EC事業者による“EC物流”の実力は?

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ネット販売のプロがECをサポート

新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で苦戦する実店舗から軸足をネット販売に切り替える小売事業者が増えており、今後、さらにECに本腰を入れる事業者は増えそうだ。EC強化のための条件は色々あるが、その1つは物流・フルフィルメント業務。一定規模を超えると外部の専門業者に委託することが一般的だが、業者選びを誤るとダメージは大きい。そこで注目されるのがネット販売を生業としてきた「ECのプロ」であるEC事業者が行うEC物流支援サービスだ。ネット販売を熟知した事業者が手掛けるサービスの利点とは。各社のEC物流サービスの実力を見ていく。

事例1 スクロール 360
関東に初の物流センター開設 「次世代 CRM 物流」目指す

スクロールは茨城県つくばみらい市に、物流センター「スクロールロジスティクスセンターみらい(SLCみらい)」を建設し、5月20日から稼働を開始した。地上5階建てで延べ床面積は約3万m2。投資額は約60億円となっている。保管効率を最大限に高めた「ストックエリア」のほか、当日配送に対応した「クロスドックエリア」、受注問い合わせ処理やコールセンター機能を持たせた「インテリジェントエリア」を設けているほか、データ管理・分析、画像分析による最適導線などのマーケティング機能、化粧品製造、ささげ(撮影、採寸、原稿作成)機能などを備えた。

EC 企業からの需要に対応

関東地方では初の物流センターとなる「SLCみらい」。既存の浜松市・大阪市のセンターとあわせて、関東圏にも物流センターを設けることで、全国3大拠点の物流ネットワークを構築することになる。

ソリューション事業を手掛ける子会社である、スクロール360取締役営業部長でSLCみらい推進室長の鈴木康晴氏は「2年くらいで満床にしていきたい」と意欲的に語る。ムトウマーケティングサポート時代から長い間物流代行を手掛けてきた同社だが、これまでは主に浜松市内の物流センターから出荷していた。2018年にはミネルヴァ・ホールディングス(現ナチュラム)を買収したことで、大阪市内にも物流センターを保有する形となっている。

鈴木氏は「以前から『関東に物流センターはないのか』という問い合わせはいただいていた」と明かす。浜松市は本州のほぼ中央に位置することから、消費者が多く住んでいる関東地方や関西地方に出荷するには利便性が高い。しかし、2011年の東日本大震災以降、BCP(事業継続計画)対策として、在庫を各地の物流センターに分散して置きたいというニーズが強まってきたという。

もう1つ後押ししたのが、昨今の宅配運賃値上げだ。「以前は物流費に占める運賃の割合は40%程度だったが、どんどん上がっている。ネット販売企業の間で運賃を最適化する動きが広がっている」(鈴木取締役)。例えばメインの物流センターを九州に構えている化粧品・健康食品通販企業の場合、メイン商品とトライアル商品を大消費地である関東の物流センターに置くことができれば、運賃は劇的に下がる。さらに、関東地方の実店舗に商品を卸しているネット販売企業からの要望もあったという。

これまでも小規模な物流センターを関東地方に賃貸で構えていたが、こうした動きを受けて本格的な物流センターを作ることになった。関東へのセンター開設を決めたのは2017年。問題は自社物件か賃貸かという部分だが「これまで自社のアセットを活用してきたので、今回も思う通りの物流センターを作りたいと考えて、センターを建設することにした」(同)。つくばみらい市は常磐道と圏央道が交差する地点に近いため利便性が高く、鉄道ではつくばエクスプレスの駅があり、労働人口も増えている。大消費地である東京からもあまり遠くなく、東京に本社を構える企業が物流センターを見学したい場合でも、さほど時間をかけずに訪れることができるというメリットもある。

同社のソリューションサービスの強みについて、鈴木取締役は「企業からのニーズはその会社によるので、切り口はさまざま。今回のセンターに関しては、拠点を分散したい会社には向いているし、サテライトとして関東地方に荷物を置きたい会社にもちょうどいいのではないか。当社の場合は、リピート通販のノウハウが溜まっているのが大きな特徴なので、その部分を重視して声をかけてもらうことが多い。また、通販だけではなく、関東地方に多くの実店舗を有している企業にとっても使いやすいのではないか。新センターとしては、これまでのリピート通販向けノウハウを引き継ぎながら、さらに進化させたいと思っている。自動化などの最新技術を導入するとともに、人の手を介さなければならないアナログな部分も強みとして活かしていきたい」と話す。

