鈴木聡●千趣会代表取締役社長執行役員ーー本丸のベルメゾンが復活のカギ

千趣会は、2025年3月に就任した鈴木聡社長のもと、27年12月期までの3カ年の再生計画に臨んでいる。通販事業は世代別に事業を再編し、主力のベルメゾンはターゲットをアラウンド50に絞り込んだ。グランドジェネレーション(60代以上)向けはカタログ刷新で、30代以下の子育て世代向けはSNS戦略や外部ECモールの活用などでひと足早く成果が出始めているようだ。26年度の黒字化に向けて真価が問われる千趣会の鈴木社長が語る再生計画の現在地とは。

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カタログをしっかり残しながら依存しない業務フローに変える

AIで顧客との距離を縮める

─2025年は生成AI元年とも言える年でした。

 AI活用については、社長就任後すぐにテクノロジーで有名な企業に飛び込みで伺い、さまざまな情報を得ることができました。EC市場におけるAIのあり方などを学んだので、ベルメゾンの事業にも少しずつPoC(概念実証)の形で落とし込んでいきます。業務効率化の領域は業務本部内にIT推進チームがあるので、今の業務を棚卸して減らせる部分は減らすといったことは以前から取り組んでいて、新たにお客様向けの領域でもAIの使い方を模索しています。体力があって利用者の“便利さ”を追求する企業はどこも取り組むはずなので、当社はむしろ非合理な世界でAIを活用したいですね。

─非合理な世界とは。

 創業のビジネスである頒布会が成功した一番の要因は「お世話係さん」の存在です。お世話係さんが各企業にいて、無償で当社商品を従業員の方々に紹介するなど、当社のアウトプットとエンドユーザーの距離を縮めてくれていました。49年前に始めたカタログ通販ビジネスでは、お客様の家にドアノックをして紙のカタログを配り、当社の世界観を伝えることで商品を買ってもらっていました。ただ、そのカタログ1冊の中に、すべての商品があるわけではなく、お客様のために編集してご提案するのがカタログです。

 お世話係さんやカタログの誌面作りというのは、非合理な世界です。26年にはOpenAI社が新しいデバイスを発表して、スクリーンを必要としない音声を軸にした世界に移行すると言われていますが、これは完全に合理的な世界です。ビジュアルもいらないし、自分の家族よりも信頼できるAIエージェントが出てきて、その人に頼めば何でもそろう世界ができあがるとしたら、ベルメゾンは何をしたら良いのかとなります。資金力のある会社が集まって作り上げる超合理的な世界に飛び込んでも生き残れないので、非合理なお世話係さんとか、カタログのように、お客様との距離感をしっかり縮められるものを、AIというツールを使って合理化していきます。

52週MDへの対応が肝に

─社長就任から約9カ月が経ちました。再生計画の進捗はどうですか。

 事業の継続に向けて真っ先に取り組まなければいけない部分から着手していて、例えば、子会社が運営する千葉県内のコールセンターを閉鎖して、その分の業務を大阪と福岡のセンターに引き継ぎました。コールセンターや物流拠点などの守備面については、売上高2000億円規模に合わせて整備してきたので、今の規模感では縮小せざるを得ません。千葉のコールセンターは土地と建物を保有していたものの、従業員は閉鎖する前からすごく少なく、持て余していました。自分たちの事業サイズに合わせながら、固定費だったものを変動費化していくことも必要です」

─インフラ以外ではどうですか。

 中核事業のベルメゾンに関しては、再生計画を25年2月に発表して、社内のベクトルを合わせるために頻繁にコミュニケーションをとっています。取締役のふたり、私と三村常務が各部署の社員と話をする機会は過去と比べて相当多くなったと思います。ちょっとした認識のズレが現場のアクションの遅延などにつながってしまうので、認識のすり合わせを常にしています。

─改革のスピード感は。

 スピード感という意味では少し時間がかかっていますが、26年度の黒字化に向け、遅れている部分はすべて成長余白だと思っていて、自信はあります。1~9月期の業績としては、売上高は想定より少し低いものの、損失額は減らせています。コールセンターの閉鎖など分かりやすい部分は素早く利益に反映されていますが、売り上げが思ったよりついてこないのは難易度の高い変革の部分です」

