EC強化で顧客を純増させる
ベルーナでは、2025年3月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画において、売上高2610億円、営業利益226億円を目指している。デフレマインドの継続や、コロナ禍による“巣ごもり需要”の減退、原材料・資材の高騰などを受け、当初の計画を下方修正したものだ。目標達成のカギとなるのはネット販売の成長。安野清社長は「ネットはカタログよりも経費がコントロールしやすい。『紙媒体よりも売上を伸ばすのは簡単』という気持ちで臨みたい」と意気軒昂に語る。同社のECを中心とした成長戦略は。
紙の顧客を移行させるのではなくネットで40~50代新規を開拓する
ECへの移行で媒体費率下げる
─2022年3月期を振り返って。
連結では増収減益となったわけですが、「巣ごもり需要」で21年3月期の業績が良すぎたところがあります。21年4月までは巣ごもりの影響があり、アクセルを踏み込もうと思っていましたが、5月から急速に需要が減退しました。事業別では、アパレル・雑貨事業が減収となったほか、化粧品のオージオはアフィリエイト広告の規制が厳しくなったこと、店鋪卸展開をしている台湾でコロナ禍の影響を受けたことで伸び悩みました。
─通販事業の稼働顧客数は、21年3月期は大幅増となりましたが、22年3月期は微減でした。
コロナ特需以前と比較した場合、新規顧客の定着率自体は悪くありません。ただ、巣ごもり需要時のレスポンス率が異常に良かった。新規・既存顧客ともに、レスポンス率はコロナ前に戻ったというイメージです。今後はネット販売へとシフトできるかが課題となります。もともとは紙が100%だったものが、アパレル・雑貨事業ではEC化率が20%まで来ています。これをいかに30%、40%に増やしていくか。ECへと移行することで、媒体費率を下げていきたい。そのためには商品力、メンバーのスキル、マーケティング力をいかにブラッシュアップするかということになります。
─カタログの発行部数を減らして利益につなげるということですか。
それが時代の流れだと思っています。用紙代などのコストもどんどん上がっているのが実情です。ただ、これまで『ベルーナネット』では60~70代向け商品をメインに販売してきたので、30~40代が中心のEC市場にフィットしていない面があります。MDもそうですが、商品の見せ方もネットに寄せていかなければいけません。
─60~70代向けは引き続き紙メインで行くということですか。
主力の「ベルーナ」や「ルフラン」は60~70代向けなので、ECを頑張っても効率が良くありません。紙の顧客をネットに移行させるのではなく、60~70代の顧客は維持しながら、ネットで40~50代の新規顧客を開拓するという方向性です。最近はユーチューブなどSNSでの販促も重要になっているので、強化していきたいですね。当社においても、化粧品のオージオや、ナース向け通販のナースリーなどは、ネット向けに売れる商品をいかに作るか、ということができるようになり、ネットファーストになってきたので、アパレルに関しても「ジーラ」や「ラナン」のECを伸ばしていきます。
─かつては、総合通販各社がカタログ通販を縮小する中で、残存者利益を取りに行きたいと言っていたこともありました。
マーケットは空いていると思っていましたが、そういう感じは全くありません。レスポンス率からみると、需要がないということなのでしょう。当社の紙媒体を使った通販もいずれ先細りになるのでしょうが、当社の特徴は柱をたくさん作る「ポートフォリオ経営」。これをしっかりとブラッシュアップしていきたいですね。
─「ジーラ」は22年春、カタログを廃止してEC専門ブランドとなりました。
ジーラのほか、レディースアパレルのセレクト、大きめサイズアパレルのミンなど、EC専門のブランドは増やしており、育成に力を入れています。ジーラに関しては、カタログの廃止に伴い一時的に売り上げは落ちていますが、「ゾゾタウン」では急激に売り上げが伸びており、実力は上がっています。EC専門としたことで、商品企画の進め方や情報収集方法が全く変わり、ベンダーも大幅に入れ替わっています。結果的に、タイムリーな新商品を毎月投入できるようになっており、その商品が売れなければ、値下げをしたり、企画の見直しにつなげたりしています。ネットの世界に合わせたMDができるようになってきました。一巡すれば売り上げもプラスに転じるのではないでしょうか。
