らでぃっしゅぼーや代表取締役 緒方大助

宅配の競争力が生きる 【緒方大助 らでぃっしゅぼーや代表取締役社長】

食品宅配大手のらでぃっしゅぼーやが今年6月にネット販売「eらでぃっしゅ」を本格化した。食材宅配では23年の歴史がある老舗事業者だが、ネットスーパーやネット専業企業が躍進する食品のネット販売市場においては後発となる。似て非なるEC事業だが、それでも、緒方社長は十分に勝算があると言い切る。「宅配の競争力が生きる」と。(聞き手は本誌・兼子沙弥子)らでぃっしゅぼーや代表取締役 緒方大助


食材のネット販売は複数社が認められる市場

商品の差別化で後発にも勝ち目がある

――今年2月にネット販売「eらでぃっしゅ」を立ち上げ、6月に本格化しました。

会員制の宅配事業で扱っている商品を、非会員向けにネット販売しまています。宅配は入会金を頂き、毎週決まった曜日に野菜のセットとカタログから注文した商品をお届けする会員制です。
これに対し、ネット販売は入会金などの手続きがなく、ユーザーが指定した曜日にお届けするモデルです。宅配と比べるとネット販売は商品価格や送料が高額となりますが、入会や配送費の縛りがない利便性を強みに宅配で取りこぼしていた層の開拓を狙っています。

――宅配市場では先行していますが、ネットは後発です。勝算はあるのでしょうか。

商品が差別化されていますので、後発不利益にならないとみています。食品通販はさまざまな通販サイトからユーザーは好みの店を選んで利用しますから、食材のネット販売事業者が1社あればいいというものではありません。
例えば書籍のようにシェアを獲得した事業者が優位な市場であれば、先行する食品のネット専業はもっと伸びているはずですよね。ですから複数社が成立する市場だと言えますし、商品力においてはわれわれにも勝ち目があると分析しました。

――とは言え、ネットスーパーやネット専業などプレイヤーも多く、競争は激化しています。

日常使いの食品通販市場の競争は激化しています。ですが、例えばネットスーパーと競合になるという意識はありません。
「安心・安全」なものを食べたいという目的を持つ消費者が、当社を探してアクセスしていただいています。こうした消費者の選択肢にはそもそもスーパーやGMSはありません。ネットスーパーが浸透し消費者の利便性が高まっても、そもそものニーズが違うので既存客がそちらに流出することは考えにくいです。厳しいのは利便性を利用目的とするお客様を多く抱える事業者ではないでしょうか。

――では、先ほどおっしゃいました「商品力」とは何ですか。

価格です。当社は宅配とネット販売で同じ商品を販売していますから、キャンペーンやオリジナル商品の開発で商品価格を下げることが可能です。
これに加えて、10万人の会員を対象とする宅配向け商品と一緒に発注することができるので、大きなロットで少ない入荷頻度で仕入れることが可能です。これにより商品の原価が下がりますので価格にそれほど粗利益を乗せなくとも収益が出ます。小ロットずつ多頻度に仕入れるネット専業との価格差が出てくるでしょう。後発であっても競争力が持てると思います。
6月に、低価格帯の商品ライン「シンプルライン」を発売しました。日常の使用頻度が高い、冷凍食品やソーセージ、パンなどが従来品と比べて10~50%安価な価格設定となっています。
こだわりのレベルを下げることで、低価格商品を販売できますので、当社よりも安価な商品を提案する事業者はいると思います。ですが当社では、10月に30アイテムを追加投入し、将来的には100アイテムまで増やす計画です。このボリュームが与えるインパクトは大きいと期待していますので、競争力を持てると思います。

新規客層へどう届けるかが重要

――安心・安全な食品はもともと高額なイメージがあります。御社の低価格化推進は、市場全体へ与える影響も大きいのではないでしょうか。

確かに、安心・安全な食品は有機栽培や添加を使わないことなどを理由に価格は高額になりがちです。わずかな富裕層に高額商品を扱う事業はビジネスとして成り立ちますが、それだとビジネスサイズは小さく、成長もそこでストップしてしまいます。
われわれは安心・安全な食品を扱うトップランナーとしての自負があります。「らでぃっしゅぼーや」を安心・安全な食品のナショナルブランド化すべきと考えています。主力の宅配事業は会員制ですが、将来はその枠をとっぱらってもいいわけで、つまり、今までのお客さんよりも広い層へどうやって届けるかが重要なのです。多くのユーザーが利用できる商品やサービスを追及するべきと考えています。

販促コストの投資で「伸びる」

――ネット販売「eらでぃっしゅ」の立ち上がりはいかがですか。

順調に推移しています。ほとんど販促費をかけていませんが現状は既存客の8割がリピート顧客で、確実にユーザーは増えています。詳細は分析していませんが、定着率が高いということは販促費をかければ大きく伸びるということが分かりました。

