櫻井敏之●ヤマトホールディングス代表取締役社長ーー環境変化に合わせやり方見直す

 ヤマトホールディングスは4月1日付で社長人事を行い、ヤマト運輸常務執行役員の櫻井敏之氏が社長に就任した。社長就任にあたって「私が取り組む至上命題はヤマトグループを持続的な成長軌道に乗せていくことであり、そのためには必要に応じて“聖域なき軌道修正”も行っていく。価値に見合った適正なプライシング戦略を徹底し、トップラインの成長とマージンの改善を両立させる改善へとシフトしていく。成長領域に経営資源を大胆にシフトし、飛躍的な成長を実現していきたい」と語っていた櫻井氏。社長就任から半年――。聖域なき軌道修正の進捗はどうか。また、通販・EC事業者向けの事業展開をどう考えているのか。(2026年9月24日開催の記者懇親会での本誌を含む報道陣との一問一答を要約・抜粋)

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ECの荷物は思ったほど伸びず 専用ネットワークは一度畳む

聖域なき軌道修正の進捗は

――社長就任から半年が経過しました。足元の業績も踏まえて、この半年間の手ごたえはどうですか。また、就任前には“聖域なき軌道修正”を断行するという宣言もありましたが進捗はいかがですか。

 この数年、業績の低迷が続いているため、一丁目一番地ですべきことは業績を早期に回復させることだと考えています。今期第1四半期(4〜6月)について言えば、物量そのものについてもプライシングを含めてコストコントロールを行っており、ある程度、手ごたえが見えてきているところです。“軌道修正”に関しては市場環境の変化に合わせてこれまで行っていたやり方、投資を見直すべく再編を進めています。

――2024年4月から運航してきた国内線貨物専用機(フレイター)の運航を燃料価格の高騰や採算悪化などを理由に2027年6月をめどに終了するという発表が9月3日にありましたが、このことなどですか。

 それは外から分かりやすい例ですね。そういった意味では個別信用購入あっせん事業などを手掛けるヤマトクレジットファイナンスを(2026年9月1日にノジマ傘下のNJM5に)売却したことなどもあります。

 外からは見えにくいですが、内部的にやり方を変えているものもあります。例えば、大型拠点の使い方です。生産性の低い拠点について随時、見直しを進めています。具体的にはラストマイルの拠点とか荷物の仕分け用に使っていた拠点を、外部のお客様に転貸するための拠点に変えたりなどですね。そうすると外部からキャッシュを生み出すことになります。当然、必要なくなった拠点についてはお返しすることもあります。このように1つ1つ細かく見直しを進めているところです。

 コロナ禍の頃にeコマースがこれから大きく伸びていくだろうと言われており、当社としてもそうした変化に対応すべく、色々と投資したり、試行錯誤してきました。具体的には宅急便の営業所とは別に外部にお願いをして構築したEC専用の配送ネットワークを作っていました。今後、ECの荷物が爆発的に増えることに備えた専用ネットワークです。しかし、(コロナ禍の収束後は)買い物はリアルに回帰し、また、インフレが一気に進んだこともあり、eコマースは当初、言われているほどには伸びませんでした。結果的にECの荷物もそれほど増えていません。ですので、当社としては戦力を最大限活用するために宅急便網と二重構造になっていたEC専用ネットワークは一度畳み、それを宅急便に寄せていこうという動きを半年前から始めています。環境が変わったことで当然、これまで行ってきたことを見直していく必要があり、見直しのリストを作ってその中で優先順位を決めて、改革を進めているところです。

EC・通販事業者への支援 色々なソリューション提案できる

EC向け業務弱くなる?

