少子化が進み、国内の労働力不足は深刻な社会問題となっている。それに伴い、若手社員のいち早い戦力化や、高い能力を持った優秀な社員の流出防止など、人材に関する施策は今や各社にとって最重要の課題となった。ネット販売実施企業各社でも、独自の取り組みや工夫で、社員の育成・定着を図っているところがあり、「人財施策」の成功事例が生まれている。本誌姉妹紙の「通販新聞」が2~3月に約20社を対象に実施したアンケート結果などをもとに、育成手法や福利厚生、また、2026年4月入社の新卒採用の状況などについてまとめた。
座学や現場研修で社員を育成手厚い福利厚生が会社の魅力に
AI研修を導入する企業も
まずは、未来の戦力となる新卒採用者の研修期間について、そこで実施している内容などを質問。主な回答では、クラダシが「入社3カ月をオンボーディング期間とし、企業理解、役割理解、ビジネス基礎(仕事の進め方、問題解決、生成AIなど)、ビジネス応用(データアナリティクス、コミュニケーション、ネゴシエーションなど)を推進」、新日本製薬は「4月入社後、約半年間の研修を実施。コールセンター研修、物流センター体験、企画研修」、DHCは「総合職・研究職は、4~5月にビジネススキル、会社・事業理解、商品知識など。美容部員は4月に接客力、商品知識、カウンセリング、メイクアップ、店舗運営など」、ゴルフダイジェスト・オンラインは「2カ月間でビジネスマナー、事業理解、Excel研修、各部門を回るインターン」を実施。
ライズクリエイションは「研修期間は6カ月(延長・短縮有)。基本はOJT。月に1度創設者の会長の座学の研修有(会社理解、20代の働き方、ビジネススキルなど)人事のビジネスマナーなどの研修開催」、アスクルは「4月1日~5月31日まで約2カ月間の入社時研修。キックオフ・オリエンの目的は自分が働く会社を知る。基礎研修の目的は社会人としての基礎を学ぶ。本部理解の目的は会社を深く理解する。現場研修の目的は実践からの気付きを得る。データ研修の目的はデータを活用できる人材になる。AI研修の目的はAIを活用できる人材になる。フィールドワーク研修の目的はアウトプットの経験をする」、
オイシックス・ラ・大地は「4月~5月上旬の約1カ月間、社会人ならびに当社社員の一員として必要なスキル習得やマインドセットを目的に実施。主な内容はビジネスマナー研修、企業理念・各事業内容研修、マーケティング研修、ロジカルシンキング研修、物流研修、アウトバウンド研修(お客様へお電話での定期入会促進)、実地販売研修(商業施設などでの定期入会促進)」、ギフティは「約3カ月のOJTを中心に、会社の歴史・カルチャー理解、各事業部説明、マナー研修を実施。また、ロジカルシンキングや会計などのオンライン学習プログラムを導入」、ビィ・フォアードは「研修期間は2カ月間。ビジネスマナー、社会人基本スキルの習得(PCスキル)、メールの書き方、ロジカルシンキング、社内の販売フロー研修、各部署の紹介、ヤード見学」と回答している。
多くが4~5月で基礎的な研修を行い、平行して現場を体験できる実地研修も実施。自社のビジネスの理解と働く目的を知ることができる内容となっている。
社員のキャリアアップをサポート
次に、教育に関して、既卒社員向けも含めて優秀な人材を育てるための特徴的な研修や制度について質問。主な回答では、ベルーナが「若手研修(1年目・2年目・3年目)、ブラザー社員研修、節目研修(5年目、10年目)、社長塾」、クラダシは「成長と成果に向けて、社内の共通言語をインストールしている(社内外研修併行)。エントリープログラムは会社理解を深めるため。コアプログラムはビジネスOSをアップデートするため。グロースプログラムはマネジメント科目をインストールするため」、スクロールは「D2C検定(旧通販検定)の取得、職種別研修、階層別研修」と回答した。
ZOZOの主な回答では「LYグループの企業内大学『LYアカデミア』。グループのトップリーダーが集まるクラスや、グループ会社の社員であれば誰でも参加できるプログラムなどを実施。生成AI研修『GPTsLEAGUE』は、社内の生成AI活用を推進するため、企業向け生成AIサービス『ChatGPTEnterprise』の導入をきっかけに、業務に応じてカスタマイズしたワークフローをノーコードで組めるChatGPT内の機能『カスタムGPT』の参加型社内研修を2カ月間にわたり実施。役員及び全社員がカスタムGPTを実際に作成・利用し、公開されたカスタムGPTの月間利用者数をチーム戦で競い合うもので、全社的にカスタムGPTの作成を促すことにより、ノウハウの共有や全社的な効率化につながった。また、研修後週に1回以上の生成AI利用率は95%にまで上昇した。キャリア自律支援では自身のキャリアを整理しながら今後の方向性を考える仕組み『キャリアプランシート』を導入しており、この取り組みを通じて、すでに多数のキャリアチェンジが実現している。そのほか、自分の『好き』や『得意』を見つめ直すためのキャリアワークショップや、さまざまなスタッフのキャリア事例を紹介する社内ラジオを通じて、幅広いキャリアの選択肢に触れられるようにしている」とした。
