生成AIのECサービスへの活用が大きく進んだ2025年。仮想モールにおいてもAIが大きなテーマとなった。その一方で急激な円安を受けた原材料価格の上昇など環境は悪化。「イーザッカマニアストアーズ」など、有力EC企業の突然の破たんといった暗いニュースもあった。2026年の仮想モールはどうなるのか。日本の3大仮想モール「楽天市場」「アマゾンマーケットプレイス」「ヤフーショッピング」における、25年の動きを、識者と振り返るとともに、26年を占う。
モバイルとの相乗どこまで
楽天グループの2025年7~9月における国内EC流通総額は、前年同期比14.5%増の1兆7141億円と好調に推移した。ふるさと納税ポータルサイトにおけるポイント付与が25年10月から禁止されることを受け、「楽天ふるさと納税」において、直前となる9月に駆け込み需要が発生したことを受け、2桁増となった。通常ふるさと納税は年末の需要が高いため、10~12月の流通総額は反動減が発生する見通しだが、年間トータルでは引き続き成長するもようだ。
一方、楽天市場出店店舗を中心にコンサルティングしている、コマースデザインの坂本悟史代表は「楽天トラベルなどの他サービスや、ふるさと納税などを除いた、いわゆる『真水』の数字はそこまで伸びていないのではないか」と指摘する。
その証左として挙げるのが、直近の「楽天スーパーセール」の結果だ。「25年12月のスーパーセールはかなり厳しい数字だった」(坂本代表)。これは、同社がコンサルティングしている店舗に限った数字にはなるが、売上額と注文件数は前年12月のスーパーセールと比較して2桁減だったという。一方で注文単価は上昇している。坂本代表は「物価上昇を考慮しても『上がりすぎ』といえる水準。生活防衛意識による『まとめ買い』を浸透しているのではないか」とみる。
12月のスーパーセール直前には、アマゾンが「ブラックフライデー」のセールを実施した。「楽天もブラックフライデーでセールを行ったが、やはりアマゾンの方がブラックフライデーでは『本家』。需要を食われた面もあるのではないか」(坂本代表)。
もちろん、楽天市場全体の売り上げ動向を示した数字ではないが、「クライアントのうち、3分の2近くが12月のスーパーセールではマイナス成長だった」(同)という点は注視すべきだろう。
「楽天モバイル」の契約数は1000万回線を突破するなど好調に推移。楽天市場における、月間アクティブユーザーに占める楽天モバイル契約者数の割合は15.7%で、前年同期から1.8ポイント増だった。同契約者の流通総額は非契約者より47.6%高いという。
三木谷浩史社長は「楽天モバイルとのシナジーが非常に効いて(楽天市場の流通も伸びて)いる」と強調(5月の決算説明会での発言)。一方で「そこまでシナジーが感じられない」(ある出店者)との声も。今後は無料通話アプリ「楽天Link」からの誘導もカギになってきそうだ。
25年は有力出店者の破たんも相次いだ。4月には「ショップ・オブ・ザ・イヤー(SOY)2024」で4位に入った「イーザッカマニアストアーズ」を運営するズーティーが自己破産。5月にはSOY2023で4位の「Z-CRAFT」を運営するロイヤルが民事再生法の適用を申請した。さらには、SOY受賞経験がある、「HAPTIC」の井上通商や、ミルズインターナショナルも破たんの憂き目に。円安などのコスト高がEC企業を直撃しており、ある有力店は「明日は我が身ではないか」と危機感を口にする。
坂本代表は「市場環境が変わらない前提でギリギリの勝負をしていたものが、ここ1、2年で急激に悪化し、耐えきれなくなったのではないか」とみる。その上で「今の『勝ち組』はMDが強く、物流・バックヤードが安定している店舗。逆に『負け組』は一時的な販促などのテクニックに頼りすぎていた店舗。勝ち組はジャンル内での相対的なシェアをどんどん高めていく傾向にある」と分析する。
こうした「勝ち組」と「負け組」の分岐は、企業規模の大小で決まっているわけではないという。ニッチな市場であっても、専門性を磨くことで、ジャンル内トップクラスのポジションを築いている店舗は堅調部‘週。逆に、巨大ジャンルで埋没している中規模店舗ほど、環境変化の影響を強く受けているようだ。
生成AIへの対応も重要