─60~70代向けアパレルブランドに関しては。
引き続き、紙媒体を中心に事業を展開していきます。現在、アパレル・雑貨事業のうち、60~70代向けの売り上げは60~70%を占めています。ECを強化することで、それよりも下の年齢層で新規顧客を開拓していきます。EC売り上げが倍増すれば、60~70代向けの売上シェアを50%程度まで下げることができます。例えば、ワイン通販の場合、以前はEC比率が20%もありませんでした。現在はECが急激に伸びたことで比率が50%を超え、ワイン通販自体の売り上げも大きく増えています。紙からECに移行させるのではなく、ECで顧客を純増させないと駄目でしょう。
─20~30代女性向けファッションECモール「リュリュモール」を、オフィスでのファッションに特化した衣料品などを販売するサイトへと変更しました。
「楽天市場」や「ショップリスト」をベンチマークしていたのですが、価格競争激化で恒常的にセールを開催する形となってしまい、販促費がかさんでしまいました。品番数を増やせば集客の効率が上がると思っていましたが、実際には似たような商品を同じ価格で販売する形となってしまい差別化ができず、競合より規模が小さいために採算が合わなくなりました。そこで、リュリュモールならではの特徴を出し、モールの集客効率を上げることで質の高い集客を行い、採算を取れる形にするため、専門モールを目指すことにしました。これまでは、安くて売れているものを前面に出していましたが、今後は「こういう働き方の人はこんなコーディネートがおしゃれに見える」など、他の仮想モールにはない「コーデの提案」をしていきます。
─出店者の反応は。
想定していたよりも退店者は少なかった。仕事着を探している人が商品を探しやすいモールにしていきたいですね。
─SNS活用については。
「ジーラ」や「ラナン」でインスタグラムの本格展開を22年夏から始めました。子会社のセレクトは先行して取り組んでおり、セレクトの成功事例は社内で共有していきます。ただ、インスタグラム以外に関しては、まだまだ知見が足りていないので、ユーチューブ、ツイッターも積極的に活用する形を検討しています。また、動画コマースにも取り組みたいと考えており、インスタライブを始めました。顧客との距離を縮めて一緒に盛り上がるというのがSNSの本質。顧客に「応援団」になってもらうという意識で、本腰を入れて取り組みたいですね。そのためにスタジオ付きのオフィスも新設しました。
─その他、ECにおける取り組みは。
従来の「単品勝負」「価格勝負」から戦い方を変えました。具体的には、セール依存で値引きをしないと集客できないという構造を変革しました。セール中はカタログに掲載されている商品がネットでは安く売られているわけで、カタログの顧客をECに誘導しても全体の利益には貢献できません。そうではなく、「ベルーナの商品が欲しくてサイトに来る人」をどう増やすか。ラナンやジーラ、それぞれのブランドの強みや特徴を打ち出し、そこに合致した顧客を連れてくるようにしたい。例えば、ブランドごとにトップページを作り、商品を選べるようにしました。ラナンやジーラのテイストを消費者に認識してもらいたい。ベルーナネット全体をごちゃ混ぜにして見るのではなく、各ブランドのページに来てもらい、商品を選んでもらう形を目指しています。
─販促手法については。
メールマガジンは60~70代向けなので、30~40代が使っているLINEや当社の買い物アプリでの販促をどう強化するかも課題です。また、EC専用商品にも注力しており、来期はかなり増える予定です。これまで商品企画側も紙をメインに考えていましたが、EC比率が高い部門に関しては、EC専用商品をきちんと投入していく、という考え方に変わってきました。来期、EC専用商品でどれだけ売り上げが増やせるかが勝負なので、通販サイトや集客方法をブラッシュアップしています。
