松村亮●楽天グループ常務執行役員

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積極投資でもっと魅力的な楽天市場に

 楽天グループが運営する仮想モール「楽天市場」の流通が好調だ。2023年第3四半期(7~9月)の国内EC流通総額は、前年同期比15.7%増の1.6兆円に。「楽天スーパーセール」や「お買い物マラソン」といった大型セールの流通総額増が成長に寄与している。生成AIなど新技術への対応も迫られる中で、松村亮常務執行役員コマース&マーケティングカンパニーシニアヴァイスプレジデントが2024年における楽天市場の成長戦略について語った。

ライトユーザーをロイヤルユーザーに育てていきたい

SPU変更でヘビーユーザー増

─「楽天ポイント」付与に関して、携帯電話サービス「楽天モバイル」利用者の優遇に舵を切りました。

 2023年12月、楽天経済圏におけるマーケティングの方法をアップデートしました。従来は、ちょっと乱暴にいえば楽天市場と楽天カードが両輪となり、経済圏全体を成長させてきたわけで、特に両サービスを使っているユーザーがロイヤルユーザーと位置づけられていました。ポイントアッププログラム『SPU』変更を受けて、楽天カードユーザーが引き続き楽天市場で大きなシナジーを作っていくことに変わりはないが、それ以上に楽天モバイルユーザーに大きなベネフィットを還元するという形となり、市場・カード・モバイルの3サービスの共同マーケティングを加速していきます。

─SPUの変更は12月の「楽天スーパーセール」へどんな影響を与えましたか。

 1人あたりの購入額をみると、楽天カードのみのユーザーは、カード・モバイルどちらもないユーザーと比較して+30.9%、楽天モバイルのみのユーザーは同+31.6%、どちらもありのユーザー同+91.1%でした。

─ただ、カードとモバイル保有者の購入額が多いのは、SPUA改変以前から傾向として変わらないのでは。

 増加率が増えたというよりは、ヘビーユーザーの母数が増えたということ。もともと、経済圏におけるヘビーユーザーがカード・モバイル双方を所持していたのは事実。ただ、今回の改変でカードだけ所持していたユーザーがモバイルを使うようになり、モバイルを使っていても楽天市場で買い物をしていなかった人が買い物をするようになったわけです。

─高い商品を買うとポイント上限に達しやすくなったので、セール時に複数店舗で購入することでポイント倍率が上昇する「買い回り」が減るのでは、と懸念する店舗もありました。

 どちらかというと、買い回りイベントはSPUとは別に計算されるボーナスポイント(編注:スーパーセールなら最大+9倍で最大7000ポイント)を目当てにするユーザーが多いので、そこまで買い回り店数への影響は出ていないですね。ただ、スーパーヘビーユーザーがポイント上限にかかりやすくなったのは事実なので、そういった人たちの支出がやや鈍化するという傾向はありました。一方で、そういった人たちがもらえなくなったポイントが、ライトユーザー寄りの人たちに還元されることになったわけです。トータルとしては、狙っていた循環が起こせていると思います。

─買い回りイベントに関しても、付与上限ポイントを変更するといった実験を行っています。

 イベントの開催頻度を増やしたり、顧客ロイヤリティー別に最大倍率設定を設定したり、特定ジャンルごとのポイントアップを行ったりすることで、ライトユーザーをロイヤルユーザーに育てていく仕組みを導入したい。買い回りの仕組み自体はものすごく強いものですが、それにあぐらをかかず進化させていくつもりです。

─ライトユーザーをロイヤルユーザーに育てていくための取り組みについて。

 これは今期の注力ポイントです。当たり前のことかもしれませんが、楽天市場の価値をもう一度伝えていきたい。楽天市場の魅力的なポイントを訴求した動画や記事を作り、ユーチューブやインスタグラムなどで発信していきます。

