田中裕輔●ジェイドグループ代表取締役社長

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マガシーク買収で“圧倒的2位”へ

 ジェイドグループ(旧ロコンド)は、3月上旬までに約33億円を投じてNTTドコモと伊藤忠商事からマガシークの全株式のうち78%を取得して子会社化した。これにより、ジェイドグループの取扱高は約300億円から600億円規模に倍増。2018年に掲げたファッションEC専業モールでの“圧倒的な2位”のポジションを得るとともに、ドコモおよび伊藤忠と業務提携関係を開始したことで、集客面と品ぞろえで強力なバックアップ体制を構築した。田中裕輔社長が語るM&Aの背景や今後の展開とは。

1位を目指すための完璧なパートナーシップ

過去の相互出店は失敗に

─33億円強を投じてマガシークを買収しました。

 これまでのM&Aは3~5億円規模の案件が多かったので、過去最高額なのはもちろん、ケタが違います。リーボックの日本における販売権・ライセンスを取得した金額は開示していませんが、それよりも大きいです。

─ファッションEC専業モールで競合だったマガシークを買収したことは意義深いですね。

 それは間違いありません。規模に関しても、競合が乱立している中で、以前から発信しているように、「圧倒的な2位」にならないと継続的な成長は非常に難しいと思っていました。マガシークのECモール事業は厳しい状況にありましたし、当社も順風満帆とは言えなかったので、規模の観点からも非常に意義深いことだと思います。

 さらに、マガシークが最大化できなかった、NTTドコモさん、伊藤忠商事さんとのパートナーシップについても、当社が参画することで圧倒的な2位に満足することなく、1位を目指すための完璧なパートナーシップです。

─完璧なパートナーシップとは。

 マガシークは、主に「マガシーク」サイトと、ドコモさんの「dfashion」を運営するECモール事業と、ブランドの自社EC構築運営事業のふたつが主力です。ECモール事業ではドコモさんから集客面で力強い支援を得ています。一方のブランド自社EC構築では、「FILA」や「レリアン」「レスポートサック」など伊藤忠さんが国内ライセンスを取得したり、子会社として運営したりしているブランドと同じグループとして対話ができるという利点があります。つまり、日本最大級の携帯電話会社が集客を、日本のファッション業界をけん引する総合商社が品ぞろえを支援するという、ECモール事業にとってこれ以上ないバックアップ体制となります。

─マガシークとは18年に業務提携し、在庫連携の形で「ロコンド」と「マガシーク」の相互出店を試しました。

 ちょうどファッションECにおける「圧倒的な2位」を目指すと発表した時期でしたが、「ゾゾタウン」との差は開く一方で、同じく2位争いをしていたマガシークと業務提携しました。ただ、当時はさまざまな制約があって提携したものの、うまくいきませんでした。具体的には、相互出店といっても在庫共有するのは倉庫在庫だけで、予約商品や取り寄せ品は対象外でしたし、タイムセールやクーポンなどの相互プロモーションは実施しませんでした。また、ユーザーが「ロコンド」と「マガシーク」の商品を同時に購入することもできませんでした。

 “フットインザドア”の形で第一歩は踏み出せたものの、そこからあまり進展がありませんでした。結局、中途半端な業務提携ではダメで、グループとして統合しなければ意味がないと感じました。

─その後、ゾゾは19年11月に当時のヤフーと資本業務提携して同社の連結子会社となり、ソフトバンクグループ入りしました。

 ゾゾさんがソフトバンクさんと組んだので、正直に言って当社は完全独立でどこまでいけるのか悶々としていた時期もありましたが、そういう悩みはなるべく顔に出さずにユーチューブチャンネルでのコラボやプロモーションを強化したりしていました(笑)。ただ、完全独立型で勝ち残る難しさも感じていたので、今回、共同パートナーという形になりますが、ドコモさん、伊藤忠さんと組めたのは非常に良かったですね。。

