プロの目利きで有望企業と新事業創出へ  遠藤孝一●テレビ東京ダイレクト代表取締役社長

テレビ東京ホールディングスの通販事業子会社のテレビ東京ダイレクトがオイシックス・ラ・大地の子会社が運営する食領域に特化したベンチャーキャピタルファンドに出資した。有望なスタートアップ企業らと組み、同社の通販事業などと組み合わせることなどで食分野において新たな事業を創出したい狙いだ。また、オイシックス・ラ・大地本体との連携も模索していきたい考えもあるようだ。同社の遠藤孝一社長が描くファンドへの出資の狙いとは──。(聞き手は本誌・鹿野利幸)

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勢いのあるスタートアップと組んで新しい柱を作りたい

盛り上がるニューフード 市場へ

─6月に食品EC大手のオイシックス・ラ・大地の子会社のFutureFoodFund(フューチャー・フード・ファンド)が運営する食領域に特化したファンドでオイシックス・ラ・大地を始め、モスフードサービス、大和フード&アグリ、豊田通商らが出資する「FutureFoodFund1号投資事業有限責任組合」に出資しました。目的は何でしょうか。

  我々のビジネスをこれまで以上に拡大したいと考えた時、我々だけの力では限界があると考えたわけです。そこで有望で勢いのあるスタートアップ企業と協業することで何か新しい領域で柱となる事業ができないかと以前から考えていました。そこで昨年あたりから様々なスタートアップ企業と話をしてきました。

 当初は金融機関などから紹介を受けて自分たちでお話をさせて頂いておりましたが、その道のプロではない我々が個別に交渉していくのは難しい部分もありました。であればプロであるファンドに出資することで、ファンドの目利きで有望だと判断されたスタートアップ企業と連携できればと考えました。


オイシックス・ラ・大地の子会社のFuture Food Fundが運営する食領域に特化したファン ド「Future Food Fund 1号投資事業有限責任組合」に出資した(同ファンドのウェブサイト)
─ 出資先にFuture Food Fundを選んだ理由を教えてください。

 我々は食品通販事業「虎ノ門市場」を展開していることもありまして、食領域のビジネスに興味がありました。オイシックス・ラ・大地は食品宅配の大手であり、その子会社でニューフード、フードテック、ファームテックのスタートアップに出資するというFuture Food Fund も食領域において確かな目利き力を持っていると判断しました。欧米では代替肉や植物性ミルク、完全栄養食などの「ニューフード」市場が誕生し、ITを駆使してヴィーガン食品やクラフト食品を扱う「フードテック」と呼ばれる食のイノベーションがこの2~3年で急拡大しており、日本にもその流れが本格的に到来すると言われています。日本では今はまだまだ大きく盛り上がってはいませんが、いくつかの食品メーカーがニューフードを市場に積極的に投入し始めるなど、その兆しは見え始めていまして、今後、盛り上がっていくだろうと考えており、当社としても注目しております。

─ Future Food Fund1号投資事業有限責任組合への出資額について教えてください。

 Future Food Fund1号投資事業有限責任組合の総額は20億円です。そのうち、我々がどの程度、出資しているのか詳細は言えませんが他の出資企業と同じように数億円程度は出資しています。

─ Future Food Fundへ出資したことで具体的にどのようなスタートアップ企業と協業していこうと考えているのでしょうか。

 Future Food Fundでは現状、MiL、 ファームノート、Fifty Food Inc、HiOLI、ベースフード、フーズカカオの6社について支援していることを公表しています。そうしたシード・アーリー企業を支援すると同時に、手を組んで新たな事業ができればという期待はあります。また、ファンドを通じて、Future Food Fund1号投資事業有限責任組合としては出資には至らなかったものの、様々な有望な企業の情報などを把握できるわけです。そうした企業とも条件などが合致すれば、我々が個別に交渉して一緒にやっていきたいという想いもあります。ただ、まだ具体的にどこのスタートアップとは決定してはいません。

食の意識高い層へ展開

─テレビ東京ダイレクトが手掛ける食品通販事業の「虎ノ門市場」の商品は定番の食品がメインです。例えば代替肉などのニューフードなどとなるとターゲットが異なってくるようにも思えますが、連携の方向性はどのような形が考えられるのでしょうか。