─具体的には。

 カタログ依存からの脱却で、これが相当難しいです。カタログをやめるわけではないので、カタログを残しつつ、カタログに依存しない業務フローに変えることの難易度が高いです。再生計画の中では「52週MDに沿った売り場の企画運用」を掲げています。他社の成功事例を勉強させてもらって当社用に落とし込みますが、現場はカタログを年間4冊制作するという意識、行動がワークフローとして固まってしまっているので、これを52週に変えるのは並大抵の努力ではできません。ベルメゾン事業本部内にバリューチェーン開発室という部門があって、7~8月くらいにはそのアウトプットが出ている予定でしたが、ようやく形ができ始めています。この52週MDが常態化すれば、売り上げへのインパクトが大きくなるはずです。

──主力のベルメゾンはアラウンド50にターゲットを絞りました。

 通販サイト「ベルメゾンネット」のトップページも、従来の全世代向けをやめて、アラウンド50のお客様に向けたコンテンツやビジュアル、コピーワークに絞り込んだ見せ方をしていて、ターゲット層の再訪率が上がり、購入回数も上がってきています。

 アラウンド50のお客様に絞り込んだので総セッション数は減っていますが、これは想定通りです。「ベルメゾンネット」で減る子育て世代などのお客様は外部ECモールなどを通じて獲得していきます。実際に外部ECモール経由の売り上げは前年を超えていますし、「ディズニーファンタジーショップ」を軸に強化中のリアル店舗は、店舗のオリジナル商品が好評で、売上高も10%くらい伸びています。

─52週MDに対応するために必要なことは。

 一番大きいのは社員のマインドチェンジで、なぜ52週MDが必要なのかを全体戦略として把握しながら、個別の業務に落とし込むことが大切です。EC販路だけで戦っているアパレルの会社からは、2週間に1回は新商品を出さないとユーザーが離脱すると聞いているので、高頻度で新商品を出していくモデルを作り、在庫回転率を見ながらPDCAを回していくことに挑戦しなければいけません。「ベルメゾンネット」の再訪率や購入回数が増えていますが、新商品を高頻度で出し続けなければ下がってしまうのは明らかで、商品の開発スピードが重要になります。

SNS活用などで成果も

─プロジェクトチームを立ち上げ、千趣会らしい自由な発想で作った商品は販売を始めていますか。

 当社らしいユニークな商品はすでに販売を始めていて、いくつかの商品はSNSでバズって受注にもつながりました。「デスクにもなるヌック本棚」や「ずらっと本が並ぶベッドになるマルチユニット」、バッグシリーズの「モッテミー」などがそうで、「ずらっと本が並ぶベッドになるマルチユニット」は、当社がカタログ通販で取り組んできた“シーンメイキング”の考え方が宿っている商品だと思います。

 この商品を考えたバイヤーは、子どもと添い寝をするときに、子どもから「あの本読んで」とせがまれる度に立ち上がっていて、「ベッドの下に本棚があればいい」という発想から生まれました。ベッドの下というデッドスペースを活用するのはもちろんですが、当社が大事にしているのは、子どもと親が寝る前に過ごすひと時を最高な時間にしてあげたい。そういうシーンを想像すると、子ども用のパジャマだったり、照明だったりと、一緒に提案できる商品が次々と浮かんできます。

─SNSで打ち出す商品もそういったユニークな商品を重視しているのでしょうか。

 現状では、綿混あったかインナーの「ホットコット」や、汗取りインナーシリーズの「サラリスト」、あったかファブリックシリーズの「メルトロ」など、以前から売れている強い商品に人とお金をかけることが多いですね。30代以下の子育て世代向けの戦略としてSNSを重視していて、SNS経由の商品購入が想定以上に浸透しています。

─再生計画の成果はどうですか。

 損失額が想定よりも縮小しているのは、例えば、販促費の中で「これを減らしたらダメでしょ」という固定概念があったものについてもバッサリ削っていて、販促費率が劇的に下がっています。減らしたのは、主にはECの外部販促になります。

