注目3社が語るブランディング戦略とは? ーー ~I─ne、ランクアップ、DINETTEによる座談会~

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誌上セミナー「D2Cの会フォーラム2024」の「売上をアップする『ブランディング』」より

 2月~3月に本決算を迎えた有力アパレルのEC売上高が出そろった。昨年5月に新型コロナが5類感染症

 売れるネット広告社は6月13日、都内で通販事業者向けイベント「D2Cの会フォーラム2024」を開催した。その中で実施したセミナーの中から、I─ne執行役員CSOの伊藤翔哉氏、ランクアップ取締役副社長の日髙由紀子氏、DINETTE代表取締役CEOの尾﨑美紀氏とモデレーターのofficeK代表取締役の田岡敬氏によるトークセッション「売上をアップする『ブランディング』」を紹介する。D2Cに欠かせないブランディングについて、有力各社の取り組みを見ていく。(内容の一部を抜粋・要約)

ブランドの理念をメンバー全員で共有

6月 13 日に都内で開催したイベント「D2C の会フォーラム 2024」で実施したセッション「売上をアップする『ブランディング』」の様子(左から officeK 代表取締 役の田岡敬氏、I ─ ne 執行役員 CSO の伊藤翔哉氏、ランクアップ取締役副社長の日髙由紀子氏、DINETTE 代表取締役 CEO の尾﨑美紀氏)

 I─ne・伊藤翔哉氏(以下、伊藤):当社はクリエイティブには強いこだわりを持っており、約350名の社員の中でブランディングに関わるメンバーは約80名。メーカーにしてはかなり人件費をかけている方だと思います。ブランドの世界観を統一するため、SNSもブランディングチームで動かしています。

 officeK・田岡敬氏(以下、田岡):ブランド数は。

 伊藤:当社の中で100億を超える主力ブランドは、ボタニカルライフスタイルブランド「ボタニスト」、ナイトケアビューティーブランド「ヨル」、ミニマル美容家電ブランド「サロニア」。それ以外は成長中ブランドという位置づけで現在は約15あります。

 田岡:具体的なブランディングの方法は。

 伊藤:ブランディングの定義として、意図した連想をできるだけ多くのBOSS(お客様)の頭の中(社内外全て)にイメージとして創り出すことを重視しています。最初にブランドディレクターとブランドマネージャーが中心になってブランドアイデンティティ(BI)を作り、その後からこの定義を意識するという流れになります。ブランドに込められた思いや意味、使用シーンのイメージなどをビジュアル化し、ブランドディレクターが勉強会を通じてチーム全員に共有しています。例えば「ボタニストはこういうブランドだ」と定義しても、様々な関係者が増えていく中でBIは次第に薄れていきますので、全員で認識を統一することが重要です。昔から続く当社の文化でもあります。

 田岡:チーム間のコントロールは難しくないですか。

 伊藤:ブランドローンチ時など、各部門が一斉に動くと必ずズレが生じます。特に広告。セールス部門からすると、広告の手法や内容をブランドディレクターに逐一チェックされるのでストレスになる部分も多いですが、当社が数字を伸ばしている理由は、ブランディングへの強いこだわりがあるからです。セールス部門には、ブランディングチームがベースとなるCVRを作っていることを伝えています。ブランドの勝ち方の一つの重要な強みとして、どの部門もその点を認識しなくてはいけません。ただ、成長中のブランドなどではあまりガチガチに(施策の方針を)固めず、チームで議論することも大切にしています。

I ─ ne のブランディングの定義は意図した連想をできるだけ多くの BOSS(お客様)の頭の中(社内外全て)にイメージとして創り出すことを重視
I ─ ne では創業時からブランディングやクリエイティブは内製化。総合クリエイティブエージェンシー的な動きをとっているという

 田岡:社員数が多いですが、ブランドごとのコミュニケーションはスムーズに取れるのでしょうか。

 伊藤:取れています。自分が所属するブランドの会議と同じくらいセールスの会議もあり、どちらも非常に数が多いです。「振り子の思想」で具体と抽象を行き来しながら、メンバー全員に両方の脳みそを使ってもらっています。伊藤:創業時からブランディングやクリエイティブは内製化しています。D2Cマーケターの方は広告のクリエイティブをメインに語ることが多いですが、当社はコアを社内で考え、(制作を一部外注する場合も)全てのアウトプットを包括してディレクションしています。総合クリエイティブエージェンシー的な動きです。

