ヤフーがゾゾを買収へ、前澤氏は退任 ―― カリスマ不在で船出の新生ゾゾの行方は?

ヤフーは9月12日、ファッション通販サイト「ゾゾタウン」を運営するZOZO(ゾゾ)を買収すると発表した。株式公開買い付け(TOB)により同社株式の50.1%を取得し、連結子会社化を目指す。互いの顧客基盤を活用するなどして、ヤフーは国内ナンバーワンの取扱高を目指し注力しているEC事業の強化を、ゾゾは失速しつつあった成長力の回復と自力では手詰まり感のあった新客開拓の強化などを図る考え。

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国内EC トップが射程圏内に

資本業務提携を結んだヤフーとゾゾ(左からヤフーの川邊社長、ゾゾの澤田社長、前澤 前社長)

ヤフーは恐らく国内のEC企業の買収では過去最高額となる最大4007 億円を投じて、10月下旬からTOBでゾゾの発行済み株式の50.1%を上限に買い付け、連結子会社化したい意向。悲願であるEC国内取扱高ナンバーワンの座の奪取に向けたEC拡大戦略の一貫だという。

TOBを受けて、9月12日付で澤田宏太郎取締役がゾゾの新社長に就任し、創業者の前澤友作氏は同社社長を退任。自身が持つ約37%の同社株式の大半をヤフーに売却し、経営から退く。ゾゾはヤフー傘下入り後も上場を維持するという。

ヤフーは広告事業に次ぐ収益の柱としてEC事業の拡大に注力。“2020 年代前半までにEC(物販)の取扱高で国内ナンバーワン”を目標に掲げ、運営する仮想モール「ヤフーショッピング」では「eコマース革命」と称して出店者への出店料・販売手数料などを無料とする施策やアスクルとの資本業務提携などにより、順調にEC事業の拡大を進めてきたが先行する楽天やアマゾンの背中は遠く、高い目標とは裏腹に後塵を拝し、万年3位のポジションに甘んじていた。

前澤氏と友人関係にあったソフトバンクグループの孫正義会長兼社長の橋渡しのもと、ゾゾ買収にこぎつけたヤフーは「(EC国内ナンバーワンの目標が)達成できるのか、そう言っているだけではないかという意見もあったが、ゾゾとの資本提携で現実的に射程圏内に入ってくる」(ヤフーの川邊健太郎社長)と買収の狙いについて説明した。

今回の買収で両社合計のEC取扱高が2兆2000億円程度、今期見込みの営業利益は1000億円超まで拡大し、ヤフーのグループとしてのEC事業の規模感は増すが、さらに10月にも新設する仮想モール「PayPayモール」に「ゾゾタウン」を出店させるほか、ヤフーのポータルサイトやグループのスマホ決済サービス「PayPay」、親会社のソフトバンクの携帯電話の利用者の送客で「ゾゾタウン」の売上高および利益の引き上げを図る考え。また、すでにヤフーも展開中のファッションEC分野においても「(ヤフーとゾゾは)利用者の年齢などの属性が異なり、相互に顧客基盤の拡大が見込める」(川邊社長)としている。

服好き以外の開拓が不可欠

退任したゾゾの前澤氏はこれまで、支払いを最大2カ月後にできる「ツケ払い」サービスや、新品を購入する際に不用な服を下取りに出すことで新品価格を割り引く「買い替え割」などユニークな施策を次々に打ち出し、業績拡大につなげてきた。

ファッションEC専業では一人勝ち状態だが、すでに出店ショップ数は1200 店以上、ブランド数は7300 以上とサイト誘致が進み、今後は商品取扱高拡大への起爆剤になり得る新規ショップはかなり少ないのが実情だ。そうした中、高い成長率を維持するにはさらなるマス化戦略を進め、従来のファッション好き以外のユーザーを開拓するのとともに、海外市場の取り込みも課題で、ゾゾが18年1月に始めたPB事業は幅広いユーザー層の開拓と海外展開を同時に進められる一手だった。

しかし、PB事業は採寸スーツによる計測の手間や、PB商品の生産不具合といった問題もあって縮小を余儀なくされ、PBを軸にした海外展開も絵に描いた餅となり、初めて策定した中期経営計画も撤回することになった。

PB事業の失敗と縮小で戦略の練り直しを迫られる中、改めてサービスのマス化を進めるためには、秋に新設される「PayPayモール」への出店や「PayPay」の導入など、ECプラットフォームには欠かせない根幹機能である“集客”および“決済”の強化と、中国への再進出時にサポートが期待できるのがソフトバンクグループのヤフーと判断したと見られる。

