消費者庁がダークパターン規制の検討を進めている。しかし、禁止を念頭に置く行為は、悪質性の判断における主観的要素が強い。過剰規制は、企業の事業活動に委縮効果を招く懸念がある。
6類型の規制を検討
「ダークパターン」は、消費者の誤認や焦りにつけ込み、自主的な選択を妨げる表示・UI(画面レイアウト)を指す。消費者庁は、今年1月に始めた「デジタル取引・特定商取引法等検討会」で、検討テーマの一つにあげた。インターネット取引全般を対象に、包括的にダークパターンを規制しつつ、具体的な禁止行為をガイドライン等で示すもようだ。国会審議が必要な法改正を経ず、後追い的な規制にならないようにする目的がある。
消費者庁は、6類型(=表)のダークパターンについて規制を検討している。課題は、景品表示法など他法令で対処可能なものとのすみ分けが明確でないこと、故意性、悪質性の評価が難しいことだ。
「インターフェイス干渉」には、重要な情報が不明瞭であったり、企業が望む表示が事前選択されているものがある。重要情報がサイトに埋もれ内容を認識できないケースを禁止行為と想定するが、企業が表示する内容は商品情報、販売価格、契約・解約条件など多い。「必要な情報を記載すると必然的に文章は長くなり、何度もスクロールすることになる」(検討委員)。
「社会的証明」は、ほかの消費者行動に関する表示、くちコミや顧客の声、No1表示、「緊急性」は在庫情報やカウントダウンタイマーの規制を想定するが評価は難しい。
「この商品を閲覧している人は20人います」、「お急ぎください」。インターネット取引でよく目にする表示だが、虚偽ならば違反になる可能性がある。ただ、EC、モール、実店舗など複数のチャネル展開が一般的な昨今、リアルタイムで正確に在庫情報を反映するのは困難だ。現行の特商法、景品表示法、ステルスマーケティング規制で対応可能なケースも多く、複数の委員が「整理が必要」と意見している。
そもそも、特定の時点の在庫情報に関する虚偽の有無を企業、消費者庁がどう証明するのか。「急かす要素はどうしても入る」、「企業の委縮、混乱を招く」と、企業の創意工夫を制限する規制の実効性を疑問視する声もある。
「執拗な繰り返し」は、操作の反復、威迫的な文言で企業が望む選択を迫るものだが、検討委員からは「定期購入であることを度々伝えるなど〝必要な繰り返し〞もある」、「(高額な振込みを)消費者が望んでいる場合、これを是正に導くことは、かえって〝消費者が望まない方向への変更を迫る表示〞になる」、「年1回のバーゲンセールで〝このチャンスを逃したら〞というのは困惑させることになるのか」と懸念が相次いだ。規制対象となる場合も、「操作の反復」と「威迫的文言」が揃うケースを対象にするとみられる。
「怒られたら廃業すればいい」
消費者庁は、これらダークパターンを「一般的な消費者が通常の注意をもって見た場合、その内容を正確かつ容易に認識できない虚偽の表示・UI」と定義して禁止していく方針だが、〝通常の注意〞とは、どのような消費者を想定しているかは明確に見えてこない。ダークパターンが抱える〝程度の問題〞という抽象性に明確に線引きできるかも問題だ。
「消費者が表示が事実かを見極めることは困難。規制は賛同するがどのように適切性を判断するのか」と監視上の問題を指摘する意見もある。
違反の評価は、消費者庁の裁量によるところが大きく、企業の予見可能性を高めなければ、企業の混乱、事業活動の委縮を招く。罰則は今後の検討になるが、明確な線引きが示されなければ行政訴訟も増えるだろう。
企業の予見可能性確保できるか
検討会は、これまで1インターネット取引全般の規制(定期購入等の規制強化)、2不意打ち性の高い取引への勧誘規制の導入、3ダークパターン規制――などをテーマに検討してきた。7月に中間報告をまとめるとみられる。以降、消費者契約法改正に向けた検討会との合同検討会も予定する。
検討会は、年間30万件以上の相談件数で推移する「通販」の約7割をEC関連が占めることに依拠して始まった。しかし、相談件数の分析は、SNS上の副業勧誘など悪質事例の共有にとどまり、「問い合わせ、苦情の分析はされていない」(業界関係者)。消費者庁は、相談件数が高止まりする現状についても「執行件数との相関はない」と評価するのみだ。
改正特商法が施行された23年6月以降、消費者庁は13件の行政処分を行っている。しかし、中には創業1年で数千件の相談が寄せられた企業もある。