同社グループには、アウトドア商品のネット販売を手掛けるナチュラムもあるので、ロングテール系商材にもノウハウがある。こうした企業が使うことを想定して、バックオフィス業務であるささげや受注処理、問い合わせ処理などもセンター内で受けることもできる。「物流センターというだけではなく、通販業務を総合的に扱うフルフィルメントセンターにしていきたい。また、これまではコンサルティング業務はあまり手掛けていなかったが、今後はやっていきたい」(同)。

リピート通販企業にとっての大きな課題は、ライフ・タイム・バリュー(LTV)の最大化だが、LTV関連の数値はどの企業でも基幹システムに入っている。こうしたデータの分析とマーケティングオートメーション(MA)ツール開発を進めている。これらのツールと、物流を中心としたフルフィルメントをつなげることでサービス展開していきたい考えだ。

鈴木取締役は「ロジスティクスとマーケティングを紐付けるための取り組みを進めることで、次世代CRM物流を展開したい」と構想を語る。スクロールグループのもしもでは近年、アフィリエイト事業に注力しており、ベンダーとアフィリエイター、ブロガーをマッチングさせるプラットフォームを展開している。ITに強い、もしものノウハウも取り入れることで、データ関連事業を強化してい
く。

鈴木取締役は「スクロールグループは、この10年でさまざまな企業が傘下に入った。ネット販売企業もあればリピート通販企業もあり、グループ会社の荷物を請け負うことで、スクロール360もさまざまなノウハウを得ることができた。通販のダイバーシティー企業になってきたのではないか」と語る。

自動化も推進

ロボットを使った自動化なども進めていく。スクロール360フルフィルメント部ロジサポート第2課長の栗林輝広氏は「新しいことに挑戦したいとは思っているが、ロボットでどこまで作業効率を上げられるのか、不透明な部分も多いし、ある意味実験用の『モルモット』になる部分もある。ある程度こなれた技術をうまく使っていくのは重要ではないか」と話す。例えば自動のシュリンク包装機などは、さまざまなメーカーが参入したことで価格が下がり、技術的にはやや「枯れてきた」感があるという。これまで手で梱包していたものを機械に切り替えることで人件費削減につなげる。また、新しいマテハンについても導入を検討する。まだ稼働から2カ月程度しか経過しておらず、センター全体の10%程度しか使っていない状況だ。荷物の増加にあわせて、自動化も進めていく。

これまで、浜松市の物流センターは人の手を介する部分が多かった。「高年齢の顧客が多いクライアントも多く、シュリンクでの梱包を嫌がるクライアントもあり、導入を見送っていた。ただ、直近ではコロナ禍があり、将来的には少子高齢化がどんどん進んで労働人口が減るのは確実なので、自動化へのシフトは進めていきたい」
(栗林課長)。

2021年3月をめどに、クライアントの商材や特性にあわせた機械を導入する。「ある一定の売り上げ規模があれば、そのクライアント専用のラインが作れる。『クライアントが当社の仕組みに合わせる』のではなく、『当社がクライアントに合わせる』段階なので、商談はしやすい状況だ」(鈴木取締役)。一方で、規模の小さい企業向けにはパッケージサービスを用意する。これまでは個別クライアントにあわせた料金設定としていたが、今後は規模の大きいクライアントは個別対応、小規模事業者向けには専用の料金体系を用意していきたい考えだ。

近年は、アマゾンの「フルフィルメント・バイ・アマゾン(FBA)」や楽天の「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」のように、プラットフォーマーが物流代行に力を入れている。鈴木取締役は「パッケージサービスについても、FBAやRSLよりは幅広いオプションを揃えたサービスにしていく。当社の場合、楽天市場向け商品であれば専用の箱で出荷するし、自社サイト向けもそれ専用の箱で出荷できる。当社はマーケットプレイスではないので、クライアントが成長するのであれば、販路はどこでも構わない」と強みを強調する。

今後はスピード配送への対応も検討する。栗林課長は「人が確保しやすい日中に準備をして、夜間に梱包をすることも検討したい。ただ、定期販売の需要が多いこともあり、スピード配送にどこまで需要があるかが問題になってくる」と話す。

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事例2:ネオ・ウィング
日立物流とWMS を開発し出荷作業を効率化
事例3:トーキョーオタクモード
越境 EC のノウハウ生かし国内外向け物流支援を展開
ライブコマースを相次ぎ開始

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