新日本製薬は「新日本大学(企業内大学)を24年8月より開始。階層ごとに目的や内容を分けて実施しており、管理職を対象とした『IBC(InnovationBusinessConference)』、若手社員を対象とした『ジュニアボード研修』を定期的に開催。その中で、当社の沿革や歴史、将来に向けたビジョンの共有を行うとともに、当社にとって重要とするマインド醸成を行っている。戦略的ジョブローテーションの実施では、バリューチェーンに基づく様々な業務を経験し、幅広い分野での知識や経験値を積むことで、広い視野で活躍できる人財を育成することを目的としている。自律的キャリア形成の促進では、キャリアデザインシートによる社員のキャリア希望を確認する機会を設置。積極的なジョブローテーションやキャリア支援を実施している。また、1on1ミーティングの仕組みを構築し、上司とのコミュニケーションを通して、自身のキャリアを描くことができる仕組みづくりを行っている」とした。
ゴルフダイジェスト・オンラインは「目標管理制度は、個人のやりたいこと(Will)と自身の強み(Can)を前提に、マネージャーとの対話を通じてどのような価値(Value)を提供するか目標設定し、その実現度合いで評価する。社内インターンシップ制度は、他部門・他職種を体験することで視座の向上、視野・専門性・ネットワークを拡大し、個人の成長と組織活性化を図る制度。終了後は元部署でのパフォーマンスアップや、視座の向上および今後のキャリア形成に活かす」、ギフティは「今後の当社にとって重要になる『意味を紡ぐ』ことを考える種をつくるためにゲストを招いて視野を広げるイベント『gifteeSeeds』。新卒には『輪読会』。マネージャーにはマネジメント研修、AI研修」とした。
オイシックス・ラ・大地は上位役職者向けに「『執行役員会議オブザーバー制度』は、経営の議論の場に参加することで視座を上げ、成長に繋げることを目的として、選抜メンバーに執行役員会議(状況によって経営合宿含む)へオブザーブ参加してもらう。『社長面談、社長ランチ』は、組織ビジョンの浸透や視座を高めることを目的とし、社長とメンバーとの双方向の対話を行う制度」があるとし、全社員向けでは「『自主勉強サポート制度』は、社員の自発的な学びをサポートし、スキルや知識を高めることで、会社の成長につなげることが目的の制度。外部研修、勉強会開催、資格取得の際の費用補助を実施。『異動希望制度ORDido(オーディドウ)』は、社員が上長を介さずに、自主的に異動希望を伝えられる制度。異動希望先での募集ポジションの有無に関わらず希望を挙げることができる。社員が主体的にキャリアを考えチャレンジすることを推奨すると共に、各部署の長期的なパフォーマンスの最大化のために取り組んでいる。『ロジカルシンキング研修・ロジカルシンキングリーダー制度』は、当社社員の共通スキルとしてロジカルシンキングスキルの浸透を実施。MECE、ロジックツリー、イシューツリーなど講義内容を動画化し社員は受講。テスト合格が昇格の必須要件となっている。各部署でロジカルシンキングが活用されるための環境を整えるため、部内に1人以上ロジカルシンキングリーダーを設定。リーダーは特に、上記ロジカルシンキングのテスト合格支援を担う」。そのほか、該当社員向け(売る力)では、「お客さまに商品を売る(購入いただく)ための力を身に着けるため、段階的に研修を実施。例として、売る力講座(基本的なマインドセット)、空雨傘講座(分析)、ヒットづくり勉強会(社内役職者からの講義や他社マーケティング担当による講演会など)」があるとした。
回答企業の約半数が初任給引き上げ
