【2011年7月号】
健康食品の広告表示を監視する手段としてネットパトロールが主流になりつつある。神奈川県警は今年5月、捜査員のネットパトロールを端緒として相次ぎ健食の販売事業者2社を薬事法違反で摘発した。一方で、消費者庁もこれまで年1回だったネット上の広告表示の監視回数を年4回にまで増やし、あらゆるテーマ、検索キーワードによる監視を始めている。ネット販売は参入が容易なだけに、薬事法や景品表示法に対する認識が薄く〝自覚〟の無い事業者も少なくない。1事業者のミスが業界全体のイメージ低下、さらには市場の停滞を招きかねないだけに、今後、事業者には高いコンプライアンスの意識を持つことが求められることになりそうだ。
県警、ネット端緒に相次ぎ摘発
神奈川県警は5月、〝身長が伸びる〟と効能効果をうたい、健食(未承認医薬品)を販売していた日本新光製薬と、〝脂肪を分解する〟などとうたいダイエット対応の健食(同)を販売していたAD&Dを摘発した。5月は生活安全事犯の強化月間だったこともあり、全国的にも関連の摘発が続いている。中でも、薬事法違反は経済的被害が比較的大きく、「表示の違法性」と県内在住者への「販売事実」を確認するだけで立件が可能なため、ターゲットになりやすいという側面がある。
今回、摘発された2社も被害実態はなく、違反行為に対する手続きによる逮捕、いわゆる〝形式犯〟としての摘発だった。摘発の端緒はいずれも、捜査員によるネットパトロール。県警は「さまざまな媒体を見ているが、ネットを見れば(違法表示が)氾濫しているから手っ取り早い。その中で見つけるのが主流になりつつある」としており、ネットパトロールは形式犯としての立件を容易にするものといえるだろう。
消費者庁、ネット監視回数を増加
一方で行政サイドでもネットパトロールは広告の監視活動の主流になりつつある。
消費者庁は昨年来、健康増進法(健増法)に基づくネット上の広告表示の監視の回数を年1回から年4回に拡大。昨年実施した前回調査では、ダイエット健食をテーマに「絶対」や「究極」「最高」といった強調表現を行う表示や「特許取得」など行政機関があたかも認めたかのような表示について指導した。
また今年6月には「病者用」「糖尿病者用」「アレルゲン除去食品」など特別用途食品に認められるような表示や、「花粉症予防」など季節性の疾病の予防をうたう表現について指導。回数の増加は、幅広いテーマへの対応を可能にするだけでなく、今後、指導回数の増加にもつながってくることが予想される。前回調査、今回とすでに再三に渡り指導を受けた事業者もおり、「理解が進まない事業者には課内で何らかの措置が必要という話は出ている」(食品表示課)としている。
健増法は過去に行政処分に至った実績がないため、すぐに厳しい措置に結びつくことは考えにくい。ただ、健増法で違反とされる表示は、薬事法や景品表示法(景表法)でも同じく違法性が認められるケースが少なくない。景表法を所管する表示対策課など庁内の他部署との連携や、警察当局、厚生労働省と連携することにより、より厳しい処分へとつながる可能性は否定できないといえる。
東京都、景表法の対処迅速化
東京都においてもネットパトロールは、広告監視の有効な手段としてなっている。「健康食品」や「化粧品」など検索ワードを設定しての洗い出しは、約2万件に上るネット広告の監視を可能にしている。都では10年度、景表法に基づいて191のネット販売事業者を指導。1事業者で10件の不当表示の指摘を受けた事業者もおり、「今後も改善を要請した事業者の動向を注視していく」(生活文化局消費生活取引指導課)としている。
都が景表法に基づくネット広告の監視を重点施策として取り組みはじめたのは09年度から。09年度に指導を受けたネットプライスドットコムグループのもしもは、その後も表示に改善が見られなかったことから10年度の指示処分に至っている。広域的な監視を可能にしたネットパトロールが処分の迅速化につながっているといえるだろう。
違反内容(10年度)では、「優良誤認」が290件、「有利誤認」が58件。〝新成分の力でお腹の脂肪が胸に異動する〟〝たったの2週間でマイナス5キロ実現!?〟など強力なダイエット効果があるかのような表示(いずれも優良誤認)や、〝モニター特別価格80%オフ〟として商品の値引きを強調しながら、〝定価〟とされる価格で販売事実がなく、常に特別価格で販売している商品の表示(有利誤認)などがみられた。
身近になった「摘発」「処分」のリスク
警察当局や行政機関でネットパトロールが主流となる中、予想されるのが摘発や行政処分の量産だ。例えば薬事法。ある事業者によるとこれまで各県の薬務課による監視指導は、「悪質性の度合いにもよるが平均して2回の指導までは許され、3回目以降、『営業停止』処分や、警察当局への通報の上、摘発という措置」がとられていたという。ただ、各県の指導実績などは情報共有されておらず、表沙汰となるケースも少ないため、「ある県で2回まで指導を受けても、他県に活動の中心を移せば、カウントはまたゼロから始まった」(同)というのが実態だった。
だが、2年ほど前からこうした監視環境が変わったという。厚生労働省が中心となって各県の薬務課の指導実績を情報共有するシステムを導入。「全国の指導実績を各県が把握できるようになり、全国で累積2回の指導が限界になった」(前出の通販事業者)と話す。ネットパトロールの増加は、指導回数の増加を生むことになり、さらには薬事法による摘発というリスクが事業者にとって遠いものではなくなったことを意味する。消費者庁のネットパトロールは健増法に基づくものだが、健増法に抵触する広告表示の多くは、薬事法にも抵触する恐れのあるものばかりだ。
また、景表法も東京都に限らず、消費者庁表示対策課では、80人ほどの消費者にネット上の広告表示の監視を委嘱する「電子商取引監視システム」をすでに導入しており、地方自治体と中央官庁の連携が「排除命令」など、地方自治体に権限委譲されている「指示」以上の措置の迅速化につながってくる可能性がある。
ただ、ネット上の広告表示で指摘される多くの問題は、県の薬務課や消費者庁への事前相談を行うことで解決できるもの。今回、県警の摘発を受けた「身長が伸びる」などとうたう健食も業界サイドにして見れば〝キワモノ〟とされるジャンル。健全な事業者からすれば、ただただ健食業界全体へのマイナスイメージが広がる懸念を抱くだけだろう。だが、競争が激化する中でがんじがらめの表現では顧客の獲得が思うように進まないことも事実。表現のエスカレートが〝後の祭り〟とならぬよう肝に銘じ、同じ轍を踏まないよう努めるのが肝要といえそうだ。
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