中国に続く、新たな海外市場として注目されているのが東南アジア向けの越境EC。東南アジアは日本人が考えている以上に、ECが人々の生活インフラとして確立されている。それに加えて、今後の成長性の高さなど、参入するメリットがいくつか挙げられている。その一方で、現時点では日本からの参入企業数が少ないということもあって、まだまだ未知の要素もあり、進出する上で注意すべき点もいくつかあるようだ。東南アジア向け越境ECを行う上で外せないポイントや注意点などについて見ていく。
日本とは物価に大きな差
最初の注意点としてまず考えられるのが、現地と日本との所得・物価の違いだ。現地向けの越境ECを支援するBeeCruise(BEENOSグループ)によると「平均購入単価は、日本の企業が考えているより低い。日本企業の中には中国の『Tモール』に出店していたケースをよく聞くが、そちらとは消費量が違うし、また、多少高くても買う人はいたと思う」(グローバルマーケティング事業部の岩本夏鈴マネージャー)と説明。中国と同じイメージで品ぞろえや値付けを行うと、現地消費者とのギャップが生じる可能性があるとする。
東南アジアを国別で見ると、シンガポールに関してはGDPが示すように、比較的、所得が高いものの、人口が少ないという点もある。人口だけで見るとインドネシアやタイが魅力的にも映るが、その反面、物価の低さから購入単価は低くなるようだ。
東南アジアでは日用品なども気軽にECで買われるという土壌があり、現地を代表するECプラットフォームの「Lazada(ラザダ)」や「Shopee(ショッピー)」では、常に安価な商品が大量に並んでいる。
日本から東南アジアへの物流費を考えると、現地での販売価格は日本の上代の1.2倍~1.5倍程度となる。ここにさらに日本との物価の差を考えると、商材によって異なるものの、現地の人から見ると、日ごろ買っている価格の2倍以上の売値に感じるケースもあるだろう。
基本的にシンガポール以外の国・地域では日本の半分以下の価格で売られているものが多いようで、また、季節も1年を通して暑いことから、アパレルに関しては単価の高い重衣料ではなく、Tシャツのような安価な夏服などがメインの商材になる。
しかし、こうした価格差の問題はあるものの、「高くても売れるジャンルはある。例えば、キャラクターグッズや公式商品など。数はそこまで捌けないが、根強いファンもおり、高いか安いだけで評価できない商材もある」(岩本マネージャー)とし、日本が得意とするアニメ関連商品やゲーム関連商材にはチャンスがあるという。
また、アパレルや日用品、化粧品についても、価格が高いというだけでは全く売れない理由にはならず、長期的なブランディングを行うことで、商機拡大につなげることも可能だとする。現地での認知が低い商品に関しては、良いものかどうかを判断できる材料が何もないため、購入にはハードルがあるが、ラザダやショッピーといった人気の売り場でレビューを積み上げる作業を行うことで、状況が一気に変わる可能性もある。
一例として、日本でも老舗寝具として人気の西川では、ショッピーの中でもかなりの高額な部類に入る商品でありながら、評価の高いレビューを地道に獲得して、売り上げを伸ばし続けているという。背景には、消費者に対して高額商品にふさわしい高機能がどのようなものなのかをきちんと伝えて、どういった層をターゲットにするのかも繰り返し比較検証しながら緻密なマーケティング(広告配信)をやっているということだ。
例えば、チャット対応一つをとっても、顧客が自分の体形や利用状況にふさわしい商品であるかの確認をする問い合わせに対して、細かく聞き取りながら身体に適合する商品は何かなどを正確に提案するなど、実店舗の水準に近い相談対応をECでも実施している。また、ウェブ広告での情報の撒き方に関しても、訴求方法やターゲット
(性別・年齢・世帯別・配信言語)などを6~7パターンくらいに分けて行い、期間をかけて効果検証し、最適化を図っているというのだ。
まずは中華系富裕層に狙い
東南アジアの場合、シンガポールやマレーシアなどで所得の高い中華系の消費者も見られており、前述の西川の事例でも、広告配信において、中華系の反応率が一番高かったとする。海外のブランドが現地の中華系の消費者を最初に狙うのは一つの定番手段でもあり、そこから、マレー系、イスラム系などに評価が広がっていく可能性を模索している。
日本ブランドの場合、先行して東南アジアを席巻している中国や韓国のブランドのように、低価格を前面に押し出すことが必ずしも正解につながるとは限らない。認知前のセール投資はある程度必要だが、それは恒常的なものではない。「中途半端に値段を下げて、あいまいなブランドラインにするよりかは、高価格帯のラインに振り切って勝負した方がよいと思う」(岩本マネージャー)としている。
宗教や文化の違いにも配慮を
物価の違いとはまた別の注意点として、様々な人種が集まり、独自の宗教や文化を築いているという土壌であることがある。とりわけ、インドネシアやマレーシアではムスリム(イスラム教徒)も多いため、イスラム法上で許されている「ハラール」系の商品でないと支持を得られないことも見逃せない。特に、食品や化粧品など身体に直接触れるものについては注意が必要だ。
「日本が思っている以上に現地にはイスラム系の人が多い。販売自体はできるが、表示に『アルコール』が入っているだけで敬遠される可能性もあるのでは」(岩本マネージャー)という。解決に向けて、「ハラール認証」を取得するのは時間もノウハウも必要になるため、その代わりに、成分表示できちんと消費者に説明することが重要だ。