─アマゾンなどの競合で買い物をしているユーザーを取り込むための施策を、具体的に教えてください。

 まず、楽天市場を認知してもらい、買い物をしてもらうのが第1段階。これは楽天市場に来たユーザーにだけプロモーションをしても仕方がないので、外部にいる潜在的なユーザー向けにプロモーションしていきます。楽天市場で買い物したユーザーをヘビーユーザーにしていくという第2段階については、「育成ドライバー」と位置づけるイベントに参加してもらうようにします。その典型が「スーパーセール」や「お買い物マラソン」といった買い回りイベントです。「こんなにポイントが貯まるんだ」ということを一度体験してもらえれば、ヘビーユーザーになってくれる可能性が高い。そういったドライバーをユーザーに体験してもらうために、こちらから主体的に仕掛けていきます。

─具体的にどんな動画や記事を配信するのでしょうか。

 まさに企画しているところです。24年のなるべく早いタイミングから仕掛けていきます。

─ターゲットとなる年齢層はありますか。

 楽天市場は30~40代女性が強いので、そこで取りこぼしている人たちを取り込んでいくとともに、男性や若年層も取っていくという両面作戦ですね。ウェブの動画はさまざまなものが作れますから、ターゲティングもしやすいので。

7月から「最強配送」開始

─23年はSKU対応による商品管理への移行を進めました。

 95%以上の店舗がSKUへ移行完了しました。結果として、SKUへの対応がユーザーの「商品の見つけやすさ」につながっており、楽天市場内商品検索におけるクリック率は、バリエーションラベルや単価を表示した検索結果のほうが、表示しない検索結果の2倍以上となっており、SKUへの移行は結果として良かったと思っています。

─定期購入の仕組みについても全面的に刷新します。

 今も定期購入の仕組み自体はありますが、ユーザーとしても店舗としても非常に使いづらい感じになってしまっているので、全面的に作り直す予定です。通常の販売商品と定期販売商品を1ページで表示し、ユーザーが商品の購入方法を選択しやすいUIとします。また、定期購入固定費として店舗から徴収していた月額5000円を廃止、売り上げに応じたシステム利用料のみとします。また、ユーザー向け改変としては、通常購入価格より5%以上安価にするほか、SPU対象としたり、3店舗利用でポイント5倍にしたりします。「定期購入」という楽天市場における買い方の一つとして育てていきます。

─出店者向けのクーポンサービス「ラ・クーポン」を24年4月から有料化します。

 ラ・クーポンの開始以降、店舗のクーポン利用料を無料とするキャンペーンが続いていましたが、これを終了し、有料化することでユーザーのクーポン獲得体験をもっと良くしていこうと思っています。具体的には、ターゲティングの精度を高めることで、マーケティングの効率化を図ります。クーポンが無くても買うユーザーには発行せず、クーポンの有無で購買を決めるユーザーには200円割引クーポンを発行、割引額が大きいクーポンがあれば買うユーザーには500円割引クーポンを発行といったように、クーポンによるユーザーの購買動向を分析し、効率的に値引き原資を振り分けるといったことが考えられます。

─広告関連については。

 楽天市場内検索に連動した広告「RPP」に関して、従前は全ユーザー同じ入札単価だったのですが、購入確率の高い高ランクユーザーの入札単価を自動的に上げ、購入確率の低い低ランクユーザーは下げる機能を導入し、より効率的に運用できるようにします。また、楽天市場外での顧客獲得ニーズも高まっているので、昨年から機能を拡充しています。「TDAExpansion」では、楽天のセグメントやMetaのセグメントを設定して配信可能にするほか、Google検索結果上部に表示できるショッピング広告メニュー「RPPExpansion」では、プロモーションメニューから簡単に配信設定が可能となります。楽天の広告プロダクトを使ってもらうと、楽天市場のユーザーはもちろん、周辺のユーザーも連れてくることができる形を作っています。

─物流関連の取り組みについて。

 「共通の送料込みライン」に関しては、95%以上の店舗が導入し、導入店舗の流通成長は未導入店舗を大きく上回っています。また、2023年6月には「最短お届け可能日表示機能」を導入、最短いつ届くのか明確に表示することで、購買転換率が9%改善しています。ここから先は、それに加えて配送までのリードタイムを短くするとともに、必ずしも早く届けることを望まないユーザーに対しては、「自宅にいるときにきちん届ける」ために「急がない便(仮称)」の導入を実現していきます。

