楽天グループ2025年12月期における国内EC流通総額は、前年同期比3.9%増、前年がうるう年だったことの影響を考慮すると実質4.2%増の6.3兆円に達した。仮想モール「楽天市場」においては25年12月、エージェント型AIツール「RakutenAI」を、楽天市場アプリに搭載したほか、店舗管理システムにもAI機能を導入している。果たして生成AIの普及は楽天市場にどんな影響をもたらすのか。
楽天市場はAI検索時代でも最適なECプラットフォームであり続ける
「RakutenAI」に効果
――2025年の楽天市場を振り返って。
国内EC流通総額10兆円達成を目指す中で、楽天市場も堅調に拡大した1年となりました。売り場や物流などの改革を続けると同時に、「楽天モバイル」の成長等を通じた楽天経済圏のさらなる拡大、AIを活用したユーザーの利便性や店舗様の生産性促進、ユーザーのロイヤリティ強化をより推進した結果、国内EC流通総額が伸長しています。
――楽天市場の成長要因は。
店舗の成長を後押しするため、マーケティング施策、売り場改善、物流の最適化、店舗コミュニケーションの強化など、さまざまな観点の取り組みを推進し、顧客体験の向上を図ってきました。特に楽天モバイルとの連携による若年層の獲得や、AIを活用したセマンティック検索やパーソナライズド検索の導入により、ユーザー1人ひとりにより最適化された購買体験を提供することで、顧客エンゲージメントのさらなる向上に取り組んでいます。また、店舗運営におけるAI活用も飛躍的に進みました。楽天として店舗のAI活用を推進するためのサポート体制を強化したことで、より効率的な店舗運営の実現を可能にしています。これらさまざまな取り組みを通じて、昨年の楽天市場は単なる流通総額の拡大にとどまらず、プラットフォーム全体の質向上と、ユーザー・店舗・当社が一体となりました、これまで以上に強固な楽天経済圏を構築し、その価値をさらに高めることができたと捉えています。
――25年は「イーザッカマニアストアーズ」など有力店舗の自己破産もありましたがが、原材料費や物流費などのコスト増が出店店舗に与えている影響をどうみていますか。
原材料費や物流費の変動は、出店者の事業運営における重要な要素であると認識しています。このような市場環境の変化がある中、楽天市場としては出店者が持続的に成長できるような基盤と、新たな機会創出に向けた施策を継続的に強化しています。具体的には、「楽天スーパーSALE」や「お買い物マラソン」といった大規模イベントを通じた顧客基盤の拡大、多様な企画によるユーザー接点の創出、「最強翌日配送」の利用拡大や定期購入サービス刷新による顧客体験の向上に注力しているほか、AI活用による業務効率化にも取り組み、各店舗を多角的に支援しています。AIテクノロジーも活用しながら、より強固なプラットフォームへと進化し、出店店舗が変化の時代においても力強くビジネスを展開できるよう、引き続き尽力していきます。
――RakutenAIはどの程度流通額増に貢献しそうですか。
搭載直後から流通額増に貢献しています。1月3~22日の期間において、「楽天市場AIコンシェルジュ」を利用したユーザーは、購入決定までの時間が約43%短縮され、平均注文金額は約41%向上しました。また、24年に実装したセマンティック検索は、ユーザーのあいまいな検索にも対応することで、25年度の流通貢献額は450億円と見込んでいます。これらの成果は、RakutenAIがユーザーの購買行動を後押しし、ニーズに沿った商品への誘導に繋がっていることを示しています。
――「エージェンティックコマース」が注目されていますが、楽天市場としてどのように対応していくのでしょう。
楽天市場にとって新しい購買体験を提供する大きな好機と捉えています。当社はRakutenAIを単なる効率化ツールとしてではなく、ユーザーのより納得感の高い買い物や楽しい体験をサポートするAIエージェントとして開発を進めています。具体的には、楽天市場のAIコンシェルジュが、ユーザーとの対話を通じてニーズを理解し、最適な商品選びのサポートと商品のレコメンドを行います。楽天市場の購買データやグループのその他サービスの利用状況など、「楽天エコシステム」が持つ多様なマーケティングデータを活用し、ユーザー1人ひとりにあった商品の提案を進めています。今後は楽天市場の5万店舗以上の個性豊かな店舗が持つ「プロの知恵」をそれぞれエージェント化し、その集合知を活用することで、競合他社にはない、楽天市場ならではの購買体験を提供し、顧客満足度のさらなる向上を目指します。
