「落として終わり」にされない各社の試みは 使われ続ける通販アプリの条件とは?

アプリ限定ニュースも配信する

もはやネット販売を展開するEC実施企業にとって当たり前のものとなった販売チャネルであるアプリ。常にユーザーのスマホ上に存在し、自らのECにすぐに誘導可能な「ショッピングの入口」となる。とは言え、一度、ダウンロードしてもらってもそれ以来、ずっと使ってもらえない“死にアプリ”が多いのも確か。ずっと継続してユーザーに使ってもらうには工夫が必要となるようだ。アプリを配信する注目各社の“落として終わり”にされない取り組みを見ていく。

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“体験型”でコアユーザーとの結び付きを強める

【事例① テクストトレーディングカンパニー】

「atmos(アトモス)」などスニーカーを中心としたセレクトショップを展開するテクストトレーディングカンパニーは、コアユーザーの囲い込みに向けてスマートフォン向けのアプリを相次いで投入している。

同社は、「NIKE(ナイキ)」をはじめとする人気ブランドとのコラボスニーカーを数多く展開するなど競合とは商品面での差別化を図っている。昨今のスニーカーブームもあって成長を続けており、それに伴ってECチャネルの売り上げも大きく伸ばしている。前期(2018年8月期)のEC化率は40%を超え、EC売上高は40億円強に、そのうち自社運営サイトの構成比が過半を占めるなど好調だ。

プレミア商品の抽選機能を実装した

今期は、スニーカーマニアなどコアなユーザーをメインターゲットに、新しい買い物体験を提供するアプリを投入している。2019 年2 月1日には同社初となるスマートフォン用アプリ「アトモスアプリ」をスタートした。同アプリはコマース機能を活用し、スマホサイトやパソコンのブラウザ経由では購入できないアプリ限定商品も展開するのに加え、「アトモス」で取り扱うスニーカーやウエアなど、同社ブログやインスタグラムで配信している情報やアプリ限定情報も届けることで付加価値を付ける。

また、同アプリにはレアスニーカーといったプレミア商品の抽選機能も実装した。これまで、プレミア商品の販売時にはリアル店舗に千人規模で行列ができることもあり、店舗スタッフの負荷や周辺の交通整理などが課題だったため、同アプリを通じて事前に予備抽選を行うほか、本抽選の対象者が指定の時間に店舗近くにいることをアプリ上のGPSで判断。本抽選に参加できる仕組みとし、入店時にはチケットの“もぎり”のような機能も用意してオペレーションの改善につなげる狙いだという。

ただ、同アプリを通じて初めて抽選会を行ったアトモス表参道店では、店舗近くのさまざまな場所に購入希望者が無秩序に集まってしまい、従来のような行列の方が近隣に迷惑をかけないことから、GPSによる位置特定の基準も含め、アプリをチューニングしていく必要があるという。

また、「アトモスアプリ」には4月中旬をメドに会員証機能を追加する計画で、これまではECだけだった会員システムを実店舗にも広げる。同時期に新設する実店舗から会員証機能に対応。段階的に他店舗にも広げ、6月にもECと実店舗のポイント連携をスタートすることで、リアルとネットを相互利用しやすい環境を整えるほか、店舗のPOSシステムとも連携して顧客分析に本腰を入れ、顧客一人ひとりへの提案力を高めたい考え。

同アプリはスタートから1カ月間のダウンロード数が12 ~ 13 万件となり、出だしは順調のようだ。同社では、スニーカー好きをターゲットに3 月12 日に都内で開催したリアルイベント「アトモスコン」でも同アプリを使った企画を実施し、ダウンロードを促したという。

