ECプラットフォーム「ネクストエンジン」を手掛けるNEは2025年11月4日、東証グロース市場に上場した。同社はスマートフォングッズECのHamee(ハミィ)子会社だったが、NEの全株式を、現物配当(金銭以外の財産による配当)でハミィ株主に分配するスピンオフ上場を行ったため、ハミィとの資本関係はなくなっている。今後の成長戦略は。
EC事業者向けのネクストエンジンをコマース全体の基盤に変えていく
「TAM」を広げる
─スピンオフ上場という形を採用した理由は。
2019年から議論が始まり、約6年間かけて上場することができました。事業成長のスピードを上げていくためには、NEの独立性を高めることで、経営の判断をシンプルにする必要があると考えたわけです。親子上場は東証が推奨する形ではないため、スピンオフ上場となりました。
─ハミィとの資本関係はなくなりました。
ハミィは創業してから27年なので、当然ネームバリューがあります。一方でネクストエンジンも17年間サービスとして継続しているので、ネクストエンジンの認知度も高い。サービス単体で考えた場合、ハミィと資本関係がなくなったことはネガティブな話ばかりではなく、NEが独立しても十分やれるだけの認知度はあります。
─現状の株価をどうみますか。
これから独立性を持ってダイナミックに経営を行っているタイミングなので、現状の変動については市況の影響が大きいと思います。
─今後、企業価値を高めていくために何をするのでしょうか。
2029年4月期には売上高100億円を達成したいですね。そのための手段としてはM&Aも考えています。そもそも、当社はネクストエンジンが中核事業であり、EC事業者の成長に先回りしながら、複雑化するネットショップ運営を根本からシンプルにしていくことが重要です。仮想モールのルール変更や販売チャネルの増加など、事業者が追いつく前に複雑化していく状況で、当社の使命は事業者が歩む道の一歩先を照らし、成長過程でのノイズを取り除くことです。
─100億円に向けた成長戦略は。
柱となるのは、パートナー企業とのエコシステム強化でしょう。複雑化するネットショップ運営を、当社だけで支えていくことは非常に難しいので、物流・決済・在庫管理・生成AIなど、多様な領域の専門企業と連携を深めていくことで、事業者が必要とする機能やサービスをワンストップでアクセスできる環境を整えていきたい。中長期においては、これをあらゆるコマースの基盤に拡張していきたいと考えています。29年4月期に向けては、市場拡大に力を入れたい。これは「TAM(事業が獲得できる可能性のある全体の市場規模)」や「SAM(事業が獲得できる可能性のある最大の市場規模)」といったものです。当社としては、ターゲットを現在のEC事業者から、全ての小売り事業者へと拡大していきたい。そのためには、幅広い業種が使えるサービスを揃える必要があります。
─それはネクストエンジンのウイングを広げるということでしょうか。
もちろん、ネクストエンジンのアップセルやクロスセルも行います。しかしTAMという観点でいえば、ECにかかわらず、全ての小売り事業者が使えるサービスを検討していきます。ただ、当社には強固な顧客基盤があるので、まず一歩目としては、ネクストエンジンユーザーに使ってもらえることを目標とし、その先はネクストエンジンユーザーでなくとも使えるサービスを順次リリースしていきます。
─26年4月期の売上高見通しは約42億円。3年間で約60億円増やすとしたら、EC事業者だけをターゲットにしていては難しい、と。
もちろん、ECに関してもまだまだ伸びしろはあります。ただ、ECに限定してしまうと、TAMからSAM、さらには「SOM(事業が実際にアプローチできる顧客の市場規模)」へと先細りしてしまう。この漏斗的な絵図でいうと、当社は細いニッチなところに位置しているわけで、これを広げにいくための活動をしなければいけません。もちろん、EC化率は年々拡大しているわけで、オーガニックに成長はしてくだろうが、その速度に足並みが揃ってしまうと、グロース市場の上場企業として、投資家に認められる拡大ページには追いつかない。同時並行的にTAMを広げる活動もしていきます。