─リードタイム短縮については、配送品質が高い商品を優遇する仕組みとして、基準を満たした商品にラベルを付与する仕組み「配送品質向上制度」を導入します。

 7月からのスタートで、名前を「最強配送」とします。楽天モバイルの「最強プラン」に合わせたというわけでもないのですが、スピード配送だけではなく、一人ひとりにあわせたベストな受け取り選択肢を提供できる商品にラベルを付与します。

─物流代行サービス「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」の機能拡充について。

 今まではどちらかというと画一的なサービスだったので、「こういったオペレーションに対応してもらえないと使えない」という店舗もあったのですが、そういった要望の中でもニーズが大きいものについては、少しずつサービスメニューに加えている状況です。RSL利用店舗の成長率は高く、ショップ・オブ・ザ・イヤー受賞店舗の中でも利用店舗はかなり多くなっています。

生成AIの活用で店舗運営のオペレーションを大幅改善

─1月25日の「新春カンファレンス」における三木谷社長の講演では、AI(人工知能)を使った店舗支援サービスの導入が発表されました。

 今までもAIは活用してきたわけですが、昨今は大規模言語モデルや生成AIが大きな進化を遂げているわけで、それをきちんと楽天市場でも使っていきます。「店舗運営効率の向上」としてはオペレーションの最適化、マーケティングの効率化、コンサルティングの質の向上を目指します。一方で「顧客体験の向上」としては、セマンティック検索の導入、レコメンド商品の精度向上、商品レビューの要約による情報提供、ユーザーターゲティングの精度向上、対話型ショッピングといったものが挙げられます。

─セマンティック検索とはどういったものですか。

 今までの検索はキーワードが含まれた商品を表示するというものですが、セマンティック検索の場合、ユーザーが検索をした際に、AIが自然言語処理をして「この文章はどういう意味合いか」を解釈し、ユーザーのイメージに沿った商品を表示するというものです。ファッションのプラットフォームでは先行して導入しており、商品転換率が2.7%向上したことから、楽天市場全体にも導入する予定です。

─AIなど、インフラへの投資を積極的に続けています。

 2019年から2023年の5年間で、楽天市場における各種インフラコストの合算推移は約1.6倍に拡大しました。ここへの投資を止めると楽天市場の進化は止まってしまうので、引き続き積極的に投資を続けていきます。そのため、全出店プランにおいて、月額出店料部分の値上げをお願いすることになりました。物価高の影響もあってシステムコストが増大しており、ここからAIなどにも投資を続けていかなければいけない。もちろん、大半は楽天が負担するわけですが、その一部を協力してもらえればと思っています。システムへの投資を続けていくことで魅力的な楽天市場を継続して作っていけると思っていますし、結果的に店舗のためになると信じています。


松村 亮(まつむら・りょう)氏

慶應義塾大学卒、ロンドン大学修士。外資系 IT 企業のエンジニア、外資系戦略コンサルの東京、 ロンドンオフィスを経て、2013 年8月に楽天入社。社長室を経て、2017 年に執行役員に着任。 2022 年4月に上級執行役員兼マーケットプレイス事業デピュティヴァイスプレジデントに就任。 2023 年4月から現職。



◇ 取材後メモ

 「楽天モバイル」が耳目を集めがちな楽天ですが、楽天市場に関しては引き続き流通額が好調に推移しています。ただ、生成AIに代表されるように、技術の進展スピードは凄まじい業界。三木谷社長も「(生成AIは)インターネット以上の大きな革命ではないか」と語るように、ECは大きな変革を迎える時期に来ているようです。とはいえ、経費増に苦しむ中での出店料値上げが、出店者にとって相当な負担になるのは想像に難くありません。「配送品質向上制度」への対応といった重荷もあるわけで、楽天は値上げ額以上のベネフィットを店舗に提供する必要があり

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