AI(人工知能)の進化・普及はEC関連事業者にとっても恩恵をもたらし始めている。多くはAIを活用して既存業務を効率化する取り組みに着手して、成果をあげているようだ。EC関連事業者でいち早くAI活用の取り組みを進める3社の取り組みや狙い、成果などについてみていく。
事例1:楽天
エージェントをアプリに搭載業務効率改善ツールにも成果
楽天グループでは仮想モール「楽天市場」において、生成AIの活用を進めている。店舗向けには業務効率改善を目的としたツール「RakutenAIforRMS」を提供しているほか、ユーザー向けには、買い物をサポートするAIエージェント「RakutenAI」を楽天市場アプリに搭載した。
経済圏のデータが強みに
2025年の1月に開催された出店店舗向けイベント「楽天新春カンファレンス」において、同社の三木谷浩史社長は「AI、AI、AI」と号令をかけた。その旗振りのもと同社がまず着手したのは、徹底的なコストリダクションと業務の効率化だ。コマース&マーケティングカンパニーCIO&CAIDOでコマース&マーケティングカンパニー開発統括部ヴァイスディレクターの小林悠輔常務執行役員は「まずはAIを使って人件費を削る、あるいは既存の業務をいかに効率化するかという点にフォーカスしていた」と振り返る。
具体的には、楽天市場に出店されている店舗様が日々直面する、業務負荷の軽減を目指した。例えば、商品画像の背景をAIで自動的に変更できる機能や、カスタマーサポートでの問い合わせ対応文の生成、あるいは数字を読むのが苦手な店舗のために売上データのサマリーを作成してあげるといったもので、店舗様の実務に直結する工数を削減して効率を高めることに心血を注いだ。
ただ、それだけでは生成AIを活用しきれていないということで、2025年の後半からは、AI活用のフェーズが大きく進化した。現在は単なる効率化にとどまらず「いかに売り上げにつなげるか(レベニュー)」に腐心している。
例えば、クリック課金型の検索連動型広告RPP)において、これまで店舗様が経験則で行っていた広告コストの按分を、AIがデータに基づいて自動的にアロケーション(割り振り)し、ROAS(広告費用対効果)を最大化させる仕組みを導入した。
さらには、店舗の業務効率改善だけではなく、ユーザーの買い物をサポートするAIエージェント
「RakutenAI」の開発を開始。25年12月25日には「楽天市場」アプリに搭載した。概要としては、楽天市場のAIコンシェルジュが、ユーザーとの対話を通じてニーズを理解し、最適な商品選びのサポートと商品のレコメンドを行うというもの。ユーザーは、楽天市場アプリのホーム画面右下にあるアイコンから「RakutenAI」にアクセスし、希望予算、購入目的、活用シーンなどを、テキストや音声、画像を用いて入力することで、欲しい商品を手軽に検索することができる。
楽天市場の強みは「楽天エコシステム」が持つデータの多様性にある。購買データだけではなく、例えば「RakutenTVでどんな動画を見ているか」「楽天GORAでいつゴルフ場を予約したか」など、ライフスタイル全般を網羅するデータを、楽天市場におけるレコメンドに使うことが可能。こうしたサービス間のシナジーを効かせたアルゴリズムが作れる点が差別化ポイントとなるわけだ。
「知恵」の集合体で差別化
とはいえ、生成AIによる最適化を突き詰めすぎると「体験がコモディティ化していく」という副作用も。「AIが『あなたにはこれだけが最適です』と一つの答えだけを提示すれば、利便性は上がるが、ウィンドウショッピングのようなワクワク感、つまり楽天市場のコンセプトである『ShoppingisEntertainment!』という要素がどんどん崩れていきかねない」(小林常務)。楽天市場には5万以上の、特定のカテゴリーのプロである店舗がいる。同社では、その「プロの知恵」をそれぞれエージェント化して、その集合知である「スーパーエージェント」が、「RakutenAI」のコンシェルジュとして買い物をサポートする、といった方向性に舵を切った小林常務は「これこそが競合他社や、汎用的なAIツールなどとは違う、楽天の差別化要素になると思っている」と力強く語る。
