市場の再定義に挑むパーソナ ライズの潮流は拡大するか 化粧品・健食のパーソナライズ

「モノ」のパーソナライズが進行している。「広告」や「コンテンツ」のパーソナル化が進み、個々の消費者が接する世界は多様化。その潮流は、着実に「モノ=商品」にも押し寄せている。フリーマーケットやシェアリングなどプラットフォームを介したサービスの伸長を背景に、EC市場でもパーソナル化粧品・サプリメントを展開する新興企業が台頭している。これら企業は、オンラインを起点に、オフラインを含む市場の再定義に挑む。一方、メーカーサイドの都合で築かれてきた旧態依然とした既存流通の慣習はさびついたものになりつつある。オンラインの強みを活かし実現を目指すパーソナライズの潮流は今後も拡大していくのか。

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「答え」提案の市場に変化

「これまでの化粧品市場はこれが正解ですと『答え』を提案してきた市場。一度購入すると同じ商品を使い続けて、というものだった。だが、消費者のし好は、季節やその時の感情で変わる。僕らは、顧客に寄り添い、ともに納得感のある商品をつくっていく」─。パーソナル化粧品を提供するある企業の社長はこう話す。

既存の化粧品通販大手の代表も危機感を示す。「これまでリアルの市場でも肌診断機器を使い、カウンセリングで個々の顧客対応は行ってきた。でも顧客は、デパートのカウンターでカウンセリングを受けた後、これがいいですよ、とカウンターの奥からどんな商品が自分に合ったものとして提案されてくるかが分かりきっている」。現在、市場のシェアを握る多くのブランドは、最大公約数に適したブランドを設計。顧客に提案するものだった。だが、デジタル化の進展を背景に、これまで企業の成長を支えてきた大量生産・大量消費の時代は終焉を迎えつつある。

最初に顕在化したのは、「広告」だ。デジタル技術を背景に、個々のユーザーに配信される広告配信はターゲティングされ、最適化されるようになった。

次にその波に飲み込まれたのは、「コンテンツ」だ。グノシー、ニュースピックスなどのキュレーションメディアが台頭。ツイッター、フェイスブック、インスタグラムなどSNSの普及を背景に個々のユーザーは自らの「関心軸」で結ばれるようになった。消費者は、自らに最適化された情報から世界を見るようになる。個別に全く異なる世界を見るようになった。

「体験」に価値見出す消費者

「ターゲットとなる20代半ばから30代前半の女性は、そもそも検索行動をしなくなっている」。パーソナルシャンプーブランド「MEDULLA(メデュラ)」を展開するSparty(=スパーティー)の深山陽介社長はそう話す。「広告」があふれ、「情報」があふれ、「モノ」があふれる時代。その中で、消費者の購買行動も変化しつつある。

顕著なのは、広告だ。「まず情報のとり方がそう。消費者は広告か広告でないかに非常に敏感になっている。決められたものではなく、本当によりリアルな自分のことを知りたいと思っている」(前出の既存大手代表)。より自分に合ったものを選択したいと思う一方、で、「何が正しいかを選別することが苦痛になっている」(前出のパーソナル化粧品の提供企業)。「では、テレビが正しいことを言っているかといえばそうでもない。そんな時代の中で正しさの担保をどこにおけばよいか、何が正しいか判断できなくなっている。思考停止して、何を買ったらよいか分からないという人が増えた」(同)。需要の形が捉えにくくなる中、消費者は、「モノ」を介した「体験」に価値を見出し始めている。

新たな美容サービスのあり方提案

スパーティーは購入体験でも顧客のテンションを高める工夫をする

パーソナルシャンプーを提供するスパーティーが顧客に提案するのは新たな美容サービスのあり方だ。「まず店頭に置けないほどの処方の幅があり、それをオンラインを起点にあいまいさを形にしてあげるところにまず価値がある。加えて、季節やその時の感情によって合っているものも変わる。持っている処方の中から顧客の悩みに寄り添ったものをともに選び、納得感をつくりあげていく」(深山社長)。そのために購入体験、商品配送時の体験、パーソナル処方といった要素が必要とする。

オンライン診断では、髪の「ダメージレベル」や「なりたい髪」など9つの質問を行う。診断は、あみだくじ構造になっており、導き出された答えからシャンプーとトリートメントの組み合わせ約3万通りの中から提案する。17年7月の設立以降、すでに会員数は6万人を突破。月間売上高は、1億円を超えているとみられる。

オンライン診断で独自処方

診断や商品提案のプロセスでは、女性の気持ちを高揚させる工夫も行う。技術的には、スマートフォン上で診断からすぐに商品提案することも可能なだが、あえて処方調合のアニメーションを流すことで、「自分だけ」の処方が完成するまでのワクワク感を演出。配合箱には、顧客自らが選んだ処方と同じ香りづけを行うことで、商品の開封時の「体験」を演出する。自らのネームプレートが添えられた商品、髪の状態や処方の内容が説明されることで顧客は「ああ、確かにそうだよね。確かにそんな成分必要。じゃあ、これでいいか」という感じで商品購入につながるという。診断から商品購入のプロセスにおける「体験価値」が、顧客の満足感を高めているわけだ。「細かなところだが、女性が喜ぶような画面の動き、買うまでテンションをあげるような工夫をしている。例えば香りの選択でも、香りの種類を前面に出すのではなく、『テーマを選んで』とすることで、どんな商品が出てくるのだろうとテンションを上げる工夫をしている」(同)と話す。

中でも重視するのが、顧客から商品の利用後に寄せられる「フィードバック」だ。

顧客は商品を購入すると、毛髪診断士の資格を持った担当スタイリストが相談に対応することになる。利用後は、フリーコメントと選択式の質問から商品の評価をフィードバックすることができる。担当スタイリストは、その解答や過去の購入を踏まえ処方を変更。顧客は、より自分に合った商品が届くという「体験」ができる。これが1回目の購入で満足感が得られなかった顧客の離脱防止にもつながっている。

独自のオンライン診断を採用するため、システムは独自開発。ただ、「ロジックはあくまで人の判断を決定するための道具。美容は非常にあいまいで答えがあるようでない世界。ロジックだけで商品が選ばれるべきではなく、『フィードバック』がある。最後は人間同士のコミュニケーションが満足度を決定する」(同)としており、複数回購入の連続性などは、最終的に人が判断する。

質問の重みづけも日々更新する。例えば、「なりたい髪」の重みづけを強くすることで満足度が高まる傾向もみられたという。「男性目線では課題があり、これを解決する『悩み最適』の商品がよいように思うが女性は異なる。ロジックの変更で満足度が変化するのは、パーソナライズならではの面白さ」(同)と話す。

今後、オフラインにも進出していく。現在、100を超える美容室と提携しており、サロンにおけるオンライン診断などのサービスの提供でブランドの浸透を図っている。19 年12 月には、都内に期間限定店舗の展開も行っており、将来的に常設店の展開も視野に入れている。

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