関連して、新入社員の初任給の引き上げについて聞くと、アンケート回答企業20社の内、約半数に当たる9社が前年よりもアップしたと回答。主なところでは、ビィ・フォアードが「前年よりアップ(全社改定)。職種により異なるが全体的に4%のアップ」、日本生活協同組合連合会は「22歳で月額5000円引き上げ~28歳で2300円引き上げ。物価上昇への対応などが主要因」、交換できるくん「前年よりも9.5%アップ。ベアによる年齢給の改定により」、ベルーナ「前年より1万円アップ。採用する上で重要な条件・待遇面の整理をすることで、採用競争力を強化するため」、dinosは「総合職について前年比10%アップ。新卒採用市場における競争力確保のため」としている。
ハラスメントを徹底排除する動きも
そのほか、昨今問題となっている各種ハラスメントの防止やコンプライアンス順守についての取り組みも質問。ほとんどの企業で研修の受講や相談窓口の設置などを行っていた。
主な回答では、オイシックス・ラ・大地は「全社員を対象としたコンプライアンス研修を年に1度必ず実施。新任の管理職向けにハラスメント研修の実施。経営層向けのインシビリティ研修の実施」、ゴルフダイジェスト・オンラインは「コンプライアンスに関するウェビナーやテスト、アンケートの実施」、クラダシは「エントリープログラムにおけるインストール、全社プログラムとしての定期ワークショップ」、dinosは「ストレスチェック・社内アンケートでのハラスメントの把握と組織改善、E―ラーニング・研修による従業員教育、社内外の相談窓口の設置」、ZOZOは「ZOZOグループでは、コンプライアンスに違反する行為(ハラスメント・経費の水増し・賄賂をもらって取引先に便宜を図る・サービス残業の強要など)をされた・発見した場合に通報する窓口を設けている。いずれの通報窓口も全世界の当社グループ社員を対象とし、現地語(多言語)で通報を受け付けている。また、これらの窓口では相談者・通報者のプライバシーが厳守されており、通報・相談した当人に不利益が生じることがないように、内部通報者を保護。なお、通報については常時(24時間365日)匿名でも利用でき、通報窓口は内部だけでなく、外部の法律事務所に外部通報窓口も設置している。通報があった場合には速やかに事実を確認し、違反行為を発見した場合は是正、再発防止に努めている。内部通報の運用状況については、取締役会で報告。また、ZOZOグループの全社のコンプライアンスに対する意識を高めるため、アルバイト・派遣スタッフを含む全従業員向けにコンプライアンスに関する研修を実施し、意識の向上を図っている」とした。
仕事と家庭を両立する仕組み提供
昨今の「働き方改革」を踏まえて、全社員に向けて定着を図るための特徴的な社内制度や福利厚生などについて質問。主な企業の回答では、ベルーナは「『育児短時間勤務制度』は小学校6年生までの時短勤務制度。退社時間を15時、16時、17時までと選択することが出来る。『ガンバレーション(表彰・インセンティブ制度)』は、社員のモチベーション向上を図り、頑張った社員を審査し、表彰していく部門活性化のための取組み。表彰された社員には、報奨金の授与などが行われる。『社内販売・割引』は、自社商品を特別価格で購入できる。(平常時20%割り引き。自社が展開する宿泊施設をお得に利用できる。10~30%割り引き。『時間単位の年次有給休暇制度の導入』は、年間(累積)24時間を上限に『1時間単位』での取得が可能。『スーパークールビズ制度(Tシャツ着用でOKとする制度)は、昨今の猛暑を鑑み7月~9月をスーパークールビズ期間とし、Tシャツの着用を可能にする制度。通常のクールビズ期間(5月~10月末)はスーツスタイルorオフィスカジュアル」と回答。
オイシックス・ラ・大地は「既存社員においては、『働き方の柔軟性』が定着に良い影響があると考え、国家資格キャリアコンサルタントを保有する社員が中心となり『復職前講座』など独自の『復職プログラム』を設けている。復職後に直面しそうな課題を洗い出し、解決策を考えておくことで、働く心構えができるようサポートしている。また、復職前に配属先との上長面談の機会を設けているほか、復職から1カ月後には人事によるヒアリングの機会や復職者同士の交流の場を設定するなど、安心して復職し、オンボーディングできる環境を整えている。
その結果、復職率は毎年100%、復職1年後の女性社員の離職率は0%を継続している。育休からの復職後、職場環境の変化への適応に悩みや不安を抱えた女性社員の実体験をもとに、2017年から『復職式』を毎年開催しており、これまでに男性を含め多くの育休復帰の社員が参加し。会社から『おかえり』の気持ちを伝えることで、復職への不安を軽減し、気負いすぎずに戻ってきてほしいことを伝えている。このほか、各種休暇やリモートワークを充実させるなどして、家庭環境に関わらず誰もが働きやすい職場づくりに取り組んでいる」と回答した。