 田岡:ブランドの再現性についてはどうですか。

 伊藤:入社時にブランディングについて深堀した動画を視聴する機会を設け、理解を深めてもらっています。ブランディングチームだけではなく、アルバイトも含めた全社員が対象となります。実際、ブランドを作る時には各部門がいろいろな意見を言うわけですが、ここでの学びが生き、結果的にブランド構築はスムーズに進んでいます。

 田岡:ブランディング広告の考え方については。

 伊藤:投資額に対するオーガニック売上の比率を見ています。年間で同じ広告費を投下しても全く違う結果になることもあるので難しいですが、現在は全国でバス停広告を展開しているほか、メディア向けの発表会やメディアとの対話などにも投資しています。雑誌への出稿など、ある程度効果が見込めるなら「一旦やってみよう」という文化のもとで進めています。

会報誌で熱狂的なファンを獲得

 ランクアップ・日髙由紀子氏(以下、日髙):当社は主に「マナラ」という化粧品ブランドを展開しています。このブランドは代表の岩崎の肌悩みを解決するために誕生しました。私自身も肌にコンプレックスがあり、自分たちが理想とする化粧品を作りたいという思いで創業しました。主力製品の「ホットクレンジングゲル」を発売した頃は、価格が4000円代で(市場では高額のため)絶対に売れないと言われていましたが、今はアジアを中心に世界中で販売しており売上額は65億円。総売上の半分を占めています。

ランクアップが考えるブランディングは「想いを伝える」こと。
会報誌やイベント、オンラインなどを通じて顧客に想いを伝えている

 田岡:ブランディングの取り組み事例は。

 日髙:私たちが考えるブランディングとは私たちの創業、開発ストーリーなど「想いを伝える」こと。2022年9月からは「熱狂的なファンに支えられる化粧品会社になる」という3カ年計画を定め、今期は特に「想いを伝える」という視点で各部署がアクションプランを考えて取り組んでいます。一番大事にしているのが会報誌です。紙面は48ページで、すべて社内で制作しています。1年前からは新たにロイヤルカスタマー向けの会報誌も発行しました。顧客からは毎日社長室ハガキやアンケートが返ってきます。

 田岡:会報誌は何人で制作しているのでしょうか。

 日髙:販売促進部の営業企画チームで、企画立案が約10名、制作が約5名です。企画からデザインまで全て内製化しています。会報誌以外にもDMやメルマガなど様々な業務をこなしながら制作しています。以前、会報誌はリソースもコストもかかり、作業が大変な割にレスポンスが確認しにくいため、ページ数を削減してコミュニケーションツールに特化したことがありました。その分、DMを追加して売り上げを補完しようとしましたが、2号連続で定期人数、売り上げともに大幅減少となり、慌てて元に戻しました。

 日髙:会報誌に加えて大事にしているのはお客様に会って直接想いを伝えること。オフライン、オンラインイベントや座談会など「会える通販」を掲げ、対面することでお客様の熱狂度が上がることを実感しています。

 田岡:成果は。

 日髙:目標数値はあえて設けていませんが、指標として「ロイヤルカスタマー人数」の推移を追っています。2022年から会員制度を作り、年間購入額ごとに「マナラブ様」、その上が「レジェンド様」と分けているが、2024年9月の達成率見込みが「マナラブ様」で174%、「レジェンド様」で306%と、過去最高のアップ率となりました。様々な施策の効果が総合的に効いています。日髙:社員のマナラブ率は41%。定番商品は社販もあるが、その分を除いても高い率で社員がロイヤルユーザーであることも当社の特徴です。

 田岡:その他の取り組みは。

 日髙:今年5月にお客様の肌診断やお肌のカウンセリングを目的とした「ビューティールーム」を会社の近く(中央区銀座)に開設しました。すべて社員で運営しています。会社全体では売り上げ、稼働顧客人数など、もちろんKPIを設定し、経費についても投資対効果を厳しく見ていますが、このビューティールームなどの顧客サービスにおいては費用対効果を追求せず割り切って進めています。そうしなければ目的が変わってしまい運営できません。リアルの場で顧客と社員が会うとオフ会のようなノリで非常に盛り上がります。発見や気づきも多く、顧客の熱量も高まるので非常に価値があると考えています。


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