楽天ではAI関連の強化も進めている。25年8月には、エージェント型AIツール「RakutenAI」の本格提供を開始。楽天モバイル向け無料通話アプリ「RakutenLink」に搭載しており、「楽天市場」や「楽天トラベル」など、同社が提供するサービス内で、自分が欲しい商品などに関して、テキストや音声、画像を使った横断的な検索を可能にした。ユーザーはテキスト入力、音声テキスト変換、または画像検索により問い合わせができ、さらにAIが生成する追加質問に対して複数のプロンプトから回答を選択することで、よりスムーズに求めている情報へアクセスできる。
さらに26年1月、楽天市場のスマホアプリにも「RakutenAI」を搭載した。楽天市場のAIコンシェルジュが、ユーザーとの対話を通じてニーズを理解し、最適な商品選びのサポートと商品のレコメンドを行う。ユーザーは、楽天市場アプリのホーム画面右下にあるアイコンから「RakutenAI」にアクセスし、希望予算、購入目的、活用シーンなどを、テキストや音声、画像を用いて入力することで、欲しい商品を手軽に検索することができる。
また、AIコンシェルジュからの質問に答えながら対話を進めることで、潜在的なニーズが明らかになりやすくなるなど、より商品提案の精度が高くなり、楽天市場における約5億点の商品群から条件や目的に合った理想の商品を見つけることが可能になるとしている。
提案する商品情報には、楽天市場の商品情報や価格比較情報に加えて、気候や流行、社会情勢など世の中のトレンドもウェブの自然検索結果から反映されるため、ユーザーが買い物をする際に必要な情報を包括的に提案することができる。
楽天市場アプリへの導入に先立ち、25年8月に開催された出店者向けイベントで、三木谷浩史社長は「単純にショッピングのレコメンデーションをするだけではなく、金融・旅行・教育・エンタメといった、楽天エコシステムが提供している、さまざまなサービスのエージェントとして機能していく」と、同社のAIエージェントについて説明した。
さらに三木谷社長は「エージェントというコンセプトが、今までのインターネットの使い方の概念を根本的に変えるだけではなく、デジタルの世界に『スーパー秘書』が登場し、どんどんどんどん賢くなっていく。賢くなるだけではなく、皆さんのことを良く理解している」と熱弁。例えば検索についても、これまでは言葉に紐づいた結果を示していたが、今後はユーザー個々の購入履歴やプロファイルに基づいた結果を表示する。さらには、常用しているサプリメントが切れそうな時期には、「スーパー秘書」が「そろそろ買っておきましょうか」と問いかけてくれる。
AIエージェントの開発競争が激化する中、同社の強みについて三木谷社長は「圧倒的なデータ量と、国際的な組織を持っていることによる開発力」とした上で、「これにポイント経済圏を付け加えることで、われわれのエージェントを使ってもらえるようになっていく」と自信を示した。
こうした状況も踏まえて、2026年の楽天市場に関して、坂本代表は「流通額は横ばいではないか」と予測。そして「店舗にとって重要になってくるのは“AIに理解される商品テキスト”。ChatGPTやGeminiが購買起点になることを見据え、商品説明を再構築する必要がある」と提言する。
商品ページは「人に刺さる文章」である以前に、「AIが正確に理解できる文章」であることが求められる時代になっている。坂本代表は「キーワード検索で商品を買うことが基本なのは変わらないと思うが、まずは生成AIに相談することが一般化してくだろう。長期的には、仮想モールはAIに商品のデータフィードを拾ってもらうのが大きや役割になるかもしれない」と予測する。
進むフルファネル化
2025年のアマゾンマーケットプレイスは、出店者にとって「売り上げは伸びたが、楽ではなかった1年」だったようだ。市場全体としては成長を維持しつつも、競争環境は一段と厳しさを増している。
キャスターでアマゾン専門のアカウント運用代行とコンサルティングのサービスを手掛ける、若月菫ECコンサルティング事業部長は、25年11月下旬に開催された「ブラックフライデー」の売り上げに関して、「コンサルをしている企業の場合、前年同期比で20%増だった」話す。