─現在はB2CのECを展開する企業がターゲットですが、今後はB2BやECを手掛けていない小売り事業者もターゲットとする。
そういった領域にどうやって進出するかについては、内製もあり得るし、M&Aもあり得ます。自分たちの顧客基盤を活用しながらサービスを提供した上で、既存の顧客層以外の企業が使っていけるような、伸びしろのあるサービスを展開していかなければならない。例えば「TikTokShop」であれば、売れる商品が限定されている事業者にも大きな出店メリットがあるわけで、極端に言えばヒット商品が1つあればいい。こういった事業者にも使ってもらえるサービスが重要になります。
─ネクストエンジンというECプラットフォームを、EC以外のコマースも統合したプラットフォームにしていくということですか。
コマース全体の基盤に変えていくイメージです。EC以外のコマースでも、共通する課題は必ず存在するので、そういったものを解決するサービスをリリースしていきたいですね。
─サプライチェーン全体を支援していく考えもありますか。
そこまでは難しいでしょうが、ものづくり以外の潜在的な課題を解消していくことはできると思います。
─3年後に売上高100億円を達成するためには、急ピッチで拡大していかなければならない。
目指すべき数字があるなら、そこから逆算して動かなければならないわけで、現状の延長線上では達成できないのは事実。企業の成長性を重んじる東証グロース市場に上場したので、現在のSaaS銘柄に甘んじていたのでは、ここにいる意味がない。これから先は、ハイグロースな銘柄として認められるような成長の可能性を示さないといけない、という使命感もあります。当社に対して「踊り場ではないか」「巡航ペースに乗っている」という見解を持つ投資家もいると思います。それは必ずしも間違いではなく、「堅実で確実に利益を生み出せるビジネスである」ことは事実。だとしても、当社がやらなければいけないのは資本効率を高めていくこと。ECプラットフォームで稼いだお金を、どのように成長投資に使うか。そう考えると、チャレンジングなことをしなければいけないと思っています。3年間という短い期間ですが、「踊り場」という声を否定するような成長をしたいですね。
リテール事業も強化
─近年は「ロカルコ事業」においてリテールを手掛けるなど、小売りにも進出しています。
当社はECシステムを提供するという立ち位置にあるので、あらゆる小売り事業者の動きに適用できる基盤を作っていかなければいけない。リテールの動きそのものを支えられるようなコマース基盤を作り上げることができれば、当社が最終的に目指す企業形態が実現できます。リテール事業を大きくするというよりは、いわゆる「ドッグフーディング」ということになるでしょう。つまり自社で開発した製品やサービスを、自身が日々利用することで、品質向上につなげていくというやり方です。いろいろなチャレンジをすることで、システムとしての汎用性を高めていきます。
「踊り場に差し掛かっている」という声を否定するような成長を遂げたい
──EC以外も含めたコマース基盤を作り上げるための取り組みは、来期から着手するのですか。
中長期、長期を見据えてやっていくビジョンなので、これをどう言語化し、定義していくかについては、来期公表する中期経営計画で示します。ただ、これが売上高100億円に向けた起爆剤になるかというと、そうではない。パートナーエコシステムの強化や、TAMを広げていくといった取り組み、さらにはリテール事業の拡大がベースになります。ただ、100億円の内訳をどうするかについては、もっと詰めなければいけません。リテールに関しても、海外展開も含めて強化していきたいですね。
─海外事業に関して。
ある程度当社にゆかりがあり、距離的に近い国というと、韓国になるので、まずはここから進めます。ハミィは海外事業に積極的でしたが、ECプラットフォームを主としている当社は海外の免疫が足りない。まずは一歩踏み出すことが必要です。
─多店舗展開するためのECプラットフォームは海外でも需要があるのでしょうか。
