健全化に動きだすアドネットワーク

  • 2021年6月25日
  • 2021年7月25日
  • 特集1
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popInが広告審査強化、背景に8月の改正薬機法の施行も

 ネット広告業界が、市場の健全化に動き始めている。市場で顕在化している問題の一つが、不適切なアフィリエイト広告の氾濫。警察当局により、広告主だけでなく、広告代理店、制作会社、アフィリエイターの薬機法違反による摘発が相次いでいた。こうした不適切な広告の背景に指摘されていたのが、大量の広告配信を担うアドネットワークの存在だ。8月には、新たに課徴金制度を導入する改正薬機法の施行も控えている。「何人規制」を行う薬機法の圧力が強まる中、アドネットワークを提供する配信事業者の一部は、市場の適正化に舵を切る。

popIn、薬機法違反疑われる広告等の配信を停止

 百度グループでアドネットワークを提供するpopIn(=ポップイン)は5月、配信広告の審査基準の強化を決めた。薬機法など表示関連法に抵触すると判断した広告、過度にコンプレックスを煽ったり、差別を助長する表現の広告配信を停止する方針を公表した。

 審査体制も強化した。社内に独立した権限を持つ「品質管理室」を設置。3人の人員を配置し、審査プロセスを監査する。広告審査では、広告チェック等をサポートするビズテーラー・パートナーズに一部を業務委託。社内外で客観的な審査を行い、信頼性の高い配信を目指す。社員にYMAA(薬機法医療法遵守代理店認証)など民間の資格取得も推奨していく。

今年8月施行の改正薬機法には、新たに課徴金制度が導入される

 広告に接した消費者の苦情受付も充実した。自社の提供枠に表示されるクレジットからリンクする「申告フォーム」を設置。指摘を審査に反映させる。

 配信事業者の審査厳格化の流れはこれにとどまらない。同業のZucks(=ザックス)は3月、取引先に4月末でEC単品コスメ案件の配信をNGにすると通知した。業界関係筋によると、「同業のGMOアドマーケティングも審査強化を決めた」という。

広告業界3団体は、広告品質認証の第三者機関を設立

 ネット広告適正化の問題は、社会課題になりつつある。アドネットワークによる審査強化の動きだけでない。

 ネット広告に関わる日本アドバタイザーズ協会(=JAA)、日本広告業協会(=JAAA)、日本インタラクティブ広告協会(=JIAA)の3団体は4月、共同で第三者機関「デジタル広告品質認証機構(=JICDAQ)」を立ち上げた。団体は、ネット広告の品質確保に向けた取り組みを認証し、品質の向上・改善、公正な広告活動を支援することを目的にしたもの。7月から、適切な広告品質の担保に向け、社内体制を整備した広告関連事業者を対象にした認証事業を始める。

アドネットワークを通じた広告配信の構図

 ネット広告市場で問題となっているのが、ボットなどの自動プログラムを悪用して不正にインプレッションを増やしたり、クリック数の水増しする「アドフラウド(広告詐欺)」。また、広告の掲載先に違法・不当なサイトが紛れ込むことによるブランドの毀損リスクから守る「ブランドセーフティ」なども課題になっている。JICDAQは、これら2分野に関する広告関連事業者の認証(有料)を行う。将来的に、広告内容の適正化に向けた取り組みも視野に入れる。

 認証の対象事業者は、広告枠の買いつけやプランニングを行う広告代理店、広告配信を仲介するアドネットワーク事業者、広告枠の取引システムを提供するアドエクスチェンジの関連事業者、媒体社など、広告の商流に関わる企業。今回、審査強化を打ち出したポップインもJICDAQの認証を目指すという。

 認証企業に問題があった場合は、必要に応じて協議を行い、助言や文書による改善指導、認証の一時停止・取り消し、登録の一時停止・抹消などを判断。処分概要も公表していく。

 現在、認証対象ではないものの趣旨に賛同する広告主79社(今年6月4日時点)が登録する。認証申請する広告関連事業者は74社(今年5月末時点)。10月をめどに認証企業を公開する。認証は、あくまで業務プロセス。「すべての広告配信結果のゼロリスクを保証できるものではない」(事務局)とする。