物流・ITインフラを統合へ

─これまで、さまざまファッションECを買収してきましたが、マガシークは規模もユーザー数も多いです。サイトは残していきますか。

 これまで通り、「マガシーク」サイトとして運営するつもりです。19年に「モバコレ」を買収したときは、会員もサイトも「ロコンド」に吸収しましたが、サイトが違うことで離脱する顧客が出てしまったのは反省点です。そこで、20年以降に買収した「ファッションウォーカー」や「スポーツウェブショッパーズ」「waja」、直近の「ブランデリ」とすべて残しています。

─「ロコンド」と「マガシーク」の品ぞろえについては。

 これまでのM&Aでもシステムと物流を統合してきました。「マガシーク」も同様で、システムと物流を統合して初めて品ぞろえの統一が図れます。同じファッションECであっても「ロコンド」と「マガシーク」が取り扱う商品の重複率は3割前後と見ていて、両社の在庫データベースを共通化することで、どちらも品ぞろえを現状の1.7倍程度に広げられます。このシナジー効果は大きいと思います。

─物流・ITインフラの統合にかかる時間は。

 これまでのM&Aはそこまで大規模ではなかったので1カ月~3カ月で完了していましたが、今回は範囲も広いですし、「dfashion」はドコモさんのシステム規約の関係もあるので、1年かけてていねいに統合していくことになります。細かく言うと、ECモール事業の物流・ITの統合は半年後がメドになります。一方、ブランド自社EC構築の事業については各ブランドとのすり合わせなどに時間が必要なので、さらに半年くらいかかると思います。

─25年3月から新たに倉庫を借りると発表しました。

 マガシークの在庫を当社物流センターの「ロコポート」に移管することで、空いているスペースが埋まってしまいますので、今後の成長に向け、千葉県八千代市内の既存倉庫から歩いて2~3分の場所にある倉庫を借ります。「ロコポート」は延床面積が約11万5500m2で、新倉庫はその3分の1程度の約3万5500m2となります。

─「ロコンド」と「マガシーク」で品ぞろえが統一された後、両サイトはどこで差別化しますか。

 両サイトを無理に差別化しようとは思っていません。ただ、サイトによってユーザーが求めているものが違うので、例えば「ロコンド」では靴を前面に出しますし、「マガシーク」ではアパレルを前面に出します。靴は正方形の画像を使いますが、アパレルは縦長の画像を使うなど、主力の商品カテゴリーでUIも変わってきます。品ぞろえは統合して販売できる商品を大幅に増やしながら、見せ方は両サイトの特性に合わせます。

─マガシーク社の経営体制はどうなりますか。

 3月1日付で井上直也社長は取締役社長兼COOに、私は代表取締役会長兼CEOとなりました。マガシーク社は会社として残りますし、ジェイドグループのオフィスとは少し離れています。また、これまでのM&Aよりも規模が大きく、トップダウンで何でもできるかというと難しいと思いますので、井上社長ともよく話し合い、二人三脚で成長を目指そうということになりました。井上社長は24年くらい前に伊藤忠さんの社内ベンチャーとして「マガシーク」の事業を始めていて、ファッションのことも分かっていますし、伊藤忠さんとのパイプも太いです。

─「マガシーク」が苦戦している状況をどう見ていますか。

 「ゾゾタウン」と比べると、「ロコンド」は靴がメインのため少し市場が離れています。「マガシーク」は百貨店系ブランドに強く、「ゾゾタウン」とは中心顧客の年齢層が異なるものの、市場の近さが影響しているのではないでしょうか。「ゾゾタウン」の強さは、UIやテクノロジーというよりも、やはり品ぞろえの豊富さだと思います。そういう意味では、「マガシーク」が強い30~40代女性向けの品ぞろえを拡充することが大事で、ジェイドグループに入ったことで、その補完ができます。

─伊藤忠とはリーボックを共同運営しています。

 22年にリーボックの日本事業を継承し、当社66%、伊藤忠さん34%でRBKJ社を共同運営しています。伊藤忠さんは当初、半信半疑の気持ちで当社を見ていたと思いますが、RBKJ社の成功は大きく、一定の信頼を得られたと感じています。マガシークも成長させることで、もっと伊藤忠さんとのパイプを強固にしたいですね。

