KDDIは10月24日、メタバースサービス「αU(アルファユー)」において、実店舗と連動したバーチャル店舗でショッピングができる「αUplace」の提供を開始した。
実店舗の空間を商品陳列から内装の雰囲気まで忠実にバーチャル上で再現しているため、商品の置き場所や商品ポップなど、実店舗ならではの工夫で注目ポイントを知ることができるのが特徴。消費者は、実店舗で工夫されている内装や照明などの雰囲気、買い物導線、陳列や商品ポップなどを、店内を回遊しながら見ることができる。店内に複数設置されている白い丸をタップすると、そのコーナーで販売する商品の一覧が表示される。欲しい商品をタップすることで、通販サイトの商品ページに遷移し、購入することができる。
実店舗への来店につなげる
出店店舗は、店内空間をスキャンするスマートフォンアプリ「αUplaceforBIZ」を利用することで、バーチャル店舗を作成・更新できる。シーズンの移り変わりなどで店内の商品展示やトレンドが変わった場合でも、バーチャル店舗を最新の展示にすることができる。
また、対象店舗においては、実店舗の店員からの接客を受けることも可能。接客機能は年内の提供を予定しており、まずは、auの製品やサービスを案内する「auStyle」のバーチャル店となる「auStyleSHIBUYAMODI」から対応を開始する。携帯電話サービスのオンライン手続きに不安を感じる消費者でも、機種変更や料金プラン変更などを店員と相談しながら行えるようになる。
「auStyle」店のほか、「無印良品銀座」、アパレルの「Lui’s/EX/store」、ポケットサイズになったユニバーサルのキャラクターグッズなどを扱う「ポケユニハラジュク」、ギャラリー併設のセレクトショップ「2GPOPUPSTUDIO」、食品を扱う「ヒョウベイ」の6店舗からスタート。ポップアップ店の場合は利用料金が税別100万円、利用期間は1カ月。常設店は登録料同30万円、月額同10万円、利用期間は1年となる。ポップアップ店の場合は店内の展示更新は不可という。なお、初回の店舗全体の作成期間は2週間、店内の部分更新は3日かかる。商品一つひとつのCGを作成する必要があった従来のメタバース出店より、コストや期間は少なく済むという。
同日の記者会見で、KDDI事業創造本部Web3推進部1Gの中村実夢氏は「αUplaceは、実店舗の良さとネットの良さを融合した新たな買い物体験の場だ。実店舗を忠実に再現した空間で、まるで本当に店内を歩いているかのようなEC体験が可能になる」とメタバース活用のメリットを強調した。
また「無印良品」のバーチャル店舗を出店する、良品計画執行役員で営業本部オープンコミュニケーション部管掌の永原拓生氏は「若年層の顧客や、まだ無印良品銀座を知らない顧客にも、忠実に再現されたバーチャル店舗で買い物体験をしてもらうことで、来店へとつなげるのが狙い」と出店理由を説明した。
買い物かご設置は今後の課題
事業創造本部XR推進部ビジネス・プラットフォーム企画Gの茂木信二グループリーダーは、本誌の取材に対し「次世代のインターネットは3次元への流れが強まるのは確実。スマホのスペックが上がり、回線も5Gとなり速くなったので、店舗をスマホでスキャンし、立体化して再現するための環境が整ってきた」とサービスを始めた背景を説明。その上で「αUplaceで、実店舗の良さや、売り場の素敵さを消費者へ伝えることに貢献したい」と話した。
店内空間をスキャンするアプリは年内にも提供を開始する予定。茂木グループリーダーは「店内の展示や商品が変わった場合でも、最初から撮り直すのではなく、変えたい区画をスキャンして部分的に更新することができる点が、他のスキャンアプリより優れている」と語る。また、店内の3Dデータは、周囲約10メートル四方のデータを移動するたびにスムーズに読み込む形式。店舗にアクセスした際、全データを読み込むといった形式ではないため、利用者のストレスを産まない点も特徴という。
メタバース内に店舗を構える意義について、茂木グループリーダーは「実店舗が強い小売り企業にとって、一番の広告塔は店舗。ブランドの価値観伝達や旬な商品の打ち出しなど、ECではやりにくい部分もある。メタバースなら、言語化するのが難しい“雰囲気”や“空気感”を伝えることができるし、実店舗に来訪するきっかけにもなるのではないか」と自信を見せる。
例えば、アパレルであれば試着サービスの提供も考えられる。ただ、茂木グループリーダーは「最近の若年層は、自分と似た体型の店員をインスタグラムなどで見つけ、その人が合うサイズの服をネットで買う、というやり方をしているようだ。もちろん技術的には試着も可能だが、若年層にとっては不要かもしれない。本当に必要なサービスかどうかを見極めながら、順次追加していきたい」と話す。
店内で展示する商品を購入したい場合は、通販サイトに遷移する必要がある。茂木グループリーダーは「理想はバーチャル店舗内に買い物かごを設けること。ただ、そこは利用企業の戦略に左右される部分なので、企業と議論しながら使いやすい仕組みを構築していきたい」とする。
インバウンド需要も
出店店舗の募集を開始しており、ECの売り上げにつながるかどうかを気にする企業もあるが、「店舗を知ってもらいたい」「来店へとつなげたい」といった目的で出店を検討する企業が多いという。特に海外在住者に店舗をアピールするためのインバウンド需要が大きい。そのため、多言語対応のほか、海外からのダウンロードを可能にすることを検討している。
また、アパレルのほか、高級食材を販売する店舗や書店などが興味を示しているという。「例えば書店の場合、店員によるキュレーション的な要素が重要なので、視覚的にも空間的にもショーケース化しているわけで、それを丸ごとデジタル化できたら面白いのではないか」(茂木グループリーダー)。また、海外の店舗を日本から閲覧できるようにすることも視野に入れている。
今後は、売り場に変更があった際などに、ユーザーへ通知する機能の導入を検討しているほか、インスタライブを活用したイベントの開催など、定期的にバーチャル店舗へ訪れてもらうためのきっかけづくりや、滞在時間を伸ばすための工夫をしていく。「店員は店内にどんなポップなどの掲示をすれば顧客が足を止めて商品を見てくれるか、ということを分かっている。バーチャル店舗においても、実店舗にポップを出すのと同じ感覚で販促できるようにしていきたい。実店舗と同じ販促を体験できるのは顧客にとってメリットが大きいし、店員もリアルと同じやり方でバーチャル店舗の顧客に情報を伝えられるようになる」(同)。
KDDIだけではなく、取り組みが増えてきた、メタバースにおけるバーチャル店舗。単に店内や商品を立体化したというだけでは、「物珍しさ」だけで終わってしまう。継続して利用してもらうためには、操作性などユーザビリティーを向上させた上で、利用者の興味を引く仕掛けを定期的に行っていく必要がある。また、ECへの誘導という点では、「気軽に買える」という段階には達しておらず、まだまだ工夫の余地がありそうだ。