――EC専用ネットワークを畳むことでEC事業者向けの業務が弱くなってしまいませんか。

 通販・ECの荷物は(EC専用ネットワークがなくても)まだまだ受けられるキャパは全然、残っており、十分に対応可能です。膨らませ過ぎたものを是正していくという方が正しいでしょう。当初の想定よりもECの荷物は増えていないですし、日本の消費自体が少し冷え込んでいることもあり、今後も恐らくそこまでは増えないでしょう。また、ECの荷物自体が以前より、だいぶ小さくなってきており、宅急便のネットワークで十分に対応できると考えています。一方で当社には様々な強みがあり、それらを活かしてECのお客様により様々なソリューションを提案していきたいと考えています。

――様々なソリューション提案とはどのようなものですか。

 宅急便の荷物の9割は法人発のものです。この法人発の荷物のうち、半分は百貨店や大手通販のような大口のお客様になります。これらの荷物は街中の配送車ではなく、専用車で集荷に行っています。つまり、法人向け営業員が個別対応をしているわけです。当社にはこうした大口のお客様と取引があり、顧客基盤を持っています。これを活かして今後さらに宅急便以外の事業に領域を広げていくことを狙っているわけです。(単に荷主企業の荷物を運ぶだけでなく)川上に登っていけば在庫管理の仕事があるし、在庫管理の手前には物を調達する物流の仕事があります。もっと川上に行くと海外での事業にもつながるかもしれません。ECのお客様にもこうした川上の業務をさらにご提案していきたいと考えています。

 また、当社では全国のヤマトグループの物流拠点への仕分け・輸配送機能と顧客事業者の荷物の保管・出荷などを代行できるロジスティクス機能が一体となった大型拠点を東京・東雲や福島・郡山など各地で立ち上げ始めています。仕分けターミナルとロジセンターが一緒になっていることで、荷物をすぐに発送することが可能になり、EC事業者に使って頂くことで当日発送の受注時間をギリギリまで引っ張ることができたり、返品で戻ってきた商品を良品化してその場ですぐに在庫化できるなど様々なメリットが出てきます。そうした統合型ビジネスソリューション拠点で提供できる付加価値はECが最も刺さるはずです。

 これだけインフレが進んできているがECで販売しているものの半分以上はコモディティ商品です。するとEC事業者によって最終的な差別化はコストになります。そのコストの大部分を占めるのは配送費です。なので、モノはできるだけ小さく、かつ近距離で配送したいはずです。我々は全国にロジスティクス拠点があります。お客様の事業規模によっては全国に在庫を分散して頂くことで、できるだけ近距離での配送が可能です。そういったコストを低減させる提案もできます。また、近年では「置き配」を希望されるエンドユーザーが増えていますが、高価なものや希少なものについては「これは手渡しで」という要望もまた増えています。お客様の要望に合わせて我々はラストマイルのコントロールもできることも強みだと思っています。

集荷配達のやり方を変えていく

――今後の投資とコストカットのバランスはどう考えていますか。

 今期は先ほど申し上げた統合型ビジネスソリューション拠点を4カ所開設するなどの投資を行っていきます。一方で、コストカットについては単純なコストカットというよりは、構造的に変えていかなければいけないことがたくさんあると思っています。立て直すためにやめるとか、やり方を変えるという例は、先ほどのフレイターや拠点の使い方の見直しなのですが、構造を変えていくという意味で言うと、全国にある2700の営業所と日々稼働している約5万3000人のセールスドライバーの運用および集荷配達のやり方自体を変えていく必要があると考えています。

 なぜかと言えば、同じ営業所に同じように荷物が毎日来るかというと、そうではなくなっているからです。場所によっては、過疎化が進んだり、タワーマンションが建って急に荷物が増えたりなど、地域ごとに物量は変化しています。長らく同じ拠点、同じエリア割でしたが、そこは構造的に変えていく必要があると思っています。変更にあたっては現場任せにするのではなく、データを用いたアプローチをしていこうと考えています。

 例えば、現在すでに当社のドライバーが朝、営業所に出て行ってからどのようにトラックで回ればいいかという配達ルート作成は自動化しています。単にルートだけでなく、効率的に荷物を配達するために車を止める場所まで指示をしています。こうした仕組みを全国で運用しており、新人ドライバーでも誰でも同じように効率的に配達できるようになってきています。

 そうしたルートの組み方だけでなく、データを用いて営業所のドライバーの人数のあり方や営業所自体も適正なサイズに変えていこうと考えています。それが結果的にコストの抑制につながっていくと考えており、継続的に取り組んでいきたいです。