─アパレル・雑貨事業における22年3月期のEC売上高は。
リュリュモールも込みで、前期比9%減の180億円。今期はセールを抑制しつつ、横ばいか微増を見込んでおり、来期から増やしていきたいですね。
「災い転じて福となす」という考え方が大事だ
「ベルーナドーム」に効果
──減収となった化粧品通販のオージオに関しては。
海外では、店舗への卸を行っている台湾において、コロナ禍の影響を受けたことが大きい。日本においては、アフィリエイト広告の規制が厳しくなったことで減収となりました。アフィリエイトに頼れないので、他でどうカバーするか、試行錯誤しています。今期は横ばいから上昇に向かう糸口をつかみたいですね。
─アフィリエイト以外の手法とは。
テレビCMのほか、新聞広告、アフィリエイト以外のネット広告を強化しています。今期投入する媒体費に関しては、前期の7~8割というところですが、何とか売り上げの下落を食い止めたい。ただ、アフィリエイトほど効率の良い広告が見当たらないので、今後はドラッグストアなどに向けた卸販売に力を入れたいと思っています。知名度を上げるために、タレントの玉木宏さんを起用したCMの放映を始めました。CMでブランディングを強化し、通販におけるレスポンス率を高め、卸販売の基盤を作る。ただ、まだ中途半端なので、しっかりと展開していきたいですね。
─グルメ事業は好調です。
今期も10%前後の増収を見込んでいます。おせち料理を筆頭に、頒布会や単品グルメ、ワイン、日本酒、ギフト関連と軒並み好調に推移しています。ただ、原材料価格高騰の影響もあり、価格にどう転嫁していくか、試行錯誤しています。セット販売時の本数を減らすなど、値上げを感じさせないような工夫をしています。営業利益に関してはほぼ横ばい、もしくはやや減益となりそうです。今後は利益重視で事業を運営していきたいですね。ただ、どこの企業も値上げをしているわけで、逆に伸ばすチャンスだと思っています。
─今後のM&A戦略に関しては。
狙いどころとしては、1つは既存事業とのシナジーがある企業。もう1つは「これは面白いな」とわくわくするような事業をやっている企業。そして何より大事なのは、当社が買収して、その企業に魂を入れられるかどうか。当社の場合、これまでのM&Aはだいたい成功しています。
─プロ野球・埼玉西武ライオンズの本拠地である西武ドームのネーミングライツを取得し、「ベルーナドーム」が誕生しました。効果は。
採用に大きな効果がありました。プロ野球チームのスポンサーとなったことで、入社する際にも両親が「しっかりとした企業だ」と安心してくれるようです。また、ベルーナという会社の認知度向上、さらには社員のモチベーションアップにもつながっています。
─原材料価格・資材の高騰、円安など厳しい経営環境が続いています。
「災い転じて福となす」という考え方が大事です。災いの中から新しい発想を生んで、福にしていく。困ったときこそ焦らず、赤字にならないよう、基本に忠実にコツコツと事業を展開していきます
安野清(やすの・きよし)氏
1944年、埼玉県上尾市生まれ。埼玉総合職業訓練所を経て本田技研工業入社、23歳で印鑑の販売で起業。1968年、友華堂(現・株式会社ベルーナ)創業、1994年、店頭公開。2022年3月期売上高2201.2億円の総合通販No.1企業に育てる。2018年、モルディブに日本人で初めてホテルを開業。現在、日本アイスランド協会会長。趣味は温泉巡りとゴルフ。
◇ 取材後メモ
これまで紙媒体を中心に事業を展開してきた総合通販企業は、「既存顧客の注文ツールを紙からネットへ移行させる」ことに腐心してきました。ただ、それでは顧客数が増えず、いずれは先細りとなります。こうした状況を受けて、ベルーナでも本腰を入れてネットでの新規開拓に乗り出したわけです。すでにワイン事業などではEC強化に成功しています。同社の強みの1つは、「リュリュモール」の方針転換にも見られる機動性の高さ。アパレル・雑貨事業のEC強化に関しても、こうした強みが遺憾なく発揮されることでしょう。