ネットでも工夫次第で靴は売れる【秋里英寿&保田朋哉 ジェイド代表取締役】

秋里英寿代表取締役

 今年2月15日、ジェイドが運営する靴の通販サイト「ロコンド」が本格始動した。全品送料無料で99日間は返品OK、コンシェルジュが電話で相談に乗るというビジネスモデルを掲げて注目を集めている。最近では、会員制ブランド品セールサイトや体験型のチケット共同購入サイトなど、欧米で成功したネットビジネスが日本でも一定の成果を上げつつある。ザッポスに代表される“顧客感動サービス”で靴のネット販売に挑戦するジェイドは、先行する「ジャバリ」にどう立ち向かうのか。同社の共同創設者で、ともに代表を務める秋里氏と保田氏に基本戦略などについて聞いた(聞き手は本誌・神崎郁夫)

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ネットの弱みは工夫とコストでカバーする

──ご自身の通販経験や、靴のネット販売を手がけることになったきっかけを教えてください。

秋里代表(以下、秋里) 個人的には通販好きで、よく利用します。完全にネット世代なのでネット販売自体に違和感はありません。忙しいのもあり、隙間の時に買っています。例えば、本はアマゾン、靴下はユニクロ、ワイシャツは鎌倉シャツといった感じで、大体決まっています。サイズがはっきりしている商品が多く、安心感があって、スムーズに買えるサイトを利用することが多いですね。価格訴求型のモールで商品を買うことはほとんどありません。

 いろいろと通販は試してきましたが、それでも靴はハードルがありました。自分自身も靴屋の2代目でもなんでもなく、ビジネスマンです。ただ、世界中でいろいろな事業モデルを見てきて、靴の通販ビジネスは面白く、しかも日本ではネットの靴屋は大きなところがありません。工夫次第では成長できると思って、この分野にチャレンジすることになりました。

──返品OKのビジネスモデルでは、2008年11月に「ジャバリ」を開設したアマゾンが先行しています。“打倒アマゾン”といったところでしょうか。

秋里 もちろん「ジャバリ」は意識していますが、現状、靴の通販市場は極めて小さいので、これを大きくしていくことが最優先です。競合のシェアをとったとしてもパイは小さいです。ただ、他社をベンチマークすることは大事で、競合だけでなく、カタログ通販企業なども含めて、小売としての商売の工夫は学んでいます。

──靴の場合、どうしても返品が多くなりそうですね。

秋里 そうですね。相当数の返品があるのは覚悟しています。これまでネットで靴が売れなかったのは、圧倒的にサイズの問題です。家で試着できればいいのですが、送料をとられたら試着代がかかるのと一緒です。そこで送料無料、返品無料にして99日間の返品期間を設定すれば、誰でも安心して試せます。まだまだ小さい市場ですので、これまで実店舗で靴を買っていた消費者にネットで初めての購入体験をしてもらうことが大切です。お気に入りの1足が見つかるまで、何度でも返品して欲しいですね。

──ネットの靴屋の強みはどこにありますか。

秋里 ネット販売だと在庫を集中管理できるので、少ないサイズや珍しいカラーも含めて幅広く消費者に提供できます。店舗よりも何十倍も大きな品ぞろえが作れるのは強みですね。不利な点は知恵と工夫、コストでカバーして、強みは伸ばします。その観点から、送料無料で返品無料、1万点の品ぞろえに行きつきました。

 

保田朋哉代表取締役

顧客が一番喜ぶ対応を

 

──年中無休のフリーコールで相談に乗ってくれるコンシェルジュの存在も成長のカギになりそうですね

秋里 クレジットカードの番号を預けることが不安な消費者もいます。スタッフの顔が見えて、声が聞けてという小売りの店頭で当たり前に行っている顧客サービスを通販でも提供していきます。電話番号を出さないネット販売企業もありますが、当社では安心して利用できる通販を心がけています。午前8時から午後10時までは年中無休でオンラインスタイルコンシェルジュが電話かメールで顧客の買い物をサポートします。日本ならではの“おもてなし”をネット販売で提供したいです。

──ザッポスのような“顧客感動サービス”を目指されていますが、個々のコンシェルジュにはどの程度の裁量を持たせていますか。

秋里 まず、コンシェルジュのマニュアル、ルールはなるべく減らしたいと考えています。ずらしてはいけないのは、当社がキーワードとしている“感動と笑顔”です。コンシェルジュには、ある程度自由に使える予算を与えて顧客が満足する提案ができるようにしています。多額のコストが発生する場合はスーパーバイザーに相談し、判断を仰ぐよう指導しています。

 だからといって、顧客と長時間話せばいいわけではないですし、コストをかければいいということでもありません。知恵を使うことが大事です。顧客が本当は何を欲していて、何に困っているのかを考えるのがコンシェルジュの仕事です。

 極力ルールをなくすと言っても、まったくマニュアルがないのも困りますので、ノウハウは共有します。成功事例や失敗事例を蓄積して、個別の案件に対応しています。器とノウハウを貯める仕組みだけは作りますが、トップダウンでのルールは作らないということです。

──それでは、例えば顧客が「ロコンド」にない靴を欲しがった場合、どういう対応をするのがベストですか

秋里 顧客が一番喜ぶ対応を考えることが大事です。そのためには、なぜその靴が欲しいのか、その靴でなければいけないのかを理解しないといけません。場合によっては、別の靴を提案したり、あるいは、すぐにでも必要なのであれば、顧客が買いに行ける実店舗を紹介する方が喜ばれるかもしれません。

