(アスクル)とし、「軽い生活」をサイトのコンセプトに設定し、重くてかさばる日用雑貨品は、わざわざ実店舗で購入し大変な思いをして運ばなくとも通販で安く素早く届けると提案。「『この生活はいいな』と思って頂ける“新しい生活”を提供できるはず」(同)とする。

5年後に2000億円へ?

 アスクルによると、この「YASKUL」は初年度に売上高180億円で、かつ黒字化を目指すとし、しかも「無理ない目標設定だ」と鼻息も荒い。さらにアスクルでは5年後に、年商ベースで現在の2.5倍と規模となる5000億円と全社的な売上高目標を掲げているが、「5年以内に(BtoCを)BtoB事業に匹敵する収益を創出する」(同)と話しており、BtoC事業の売上高も5年後には2000億円程度まで拡大させたい考えのようだ。
 アスクルでは、「ECに必要なコアをすべて自前で持っている」として、本業のBtoB通販事業で培ってきた800社超にもおよぶメーカーと直取引で商品を調達できる「商品力」や注文から最速20分で出荷できるという高度なシステムにさらに追加投資を行い、磨きをかけるという「物流力」などに加え、これまでアスクルとネットプライスドットコムの合弁会社として、BtoC通販を行ってきたアスクルの個人向け通販サイト「アスマル」のノウハウの移植(※年内をメドに「YASKUL」との統合が決定)、さらにヤフーの集客力や決済手法を活用することで、当該目標を達成し、先を走るアマゾンやヤフーの追撃し、抜き去りたい考えだ。
 目標達成時における想定客単価や顧客数などは明らかにしておらず、また、サイト稼動前の段階では何とも言えないところだが、市場の多様性という観点から、アマゾンや楽天に匹敵する新たなメガサイトの登場は期待したいところ。今後もその行方を注視したい。

アスクル岩田社長に聞く「YASKUL」の進捗

Q:ヤフーとの共同通販サイト「YASKUL(仮称)」の進捗は。
A:(2012年)10月中をメドに始動させる。PCサイトおよびスマートフォン向けサイトから始める。 
Q:どんなサイトになるのか。
A:我々は「ミニアマゾン」にも「ミニ楽天」にもなるつもりはない。(ヤフーとの資本業務提携後に)両社で立ち上げた(「YASKUL」の)プロジェクトはすでに一体となって、これまで「今までにないBtoC通販サイトとは何か」と議論を重ねてきた。並行して私とヤフーの宮坂氏の両CEOが参加するステアリングコミッティー(※プロジェクト運営を担う運営委員会)も開催して、サイトのコンセプトやターゲット、サービス名称、中期事業計画など議論してきた。詳しくは言えないが、休日に半日を割いて、家族総出で車で重い日用品を買いに行くような生活はしなくてもいいのでは、というのが大きなテーマだ。ただ、単にモノが安く買えますでは意味がない。『軽い生活』を実現すべく、品揃えをし、さらにそれをサイト上でどう分かりやすく表現できるか。そこをどう作るかはヤフーの若いスタッフなどととともに仕込中だ。消費者にとって「この生活はいいな」と思って頂ける“新しい生活”を提供できるはずだ。
Q:「YASKUL」のターゲットは。
A:生活の中で不便を感じている層と考えると、30、40代の主婦層などがコアになるだろう。
Q:配送は。
A:BtoB事業の配送を行なっている当社の配送事業子会社『BIZEX』をメーンに、他の配送業者との連携など様々な選択肢を考えている。BtoCでも当 然、共同のプラットフォームでやっていかないとスケールメリットや収益性を出せないので、BtoBとの混載という形も考えている。
Q:「YASKUL」の業績目標は。
A:初年度(2013年5月期)で売上高180億円、黒字化を目指す。無理のない計画だ。「アスマル」での過去の客単価の推移などから把握している個人向け通販事業の実績をベースにヤフーの集客力との掛け算で算出したわけである程度のメドは立っている。利益面に関しても先ほどのステアリングコミッティーでも議論したのだが、赤字でもいいとかではなく、黒字化を前提に進めるべきだろうということで決まった。実際、BtoB事業に比べ粗利は非常に高く、ある程度の量を売ることができれば黒字化は達成できるし、BtoC用の物流センターを作ったりすると負担が重いが、既存のBtoBの倉庫を活用し、そこにBtoCの商材を増やしていく。黒字化は難しくない。
Q:売れ筋や商材の異なるBtoBとBtoCを同じ物流拠点で運用できるのか。
A:確かにアパレルやファッション系商材になると異なるが日用品、つまり、パッケージ化されたコモデティをピッキングして届けるということに関しては、当社は得意であり、これはBもCも関係ない。ここでの勝負は一銭でも物流コストを下げ利益を出せるか、というところであり、ピッキングする作業員の最適な歩数や秒単位でのロス軽減、重量センサーによる検品自動化など日々の作業を改善しながら物流コストを下げていくというのは(BtoCの競合では)まだどこもできていないと思うし、我々の強みになってくるはず。
Q:両社でのもう1つの新規事業の目玉でもある仮想モール「ヤフー!ショッピング」およびネット競売「ヤフー!オークション」の出店・出品者向けの物流代行事業は。
A:通販サイトの立ち上げを優先したため、まだ先となる。具体的な開始時期は決定していないが、想定外に大手のEC事業者など様々なところから我々にもヤフーにも打診や問い合わせなどが来ており驚いている。利用する出店者にとって付加価値がないと意味がないので、他の商品と一緒に届くとか、全国同じスピードで届く、などの付加価値サービスと一般的な物流サービスなど、いくつかのサービスを考えている。
Q:5年後にアスクル全体の年商規模を5000億円超とする目標を掲げているが、BtoC事業の割合はどの程度か。
A:基本的にBtoCはBtoBと同等の売上高、利益を目指すとしている。ただ、5年後で半分半分だとBtoBの成長が少な過ぎる。だから、BtoBが毎年二桁増で推移し、残りがBtoCというイメージが近いと思う。利益面ではBtoCは非常に粗利が高いビジネスだ。起動に乗ってくれば収益事業になると思う。

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