取扱高1000億円の達成がより具体的になった

M&Aで組織力も向上

─自社開発の物流・ITシステムには自信を持たれている。

 当社の物流とIT基盤は唯一無二の最高品質だと自負しています。多くのPMI(買収後の統合)を経験して物流とIT基盤をバージョンアップしてきましたが、実店舗も卸もECも展開しているリーボックのPMIによって、あらゆる事業に対応できる物流・ITインフラに磨き上げることができました。OMOのシステムとしても日本で一番進んでいると思います。

─これまで多くのM&Aを実施してきましたが、規模の拡大以外で得たことは。

 例えば、「マンゴ」の国内独占契約については、当社がブランドをM&Aすることで、他のブランドが離れてしまうといった懸念もありましたが、思っていたようなマイナス材料はなかったですし、ECモールのM&Aについては「モバコレ」のサイト統合で離脱を招いた反省を生かし、「ファッションウォーカー」以降は買収したサイトを継続する形で成長につなげています。

 最初のM&Aから5年くらいかけて、買収後に実施する物流とシステム統合のパッケージができたので、私がいなくても社内に蓄積された経験とノウハウで担当者がジェイドグループのインフラにリプレイスしていて、当社の武器になっています。

─M&Aに伴う人員増の部分は。

 人員の再配置で組織力を高めるのに役立てています。M&Aを実行したら1カ月以内に取得した企業の全社員と面談をし、スタッフごとのスキルや意向を正しく理解するように努め、それらを踏まえて新たなグループ組織図を設計します。例えば「モバコレ」をM&Aしたときは、商品担当者が多くなったので、各社員との面談結果を反映させ、出店ショップのサポート担当としてSAT(ショップアシスタントチーム)という部署を新設しました。

 従来は商品担当者が仕入れや分析、運営サポートも行っていたため、ショップへのサポートが手薄になっていました。この問題をSATの新設で解決しました。また、個人面談の中でショップの運営サポートがしたいという数人の意見を吸い上げることができ、いまもSATのリーダーや副リーダーはモバコレ出身者が務めています。企業によって強いスキルが異なるので、数多くのM&Aを実行し、ジェイドグループの組織力が高まったと感じています。

─今後は取扱高1000億円を目指します。

 ブランド事業では、リーボックはまだまだ伸びしろがあります。リーボックの国内事業を継承したときの実店舗は少なかったので、リアルを強化することで実店舗売り上げが伸びるだけでなく、ブランドの認知度を高められます。また、リーボック事業で卸や実店舗の運営ノウハウがグループに蓄積されたので、ほかのブランドをM&Aするというストーリーが描きやすくなりました。

 ECモール事業ではマガシークの買収で両社の品ぞろえを大幅に拡充することができますし、ブランド自社EC構築でも、伊藤忠さんとの協力関係も含めてまだまだ伸ばせますので、取扱高1000億円の達成はより具体的になってきました。


松田中裕輔(たなか・ゆうすけ)氏

大阪府生まれ。2003年一橋大学経済学部卒業後、マッキンゼーアンドカンパニージャパン入社。07年同社史上最年少マネージャーに就任。11年株式会社ジェイド(現・株式会社ジェイドグループ)の創業に参画。12年代表取締役社長に就任し現職。22年RBKJ株式会社の代表取締役社長就任。24年マガシーク株式会社の代表取締役会長兼CEOに就任。UniversityofCalifornia,Berkeley(MBA)修了(2009)



◇ 取材後メモ

 「ロコンド」が2011年に本格始動した当初は「全品送料無料・商品到着後99日間は返品送料も無料」を掲げ、全国でテレビCMを放映するなど派手な演出が目立ちました。当時は斬新なビジネスモデルと大がかりな広告投資に「いつまで持つか」と感じた人も少なくありませんでした。田中社長が就任してからはサービスの中身を修正し、物流・ITシステムの内製化にも取り組みます。その田中社長も攻めのM&Aやユーチューブへの販促強化などで個人投資家から不安視されることも。リーボックやマガシークの買収を経て評価は高まってきていますが、本人はまだまだ「ロコンド」は過小評価されていると感じているはずです。

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