これは、前年のブラックフライデーが12月頭にかぶる日程だったため、年末商戦を意識して販促費を抑える企業があったことが大きい。今回は11月に集中したことで、出店者が積極的に予算を投下しやすい環境が整っていたわけだ。
一方、アマゾン内広告の平均CPC(クリック単価)は前年比で約20%上昇、出店者の利益をむしばんでいる。一般商材でも60~70円台に達し、プロテインなどの高競争市場では1クリック800円前後に達するケースもあるという。
若月氏は「CPCが上がると、同じ広告費でも獲得できるクリック数は確実に減る。これを理解できずに広告費を増やせない企業は苦戦している」と分析する。出店者数が増加する一方で、購入者数は大きく伸びていないのが実情という。その結果、広告枠の争奪が激化し、広告投資余力の有無が業績を左右する構図だ。さらには物価高も進行。「『利益が厳しいのでセールでの割引が難しい』という会社が増えている」(若月氏)。
アマゾンでもAIの活用が進んでいるが、これが検索ロジックに影響を与えているという。AIレコメンデーションにより、従来は検索ボリュームがほとんどなかった語句から購入が発生する事例が増えている。つまり、消費者の検索行動に依存しない購買導線が形成されつつあるわけだ。これを受けて若月事業部長は「3カ月に1回の商品ページ見直しでは対応できないので、獲得効率の良いキーワードを拾いあげて埋め込むなど、月1回はキーワードと商品ページを改善する必要がある」と指摘する。
25年のアマゾンにおいて、最も大きいニュースといえるのは、ふるさと納税ポータルサイトへの進出だろう。他サイトと違うのは、出店者がこれまで使ってきた商品ページを、そのままふるさと納税商品として展開できる点だ。アマゾンに申し込み、「返礼品提供事業者」として自治体から承認されれば、FBAを活用することで、最短日時で消費者に返礼品を届けることができる。26年は「普通に買い物をしながらふるさと納税で寄付をする」という流れが強まりそうだ。
一方、まだ大きな話題となっていないのが、若年層の取り込みを狙った「AmazonHaul(ホール)」。最大の特徴は、3000円以下の商品に限定し、主に中国工場からの直送モデルを採用している点にある。配送日数は数日から1週間程度と、従来の即日・翌日配送とは一線を画す設計だ。UIは「SHEIN」や「Temu」を強く意識したものとなっている。
アメリカでは昨年から展開しているが、日本では10月より試験運用を開始。若月事業部長は「SHEINやTemuで商品を買う若年層でも、プライムビデオは使っているというケースも多い。こうしたユーザーにアマゾンで買ってもらうためのサービスなのだろう」とした上で、「アプリを分けるならともかく、アマゾン内でやる意味がいまいち感じられない」と辛口だ。ただ「アメリカは24年から展開しているサービスをわざわざ日本に持ってきたのは気になるところ。成功するかどうかは不透明な部分が大きいが、仮に定着すればもっと幅広い層にリーチできるようになる」とみる。2
6年に関して、若月氏は「広告戦略の変革が起きそう」と予測。新しい広告の出面やキャンペーンの作り方が出てきている中で、「AIに任せる部分と、自分の手で動かす部分の調整が肝になる。つまり、AIで自動運用した上で、より詳細な分析や挙動の確認を行わないと、目的にそぐう広告運用が難しくなる」。
アマゾン側の動きとして、若月氏は「フルファネル化がさらに進むのではないか」とみる。25年には、プライムビデオで流れる広告内に「カートに入れる」というボタンを表示でき広告商品の展開を開始した。この「インタラクティブ動画広告」は、動画広告ともに“バッジ”と呼ばれる専用欄を表示してそこで訴求したい商品やサービスの画像などとともにクリックまたはタップ可能なボタンを表示。例えば、訴求したい商品がアマゾンの通販サイトで販売している場合は「アマゾンカートに入れる」というボタンを、アマゾン内で販売していない商品の訴求やサービスの予約や登録を促す。さらに、自社サイトなどに誘導したい場合は「スマホに送信」というボタンを表示し、利用者がクリックまたはタップ、スマートフォンのカメラ機能でQRコードを読み取ることで、それぞれ当該視聴者のアマゾンのアカウントに連動してアマゾンの通販サイトの買い物カゴに当該商品を追加したり、誘導したいサイトのURLなどを表示したメールを利用者のスマートフォンに送信する仕組みとなる。なお、当該広告は動画コンテンツの再生前および再生中に表示する。
