定期購入を“あるべき形”にしたい 佐川隼人●テモナ 代表取締役社長

リピート通販支援のテモナが4月6日付で東証マザーズに上場した。同社はネット販売の定期購入に特化したカート付き通販システム「たまごリピート」を提供する。ネット販売の市場が拡大し通販やEC関連のシステムがどんどんリリースされる中で、テモナとしてもシェアを獲得して戦いに勝ちぬくことが求められる。今回の株式公開はそのための有効な一手になるのだろうか。定期購入にとことんこだわる佐川隼人社長が目指す世界とは──。

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“機能”と“教習所”2つの要素が強み

数カ月後に新製品を販売へ

─株式を公開した理由について教えてください。

3年ほど前から上場しようと構想して、準備を始めたのが2年と少し前です。資金調達を行い、設備やシステムの投資と、人材への投資、大きくこの2つに投資するのが目的です。人材を獲得する上で、ブランディングも重要になります。そういう意味でIPOは非常に効果があります。株式を公開することでまわりの見る目も変わりますし、社会的な信用度も間違いなく向上します。

システム面への投資とは具体的にどういったことを行う予定ですか。

現在、「たまごリピート・ネクスト」という新製品を開発しています。「たまごリピート」は8年ほど経っており、システムも老朽化し、課題もあります。そこで1年半くらい前から開発を進め、ようやく販売開始のメドがついたのであと数カ月程度で提供できそうです。そこに対しても引き続き投資はしていきます。

もう1つの軸である人材も重要なポイントになりそうです。

そうですね。当社は健康食品や化粧品の通販向けにサービスを提供していますが、新たにパンやスイーツ、野菜など「食品」の領域も開拓しています。そこに対する営業人員の強化も必要ですし、開発とカスタマーサポートの人員はお客様企業が増えれば比例して増やす必要がありますので、こうした部分も人員を拡充していきたい。IPOによって、今までリーチできなかった優秀な人材を採用しやすくなるでしょうし、技術者は売り手市場で採用が難しいので、その中で戦っていける状態になれるかなと思っています。

上場初日は値がつかず、翌日に初値が公開価格(2550円)の約3.2倍にあたる8050円となりました。どう受け止めていますか。

IPOは初値が高くなる傾向がありますが、当社もそうなったということは投資家から期待されているということで、率直にうれしいですし、気合も入ります。そうした期待に応えていきたい。

改めて主力製品の「たまごリピート」の強みとは何でしょうか。

2つあると思っています。1つ目は機能としての強みです。具体的にはレコメンドや引き上げなど“リピート化させる”ための仕組みと、購買回数に応じて同封物やメールの配信方法を変えるといった“リピートを伸ばす”ための仕組みです。ここに関しては8年間やってきて、情報量やノウハウは他社に負けないと考えています。2つ目の強みは、お客さんを育てる仕組みというのがあります。セミナーもそうですが、ワークショップのような形でショップさん同士で集まってもらって、悩みや課題を共有しながら解決していきます。そういう学校のような機能があります。

よくスポーツカーに例えるのですが、スポーツカーがあっても運転技術がなければ事故を起こします。当社はスポーツカーとしての機能的な部分と、“教習所”としての運転技術の向上、この2つを持つのが他にはない点だと思います。定期購入モデルは情報量がそれほど多くありません。当社はかなりのノウハウや事例を持っているので、そこを積極的にシェアすることで、お客さんの事業成長に貢献できると考えています。

顧客企業の業績はいかがですか。

当社の利用企業1社当たりの平均流通額は伸びています。これはずっと伸び続けています。そういう意味では、当社の機能だけでなく教習所の要素もしっかり作用し始めたかなと思います。

─“教習所”は頻繁に開催しているのですか。

大体、2週間に1回くらいのペースで、勉強会や、ワークショップとして集まってシェアする場合もあります。普段電話で話しているのを面と向かって話し合う個別相談会も行っています。東京・大阪・福岡で開催していますが、実際に勉強会に参加する企業と不参加の企業を比べると、参加する企業のほうが成長率は圧倒的に高いです。ですので、積極的に出てきてもらいたいです。

健食・化粧品以外の商材を開拓

─開発中の「たまごリピート・ネクスト」は既存の「たまごリピート」に比べ機能面でどのくらい異なるのですか。

「たまごリピート」の場合、年商で10億円を超えたあたりから運用効率やシステムのスピードが課題になることが多かったですが、それを「ネクスト」ではすべて解決します。理論的には年商100億円や1000億円レベルまで耐えうるようなシステム構成になっています。CRMの部分もより深みをつけ、細かくキャンペーン管理ができたり顧客にアプローチができるなど、徹底的に強化しています。基本性能というところと、リピート部分の強みを徹底的に強化したのが新製品です。
これとは別に、昨年からたまごリピートと中身は同じですが、ブランドを分けて「たまごサブスクリプション」を展開しています。ターゲットや売り方を変えた製品として、今は食品から徐々に商材を拡大していこうとしています。食品は廃棄のリスクがあり、健康食品や化粧品に比べて利益率が低くなります。定期購入モデルにすることで継続的な収益が得られて事業が安定し、固定客がつくことで計画生産が可能になります。結果、廃棄量が減り、利益率が上がります。

食品分野はどの程度開拓できているでしょうか。

全体の顧客の2割程度を占める規模になっており、手応えはあります。食品系の企業は健食や化粧品を扱う企業に比べると、通販のリテラシーが低いので、定期購入化させるためのノウハウを当社が提供することで事業を活性化させていくという取り組みを進めています。そこで事例ができて、例えばパンの定期購入がうまくいけば別のパン屋さんに転用することも可能になります。先ほどの教習所の例で言いますと、健食や化粧品の事業者は比較的リテラシーが高く“仮免許”のようなものですが、食品は“初運転”のイメージです。

