ヤフー、ローソンと「スマホ」で提携――物販面の連携はまずは様子見か?

【2011年7月号】
(2011年6月9日開催の提携説明会にて)

 「インターネットに接触する人数、接触頻度が大きく増えることになる。スマートフォンの可能性に期待している」――。

 ヤフーとローソンは6月9日、都内で提携会見を開き、互いのサービスへの相互送客および物販面で連携していくと発表した。会見の席上、冒頭のようにヤフーの井上社長が言及した通り、今回の両社の連携はスマートフォンの登場・普及によって、既存のビジネスが「スマホ利用を前提としたもの」に変わりつつある今後を踏まえた措置と言え、スマホ関連サービスの相互補完を図る狙いだ。物販面に関しての連携は、スタート時点ではさほど踏み込んだものにはなっておらず、まずは様子見というところのようだ。

 位置情報サービス拡充と店舗集客

 今回の両社の連携は多岐に及ぶが、メーンはヤフーが6月1日から始めた位置情報サービス「ヤフー!ロコ」上にローソン各店舗の情報を掲載すること。「ヤフー!ロコ」とはPCやスマートフォンなどで、ユーザーが現在地や行きたいエリア、店舗などを検索すると、当該地域周辺の情報が同時に表示されるもので、同社のポータルサイト上でこれまで提供してきた「地図」「グルメ」「クーポン」などを集約した新たな地域情報サービスだ。言い換えればヤフーの今後の主要広告媒体とも言え、広告主である事業者には専用の管理ツールから店舗のホームページを作成できる。同ツールでお勧め情報の発信やくちコミ返信、クーポン発行などの機能を設定し、利用することも可能。自分の店舗をブックマークしたユーザーに直接メール配信することもできるという。プランは無料の「エントリープラン」や年間3万6000円の 「スタンダードプラン」などがある。

 GPS機能がついたスマホの普及により、位置情報サービスは急激に利用者の増やしており、すでにグーグルやフェイスブックのほか、フォースクエアといった事業者が先行して実施中。ヤフーはこうした流れに追随すべく「ロコ」を開始した。出遅れた感のある位置情報サービスで巻き返しを図るべく、全国1万店の店舗網を持つローソンと連携し、一挙に「ロコ」の地域店舗情報の充実を図かり、利用者を増やし、トラフィックを拡大させ、他の事業者(広告主)の登録を狙う。

 一方のローソンの狙いはネット情報を活用した店舗への集客だ。同社でもやはりスマホの普及を睨み、これまでもGPS機能付きのスマホなどから利用できる「フェイスブック」の位置情報サービスを活用し、店舗に来店すると惣菜などをプレゼントする来店促進策などを実施してきた。「ヤフー!ロコ」への参加もその一環で各店舗の特売情報などを「ロコ」に掲載し、同サービス利用者の来店促進を狙う考えだ。

 「ロコ」へのローソン店舗情報の掲載は6月から。さらに12月からはローソンがヤフーと連携した新たなスマホアプリの配信をはじめ、時間や場所を限定した特典を配信する計画だ。

物販は副次的な連携?

 以上が両社の提携のメーンだが、物販やネット販売関連の連携も一応、行うようだ。まずは8月をメドに首都圏をメーンに健康志向の商品を扱う「ナチュラルローソン」でヤフーの仮想モール「ヤフー!ショッピング」の人気ショップの商品を販売する。第一弾は被災地支援も兼ねて、東北産の食品を販売する予定。その第一弾の販売状況を見ながら食品以外のジャンルも検討するという。

 また、ローソンは現行の通販サイトを刷新して、同社グループのCD・DVD販売する「HMV」やチケット販売の「ローチケ.com」などが入る「Loppi(ロッピー)」を8月に開設する予定。そこに「ヤフー!ショッピング」が出店する。単に「ヤフー!ショッピング」を出店させる だけでなく、ローソンが拡販も支援。「ロッピー」ではローソンの商品担当者が独自の品質基準で推奨商品を選び、不具合があった際には返金する「ローソンあんしん保証」制度を導入予定だが、グループの商品はもちろんのこと、「ヤフー!ショッピング」の商品も対象として、拡販を支援するようだ。

 「ロッピー」でヤフー!ショッピング商品が販売されるのはPC・モバイルなどブラウザベースでは8月から。12月からはローソンは前述した各店舗の特売情報などを伝達するスマホ用アプリを配信予定だが、同アプリ経由でもヤフーの商品を販売する計画だ。
 

 ただ、今回の提携はあくまで位置情報サービスがメーン。物販面の連携はメーンの連携ありきのものと言えそう。「ヤフー!ショッピング」の商品をローソンのコンビニ店頭で販売すると言っても、首都圏を中心に90店舗しかない「ナチュラルローソン」のみで「ヤフー!ショッピング」出店者の知名度や送客アップなどの効果は限定的だろう。ローソンでは地域や期間限定で通常のローソン店舗にもモール商品が並ぶ可能性もあるとするが、具体的には未定だ。また、商品のチョイスもあくまでローソン側が主導権を持って行われ、ヤフーやまして出店者が介在する余地はなく、取扱いジャンルも食品などがメーンになりそうで、一部の事業者は恩恵を受けることになりそうだが、大部分の出店者にとってはあまり関係なさそうだ。
 

 「ロッピー」への「ヤフー!ショッピング」の出店も出店店舗の送客が増えるかどうかは微妙なところ。ローソン経由でヤフーの商品を購入する必然性が薄いためだ。ヤフーはすでにコンビニ大手のセブンイレブンと提携し、物販・通販関連ではネット競売の落札品の店舗受け取りや、ヤフーの「ヤフーポイント」とセブンの「nanaco」のポイントの相互交換など踏み込んだ 連携策を実施中。しかし、ローソンでは配送や決済もコンビニ店頭では行わない予定でポイントの相互交換も「今のところ予定していない」(ヤフー)としている。

 とは言え、連携して進める各種施策が順調に推移すれば、「スマホ」はもちろん、物販・通販でもより踏み込んだ連携を行ってくる可能性もある。ネットとリアルの小売りで影響力を持つ大手企業同士の連携なだけに今後の行方が注視されそうだ。

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