アパレル不況は我々が断ち切る 髙岸 治恵 ブランディシモ 代表取締役・CEO

長引く不況やファストファッションの流行で、アパレルの売れ行きが落ち込んでいる。そうした世情とは逆にグッチやエルメスなどに代表される「高級ブランド」をメーンに販売する会員制通販サイトが続々と事業を開始、各社とも短期間で多くの顧客を集めるなど順調な立ち上がりを見せている。順調さの秘密――。それはブランド各社の在庫を安価に仕入れ、格安で販売するというビジネスモデルにあるようだ。今年1月にブランド格安サイトを開設し、事業を開始したブランディシモを率いる髙岸治恵社長は言う。「アパレル不況は我々が断ち切る」と。(聞き手は本誌・鹿野利幸)


会員制というクローズド環境で


ブランドイメージを傷つけない


期間・数量限定で販売するという意味

――ブランド品に特化した通販サイト「Brandissimo.jp(ブランディシモ)」を開設し、今年の1月22日から事業を開始されました。改めてビジネスモデルを教えてください。

 基本的には当社の株主(ネットプライスやデジタルガレージなどとの合弁)の1社であるカナダ最大の会員制ファミリーセールサイト「Beyond the Rack(ビヨンド・ザ・ラック=BTR)」のビジネスモデルを踏襲しています。まず、登録頂いたお客様のみがご参加頂ける会員制サイトであるということ。そして非常に限られた期間で、ブランドごとに商品を定価の50%~70%引きという価格で販売するというのが、基本的な当社のビジネスの特徴です。

――出足はいかがでしょうか。

 昨年末から会員募集を開始して、スタート段階(1月22日)で初回募集枠の3万人を突破しました。順調な出だしといってよいと思います。

――順調な出足の理由については同分析されていますか。

我々のビジネスモデルによるところも大きいと思います。私どもでは1つのブランドごとに「フラッシュセール」として48時間ないしは72時間に限定して商品を破格で販売しています。限られた時間を過ぎてしまうと、お客様は欲しいと思われても買えないんですね。そうしたモデルですから、皆様は買い逃さないように購入頂けている部分もあろうかと思います。

――ただ、格安で販売するということは、仕入価格を抑える必要があります。また、高級ブランドほど、イメージを毀損しかねない「安売り」には難色を示しそうですが。

だからこそのビジネスモデルです。会員制というクローズドな環境にすることで、外から見える情報を制限しています。実際に会員になってサイトに入って頂かないと、どんなブランドのどんな商品がいくらで売っているか、が分からない訳です。このことで我々の仕入先であり、商品を提供して下さるブランドさんがもたれている”懸念”を払拭することができます。
オープンなサイトでブランド品のディスカウントを行った場合、例えば、グーグルなどで「ブランド名」で検索をかけると、「○○(ブランド)が○○%OFF」と検索結果にズラっと表示されます。私どもの場合、会員制ですからそれはまずありません。
なおかつ販売期間も限定していますので、やはりブランドイメージを傷つけかねない長期間の値引き販売はありません。そして販売期間が短いことで、ブランドさんは在庫保管場所のコストもかからず、短期間で在庫を現金化できるというメリットもあります。自社でも在庫処分のために行われているファミリーセール(※アパレルメーカーが一部の顧客や社員、その家族のために行うクローズドなセール)をネット上で素早くできるというわけです。

――どういうことですか。

やはり、こういったご時勢ですので、在庫を抱えてらっしゃるブランドも多いわけです。在庫は帳簿上、現金ですがそれで家賃や社員の給料を払うわけにはいきません。それで皆さん、ファミリーセールやアウトレットストアを構えるなど色々と工夫されています。
ただ、そこにはそれなりのコストがかかってきます。場所の確保や人の確保。アウトレットストアでは固定費が発生しますし。これを我々を使ってネット上で行なえば、ブランド側の経費は一切、かかりません。
しかもすぐに在庫を現金化できます。今だとお預かりした商品を撮影してサイトに上げる情報を作り、販売し、商品をブランドさんに発注するまでに10営業日くらいで完了します。その段階でブランドさんに売り上げが建ちます。ファミリーセールをリアルでやることに比べると、余計な経費をかけずにしかも素早く在庫を現金化できます。ブランドさんにとっても、非常にメリットは高いだろうと思います。

最初の4時間で8割を売り上げる

――販売期間を限定するメリットは分かりましたが、会員からも在庫を捌きたいブランドからも「短すぎない」とは言われませんか。

 確かにブランドさんの中には「48時間しかやらないの。短すぎない」と言われることはあります。ただ、私は今の販売期間も長すぎるのではないかと思うことがあります。
カナダのBTRではセール開始から「最初の4時間」で売り上げの85%を作ってしまいます。商品数も限られていますから、やはり、めぼしい商品から売り切れてしまいますので、会員の皆様はそれをご存知で、やはり早い時期に購入されるからだと思います。ですので販売期間を72時間しようが、1週間にしようがあまり意味がないんですね。こうした傾向は日本でも変わらないと思っています。