 我々は通販事業「テレビ東京ショッピング」と「虎ノ門市場」を合わせておよそ170万程度の顧客情報を持っています。また、特に「虎ノ門市場」で販売していますこだわった食品は決して安いものではありません。そうした食品を購入されているお客様はある種、意識の高い層の方々と言えます。例えばですが、特にニューフードなどに関心の高いと思われそうな特定のターゲットに向けて事業を展開する形も考えられます。特定層に向けてメールやカタログなどの紙媒体で商品を紹介してみたりなどですね。また、「虎ノ門市場」のテレビ通販番組の特番としてニューフードを紹介してみてもよいかもしれません。例えばFuture Food Fundが出資しているスタートアップ企業の1社で主にチョコレート製品を取り扱うフーズカカオという企業と先日、話し合いを持ちましたが、非常に可能性を感じました。フーズカカオは最終製品も作っていますが、独自の優れた調達ルートを持ったカカオの原材料メーカーであり、パティシエなど作り手とコラボをして、素晴らしいチョコレート製品を作っていく取り組みも行っています。例えば我々の番組で料理人とフーズカカオのカカオを組み合わせて独自商品を作っていくなどの取り組みも考えられそうです。そうしたスタートアップ企業の最終製品を我々が販売するということだけではなく、我々のアセットである企画力を組み合わせて、例えば独自の商品開発や新しい売り方など様々な形を検討していきたいと考えています。また出資先の企業と組むことでOEM提供を受け、独自製品を作り、小売りや外食に向けた卸展開なども可能性としてはあると思います。

大きなリターンや成果より可能性を探り、“面白く”

オイシックス・ラ・大地 との事業連携も模索

─ファンドへの出資による事業面での効果と目標について教えてください。

ファンドに出資する以上、具体的な金額は言えませんが、リターンがあります。ここがまず事業面においては効いてきます。スタートアップとの連携についてはファンドの目利き力で、有望な企業とのコンタクトができるようになることで新たな柱となる新規事業の創出に期待しています。一緒に新たな事業モデルを作るなどの取り組みは少し時間がかかるかもしれませんが、例えば商品単位の取り組みであればそれほど時間をかけずとも何らかの取り組みができるはずです。早ければ今期中にも形にしたいと考えております。

また、FutureFoodFundへの出資を通じて、親会社であるオイシックス・ラ・大地との関係性を深めて事業の連携も進めていきたいです。実はオイシックス・ラ・大地の高島社長ともこの前、直接、お会いしてお話しをさせて頂いていまして、すでに色々と話し合いを始めています。オイシックス側が持つ顧客基盤や商品と我々のテレビメディアなどのアセットとどう連携されていけばよいかなどを考えていきたいです。

我々、テレビ東京ダイレクトはテレビ東京グループの中で唯一、BtoC領域では様々なことができる会社です。今回は食領域のファンドでしたが、場合によっては他の分野のベンチャーファンドにも条件などが合えば、同じように出資するかもしれません。同じく条件が合えば、スタートアップなどに対してM&Aを行う可能性もあるでしょう。大きなリターンや成果を期待するというよりも、とにかく色々なことをやって、様々な可能性を探っていきたいと考えております。せっかく様々なことができるのにやらない手はありません。そうでなければ面白くないでしょう(笑)。


遠藤孝一(えんどう・こういち)氏

1982年4月、テレビ東京入社。08年同社営業局長、12年執行役員兼BSジャパン(現BSテレビ東京)取締役、15年同社取締役アニメ局担当兼営業局担当補佐、16年テレビ東京ダイレクト取締役副社長、17年に同社代表取締役社長に就任。1959年8月24日生まれ。東京都出身。


取材後メモ

 在京キー局の中でも異彩を放ち、特に近年、高い企画力で高視聴率番組を次々に世に送り出しているテレビ東京ですが、その通販子会社たるテレビ東京ダイレクトも同社を率いる遠藤社長の下、独自の企画力などが光り、通販事業が急成長を遂げています。同社が次に目を付けたのが食領域。欧米では代替肉などニューフード市場が誕生し、食のイノベーションが急拡大しており、日本にもその流れが到来すると言われ、今後が楽しみな市場ですが、そうした変化の速い市場で商売を行い、成功を収めるためにはフットワークの軽さが必要でしょう。テレビ局を含め大企業は腰が重いのが常ですが、スタートアップとの協業を模索し始めたり、ファンドへの出資をいち早く決めるなどテレビ東京ダイレクトは良い意味で大企業然とせず、どん欲に可能性を模索し続けます。テレビ東京ダイレクトが食分野での今後どのような事業を展開していくのか、楽しみです。

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