方向性、目標値はぶらさない

――人手不足など物流を取り巻く課題への対応は。

 大型トラックによる拠点間の幹線輸送とラストマイルで対応は変わってきます。幹線輸送については8割強は外部の協力会社に委託しています。ただし、非常に担い手が不足しており、今後、運賃の高騰が予想されています。2028年には「適正原価(※改正貨物自動車運送事業法等に基づき、国が定める適正原価を下回る運賃での受発注が制限・禁止される制度)」が導入されることもあり、恐らくさらに運賃は高騰していくことが予想されます。そのため、幹線輸送を自社で行っていくことも含めて色々な検討を行っています。ドライバーを自社で確保しようとした時にどういった手段があるかと考えた場合にその1つの選択肢として外国人(ドライバーの採用も)ありますが、決して外国人ありきでは考えていません。

 ラストマイルを担う約5万3000人のセールスドライバーは単に運転だけではなく、セールスも行い、お客様に対して接遇を行う社員です。ここは当社の付加価値です。仕事が続く限りは雇用を維持していきたいと考えています。当然、場所によっては過疎化が進んで、荷物もなくなっていく地域もないわけではありません。当該地域はどんどん他社が撤退している現状があります。恐らく当社が最後まで残ると考えており、例えば共同配送の窓口のような形で宅急便以外の荷物の配送も担っていきたいと思っています。

――ヤマトHDのトップになって半年。今、感じていることは

 どの企業もそうだと思いますが各事業、現場の責任者は皆、業績を悪くしようなんて思っている人など1人もいないと思います。皆どうやったら改善できるか、会社をよくできるかと、必死にそれぞれの持ち場で考えてやっているわけです。

 一方で、これだけ皆で考えていても、うまくいかないことが多々あります。直近で言うと天候の問題とか、イレギュラーなことは日々起こります。大事なことは目標となる羅針盤はぶらしてはいけないということです。方向性、具体的な数字を持っての目標値はぶらさずにやっていくべきと思っています。「今月はあの荷物が足りないからあと10個持ってこい」とか、「来月になると荷物の多すぎるから、もう少しコントロールしろ」とか、言っていることが変わると現場が混乱してしまいます。方針は一貫性を持ってかつ数字で示していく必要があると持っています。



櫻井敏之(さくらい・としゆき)氏

1998年4月にヤマト運輸に入社。13年にEC営業部課長に就任後、15年にヤマトWebソリューションズの社長、16年にヤマトHDの経営戦略立案推進機能シニアマネージャー、20年にヤマトロジスティクスの営業統括本部執行役員を経て、21年にヤマト運輸に帰任し、法人部門法人ソリューションコントロールセンターゼネラルマネージャー、22年にコーポレート地域共創部地域共創部長、24年にネコサポ事業開発やエリアマネジメント推進を統括する執行役員、25年4月からは常務執行役員として主力事業の宅急便事業を統括していた。福岡県大川市出身。慶應義塾大学法学部卒。1974年11月21日生まれ。

◇ 取材後メモ

異例の若さでヤマトホールディングスの社長に就任した櫻井氏。半年前の社長就任記者会見に登壇した長尾前社長は櫻井氏を次期社長に選んだ理由について、「海外事業、IT・デジタル領域、法人営業など幅広い事業を経験した上で、グループ経営戦略担当や事業会社の社長を歴任し、確かな実績を積み上げてきた。直近では宅急便事業の事業責任者として指揮を執り、変化の激しい環境の中であっても客観的事実に基づいて合理的判断を行う決断力、そして現場の課題を俯瞰して自らの視点で戦略課題を設定し、解決に向かう実行力を示していた」と評しました。その評価通り、社長就任後、良い意味で淡々と改革を実行に移しているようです。店舗を持たないECにとって物流や配送はなくてはならないもの。最大手であるヤマトHDの改革の成否は直接、通販・EC事業者に跳ね返ってくることもあり、櫻井氏の手腕や改革の行方が注視されそうです。