メルカリで売る価値を上げる 山本真人●メルペイ 執行役員VP of Business Development

個人間取引アプリを運営するメルカリ子会社のメルペイが2月、キャッシュレス決済サービス「メルペイ」を開始した。メルペイに対応する加盟店は、月間1200万人のアクティブユーザーの年間合計売上金5000億円の流入を期待できるという。将来的には、ネット販売事業者の商品データと連携してワンタップで出品機能を実装し、ユーザーの出品の手間を軽減し、ブランドとユーザーの接点を増やすことも構想する。とは言え、キャッシュレス決済は参入企業が多く市場の拡大とともに競争激化も予想される。山本執行役員が語るメルペイの強みと拡大戦略とは。

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「メルペイ」で新しい“財布”とつながる

ユーザーは簡単に始められる

――メルペイの特徴を教えてください。

個人間取引アプリ「メルカリ」を使っているお客様が、同じサービスの中で使えることが特徴です。新しいアプリをダウンロードしたり、アカウントを作らなくても簡単に始めることができます。つまり、すでにメルカリを使っていて、売上金を持っている人がそのまま多くの店で使えるようになっています。メルペイを導入したことで、ユーザーにはよりアクティブにメルカリを使ってもらえるようになることも、メルペイを始めた狙いの1つでもあります。

「メルカリ」を月に1回以上利用するアクティブなお客様は1200万人を超え、年間の合計売上金額は5000億円となります。この5000億円は、ユーザーにとって不用品を売って得たお金となりますので、臨時収入となるわけです。給料など普段とは違った使い方が期待できます。例えば、新しい商品やワンランク高額な商品を購入するきっかけになり、加盟店にとっては客単価の上昇につながると考えています。

――加盟店の状況は。

まずは、三井住友カードと連携して非接触決済サービス「iD」を導入しました。3月からコード決済に対応し、あわせて135万か所で使えるようになります。年内に200万カ所に増やしたいと考えています。

ただ、今後については、まだ誰も読めません。多くの決済事業者が全力で拡大していますし、政府がキャッシュレス決済を推進していいます。ですので、キャッシュレス決済比率は現状でも顕著に伸びていますが、今後もさらに高まることは間違いありません。

今までとは違う“財布”で売上拡大へ

――加盟店のメルペイの評価は。

加盟店からは大変好評です。これまでに他社で決済サービスを手掛けていた経験がありますが、ここまで加盟店に喜んでもらえるサービスはありませんでした。

その理由の1つは利用率が低廉であることです。手数料は1.5%で、この先も変える予定はありません。現金での決済であれば手数料は発生しないわけですから、加盟店にとってはこれまでの決済サービス導入の負担は大きかったわけですね。

もう1つが、メルペイを入れないと入ってこない、年間5000億円の売上金があることです。今まで決済を増やしても、ユーザーの“財布”は変わらないので売り上げが増えるイメージを持つことは難しかったわけです。メルペイは今までの“財布”とは全く異なる原資が流入するので、加盟店の理解が進んだのだと思います。

――競合サービスとの差別化策は。

特徴としてお話しましたが、簡単に使い始めることができる点です。日常的に使っているメルカリのアプリで簡単に利用できるようにしていますし、メルカリの売上金を保有していればクレジットカードや銀行口座の登録や入金がなくても利用できます。

開発では、特に使いやすさやユーザー体験にはこだわりました。実際にタップ数を少なくし、入力する項目もできるだけ減らしました。慣れてしまえば簡単にできることであっても、慣れる前の最初が煩雑であれば、ユーザーは使い始めてくれません。最もハードルが高い最初の手間をいかに簡単にして使いやすくするかを考えました。

――立ち上がりのユーザーの利用状況は。

使い勝手の良さが証明されたのだと思いますが、ユーザーの継続利用率が高いと感じています。売上金を使えることで、最初の高いハードルとなる入金の手間をなくすことができたのは大きいと評価しています。

決済は購入時の主役ではない

――ユーザーが利用する動機を教えてください。他の決済ではよくある利用に応じたポイント還元施策は導入していません。

メルカリで販売して得た売上金をメルカリ以外の場所で使いたいというユーザーのニーズが、メルペイを使う動機になると考えています。

キャンペーン施策は今後検討していきます。ただ、メルペイが考えているのは、購入時の主役は決済ではなく、あくまで商品・サービスであることです。決済があるから使うのではなく、ユーザーにとって欲しい商品・サービスがあって、それを手間なく簡単に購入できるようにすることが決済の果たすべき役割だと考えています。
また、手持ちのお金がないユーザーにとっては、不要なものをメルカリで売って得た売上金で購入できるようになります。本来欲しかったものを購入しやすくするといった、購入のドライバーとしての位置付けもあります。

――スタート時においては利用に応じたポイント還元がありませんが、その理由は。

加盟店から見たときの負担がより少なることを考えたためです。利用金額に応じてポイントを還元すると、その原資を誰かが負担しなければなりません。一般的に加盟店が支払う手数料をポイント原資に充てているのですが、加盟店の負担が大きくなるのは避けたいと考えました。ユーザーにとってメルカリの売上金を使うという別の目的を作ることで、加盟店の負担をなくしました。

通販サイトへの対応に向け開発中

――現状、リアル店舗で使える場所が増えていますが、通販サイトへの対応は。

現在、通販サイトでも導入できるように開発をしています。通販サイトでどのように利用できるようになるかは、今はまだ言える段階ではありません。

――加盟店の拡大によって、今後導入を検討する通販事業者が得られるメリットは。

加盟店が導入すべき決済手段を考えたときに、より頻度高く多く使ってもらえるサービスを選ぶことが適切です。リアル店舗で決済するケースが多いと思いますが、ユーザーはリアルで多く使い慣れることで、ネットでも利用されるようになると思います。