――極端は話、販売期間は4時間でもいい(笑)。

 そうかも知れません。ただ、販売までの工程に数日かけて、4時間しか売らないというのはちょっとしんどい(笑)。ただ、それが上手く回っていく仕組みが作れるのであれば、あるいはあり得るかも知れません。

日本人目線の商品を

――会員制ブランド通販サイトでは米ギルト・グループが先に日本でのビジネスを開始しています。後発ですが何か差別化策はあるんでしょうか。

 後発は決して悪いことだとは思ってません。こうしたビジネスモデルは日本ではまだ浸透しておらず、逆にありがたいなと。ギルトさんと当社の違いで言うと、先方は米社の完全子会社で本社の意向を色々と反映させなければいけません。当社の場合は独立した企業ですから、完全に日本のマーケットに即した戦略を打っていくことだできます。

――例えば。

 ブランドやアイテムの選定などです。例えばBTRからは「サングラスがとにかく売れるから、日本でもガンガンやった方がいい」というアドバイスをもらうが、日本ではカナダほどはサングラスは売れませんよね。むしろ、名刺などを入れるカードホルダーなどの方が売れるわけです。カナダでは名刺を財布に入れたりしていますから。「何でカードホルダー?」ということになります。
そこら辺は私に任せて頂きたいと言えるわけです。これが重要だと思うんです。「差別化はどうするのか」とよく聞かれますが、現時点では「これ」というのは確かにありません。ただ、実際にビジネスを進めていく中で、「こっちの商品の方が日本人目線だよね」とお客様におっしゃって頂けるようなセレクトをしていきたいと思っています。

ブランドさんには我々を”チャネル”として上手く使ってもらいたい


これからの方向性は?

――スタート時点では「エルメス」を取り扱われましたが、今後の方向性として、どういったブランドを販売していく予定ですか。

立ち上がりではラグジュアリーなインポートブランドを狙っています。ただ、それだけではなく、様々なブランドさんと取引できればと思っています。我々は基本的に1つのブランドを毎月、販売することは避けたいと思っています。ブランドさんにとってもプラスではないですし、我々も特定ブランドの公式アウトレットサイトではありません。様々なバラエティがあって、初めて会員さんの裾野が広がっていくと思っています。ちなみにBTRは09年12月時点で500社と取引実績があります。当社でもイメージでは初年度で250社くらいできればいいなと。

――250社というとどのあたりのブランドになりますか。

 インターナショネルブランドでもラグジュアリーブランドだけでなく、カジュアルなところや、スポーツカジュアルなど様々なブランドがありますし、アクセサリーに特化しているところもあるので、そういったところも開拓していきます。会員数が増えてくれば、全員が全員、ハイブランドしか買わないかというわけではありません。
その中でスポーツブランドに反応する層、日本ブランドに反応する層、アクセサリーに反応する層と様々。このままいくかは分かりませんが現状、会員には多くの男性がおりますから、例えばステーショナリーブランドや家電などもありかなと。会員が喜んで頂けるものを販売していきたいと思います。

――ブランドの反応はどうですか。

 「まずは様子見」というところも正直、多いですね。ただ、繰り返しになりますが、シーズンが終わっても在庫が残っているブランドさんにはその処分先として、当社を上手く使って頂きたいなと。BTRのリサーチで分かったのですが、BTRのお客様の中には「初めてブランド品を買った」という方が約40%いました。そういう方々は「これまでブティックは敷居が高くて入りにくい」「自分の収入では買えない、と諦めていた」と。BTRで初めてブランド品を購入された方のさらに4割くらいが、これをきっかけにそのブランドに対しての愛着を持ち、実際に店舗に足を運んだようです。
ブランドさんは今までのビジネスでは、絶対に拾えなかったお客様を拾えたことになるわけです。新規顧客開拓チャネルとしても付き合って頂くメリットはがあるのかなと思っています。

――現状、景気後退やファストファッションの流行で深刻なアパレル不況です。

その側面は確かにあります。ただ、それだけではありません。現在のアパレル不況は構造的なものだと思います。高級ブランドは「リーマンショック」の前から店頭でのプロパー価格を大幅に下げ始めていました。それでも売れないと。つまり、不況だけのせいではないということです。ネット販売を始め、様々な新しい販路が力を持ち始めていますが、ブランドさんはそれになかなかついていけていないこともあると思います。我々のようなチャネルを上手に使って、店頭で何%消化して、店頭セールで何%消化して、残った在庫をファミリーセールで消化する。そして、その部分に当社も初めから組み込んで頂ければ、新しい店舗や販路に投入する原資になるはずです。現状のアパレル不況を我々が断ち切りたいと思っています。

――中長期の計画は。

 とりあえず、初年度10億円をクリアしたいと。BTRも初年度に初年度10億円をクリアが当初では考えられなかったと言っていました。ある程度のクリティカルマスを達成すると、既存会員が友達や親戚を招待するバイラルな形で会員の登録数が一挙に伸びてくるようです。BTRでは事業開始後、3ヶ月でクリティカルマスを達成し、その時は販売を開始後、25秒で商品がすべて売り切れたそうです。我々も早い段階でクリティカルマスに到達できればと思っています。

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