本誌姉妹紙「週刊通販新聞」が行ったファッション商材の通販売上高調査では、ECモール運営企業を除いた売上高ランキングトップ10のうち、通販会社は4社、有店舗アパレルは6社で前年と同数だった。通販市場でも有店舗アパレルの存在感が高まっているが、インターネット広告費の高騰や店頭回復に伴う在庫配分の変化もあってアパレル大手も順風満帆ではない。一方、ファッション専業のECモールはゾゾの強さが目立つ。ファッション通販市場における有力企業の動向を見ていく。
ファッション通販の市場分析
トップ10に通販会社は4社 ゾゾの取扱高は5700億円超に
カタログやテレビなどの売り場を持つ総合系通販会社の前期は苦戦した企業が多い。通販会社としては毎年トップで、全体で3位となったベルーナの2024年3月期は、円安や原材料・資材価格高騰の影響で、仕入れ原価とカタログ、チラシなどの紙媒体費用が上昇。商品値上げや紙媒体の発行数量を抑制したことで、単価は上昇したものの、受注件数が鈍化した。さらに、紙媒体の部数を抑えたことで、新規顧客と稼働顧客数が減ったという。
千趣会の23年12月期は、基幹の通販事業で販促費を高コストのカタログ中心からデジタルと融合させたプロモーションにシフトし、効率化を図ったが、費用は削減されたものの、売上高は想定の効果を得られずに大きく落とした。粗利率改善を目的とした商品の絞り込みが過去の売れ筋に偏重し、新商品投入数や品ぞろえの魅力が低下したことが課題だ。
また、2年半前に発生したシステムトラブル以降、購入会員数の減少に歯止めがかかっておらず、前期も購入会員数、新規・復活購入会員数、継続購入会員数がそろってマイナスとなった。
テレビ通販は、通販専門放送大手のジュピターショップチャンネルが5位、QVCジャパンが9位とトップ10を守った。両社とも売上高の約3割を衣料品およびジュエリーなどのファッション商材が占めていると見られる。
ショップチャンネルは主力商材であるファッション関連商品の拡販強化を推進。一環として23年8月にスタイリストの亀恭子さんが有識女性向けにファッションECモール運営各社の売上高推移ワードローブをコーディネートして提案する新番組の放送を開始した。同社は人気スタイリストがコーデ提案をしながら商品を紹介する別の番組が好評なことから、ブランドを横断してスタイリング提案する新番組を追加した。
衣料品がメインの通販企業では、フェリシモは主力の定期便事業において、消費者の外出機会の増加、物価高による可処分所得の減少といった外部環境の変化がある中、商品の差別化が不十分だったことや、商品の価値を効果的に表現できなかったことにより、平均購入単価、延べ顧客数ともに減少した。
靴のヒラキの24年3月期は、テレビCMやSNSでのキャンペーンを実施したものの、全体の受注をけん引するには力強さを欠いた。また、円安に伴う価格改定を行ったことも響き、物価高による実質賃金が低下する中で受注件数が前年割れとなった。
モール利用者は拡大傾向
ファッション専業のECモールは消費者のデジタルシフトが定着したこともあり、圧倒的な規模を誇るゾゾを中心に上位企業は業績を伸ばした。ゾゾやジェイドグループ、丸井に加え、数値非公開のため表には掲載していないが、楽天の「楽天ファッション」やアマゾンの「アマゾンファッション」がテレビCMなどを強化しており、ファッション商材をECで購入する消費者の裾野は広がっていると見られる。
表は決算会計上の売上高(※丸井は取扱高)で、商品取扱高で見るとゾゾの24年3月期は前年比5.5%増の5743億円と断トツ。ゾゾの前期は、アパレルビジネスにとって厳しい気候条件が続いたことでゾゾタウン事業が計画未達となった一方、ヤフー店が積極的なプロモーション効果で計画を大きく上回ったことで、商品取扱高(その他商品取扱高除く)は目標を達成した。
ゾゾタウン本店の年間購入者数は1168万人で、前四半期比1万人弱減少。冬のセールが暖冬の影響を受けたほか、春物の立ち上がりとなる3月が寒くなったことで需要が活性化せず、アクティブ会員が同約5万人増の1079万にとどまり、ゲスト購入者数の減少分(6万人)を補い切れなかった。
「ヤフーショッピング」と「ヤフーオークション」の合算値となるLINEヤフーコマースの前期における取扱高は、LINEヤフーによる「本気のZOZO祭」などの販促費投下もあって前年比15.7%増の約577億円に拡大。グループの総合力が生きる形となった。
「ロコンド」を運営するジェイドグループの24年2月期は商品取扱高(内部取引相殺前)が前年比17.6%増の287億円、売上高は同27.6%増の133億円だった。取扱高は買収したリーボック事業が通期で業績に寄与して2ケタ伸長したが、暖冬やアディダスのロコンド退店の影響もあって当初計画(300億円)には届かなかった。
ジェイドグループはM&Aを積極化しており、24年1月にジーンズメーカーであるTCBの発行済株式35%を取得したほか、2月にはニッセンのアウトレットEC「ブランデリ」を譲受。3月上旬には衣料品ECモールで競合のマガシークを子会社化したのに加え、ハイブランドを扱うセレクトショップのファッシネイトを買収している。
マガシークの買収には、ジェイドグループとして過去最高額となる33億円強を投じ、マガシークの全発行済株式のうちNTTドコモが保有する75%と、伊藤忠商事が保有する3%分の合計78%の株式を取得。M&Aを機に携帯電話大手のNTTドコモおよび有力ブランドを抱える伊藤忠とパートナーシップを結ぶことで、集客と品ぞろえというECにとって重要な要素をバックアップしてもらえる点はジェイドグループにとって大きな利点だ。
丸井の24年3月期は、EC取扱高が前年比11.9%増の230億円だった。EC事業は実店舗と連動したイベント型ECの拡大に加え、外部からウェブ系専門人材の採用を拡充して通販サイト「マルイウェブチャネル」のUI・UX改善に努めたことで、EC取扱高は前々期の第4四半期(22年1~3月)から9四半期連続で前年を上回った。
クルーズの24年3月期におけるEC事業の売上高は前年比8.0%減の70億円と振るわなかった。メイン販路であるファッション通販サイト「ショップリスト」の取扱高が同14.8%減の172億円とブレーキ。SEOや広告経由での訪問者数の減少などが響き、集客に苦戦して前年割れとなった。
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