有力アパレルのEC業績は?ーー販売スタッフの影響力拡大自社ECはモール型が優勢

 2月~3月に本決算を迎えた有力アパレルのEC売上高が出そろった。昨年5月に新型コロナが5類感染症に移行し店頭の客足が戻る一方、ECチャネルはコロナ禍ほどの高成長が難しくなっている。それでも、好調を維持している企業はモール型の自社ECで数多くのブランドを扱ったり、SNSやEC上で店頭スタッフの露出を増やしてインフルエンサー化したりと、いくつかの共通点が見られる。有力アパレルのEC業績と足もとの注力施策などを見ていく。

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SNSの分析や研修を徹底

 前期はアパレル店頭の回復に伴い、ECよりも実店舗向け在庫を厚くする傾向が強まる中、ECチャネルが2ケタ成長したのはアダストリアとパルの2社だ。

 両社は多くの人気ブランドを扱うモール型の自社ECを運営。ユーザーがブランドの垣根を越えてストレスなく買い回りできる環境を整えているほか、自社ECのスタイリングコンテンツやSNSを駆使して店舗スタッフのインフルエンサー化を強力に推進。スタッフ個人についたファンをリアル店舗や自社ECに送客している。

 加えて、「ゾゾタウン」でも売れる商品を開発することで外部ECモール経由の販売も好調なことがEC売上高の拡大につながった。

 アダストリアの2024年2月期のEC売上高は前年比10.1%増の689億円となり、3期ぶりに2ケタ成長に戻した。

アダストリアはスタッフスタイリングのコンテンツが人気

 同社はスタッフのインフルエンサー化に力を注いでおり、前期は期初にインセンティブの拡充や教育研修、SNS分析ツール導入によるスタッフのサポート強化などに取り組んだ結果、スタッフ個人のSNSと、自社ECのスタイリング投稿コンテンツ「スタッフボード」を合わせた総フォロワー数は1年前の573万人から1035万人にほぼ倍増。自社EC売上高のうち、スタッフボードおよびSNS経由の売り上げが約3割を占めた。

 また、前期はEC専業のオープンアンドナチュラル社のグループ入りが寄与して自社通販サイト「ドットエスティ」が伸びたほか、外部ECモールの販売も好調だった。

 30以上の自社ブランドを取り扱う「ドットエスティ」の会員数は前年から200万人増の約1750万人に拡大。自社ECとリアル店舗におけるドットエスティ会員の売り上げ比率は約7割で安定的に推移しており、リピート顧客に支えられていることが業績の安定性
につながっている。

 OMO施策では、自社ECでカード決済した商品を実店舗で受け取れる「お店で受取」サービスを23年10月に強化。従来から展開している複数ブランドの複数商品を約1週間後に1店舗でまとめて受け取れる「マルチピック」に加え、1回に1商品だけとなるが、店舗在庫を確保することで最短翌日に受け取れる「クイックピック」をスタートした。

 自社ECで外部ブランドの商品を販売する“オープン化戦略”については、24年2月末時点で8社9ブランドが出店。シューズやインナー、ペット用品などの商品カテゴリーの充実化を図った。

総フォロワー数1500万人超

 パルの24年2月期のEC売上高は前年比22.3%増の484億円と高成長を維持し、衣料品売上高に占めるEC化率は40.4%と4割台に乗せた。

 EC売上高の内訳は「ゾゾタウン」経由が前年比18.9%増の247億円、50以上のブランドを取り扱う自社通販サイト「パルクローゼット」が同25.4%増の193億円などとなり、自社EC比率は39.8%だった。

 同社はコロナ禍で販売スタッフによるSNS配信や、ECコンテンツでの露出拡大を図ってきた。とくに、前期末時点でフォロワー総数約1500万人に上るインスタグラムなどスタッフ個人のSNSアカウントから積極的な発信を行い、反応の良い商品をさらに集中的に発信。プロモーション効果の最大化を図り、ECだけでなく実店舗の売り上げにも貢献した。

 前期はインフルエンサー化したスタッフがフォロワー向けに商品を企画する取り組みを強化したほか、今後の成長に向けた施策としてAI活用も検証。例えば、200人以上のインフルエンサースタッフのインスタグラムに投稿されたデータを分析して各スタッフの話し方や価値観などを学習し本人と会話をしているような体験を提供するAIチャットサービス「ファッションメイト」を始めた。

 今期はインフルエンサースタッフによる商品企画とAI接客を組み合わせた取り組みにも挑戦。4月のイベント「春のパルクロウィーク」ではインフルエンサースタッフが考えた春向けアイテム全10型を提案するとともに、ページ内では当該スタッフと話しているような擬似チャット接客を楽しめるようにした。