「アマゾンは広告主に対し、『ブランドを作れる場』としてのアピールを強めている。『アマゾンで商品を買ってね』というだけではなく、チャネル戦略・ロイヤリティー戦略に使える点を押し出すなど、使い勝手がテレビCMに近くなってきているのではないか」(若月氏)。26年はアマゾンのリテールメディアとしての色がますます濃くなりそうだ。
今年も流通総額は回復基調
2023年に大きく落ち込んだ流通額が回復傾向にあった24年のヤフーショッピング。25年も回復基調が鮮明だったようだ。
同モールを専門にコンサルティングを行っている、アルドの佐藤英介代表取締役は「大まかなイメージでは、23年は前年比約20%減、24年と25年は同約10%増で推移している」と語る。22年流通額との比較では3%前後の減少ということになる。
ポイント還元施策を相次いで取りやめたことで流通額が落ち込んだ同モールだが、24年は販促費の投入を再開しキャンペーンを復活。ただ、30%に迫るような、一時期ほどの高いポイント還元率は設定していない。
25年11月に行われた大型セールも、当初目標の流通額を上回ったとみられる。佐藤氏は「ポイントの最大倍率は昨年と変わっていないが、『2万円以上買うと○%ポイントアップ』など、訴求方法が分かりやすかった点が響いたのかもしれない」と分析する。例えば、昨年12月に行われた「超PayPay祭」では、2万円以上の購入でポイントが8%プラスされた(セール事前期間での商品購入がある場合)。
また佐藤氏は「私が実施した調査の数字をみても、ヤフーショッピングは楽天市場と併用しているユーザーが多い印象なので、SPUの条件変更などで、楽天でのポイント付与が減ったユーザーがヤフーに流れてきている可能性もある」とみる。
25年のヤフーショッピングにおける最も大きな変更は、25年2月から付与されるポイントが期間・利用場所限定となったことだろう。実質的にPayPayポイントが2種類になるという大きな改変といえる。「ヤフーショッピングで獲得したポイントの外部流出」を抑え、ヤフーショッピングでの再購入を促す施策だ。
ポイントが使える場所が限定されたことを「改悪」と捉えるユーザーが多いと流通に影響が出る恐れもあったが、「もっと大騒ぎになるのかと思ったら、あまり影響はなかった」(佐藤氏)。注文画面において「獲得ポイントを今すぐ利用」できる店舗が増えたこともプラスに働いたとみられる。
付与するポイント数に応じてランクを分けて、上位ランクほどよりよい特典を付与する会員制度「ヤフショランク」も導入。ただ、こちらに関しては「あまり影響が出ている感じはない」(佐藤氏)という。最上位ランクの「ゴールド」の場合、11日と22日の「ヤフショ感謝デー」のポイント付与率がプラス5%となるわけだが、「ポイント付与上限が1000ポイントで、他にも『5のつく日』や毎週日曜日のキャンペーンがあるため、そこまでお得感を感じられない」(同)のも響いているようだ。
26年のヤフーショッピングについて、佐藤氏は引き続き堅調な成長を予測。「過去最高の流通総額に達する可能性もある」とみる。その一方で、「ポイント頼み」のモールである点は変わらず、「LINE」との連携も掛け声倒れになっているのが実情だ。
一方、課題となっていた「出店店舗の健全化」については、不正な店舗が出店できないようにする出店審査の厳格化によって、25年上半期の出店審査合格率は昨年上半期比7ポイント減の4.2%となり、「水際対策」が功を奏しているようだ。出店中の店舗の審査についても4月からAIによる違反商品のパトロールを開始し、従来の手法に比べ違反検知率が3倍以上になり、違反商品の減少につながっているとしている。
AI関連の取り組みとしては、25年10月から「ヤフーショッピング」内の商品検索時に「どのような商品を探しているのか」とチャット形式でAIと会話することで効率的に欲しい商品を絞り込める機能を実装した。同社が展開するネット検索「ヤフー検索」でも、生成AIが提示した商品の選び方のポイントや簡単な質問にユーザーが回答することで当該回答に合わせた商品リストを提示する機能の提供も始めた。AIを活用することで必要な商品を探しやすくさせ、仮想モールの流通額アップや検索サービスの使い勝