アプリ限定アイテムの販売も行う

加えて、3月1日には、AR(拡張現実)技術を用いた新アプリ「アトモスAR」をローンチした。同社が3 月4 日にナイキの歴代エアマックスを特集したスニーカーブック「ビジブル・バイ・アトモス・エアマックス・マガジン」をプロデュースしたのに合わせて、対象ページに付いたARマークをアプリでスキャンすると商品の説明動画を見られるようにするなど、コアなファンに向けた体験型アプリとして展開していく。

幅広いユーザーの獲得に課題

テクストトレーディングカンパニーは現在、ECチャネルでは自社通販サイトのほか、楽天市場やゾゾタウン、マガシークなどでも展開しているが、外部モールの販路は広げる方向にはなく、アプリなどを通じて自社ECの強化をさらに進める考えという。

同社では、1995 年に“エアマックス狩り”という現象が起きるほどスニーカーブームが爆発したものの、2000年手前にはブームが去ってスニーカーが売れなかった時代も経験しているため、今後の安定成長に向けてはスニーカーブームが続いているうちに次の一手を打ちたい意向で、「それには幅広いユーザーへの認知拡大が不可欠だ」(岡山暢祐Web/ECビジネス事業部部長)としており、ポイントアップキャンペーンなどマス受けする施策も検討しているほか、自社ECのコンテンツも充実させる。

現状、コンテンツ面では、一部の店舗販売員を“オフィシャルスタッフ”として打ち出し、商品のスタッフレビューやコーディネート提案を強化しているほか、ユーチューブでも注目スニーカーを紹介する「アトモスTV」を配信している。動画コンテンツは好評を得ていることから、現状の週1回程度から3回以上の更新を目指すとともに、幅広いユーザー向けの商品提案を増やしていく。

3月末以降には、自社通販サイト「アトモス公式通販」のリニューアルを計画。コアユーザー以外にも買いやすいサイトを目指す考えで、“パーソナライズ化”をキーワードに、「何を選んでいいか分からないユーザーに対してもスニーカー屋としてしっかりレコメンドしていく」(岡山部長)とする。MAツールも導入し、実店舗の情報も吸い上げて最適な提案につなげる。

また、リニューアルに伴い、プレミア商品のEC抽選会は従来の代引き決済からクレジットカード払いに改める。同社によると、EC当選者に商品が届くのはプレミア商品の発売後となるため、高額な値段がつかないと判断した商品の受け取りを拒否する当選者もいるようで、カード決済とすることで転売目的の購入を防ぐ狙いだ。

加えて、今回のサイト刷新では従来の大手ベンダーから小回りの利くベンダーに変更。これまで以上に各種施策を迅速に打てるようにし、自社ECの機動力を高める。

店舗との連携も強化へ

ポイント共通化も含め、実店舗と自社ECの連携も深める。2018 年5 月には、アトモス新宿店のリニューアルに合わせて、同店に通販サイトと連動した大型のデジタルサイネージを設置。店舗に置いてない商品も含め、自社ECの品ぞろえやスタイリングも確認でき、店頭スタッフが他の来店者を接客しているときにも自分で操作して楽しめるようにした。サイネージ上の商品ページにはQRコードも付いており、スマホで読み込んでEC購入もできる。今後は、「機能としてあるだけでは不十分で、実際に使用してもらうための施策も打っていきたい」(岡山部長)としている。

在庫連携についても、現状は実店舗が閉店してから翌朝に開店するまでの間、自社ECでは実店舗の在庫を引き当てられるようにし、夜間に売れた分は各店から一度、同社の倉庫に戻し、倉庫から購入者に発送している。ただ、この仕組みでは配送リードタイムが通常のネット販売よりも長くなるため、来期以降、夜間に売れた店舗在庫は、購入者の自宅に近い店舗から直接発送できる仕組みを構築する考え。

なお、同社は今期(2019 年8 月期)もEC売上高は2ケタ増を計画。自社ECを中心に順調に推移しているが、今後は写真撮影などのEC付帯業務は外部委託を増やし、企画立案や顧客分析に力を注いで自社ECの一段強化を図っていく。

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