ふるさと納税「ポイント付与禁止」問題 ーー 深まる楽天と総務省の溝「告示撤回」勝ち取れるか

武田和徳副社長

 ふるさと納税のポータルサイト「楽天ふるさと納税」を運営する楽天グループは8月2日、総務省が「ふるさと納税ポータルサイトにおけるポイント付与」を禁止する告示を2024年6月28日にしたことに関し、反対の意思表明と撤回を要求する記者会見を開催した。

 武田和徳取締役副社長執行役員は「ふるさと納税はすでに国民に定着しており、多くの国民が楽しみにしている中で、今回の措置は水を差す内容になっている」と総務省を非難。その上で「ポイントがふるさと納税を利用するきっかけになれば、今後の地域活性化にも繋がる」と、ポイント付与の継続を訴えた。

 「ポイント付与禁止」をめぐっては、告示が改正された6月に同社三木谷浩史会長兼社長が「創意工夫、地方に恩返しという思いをぶっ潰そうとしている」「コンセンサスも取らず『ポイント禁止』とかいうやり方に憤りを感じる。政府はむしろこれを促進し、地方の自立を促すべきだ」と、自身のX(旧ツイッター)で怒りをぶちまけており、同社としては改めての意思表明となった。ただ、「ポイントを付与すること自体が問題だ」という姿勢を明確にしている総務省との溝は深まるばかりだ。果たして「落としどころ」はあるのか。

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手数料は「下がらない」

 記者会見では、総務省が打ち出した「ポイント付与」禁止に対し、「地方自治体と民間企業の連携体制がうまくいっているのに、これを否定するものだ」(関聡司執行役員渉外室長)と批判。同サイトで寄付者に付与しているポイント原資は同社が負担しており、楽天市場出店店舗が支払っている、基本1%分のポイントについても自治体に請求していないという。

 松本剛明総務相が6月25日の記者会見で「自治体の払う手数料からポイントを付与するのはおかしい」という趣旨のコメントをしたことを踏まえ、関執行役員は「ポイント付与を禁止しても手数料が下がることはない」と断言した。

 ただ総務省では「われわれもポータルサイト運営者が出しているポイントを、直接地方自治体が負担しているとは思っていない。ただ、ここは水掛け論になるかと思うが、一方で自治体は少なからぬ手数料を支払っているわけで、例えば楽天の売り上げの中にはその手数料が含まれており、そこを前提として営利活動を行っていることは事実。大臣のコメントは、そこから踏み込んで自身の認識として発言したと捉えてほしい」(市町村税課の長谷川雄也課長補佐)としており、記者会見でも「『ふるさと納税のポータルサイトは高い手数料率で儲けているからこそポイントが付与できている』という見方もあるのではないか」との指摘が記者から出た。これに対し、同社では「当社の手数料率は比較的リーズナブルなはずだし、自治体からも『多くの寄付が集まる』との声をもらっており、当社としては適切な手数料で運営していると考えている」(木村美樹上級執行役員)とした。

 総務省は「ふるさと納税は『ふるさとやお世話になった地方団体に感謝し、もしくは応援する気持ちを伝える』ために行うもの。『ポイント付くからここで寄付しよう』というのは、制度の趣旨に沿っていない」(長谷川雄也課長補佐)と、ポイント付与を禁止した理由を説明。つまり「納税にポイントを付与すること自体がおかしい」というスタンスだ。

 これに対し、楽天では「総務省は『制度本来の趣旨を尊重するため』と良く言うが、松本剛明大臣の記者会見などを見る限りでは、ポイントを禁止することで、ポータルサイトが徴収する手数料を下げる目的もあるのではないか」(関執行役員)と不信感を隠さない。つまり「制度本来の趣旨に戻す」というのは、あくまで建前とみているわけだ。

 
 また、楽天では告示改正に至るプロセスも問題視する。本誌取材に対し、総務省では「ポータルサイトからも、一定の理解を示してもらったという認識だ」(長谷川課長補佐)としていたが、「総務省からは事前にポイント付与制限に関する話はあったが、具体的な改変内容が明示されないまま『禁止』が発表されたので驚いた」(関執行役員)という。

 同社では告示改正がされた6月28日より、告示に対する反対署名活動をインターネット上で展開しており、8月1日時点で署名は185万件を超えたという。同社では今後、さらに多くの署名が集まった時点で、署名とともに改めて総務省に告示の撤回を申し立てる方針だ。

185 万件超の署名を集めた

目立った反対は楽天のみ

 総務省の方針に激しく反発する楽天。反対署名についても「200万件を超えるのは確実」(武田副社長)というが、現状で反対運動が社会的に大きなムーブメントになっているとは言いにくい部分がある。

 記者会見では「(他のポータルサイトは)事前に総務省とのポイント禁止に関するコンセンサスができていたと185万件超の署名を集めたいう話も聞く」といった質問も出たように、ふるさと納税のポータルサイトを運営する企業の中でも、反対の声を挙げているのは楽天だけ。それどころか「ポイント付与がふるさと納税の拡大に寄与してきた部分はあるが、制度をゆがめるような形になってしまっているなら、変える必要がある」(「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクの川村憲一社長)と、賛意を示す企業もある。

 また、楽天ふるさと納税に参画する自治体へのヒアリング結果でも、「中立」が80%以上で、楽天の意見に「賛成」よりも「反対」の声の方が多い。楽天では「地方自治体はふるさと納税だけをやっているわけではなく、総務省とは他にもいろいろなやり取りがある、という中での回答だ」(木村上級執行役員)としているが、顧客である自治体がそこまで今回の「ポイント付与禁止」を大きな問題と捉えていないとみることができる。

 ヒアリングで出た自治体からの声にも「手数料が下がることに繋がるのであれば応援したい」といった意見があったほか、「中間事業者よりも手数料を取っているので、自治体は間違いなく高いと思っている」(中間事業者としてふるさと納税に関わるEC企業・ベルヴィの宮﨑義則CEO兼COO)という声もあるように、総務省の狙いが「手数料引き下げ」にあるなら、自治体がポイント付与禁止に反対する理由もないわけだ。

 また、ポイント付与が禁止されたことによる、2026年以降のふるさと納税寄付額への影響についても「ポイントがもらえるからふるさと納税を利用しているというよりも、しないと損だからやっているわけで、そこまで影響は無いのではないか。寄付額の30%までの返礼品がもらえる以上、ふるさと納税をしなくなるということはないと思う」(同)、「ポイントが無くなったからといって、ふるさと納税をしなくなるというのは考えにくい」(トラストバンクの川村社長)と、楽観的に見ている関係者が多いようだ。

 「楽天はそこまでポイントを付与しておらず、総務省は40%以上のポイントを大盤振る舞いしていた『さとふる』のようなサイトを問題視したのではないか」(ポータルサイト運営企業幹部)。各サイトが同じ条件になれば「楽天カードの保有者は日本で一番多いわけで、『楽天ふるさと納税』が有利ということになるかもしれない」(ベルヴィの宮﨑CEO兼COO)。つまり、今回の告示は楽天に有利に働く可能性もあるわけだ。


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