――順調な立ち上がりとなったのはなぜですか。

詳細な分析はおこなっていないので、なぜ「eらでぃっしゅ」を利用しているのかははっきりと言えません。ただ、あらかじめ届けられる商品が分かり、内容を自由に変更できる定期購入の野菜セット「マイらでぃボックス」がユーザーのライフスタイルに合致した可能性があります。
しかし、それだけではないでしょうから、開設から半年経過した下期に詳しい分析を行いたいです

――先ほど、販促費をかければ伸びるというお話がありました。下期は販促費を投下していく計画ですか。

ネットには季節性がありますから、まずは勉強してからです。一般的にゴールデンウィークや夏休み、年末年始などの大型連休は、ネット利用者の絶対数が減少しアクセス数も一時的に落ち込むボトムとなります。受け取りのタイミングが商品の品質に影響しにくい雑貨や書籍などのネット販売や検索などは落ち込んだアクセス数の回復が早いといわれているんですね。
しかし、当社のビジネスモデルは会員制宅配なので、ユーザーは入会しなければなりません。入会することはユーザーの生活スタイルが変るわけです。なので、大型連休後にユーザーが日常生活に戻るまでのタイムラグを待ってからの回復となります。集客のピークをこのボトムに持ってくると、販促コストと効果の乖離が大きくなってしまいますし、効果の測定が正しく出来ません。季節性を読まなければ難しいので、これを踏まえながら少しずつテストしていきます。今期よりも来期のほうが広告費は増えると思いますよ。

ネットでは無名な「らでぃっしゅぼーや」を有名にする

――では、下期着手することは何ですか。

まずは「宅配」とネットの親和性を高めることに着手します。テスト的にですが、ソーシャルメディアを活用した仕掛けを検討しています。

――ソーシャルメディアというとSNSやツイッターなどですか。

詳しくは言えませんが、考えているのは、『らでぃっしゅぼーや』という名前の露出を増やし、ネットでの認知度を高める仕掛けです。
「らでぃっしゅぼーや」は今年23期目になりますが、営業を継続してきたことでリアルでは有名になりました。とはいっても、ネットの世界では無名に等しいんですね。リアルでも生きているはずのネット利用者が、インターネット内で「らでぃっしゅぼーや」を発信していません。
ブロガーに記事を書かせる手法は一般的ですが、消費者は記事のウラにお金が絡んでいることもだんだんと分かり始めています。電波力があり、なおかつ消費者主導でくちコミが広がるツールを活用したいと考えています。
だた、そこから宅配の入会やネット販売での購入を直接促すことは考えていません。むしろ、らでぃっしゅぼーやの名前を目にする機会を増やし認知度を高めることで、検索やリスティング、アフィリエイトのコンバージョンレート(購買率)の向上につながることを期待しています。

ニーズを「宅配」と「ネット販売」に振り分ける

――では、どのように購買に結びつけていくのでしょうか。

ウェブのプロモーションでは「宅配」とネット販売「eらでぃっしゅ」のどちらにも誘導できるようにしたいです。例えば、「らでぃっしゅぼーや」で検索した人には宅配とネット販売の入り口を設けます。また、「らでぃっしゅぼーや」と「何か他の言葉」で検索したユーザーには、そのワードに適した入り口を表示できるようにしたいと考えています。「何か他の言葉」はいくつか考えられますので、ワードごとに適したランディングページを表示することを考えています。
これは細かくテストして、統計を取らなければなりません。ワードごとに「宅配」と「eらでぃっしゅ」を両方提示するやり方がありますし、「宅配」では入会しなかったユーザーに「eらでぃっしゅ」を紹介することも考えられます。もしくは「eらでぃっしゅ」で顧客を増やし、「宅配」に誘導するケースも考えられます。
細かな仕掛けを行いながらコンバージョンレートの良し悪しを判断して、正解を見つけていけばいいんです。まずは、ネット上でユーザーのニーズを宅配とネット販売に振り分けるノウハウを確立することに注力します。

目指すのは「人」を介在した
ハイブリッドなネット販売

将来は100億円規模の事業へ

――ネット上で宅配もネット販売も両方取り込んでいくのですね。

さらに、われわれの強みは、宅配の入会を促す”営業マン”がいることです。ネット販売は通常、ネット完結型ですよね。ですが、われわれはネットに人を介在させるスキームも確立したいと考えています。
ネットで「宅配」を申込んだユーザーに対して営業マンが訪問し、ユーザーとのコミュニケーションを図りたいです。これまで、資料請求のあったユーザーが入会する際に自宅を訪問し、取りこぼしのないように入会につなげてきました。第1四半期の新規顧客数が前期末と比べて6%増で伸びているのは、営業スタッフのおかげでもあります。この、宅配の強みをネットでの顧客開拓に応用し、「ハイブリッド」なネット販売を実現したいです。

――「eらでぃっしゅ」の売り上げ目標は。

初年度の計画は社内的にはありますが、非公表です。将来的には年商100億円規模まで拡大していきたいと考えております。5年か10年かはまだ分かりませんが、まずは市場性があることを前提に経営判断していくことになります。

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