「怒られたらやめればいいと思っている。そんな企業が何十社とある中で数社挙げられても、自社がセーフなら続ける」。過去に行政処分を経験したある企業の関係者はそう評価する。
現行法の制裁効果の検証も必要だろう。「表示是正・課徴金」の処分が伴う景表法に比べ、「業務停止」につながる特商法は制裁効果が重いと考えるのが一般的だ。ただ、事業継続が念頭にない悪質事業者にとっては「収益を取られるほうがつらい」(前出の企業関係者)。ほかに、「社名公表制度」のある消費者安全法を使い注意喚起するアプローチもあるのではないか。
消費者庁は、悪質事業者に実効的な規制、消費者教育をなおざりにせず検討する必要があるだろう。
特商法の改正議論は、「インターネット取引全般」と「不意打ち性の高いインターネット取引」に分けて行われている。
インターネット取引全般では、「広告目的を隠匿することを禁止」などステルスマーケティング規制と同様の規定、また、誇大広告の禁止を拡張し、「意に反して申し込ませる表示・UIの禁止」(ダークパターン規制)をいれる方針だ。ただ、「景表法とのすみ分け、整理が必要」という意見がある。
「不意打ち性の高いインターネット取引」は、SNSチャットの規制を想定している。電話勧誘販売の規制を参考に、「勧誘者の氏名の告知」、販売目的の告知」、「不実告知の禁止」などを新設する方針だ。
ただ、勧誘者の氏名は、SNS上で中傷対象になるなど〝カスハラ〞を意識し「ビジネスネーム」も認めるもようだ。また、消費者から連絡したケース、既存顧客とのやり取りなど、顧客コミュニケーションに近接する領域は対象から外す方針。一方、著しく有利な条件を提示し、消費者が連絡した場合は規制対象になるとみられる。リピート顧客への電話を規制対象外とする電話勧誘販売と同様、妥協点を探る。
ネット全般では、詐欺的な定期購入対策も強化される。
定期購入は、21年施行の改正特商法で、「最終確認画面」に「商品、役務の分量の表示義務、誤認表示の禁止」を導入、商品の分量、価格、解除事項など販売条件の表示が義務化された。
しかし、最終確認画面の提示後にポップアップ表示のクーポン利用を条件にアップセルするなどの問題がある。広告から契約に至るプロセスも複数の媒体を遷移し、顧客の手元に「最終確認画面」が残らず、「事業者と消費者で水掛け論になる」(遠藤幹夫取引対策課長)。
消費者庁では、表示が分散しやすいネットの特性を捉え、事業者、消費者双方が契約内容把握を目的に、書面交付義務」も検討する。
ただ、最終確認画面はあくまでUIに表示されるもの。事業者側は、注文内容、顧客データを直接システムに取り込む。規制の設計内容により、システム改修等の負担が重くなる。
このほか、解約時に煩雑な手続きを求めるケース、手続きを不当に遅延する行為などを禁止行為として定めていくとみられる。
行政関係者は、今回の改正について、デジタル新法ではなく、「特商法にインターネット関連の章立てをするのでは」とみる。
特商法は、当初、20数条だった条文が150を超え、逐条解説も500ページに及ぶ。「悪質業者に騙されない人を作らない限りずっと続く」(業界関係者)。今回の改正で高止まりする相談件数に変化が起こるか、行政評価の指標だろう。
「返品特約」も規制へ
特定商取引法は、返品に際し不良品であるかを確認しないなど「返品特約」の乱用を「指示」対象にする可能性がある。
通販は08年改正で、クーリングオフが導入された。ただ、「未使用品に限る」など例外を示す「返品特約」で事業活動と調整を図ってきた。特約の悪用でクオフを放棄される事例があることから規制が検討されている。
「いっその事、定期契約は中途でも解約できるようにしたらよほどすっきりする」。ある企業はそう話す。返品特約などの重要事項が長く分かりづらいといった行為がダークパターンとして規制される可能性もあるためだ。
「返品・返金」は、顧客体験の重要なポイントだ。米国のある企業の調査によると、消費者の58%は、特段の理由がない無料返品を期待しているという。
米国小売業界の年間の返品総額は8169億円ドル(約106兆円、22年)。販売総額の17%に相当するという返品大国。ただ、使用済み製品、偽物、窃盗品の「不正返品」が横行するなど、消費者のモラルハザードも引き起こしている。企業はこうした返品を防ぐため、AI検出ツールを導入するなどしている。
日本では、日本通信販売協会の会員企業は、商品特性に起因するものを除き、原則、返品を受けている。過剰な消費者保護は企業負担を重くする。顧客サービスとコストのバランスが重要だろう。