──では、自分の服に合う靴を選んでほしいと言われたらどうですか。 

秋里 もちろん、喜んで提案させてもらいます。当社のコンシェルジュは小売店の販売出身者が多く、とくにファッションの悩みについての応対が得意です。顧客1人1人に合った商品をコーディネートすることは、実店舗では普通に行われていることです。小売りのサービスとして大事なのに、これまでネットでは削られてきた部分を当社では残して、他社サイトとの差別化につなげたいですね。

──実際のコンシェルジュの利用のされ方は

秋里 今のところ、想定外のものはないですね。商品の説明や決済方法、配送の説明などが多いです。結婚式に履いていく靴の問い合わせなどもきています。電話での問い合わせ件数自体も、海外と比較しても日本がものすごく多いとか少ないとかいうことはないですね。現在のコンシェルジュは15人ですが、これを50人に増やす計画です。初速をしっかりと見極めて、増やしていきます。

テレビCMで認知度高める 

──商品の調達面と、バックヤードの体制について教えてください。

保田代表(以下、保田) 当社では、メーカーや卸から商品を買い取って、全商品を自社のスタジオで撮影しています。7つの角度で画像をズームする機能を設けて、商品の素材や裏地、装飾などの細部まで確認できるようにしています。

 物流面では、ヤマトさんと組んで埼玉県三郷市の物流センターで商品を保管、発送しています。受注した商品は即日発送して、全国の消費者に翌日か翌々日に届けます。

 原則、ネットでも定価販売することで、卸・メーカーからも理解を得ています。国内外のカジュアルから高級ゾーンまで、幅広く取り扱って、この春シーズンの最盛期には3万スタイル、40万足をそろえる計画です。

──すべての商品を買い取るとなると、バイイングが商売の肝となりますね。 

保田 当社では、これまで靴業界にいたバイヤーや、メーカーの出身者が商品調達に当たっています。みんな靴のことは熟知していて、何が売れるかも分かっています。ただ、日本ではこの規模感で靴を調達したことのあるバイヤーはいないと思います。“これなら間違いない”というやり方は、今のところ誰も分からないんじゃないでしょうか。

──2月中旬に本格始動してからの受注状況はいかがですか。

秋里 感触はいいです。“行ける”という期待は引き続き持っています。ネットで靴を定価販売するというビジネスでも、すでに多くの消費者に購入してもらっています。結局のところ、どれだけ返品があってもリピートしてもらうことが重要です。ザッポスは顧客満足度が高く、75%というリピート率に支えられています。これを目指したいですね。最初のシーズンでは数十万人くらいに購入してもらえると期待しています。

──近藤正臣さんを起用されて、インパクトのあるテレビCMを始められました。

保田 「ロコンド」での買い物に安心感を持ってもらうことが第一で、CMでは名前を売ることに集中しています。今現在、取り扱い商品は女性の靴の方が多いので、若干、女性向けの放映枠を厚くしています。日々のトラフィックが10万以上になっていることを考えると、やはりテレビの効果は大きいですね。ただ、プロモーション全体ではウェブ広告が中心で、テレビCMがこれを補完するという感じです。雑誌やイベントなどにも取り組みます。

──アマゾンも「ロコンド」を意識してか、返品できる期間を30日から1年に延長しましたね。 

秋里 当社の場合は、顧客に満足してもらうための期間を99日と設定しています。あまり長い期間に設定しても、履かない靴を自宅に置いておくのは邪魔になりますよね。アマゾンに追随して1年間にすることは意味がないですし、そこに労力を使うよりは別の工夫で顧客満足度を上げたいです。

きちんとした小売りを目指す 

──原則、定価販売ということですが、セールを一切しないわけではないですよね。

秋里 できるだけ定価で販売したいと思っています。ただ、まったくセールをしないというのも現実的ではありません。一般的な小売店舗と同じで、シーズン終盤にはセールを行う予定です。ひとつ言えるのは、激安チャネルにはならないということです。

──今後3年間で衣料品にも分野を広げられるとのことですが、季節感がはっきりしている商材を扱う場合の返品ポリシーはどうされますか。 

秋里 靴の返品率や返品期間をしっかりと見て設計する必要があります。シーズン性の高い商品と、そうでないものではビジネスモデルは変わってくるでしょう。ただ、当社は前払いなので長く手元に置いておく顧客は少ないと踏んでいます。まだ本格始動してから返品対応できる99日が経ってないので、しっかりと検証していく必要があります。返品の状況を踏まえて、まずは靴で事業基盤を固めますが、早い段階でアクセサリーや雑貨、鞄などの取り扱いを始めたいですね。その後、衣料品という流れになると思います。

──3年後に売上高1000億円という高い目標を設定されていますが、まずは1年後のあるべき姿は。

保田 靴の市場自体が縮小している中で、定価販売するサイトとして卸やメーカーにも認められるサイトに成長していたいですね。 

秋里 10年先、20年先のネット販売の社会的意義などを考えたときに、ネットでも売りっぱなしではなく、きちんとした小売りとして、顧客満足の高いビジネスモデルがあるということを証明したいです。

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