60代以上のお客様にはカタログで攻めることを決めた

60代以上のカタログが好評

─カタログについては。

 以前は“デジタルシフト”の名の下にカタログからデジタルに振り切るような戦略をとろうとした時期もありましたが、再生計画ではアラウンド50と、60代以上のグランドジェネレーション向けでカタログの作り方を変えています。60代以上向けのカタログは非常に好評を得ています。一方で子育て世代に向けてはカタロをやめたことでPLが大きく改善し、お金の使い方としては想定以上に成果が出ています。

─グランドジェネレーション向けのカタログが好調に推移しています。

 60代以上にはファッションと暮らしのカタログ「イロドリスタイル」を10月に創刊したところで、他のカタログよりも発行頻度を高めて26年は6~7回発刊する予定です。60代以上のお客様にはカタログで攻めることを決めたので、積極的に仕掛けていきます。ここが従来のデジタルシフトとは異なる部分です。デジタルがベースの生活にはなりましたが、手段をすべてデジタルに切り替えるということではありません。60代以上のお客様はカタログをちゃんと見て買ってくれています。

─グランドジェネレーション向けは他の媒体も展開しています。

 元々、大丸松坂屋百貨店さんから引き継いだカタログを「クラス」という名前で展開していて、今でも出していますが、この世代に向けても当社独自のカタログを発刊しようということで、「わたしの彩り」というカタログを24年4月に創刊しました。このカタログを今回、少し若返りを図って「イロドリスタイル」にリニューアルし、好調に推移しています。グランドジェネレーション向けと子育て世代向けは成果が出始めていますが、やはり一番難しいのがアラウンド50のお客様ですね。

─アラウンド50向けにもカタログは展開しています。

 カタログも発刊しますし、「ベルメゾンネット」やSNS活用も磨いていきます。アラウンド50のお客様に向けては「ベルメゾンファッション」というカタログをリニューアルして「フフマガジン」というファッションカタログを10月に創刊したところです。

─IPビジネスについては。

 IPビジネスは年齢層や外部チャネルの活用などで親和性の高い、30代以下のお客様を対象とする部門と一緒にしたところで、26年度のIPビジネスは相当伸びると思っています。当社はウォルト・ディズニー・ジャパンさんと30年タッグを組んできてライセンス管理の実績があります。26年度はさまざまな取り組みが実現する予定で、ポップアップストアを含めたリアル店舗の展開も強化していきます。

─26年度に黒字転換するために不可欠な要素は何ですか。

 黒字化するには売り上げを上げることが必須です。通販事業の売上高はコロナ禍の最初の年に巣ごもり需要があった時を除いて右肩下がりの状況が続いていますが、25年度に実施してきたIPビジネスの仕込みや子育て世代向けのSNS戦略、グランドジェネレーション世代へのカタログ展開はすべて蓋然性が高いので計画通りの数字を作れるはずで、やはり本丸のベルメゾンが再生計画のカギになります。



鈴木聡(すずき・さとし)氏

1976年6月13日生まれ。2005年9月千趣会入社。19年4月ベルメゾン事業本部ホームファッションユニット部長、20年1月ベルメゾン事業本部ママ&チャイルドユニット部長、23年4月執行役員、ベルメゾン第2事業本部長、25年3月代表取締役社長執行役員(現任)

◇ 取材後メモ

2025年3月に就任した鈴木社長は49歳と若く、非常にアクティブです。社長就任以降、さまざまな情報を得るべく大手企業からベンチャー企業まで自らが訪れています。「千趣会の社長ですと言えばたいてい会ってくれます」と鈴木社長。飛び込みで訪問することもあるようで、しかも「大阪市内であれば自転車で向かいます」というほどのフットワークの軽さです。

 3カ年の再生計画が2年目に突入し、26年度は増収と黒字化に向けて本丸であるベルメゾンの復活を掲げます。ターゲットのアラウンド50の女性は紙媒体の良さもネットの手軽さも熟知している世代なため、カタログもECもどちらも手を抜けません。休眠会員も多いという同世代の支持を得て、復活する姿を早く見たいですね。

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