「RakutenAI」に関しては、購入決定までの時間が約43%短縮、平均注文額が約41%向上するなど、すでに成果が出始めているという。ただ、小林常務は「まだまだだと思っている」と控えめに語る。その理由について「正直なところ『1回使ってみたけど』というユーザーが目立つ。精度の問題のほか、ビジネス的な観点からいうと、小さな画面で商品を選ばせることにハードルがある」と説明する。加えて「早く買い物をしたい」人にはマッチしない。例えば「クリスマスにケーキを買いたい」と決まっている人なら、「ケーキ」で検索するなり、スイーツカテゴリーに遷移した方がいいわけだ。
ユーザーの「商品を探したい」というアプローチを、モール内検索ではなくAIコンシェルジュに頼る場合、チャット画面においてはユーザーのニーズを何度も聞かないといけないわけで、その行為に対してユーザーが「わざわざ質問するのは面倒だ」となりかねない。「この手間を、どう軽減させながら、カンバセーション(会話)をユーザーが欲しいものに落とし込めるか、これをUXで実現できれば」(小林常務)。
もう一つの課題は、広告商品の表示。「『見せ方』も含めて、最適な広告商品を考えなければいけない」(同)「PR」マークが付いた商品がチャット内で表示されたとして、それがユーザーのニーズにマッチングすれば違和感を持たれないが、「広告」と明らかに分かる商品は敬遠されがち。そこのギャップをいかに無くすかが課題となる。
店舗のデータ分析サポート
店舗運営業務にフォーカスした「RakutenAIforRMS」に関しては、工数削減や業務改善など、確実に効率が上がっているという。
例えば、「RMSの使い方が複雑すぎて良く分からない」という場合、数千ページある店舗向けマニュアルから該当箇所を探すのは手間がかかる。しかし「RakutenAIforRMS」であれば、チャットで質問をすればマニュアルの中から知りたい情報を教えてくれる。また、チャットツール「R-Messe」や顧客レビューに対する返信に関しても、AIを使えば省力化できるのはもちろん、「顧客対応への店舗様の心理的な負担を取り除くという点でも非常に大きい」(小林常務)。
人手不足や業務過多に悩む店舗様は少なくない。AIはそういった悩みを解決することができる。「毎朝8時に出社してから、前日の売り上げを確認し、2時間かけてデータ分析を行う」という店舗も少なくなく、「スマートフォンのRMSアプリからAIでデータ分析できるようになれば、通勤途中にタスクを終えることもできる」(同)わけだ。小林常務は「2026年中には、単純な数字分析だけではなく、具体的なアクションの提案までできるようにしていきたい」と見通しを語る。
責任者に聞く
「コンテンツ」重要に
Q:AIをどう活用していきますか。
A:楽天市場の差別化ポイントは、自動販売機スタイルではなく、さまざまな個性ある店舗様の集合体というと。当社としては、AIの活用で、労力を使わず店舗様の商品ページを制作してもらうとともに、どれだけパーソナライズ化を進められるか、という点が鍵になってきます。その一方、危機感としてあるのが、「フィルターバブル」(アルゴリズムがユーザーの興味・関心に基づいた情報ばかりを表示させるようになり、異なる情報や意見などが見えなくなる現象)。このせめぎ合いに関して、どうバランスを取るか、ということになるでしょう。
Q:出店店舗はどう対応すべきですか。
A:AIエージェントのアルゴリズムに組み込まれるような工夫が必要になってきます。商品のアピールポイントや商品の詳細情報をどこまで書ききれるか。その商品を買ったことで、どんなメリットがユーザーにあるのか、こういったことをどれだけデータ化し表現できるかが大事。「コンテンツ生成を頑張る」ことが重要ですが、そのコンテンツを作る際もAIが手助けとなります。
Q:日本でエージェンティックコマースは普及しますか。
A:日本で早期に普及するかどうかはユーザー次第であり、不透明な部分だと思っています。アメリカの市場と日本の市場の違いは「日本人は効率だけを求めていないことが多い」という点です。「日本人に最適化されたUX」にトライしないといけないでしょうね。