適正化の潮流、背景に相次ぐ薬機法違反事件か

 アドネットワークの方針転換、業界による自主規制の動きの背景には、8月に控える改正薬機法施行があるとみられる。

 改正薬機法は、医薬品や医薬部外品、化粧品の「虚偽・誇大広告」の抑止を図り、新たに課徴金制度を導入する。薬機法は「何人規制」で、代理店や配信事業者も対象になりうる。

 これら〝仲介者〟の取締りも厳しくなっている。広告業界に衝撃を与えたのは20年7月、大阪府警が代理店、広告制作会社を含め6人の逮捕者を出した「ステラ漢方事件」。対象となった健食のアフィリエイト広告を配信した1社はポップインだった(配信したもう1社は事実確認に未回答)。

 府警は3月にも薬機法違反の疑いでアフィリエイターの男性を書類送検している。ASP(アフィリエイトサービスプロバイダ)への家宅捜索も行われた。

不適切広告掲載に「責任回避」の連鎖

 アドネットは、媒体社に広告配信・分析のシステムを提供。運営するニュースサイト等の広告枠に配信する。有力企業は、前出のポップインやザックス、GMOアドマーケティングのほか、ログリー、Speee(スピー)、Taboola(タブーラ)などがある。

 媒体社にとってもアドネットは、マネタイズを図る上で無くてはならない存在。有力アフィリエイターにとっても同様だ。ここ数年、アフィリエイト業界は自ら広告出稿し、アフィリエイトサイトに集客を図る「アドアフィリエイト」が増加している。運用に欠かせないのが、広告を数多くの媒体に一斉配信するアドネットワークだ。

 不適切なネット広告氾濫の背景には、業界の構造的な問題がある。

 アドネットが媒体社に提供するシステムには、基本的に配信広告のオン・オフ機能がある。媒体社は、自らの判断で違反の蓋然性が高い広告をシャットアウトできる。だが、「アドネットによる配信広告だけでなく、グーグルやフェイスブック等に掲載される広告を含め、膨大な広告案件を逐一チェックするのは大変な作業で現実的ではない。また、潤沢な予算を確保しにくいブランド広告より強い煽りのレスポンス広告の方が総じてクリック単価が高い。定期縛りに誘導するなら数カ月の継続が見込め、広告主も高い入札金額を設定できる。媒体社とアドネットで分配する利益も増える」(関係者)

ウェブのニュースサイトに掲載されたポップイン提供枠の配信広告(画像上)と、他社の提供 枠の広告の一例

 こうした背景から、媒体社も掲載広告の健全化に二の足を踏む。強い広告を配信したい広告主、アフィリエイター、より高い収益をあげたい媒体社、アドネット─。広告責任は一義的に広告主にあり、関係事業者に遵法意識は醸成されにくい。こうして「責任回避」の連鎖は起こる。

過去に一度は挑戦も、形骸化した広告健全化の取り組み

 広告業界は、過去にも市場健全化に舵を切ったことがある。

 2019年7月、広告配信に関わる9社は、フェイク広告や違反広告の根絶に取り組むとの共同声明を公表。ポップインのほか、アイモバイル、サイバーエージェント、インタースペース、Gunosy(グノシー)、GMOアドマーケティング、Speee、Taboola、ログリーが参加した。だが、今なお市場には不適切な広告はあふれる。代理店関係者は「声明は形骸化している」と話す。

 「ステラ漢方事件」の後にもアドネットの関連事業者は協議の場を持ったとされる。だが、やはり「『やられることはないから大丈夫』との結論に至った」(別の関係者)という。改正薬機法の施行を前にも「アドネット業界で会合を持ったという。足並みを合わせようという話だが、内実は都合よく外向けに発信しようというものだった」との話も聞かれる。

方針転換に一部代理店からはクレーム、支持する声も

 「なぜ通さないんだ」。今回、ポップインの方針転換を受け、一部代理店からはクレームが寄せられている。一方、適切な広告の掲載を望む複数の企業は、歓迎の意向を示す。

 方針転換には、「また戻るのではないか」と、冷ややかな感想を口にする関係者もいる。ザックスの通知にも「個人的印象では5月以降もさほど変わっていない」との評が聞かれる。

 一連の動きは、改正薬機法の影響を図りかねる中、一過性のもので終わるのか。ポップインの西舘亜希子取締役は「薬機法うんぬんではなく、不適切広告は社会課題になっている。企業姿勢を示し、賛同してくれる広告主と正しくビジネスに取り組みたい」と、決断の理由を話す。ネット広告業界に起こる綱引きの着地点が注目される。

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