その上で具体的な内容として「『パパプラス休暇(配偶者出産休暇)』は、男性を対象に配偶者が出産した場合、最大5日分の有休付与(所定労働日数により異なる)。なお、養子縁組の場合も対象。子の出生予定日1週間前から、出生後2カ月の間で取得可能。1日もしくは時間単位での取得も可能。『時差勤務』は、妊娠や怪我などの理由により、フルタイムのまま所定の労働時間の変更を希望する場合。9時30分~18時30分の勤務時間を、前倒し・後ろ倒しできる」とし、そのほかにも「『時短勤務』が、小学校6年生まで取得可能。『オフィスと自宅別々時短』が、オフィスに出社する時は子どもの迎えの時間に間に合うように帰宅し、通勤時間を省ける自宅ではより長く働くことができるよう、それぞれにおいて時短時間を決める働き方が可能。(例・オフィス出社時は6時間勤務、自宅でのリモートワーク時は7時間勤務など、別々に設定)。『細切れリモートワーク』は、従来のリモートワークを柔軟化し、1日の中で勤務時間を満たしていれば柔軟に中抜け休憩を取得できる。時差通勤と組み合わせ、午前中は家で働き、午後は出社して働くことも可能」などの取り組みがあるとした。
「アルムナイ」も徐々に広がる
新日本製薬は「親孝行手当、自己研鑽手当、社員食堂の整備」、クラダシは「新入社員ランチ支援、部活動支援、書籍購入支援、勉強会支援など」、ゴルフダイジェスト・オンラインが「フレックス勤務制(コアタイムなし)、時短勤務、GDOゴルフショップ割引、表彰制度、有給休暇・特別休暇(慶弔休暇・看護育児休暇・ゴルフ休暇など)」、日本生活協同組合連合会は「組織内インターンシップ。若手・中堅を対象に、組織内で興味のある部署での就業体験を実施」、ライズクリエイションは「3カ月に1度の人事評価。入社後・人事評価後の人事との面談。社販。全メンバー参加の忘年会での豪華MVP賞(国内・海外旅行など)」とする。
ギフティは「フレックス制度(コアタイム制)はライフスタイルに変化が生じた際でも継続して働くことが可能。リモートワークの継続は遠方在住者でも採用が可能。Uターン、Iターンニーズへの対応。時短制度あり。育休・産休。退職者出戻り(アルムナイ)」、dinosは「フレックス、時差勤務、時短勤務、週休3日制、副業、従業員割引、テレワーク、サテライトオフィス、モバイルワーク、ワーケーション、ブレジャー」、交換できるくんは「資格取得支援制度。会社が指定した資格を取得すると、スキルアップ手当が毎月支給される」、DHCは「フレックスタイム制や働き方に配慮したシフト制、在宅勤務の導入(職種によって適用内容は異なる)、リフレッシュ休暇の導入、自社商品社員割引制度、再入社専用窓口の開設」と回答。
ZOZOは「『フレックスタイム制度』は、『自分で考え自分で決める』という主体性を大切にし、楽しく働くことの実現を目的として実施。一般的なフレックスタイム制度とは異なり、コアタイムやその有無を部署ごとで決められるのが特徴」とし、また、「ZOZOにはEFM(EmployeeFriendshipManagement)という考えがあり、『従業員同士が親友のような関係になる』ことを目標にしている。その中で『絆を深めるきっかけ作り』というテーマのもと、社員同士が部署を越えて交流する機会として『FRIENDSHIPDAY』が生まれた。過去にはプレゼント交換、ボウリング大会、ブログリレーなど様々な取り組みを行った」と回答。そのほか、「『部活動支援制度』は、スポーツや趣味が共通するスタッフたちのコミュニティを公式に支援するために、それぞれのコミュニティを部活動として部活動費用を会社支給する制度。3人一組から新設でき、現在はサッカー、野球、陶芸、映画など、様々な部がある。『従業員割引制度』はZOZOTOWNでの買い物の際に従業員割引制度。割引率は非公開だが、制度を使ってサービスを積極的に利用し、その気づきをサービスに活かしている。『家族時短』は、自事とプライベートをバランスよく充実させるため、育児や介護はもちろん、ペットや同居人などスタッフが『家族』と認識する人や動物のサポートが必要な場合は、1日最大2時間の時短利用が可能。時短は30分単位から利用できる。当社は仕事(仕える事)ではなく自事(自然な事)として表現・表記している」と回答した。各社とも獲得した優秀な人材を育成・定着させるために、様々な角度から環境整備を実施。給与面だけでなく、家庭と仕事が両立できるよう、その家族に対しても手厚くサポートできる仕組みを取り入れている内容が多く見られた。