――生成AIの普及によって、ECの購買体験そのものが変わりつつありますが、楽天市場ではどのような変化を想定していますか。
まず、ユーザー行動の変化に対応するため、対話型AIによる自然な検索体験を強化しています。セマンティック検索や楽天市場AIコンシェルジュにより、ユーザーはより自然な言葉で商品を検索し、AIがニーズを深掘りして最適な商品を提案します。また、多様性とパーソナライズの両立を目指し、AIによるパーソナライズを進めつつも、楽天市場の強みである5万店舗以上、約5億点の商品の多様性を維持します。AIコンシェルジュや、ザーごとの興味・関心に最適化された商品の画像や動画、商品ページやコンテンツページの情報を表示する新機能「ディスカバリーレコメンデーション」を通じて、ユーザーが新たな商品と出会う偶発的な発見の機会も創出し、「ShoppingisEntertainment!」を深化させる狙いです。さらに、店舗運営の効率化と価値提供の支援も強化し、「RakutenAIforRMS」を通じて、店舗の業務効率化を推進しています。画像生成や商品説明文の作成、ユーザーからの問い合わせ対応など日々の業務負担の軽減をサポートし、店舗が商品開発などの本質的な価値創造に注力できる環境提供をサポートしています。これらの取り組みを通じて、楽天市場はAI検索時代においても、ユーザーと店舗双方にとって最適なECプラットフォームであり続けることを目指します。
「楽天モバイル最強感謝祭」を大型セール第3の柱に
「Link」からの誘導進む
――「楽天モバイル」ユーザー増加が楽天市場に与える影響は。
楽天経済圏における各サービスのシナジーを強化し、楽天市場の成長を力強くけん引しています。楽天市場と楽天カードのシナジーに楽天モバイルが加わることで、この連携はさらに強固なものとなりました。実際、楽天カードと楽天モバイルの両サービスを利用するユーザーは、楽天カードのみのユーザーと比較して、楽天市場での購買が44.3%伸長しています。楽天モバイルユーザーの増加は、楽天市場全体の流通押し上げにつながる効果が期待されます。
――顧客層拡大にもつながっている。
25年12月時点で楽天モバイルの契約回線数が1000万を突破し、楽天市場の流通シェアの約20%を占めるまでに成長しました。特に、若年層の流入がみられており、将来的な成長を支える重要な顧客基盤の拡大にも貢献しています。さらに「楽天モバイル最強感謝祭」の実施により、顧客エンゲージメントの強化と新たな成長機会の創出を図っています。楽天モバイル契約者限定の施策を定期開催することで、楽天経済圏全体での顧客エンゲージメントを強化しています。25年12月に一部店舗で行った実証実験では、イベントページ訪問者数が前回の開催(24年12月)と比較して58%増と大きな反響を得ました。この成功を受け、今年は感謝祭の対象を全店舗へと拡大し、楽天スーパーSALEやお買いものマラソンに次ぐ第3の柱とする狙いです。
――無料通話アプリ「RakutenLink」からの顧客誘導は進んでいるのでしょうか。
順調に拡大しています。感謝祭の開催により、RakutenLinkからの楽天グループサービスへの送客数は毎月5000万回を突破するなど、楽天グループサービスへの重要な流入経路となっています。また、RakutenLink内の公式アカウント機能も顧客誘導において重要な役割を担っています。現在、100以上の店舗が公式アカウントを作成しており、自店舗PRの場として新規ユーザーや若年層とのタッチポイントの創出に効果が出てきています。今後は、RakutenLink内で購入につながる導線を強化します。ユーザーの購入ステータスに合わせて通知し、店舗公式アカウント内でワンステップ購入が可能になるなど、RakutenLinkとの相乗効果を図っていきます。
――25年3月に定期購入の仕組みを刷新しました。
25年12月と刷新直後の25年3月を比較すると、流通額は約2.7倍、月間新規申込者数が約6.4倍と大きく拡大し、ユーザーから高く評価されていることが分かります。また、25年10月には定期購入の初回お届けが通常購入と同様の納期で可能になり、利便性が向上したことで、ユーザーの定期購入へのハードルが下がりました。今後さらなる購入促進が期待されます。
――新規ユーザーやこれまで楽天市場の利用頻度が低かったユーザーにも、より使ってもらうための施策に成果は出ていますか。