店舗取寄せの対象店が6割に

  オンワードホールディングスの24年2月期の国内EC売上高は前年比6.5%増の477億円で、EC化率は29.8%だった。オンワード樫山を中心とした自社EC売上高は同6.4%増の410億円、外部ECモール経由の売上高は同7.1%増の67億円となり、自社EC比率は85.9%と引き続き高い水準を維持した。

 前期は自社通販サイト「オンワード・クローゼット」で扱う商品を店舗に取り寄せて試着、購入ができるOMOサービス「クリック&トライ」の利用拡大や、SNSを活用したマーケティング施策の精度が上がったことなどから、実店舗およびオンラインストアへの来客数が増加した。

自社 EC 比率が高いオンワードの通販サイト

 2月末時点の「クリック&トライ」導入店舗数は、前年比57店舗増の397店舗に拡大。導入率は58%まで高まった。「クリック&トライ」の予約点数は前年比3万2000件増の12万6000件で、導入店舗の売上高はコロナ前の19年度を16%上回り、未導入店舗を25%上回るなど、実店舗の売り上げ拡大に貢献した。

 また、同社はブランド複合型店舗「オンワード・クローゼットセレクト(OCS)」の展開を拡大。OMOサービスを実装してオンワード樫山の複数ブランドを横断的に取りそろえることで、OCS店舗売上高の前年比はOCS以外の既存店を22%上回った。

 今後はさらに「クリック&トライ」の導入店舗を増やすほか、現在のOCCSOCS店はオンワード樫山のブランドが中心のため、樫山以外のグループブランドを取り扱うことで利便性を高めたい考え。

販売員のコーデ画像投稿を拡大

 ユナイテッドアローズは、24年3月期のEC売上高が前年比5%増の320円となった。

 前期は販売活動のDX化を推進。実店舗の接客力をデジタル化して売り上げ拡大につなげた。約1000人のスタッフが11万件を超えるスタイリング画像や動画を自社ECに投稿。投稿画像経由の自社EC売上高は前年比32%増の95億円に拡大し、自社EC売上高の70%強を占めるコンテンツに成長した。

ユナイテッドアローズは会員プログラムをリニューアルした

 また、23年8月に新しい会員制度「UAクラブ」をスタート。前期末時点のアクティブ会員は137万人となり、会員売り上げは前年比7.2%増加、会員の売上高構成比も同1.8pt増の53.8%に高まった。新会員制度は顧客のLTVを高めることを目的としており、年2回以上買い物をした会員の比率が49.2%となり、前年から0.6pt上昇した。

 こうした取り組みによって、前期の自社EC売上高は前年比13.0%増の116億円に、自社EC比率は前年比2.4pt増の36.5%に拡大し、ゾゾタウン経由の売上高130億円に迫ってきている。

 今期は接客力のデジタル化を引き続き強化する。前期は投稿数の拡大に注力したため投稿が特定品番に片寄るケースがあったが、今期はシステム面のサポートで幅広い商品をまんべんなく紹介できる仕組みを整える。また、自社ECへの投稿に加えてインスタグラムとの自動連携も図ることで顧客接点拡大による新規顧客開拓につなげる。

 加えて、前期は売り上げが回復した実店舗への在庫投入を優先したが、今期はEC在庫も十分に確保する考え。また、3月末からは自社ECで午前11時までの注文分を当日中に発送する即配サービスを一部商品で開始するなど、自社ECの利便性向上にも努めており、今期のEC売上高は前年比16.6%増の373億円を計画する。

店舗とECの連携強化へ

 また、ワールドの2024年2月期は11カ月の変則決算となるが、EC売上高は438億円と順調に成長した(※23年3月期は462億円)。

 前期は、これまでと継続して自社通販サイト「ワールドオンラインストア」で人気のスタイリングコンテンツ
「スタイルスナップ」を軸に店頭との連動が奏功したほか、OMOの取り組み効果も出てきているという。また、オンライン上での集客施策拡大や特集ページの打ち出しもECの成長に寄与した。

 OMO施策については、24年3月に自社ECと連動したOMO型ストアを有楽町マルイと国分寺マルイに相次いで出店。まずは8ブランドの品ぞろえを展開する新業態とし、各ブランドの新作の販売はもちろん、ブランドの垣根を超えた取り寄せ・試着サービスを提供するほか、実店舗ならではの接客サービスを通して新たな買い物体験を提案する。

 同社はこれまで、自社ECで注文、決済した商品を実店舗で受け取ることができる「店舗受け取りサービス」を実施しているが、対象店舗は購入した商品のブランドだけだった。

 OMO型ストアでは、対象の8ブランドについて、決済前の商品を有楽町マルイ店か国分寺マルイ店に取り寄せて試着し、気に入ったものだけを購入できるようになる。


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