また、今回の買収以前から、ゾゾはトップダウン経営の弊害も見受けられていた。会見では前澤氏も自身のワンマン経営に反省の弁を述べたが、PB失敗による株価急落に加え、18 年12月から約5カ月間実施した、常時10%割引となる有料会員サービス「ゾゾアリガトーメンバーシップ」ではブランドの毀損を嫌う一部ブランドが退店するなど、消費者と取引先ブランドの反応を読み違えるケースが続いた。

あるアパレル企業のEC責任者は、「ゾゾは良くも悪くもワンマン経営で成長してきた会社。取扱高が増え、マーケットでの役割やポジションが変わってきた中で、最近はそのワンマンさがマイナスに振れたり、市場とのズレが生じた感は否めない」と語る。

小売り企業としてユーザー目線でのサービス開発は不可欠だが、自社運営型のモールビジネスを展開している以上、商品を預かるブランドへの配慮も欠かせない。「ゾゾアリガトー」問題ではそのバランスが崩れ、完全にユーザー側を向いてサービス設計をした。ゾゾの澤田新社長はゾゾタウン事業の責任者として主にマーケティングやデータ管理、顧客とのリレーションなどに従事してきたものの、取引先ブランドとの直接的な関係性は薄いようで、「ゾゾアリガトー」で失敗したバランス感覚を調整できるか注目される。

なお、前澤氏と親交の深いストライプインターナショナルの石川康晴社長は、今回の前澤氏の決断について「格好いい生き方」と発言。同時に、ゾゾの高い収益力を評価するヤフーが今後、さらなる収益力強化を目指して「ゾゾタウン」の条件変更などをアパレル各社に要求するようなことになれば、「すぐに退店して自社EC化に舵を切る企業が増えるのでは」と釘をさしている。

【ゾゾの澤田宏太朗新社長が語る バトンを引き継いでの決意は?】

トップダウン経営から脱却し組織力で戦う

ゾゾの新社長に就任した澤田宏太郎氏(顔写真)。ヤフーとの共同会見で自身のプロフィールや新社長としての決意を語った。その一部を抜粋・要約して紹介する。

2006年、当時のスタートトゥデイにコンサルタントの立場で関わったのが最初で、08年に入社して11年間が経ちます。ECという事業は商品とサイト、物流、プロモーションの4つが複雑に絡み合っていてオペレーションも複雑ですが、そういう部分を隅々まで理解していると自負しています。コンサルタント出身で、信条としてはリアリストやニュートラル、安定感をモットーとしていて、前澤とは真逆です。

前澤はとにかく既成概念を壊してどんどん進んでいくカリスマ的な経営者でしたし、その結果として今のゾゾがあるのは紛れもない事実です。会社は大きくなり、業界や社会に与える影響も大きくなり、この先の成長において、革新性はもちろん必要ですが、やはり安定感が重要だと認識しています。安定的な成長を実現する上でのパートナーとして、今回、ヤフーさんがベストだと判断しました。

当社は今年で21歳になります。企業として大人の入り口に立つことを求められています。これだけ聞くと、「安定はするかもしれないけれど、ゾゾはつまらない会社になってしまうのでは」と思われるかもしれれませんが、ただのつまらない大人になる気は毛頭なく、ある程度、やんちゃな大人であり続けたいと思っています。

私が経営者として前澤から学んだ一番大きなことは、今の時代はある程度、非常識とか非合理と言われるようなことに挑戦しないとなかなか成功しないということです。やんちゃな大人の張本人で、たぐいまれなセンスとアイデアの持ち主である前澤を失うことは会社にとって大きなインパクトで、これは素直に今後の課題と認めるところです。ただ、幸いにも突拍子もないアイデアを持つ社員や、挑戦したくてウズウズしている社員が当社にはたくさんいます。そうしたアイデアの種や挑戦心を経営者として大切にし、従来以上に果敢に事業を推進していきたいです。

ゾゾはトップダウン経営から社員一人ひとりの力を生かし組織力で戦う経営に移行します。前澤が残した事業やサービスはいずれも彼の強烈なインスピレーションやリーダーシップなどで作り上げたものばかりです。一方で前澤に振り回されながらも、実務面では社員全員が地に足をつけて磨き上げてきたからこそ今のサービスや会社があると思っています。

華やかな経営者の裏で、足場をしっかり固める仕事もすごく大切であることをわれわれは知っていますし、それこそが当社が誇れるものです。創業者が去ることは小さいことではありませんが、そういうときこそ養ってきた底力や挑戦心、アイデアなどを生かしていきたいと思います。ヤフーさんの力も借りながら、社員一人ひとりがゾゾという会社を磨き上げていく体制にすることが、新しい経営陣の使命です。

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