─ショッピングカートや通販システム業界の競合環境はどう見ていますか。

サービスは増えてきています。その中で当社としては「ネクスト」を1年半くらい前から準備しており、これによって価値を高めて優位性を確保していきたいと考えています。食品の市場を開拓していますが、新たな市場で伸びしろを確保することで当社のブランドを広げていく計画です。

今後、競合環境はまだまだ激しくなるでしょうか。

そうなると思います。というのも市場が成長しているからです。競合環境が激しくなるというのはそれだけ魅力的な市場であるということです。実際、新規参入事業者も多いですし、健食・化粧品以外の領域でも定期購入モデルは広がっています。みんなでいろいろな成功事例を増やして、市場を作っていければいいと思っています。健食・化粧品だけで戦うというのは、少しナンセンスです。当社としては上場もしましたし、「ネクスト」もリリースするので、揺るぎない優位性を確保していきたいです。

なぜ定期購入にこだわるのでしょうか。

フロー型のビジネスをストック型に変えることが当社の理念になっています。私は前にも会社を経営していたのですが、そこで受託開発をずっと行っていました。ビジネスモデルが“フロー型”で繁閑の波があり、リスクが高いわけです。自分自身でそういう事業をやっていて、なんとか“積み上げ型”の事業に転換したいとずっと思っていました。ある時、サプリメントを定期購入の形でネット販売しているEC事業者のシステム開発を受託したのですが、運用を自動化するシステムを作ったのが転機となりました。探していた売り方に出会えたと感じたのです。「このシステムを製品化すれば同じように月額でやっていける」と考えたのがきっかけです。

成長の過程で“成長痛”も

「引き上げ」が前倒しされている

─通販やEコマース業界の状況について印象を聞かせてください。

定期購入は、事業者にも消費者にも双方にメリットがある売り方です。事業者は定期購入により継続収入を得られて経営が安定します。消費者からすると、定期購入は割安で定期的に届くので便利です。これが双方で一致して、定期購入は成立します。しかし、どうも事業者側で収益を確保したいという思いが先走っている節があります。
具体的に言うと、消費者から「定期が解約できない」や「知らないうちに定期になっていた」といった苦情が多くなっていると肌で感じます。一度でも消費者がそういう思いを持つと、二度と定期購入はしません。それは市場全体のパイを減らす行為なので、業界全体にとってマイナスです。当社としても、事業者が本来の価値を提供し、消費者が喜ぶというところに戻していきたい。そこの啓蒙活動の一環として勉強会で話したりしています。

実際に消費者からの苦情が増えているとすれば、それは新規参入が増加していることが要因でしょうか。

もちろんそれもあると思いますが、他の要因として「引き上げ」のステージがどんどん前倒しされています。何年か前はツーステップ式で、“お試し”から“定期”に引き上げるというのが通常のパターンでした。それだと引き上げ率が悪くなり広告費も高くなるため、事業者は利益を確保するために、“6回お約束”や“1回目から定期”などもやりたくなります。

また、ユーザーがメールを見なくなっているため、メールを送っても届かないという状況になっています。その結果、いかにして前の前のステージで定期に引き上げるかということに躍起になっているという印象です。そこを例えばLINEやSNSなどメールに替わる手段でユーザーとコミュニケーションを図り、商品やお店を気に入ってもらって定期に進む、ちゃんと理解した上で定期をやる、そういう本来のあるべき形に戻していきたい。でないと定期購入市場は発展しないです。

ただ、現状はネット通販の利用者は増えています。

大局的なところではどんどん成長しています。その中の1つのカテゴリーであるリピートについては、成長はしていますが、その過程で“成長痛”も生まれています。この課題を解決しないと法規制が入ったり規制が厳しくなり、自分で自分の首を絞めることになります。ここを解決すれば、もっともっと成長できると思います。

――そこの部分でテモナがサポートできるのはどういうところでしょうか。

人による啓蒙活動も大事ですし、代替案も重要になります。「こういうやり方をするともっといいですね」ということです。メールでリーチできないのであれば、LINEやSNSを使うとか、あるいは機能面でも定期購入をスキップできたり、解約を受け付けたりすることで、事業者側の運営効率を高めることもできます。電話がつながらなくて解約できないという事例も増えていますので、そうした部分を工夫してネットでも一部受け付けるようにするなど、機能とセットにして説明するようにしています。「便利だな」「お得だな」と消費者が感じないと、定期購入はしません。そこの課題解決につながればいいと考えています。

◇プロフィール

佐川隼人(さがわ・はやと)氏 1980年1月29日生まれ。2000年8月平成コンピュータ株式会社に入社。2007年10月グローバルデベロッパーズジャパン株式会社取締役、2008年6月ZUTTO株式会社取締役。同年10月テモナ株式会社を設立し代表取締役社長に就任、現在に至る。

◇取材後メモ

「当社は一貫して定期購入にこだわります」。今回の取材中に佐川社長がこんな言葉を漏らしました。自身がかつてビジネスモデルを模索している時期に偶然出会った定期購入という販売手法。その出会いをきっかけに佐川社長は定期購入に特化した通販支援システム提供していくことになります。定期購入という手法にこだわりを持つがゆえに、消費者からの苦情が増えていると肌で感じる現状に対して、「あるべき形に戻したい」という気持ちにもなるのでしょうか。構想から3年にして、ついに上場を遂げました。しかし、定期購入市場を発展させるための取り組みはここからがスタートなのかもしれません。

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