例えば、韓国にもネクストエンジン相当のプラットフォームはあります。ただ、韓国の小規模事業者の場合、中国から商品をドロップシッピングで無在庫販売しているケースがあり、一昔の日本のようなやり方にとどまっています。つまり、進出するには良いタイミングではないかと思っています。
─2025年は仮想モールの人気店舗が自己破産に追い込まれるなど、EC事業者にとっては厳しい年でした。市況をどうみますか。
物価高がEC事業者を苦しめています。仕入れや物流費用が上がっていく中で、利益率を確保しながら攻めていくことは、体力の少ない企業にとっては非常に厳しく、物価高が二重苦・三重苦としてのしかかったのでしょう。こうした状況でこれから先も会社を成長させていくためには、ネクストエンジンのようなプラットフォームを活用しながら運営を効率化する必要があります。また、仮想モールを運営するプラットフォーマーは、出店者の広告出稿で収益を出す仕組みなので、広告依存からの脱却もしなければいけません。さらに、いろいろなプラットフォームがあるので、さまざまな販売チャネルの展開も重要になってきます。当社としては、バックエンド業務をいかに省力化していくかに関して、EC事業者に重要性を伝えていきたいですね。
─アマゾンにおけるクリック単価など、広告費も高騰しています。
広告費用が増えると、使うべきところにお金が使えなくなってしまいます。販促費を減らしながら売り上げも伸ばしていくとしたら、大事になってくるのはリピート。既存顧客に繰り返し買ってもらう、つまりファン化していく仕組みが重要になります。販売チャネルという点では、本当に多様化してきているので、1つのチャネルに依存しない体制を作ることが、長期的な安定につながるはずです。当社としては、ネクストエンジンのような複数チャネル管理への需要は、ますます高まっていくと思っています。
─ネクストエンジンの利用社数はまだまだ伸ばせますか。
現在の契約社数は約6600社ですが、毎月500件超の問い合わせがあります。この状況は、私がハミィに入社した2014年から変わっていません。ということは、ネクストエンジンに対する潜在的なニーズはまだまだ高く、EC化率自体も高まっていくことを考えれば、取りきっているとは全く考えておらず、むしろ「夜明け前」くらいの感覚です。というのも、ECは物流などの課題がまだまだあるわけで、これが解決していない段階でのEC化率が10%程度。解決すれば、諸外国のようにEC化率が30%程度になっても決しておかしくない。コロナ禍に象徴されるように、EC化率が高まれば契約社数が増
─現在はネクストエンジン事業のほか、コンサルティング事業、ふるさと納税支援やリテールなどのロカルコ事業の3本柱。このほかに新規事業は考えていますか。
今はスピンオフ上場をしたばかりで、一定注目をしてもらっている状況です。よりトピックを作っていくための活動が重要なので、今まで以上にいろいろな企業と手を取り合い、そこから生まれてくるサービスがあるのではないでしょうか。今の段階で具体的に言うのは難しいのですが、やりたいことはいろいろあります。
比護 則良(ひご・のりよし)氏
1976年生まれ。ヒット、Newデイシス、GMOネットサポート、GMOインターネット、GMOコーマスを経て、2014年Hamee入社。2020年取締役兼執行役員兼プラットフォーム事業部事業部長。2022年NE設立、代表取締役社長CEO(現任)。
◇ 取材後メモ
もともとネクストエンジンは、ハミィのECシステムを外販したものです。しかし今回のスピンオフ上場で、ハミィは「ネクストエンジンの顧客」という位置づけとなりました。上場会見で比護社長は「ハミィにユーザーとして利用してもらう方が、システムの汎用性や利便性は上がると思う」と述べていましたが、ECに縛られず成長するためにはスピンオフ上場という形式が最適だったのでしょう。比護社長は、同時期に上場し、急成長を遂げたネット印刷企業と自社の現状を比較し「TAMの違いが大きかった」と分析します。小売り企業全般の課題を解決できるサービスを早急に打ち出せるのか。注目したいところです。