キャッシュレス決済で一次流通はもっと売れる

購入商品をワンタップ出品できる世界へ

――将来的には、メルペイを使ってECで購入した商品を、メルカリでワンタップで出品できることも考えていると発表がありました。どのようなイメージですか。

そこまでの世界を作りたいという構想です。商品を購入することで、売ることをさらに便利にしたいと考えています。実現の際にはデータ連携が課題になりそですが、通販事業者は商品データをデジタルデータとして保有し管理していますよね。そういったことから、リアル店舗よりも通販事業者とは実現しやすいのかなと思っています。

――二次流通が一次流通の販売機会損失になるという考え方もありそうです。

これまで、ユーザーがどこかで購入したものをメルカリで売ってもらってメルカリは成長を果たしてきました。その意味では、一次流通とは共存するサービスと考えています。二次流通があることで、多くの人が多くの商品に触れる機会が増えていくと考えています。二次流通で初めてブランドに触れて気に入れば、一次流通で購入するでしょう。メルペイによってメルカリで商品がもっと売れるようになり、一次流通にとってはファンが増えることをブランドがしっかりと体験できるようにしたいと思います。

―― データ連携をした通販事業者はどういったメリットを得られるのでしょうか。

ユーザーの購入頻度が上がり、売り上げ拡大に貢献できると考えています。ユーザーがメルカリでの販売状況を見たうえで購入を決定しているという調査結果があります。データ連携によってしっかりとデータで示せるようにすることで体験してもらえるでしょう。

メルカリのユーザー数を超えて利用されるようになりたい

――メルカリには月間1200万人のアクティブユーザーがいます。今後の利用率の目標は。

メルカリのユーザー数を超えて利用されるようになりたいと考えています。最初はメルカリで売上金額を持っている人から普及することになると予想していますが、使い勝手の良さを強みに、より多くのユーザーに、高い頻度で利用されることを目指していきます。頻度は年代やライフスタイルによっても異なると思いますが、運営しながら頻度を1つの評価軸として見ていきたいと思います。

――利用者を増やす中で、これから銀行口座との連携促進が課題になりそうです。

まず、ユーザーにどのように使い始めてもらえるかが大きな課題になるでしょう。一度使い始めてもらえれば、ユーザーはもっと使いたいと考えます。最初はメルカリで販売して売上金を増やすようになると思いますが、スムーズに使いたいとなれば、自然に銀行口座を連携するようになると予想しています。銀行口座と連携したユーザーは銀行からのチャージ分と、メルカリでの販売による売上金の双方を使うようになると思います。

――メルペイではメルカリのデータをどのように活用していくのでしょうか。

1つは、加盟店開拓ですでにメルカリのデータを活用しています。もう1つは、蓄積しているユーザーデータを活用したサービスの強化を予定しています。

――加盟店開拓については。

個人を特定しない統計データとして、メルカリを使う人が多いエリアや、売上金を持っているユーザーが多いエリアを特定し加盟店開拓に活用しています。将来的には、メルペイのデータと加盟店が連携して、クーポンの配信などマーケティングにも活用することも視野に入れています。

――ユーザーデータを活用したサービス強化とは。

メルカリの取引で信用を得ている人は、より多くのサービスを利用できるようにすることをイメージしていただきたいですね。

メルカリは個人間取引で、メッセージのやりとりをしたり包装したものを送付したりしています。買い手と売り手のそうした取引の実績を、メルペイとうまく連携させることで、加盟店とユーザーの取引の信頼性や安全性がより高まると予想しています。サービス面では、現状展開している後払い決済「月イチ払い」を「メルペイあと払い」として、リアル店舗でも利用できるように進めています。

――政府は、コード決済の統一規格化を進めています。今後のコード決済市場はどのようになるのでしょうか。

コード決済の普及に向けて、行政と民間企業がそれぞれの役割を果たしていかなければならないと思います。重要なのは、どう統一するかではありません。行政が旗を振るだけではなく、加盟店が導入しやすいこと、ユーザーが選びやすいことを重視して規格化することが、コード決済の今後の普及に重要なポイントだと思っています。

プロフィール

山本真人(やまもと・まさと)氏 2004 年東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。NTTドコモを経て、2008年よりGoogle JapanのEnterprise部門Head of Partner Salesを務める。2014年にはSquare JapanにてHead of BusinessDevelopment and Sales、2016年からはApple JapanにてApple Pay 加盟店事業統括責任者を務める。2018年4月より現職。

取材後メモ

メルカリが子会社を通じてキャッシュレス決済に参入しました。市場ではネット系各社で大型のキャンペーンが実施されるなど盛り上がっています。メルペイは後発ですが、ポイント還元施策は今のところなく、利用促進のキャンペーンは現在検討中と控えめな印象があります。

それでも山本執行役員は「メルカリの売上金があることが、利用の動機になる」と自信を見せます。メルペイを通じてメルカリで売った売上金を多くの場所で使えることがメルカリの価値を上げ、より多くのユーザーが多くのブランドに触れる機会を増やすことにつながると言います。

今後、メルペイはネット決済にも対応する予定で、通販事業者は導入を検討する可能性もありそうです。ユーザーだけでなく加盟店にとっても利便性の高い決済サービスに進化することを期待しています。

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