楽天市場では、ライトユーザーの活性化を目的とした施策に注力しており、成果が現れはじめています。特に、大型買いまわりイベントのさらなる強化を通じてライトユーザーの育成を図っており、25年の流通規模は20年からの5年平均成長率で9.3%増と大きく伸長しました。具体的な施策としては、「お買いものマラソン」において対象ユーザーをターゲティングし、モーダル画面(画面上に新しく重ねて表示されるウインドウ)で分かりやすく訴求することで、エントリー率を高める効果が得られています。また、ジャンル別戦略も強化することで、ユーザーニーズにあった企画を展開するなど、ユーザーが定着する仕掛けに取り組んでいきます。
――若年層獲得に向けた取り組みに関しては。
若年層の楽天モバイルユーザーによる楽天市場の流通への貢献度は継続的に増加しています。楽天モバイル新規契約者においても20代以下の若年層ユーザーの割合が、25年度で約30%と高いことから、今後も楽天モバイルを通じた若年層のさらなる流入が期待できます。その他、若年層を特に意識したソーシャルギフト機能の提供や、20代ユーザー限定の施策展開など、機能面・コンテンツ両軸から若年層含む新たなユーザー層の獲得にも注力していきます。
――ユーチューブ動画から楽天市場の商品が購入できるようになりました。
想定を上回る反響があります。特にキッチン家電などの小型家電や日用品雑貨などが人気。ユーチューブクリエイターと店舗の出会いを加速するべく、両者を繋げられるようなリアルイベントの開催などを検討していきたいですね。
――海外事業者の出店強化やインバウンドCBT(クロスボーダートレード)の推進は、楽天市場全体の成長戦略においてどのような位置づけでしょうか。
楽天市場では10年前より海外事業者の出店を可能にし、インバウンドCBTの取り組みを推進しています。厳正な審査を経た1000を超える海外事業者が出店しており、店舗数・流通額が着実に成長しています。25年1~11月の海外事業者による流通総額は前年同期比2桁成長と好調に伸びました。楽天市場としては、豊富な品揃えでより多くのユーザーニーズに対応し、売り場としての魅力をさらに向上することを目指しています。
――26年における楽天市場の機能刷新や新機能は。
引き続き楽天経済圏の活用を深化させることで、サービス間の相互作用を一層高め、ユーザーが複数のサービスを利用することで得られるメリットを最大化します。特に楽天モバイルの拡大は、楽天市場の流通拡大を促す強力な推進力となると捉え、この効果を最大限に引き出すことに注力していきます。顧客基盤の拡大においても、楽天市場ならではの大型イベントに加え、ユーザーの多様なニーズに合わせた新たな企画を展開し、集客と流通の拡大を目指します。並行して最強翌日配送や刷新された定期購入の利用促進に加え、ソーシャルギフト機能の提供など、非イベント時の流通も拡大を図っていきたい。さらにAI活用により、ユーザー個々に最適化された購買体験を提供することで、楽天市場へのエンゲージメントを深め、さらなる顧客体験の向上に取り組みます。店舗にとっても、AIの活用を通じて、より創造的で付加価値の高い業務に集中できる環境を整え、効率性と生産性の向上に繋がるよう継続的に支援していきます。具体的な流通の想定額は公開していませんが、こうした施策を通じて、2030年の国内EC流通総額10兆円達成を目指します。
松村亮(まつむら・りょう)氏
慶應義塾大学卒、ロンドン大学修士。外資系IT企業のエンジニア、外資系戦略コンサルの東京、ロンドンオフィスを経て、2013年8月に楽天入社。社長室を経て、2017年に執行役員に着任。2022年4月に上級執行役員兼マーケットプレイス事業デピュティヴァイスプレジデントに就任。2026年4月、副社長に就任。
◇ 取材後メモ
買い物をする際のユーザーの行動が「とりあえず検索」から「AIエージェントにおすすめを聞く」へとドラスティックに切り替わりつつあります。
「チャッピー」にはない、AI時代における楽天市場の強みとは何か。松村副社長は「店舗の集合知を活用できることだ」と明快に答えます。プロの「知恵」を楽天のAIエージェントに活かすことができれば、消費者の購買意欲を喚起し、つながりを強めることもできる。「店舗の個性」こそが、競合他社にはない、楽天市場にとって最大の優位性。汎用的なAIエージェントといかに差別化し、利用率を高めていけるかが「10兆円達成」に向けた鍵となるでしょう。