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AR技術の導入広がる――スマホ普及で新たな販促に活路

【2011年8月号】

近年、「拡張現実(AR)」と呼ばれる技術を導入する通販企業が増えている。現実の環境に、バーチャルな要素を合成して表示するという技術。代表的なものとしては、iPhoneやアンドロイド向けのアプリ「セカイカメラ」が挙げられる。広告などでは頻繁に用いられてきたAR。例えば、アプリをダウンロードした端末でプリントされた専用のマーカーをカメラで映すと、映像が再生される、といったものだ。通販ならではの活用法とは何だろうか。

ソニーやパナソニックが導入

通信販売にとって永遠の課題ともいえるのが、「カタログやウェブで見たときは良いと思ったのに、実際に届いてみたらいまいちだった」という「イメージとの齟齬(そご)」だろう。最近は動画を活用したり、商品画像を360度回転できるシステムを導入したり、各社はさまざま工夫をこらして消費者への訴求を強めている。ただ、大型家具や家電の場合、実際に製品を設置する部屋との調和が取れるかどうか、という問題がある。この問題は通販に限ったことではないが、部屋との調和も考えた提案ができれば、家具や家電などがより売りやすくなるのは間違いない。

クウジットでは、AR技術を活用し、カメラに映る自分の部屋に、家電の3D画像を合成して表示、調和の度合いを確認できるサービスを提供している。

使い方は極めて簡単だ。サイトから印刷した専用のマーカーを部屋に置き、パソコンにつないだカメラや、スマートフォンのカメラで映すと、画面上に設置したい家電製品が現れる。昨年5月にソニーマーケティングが開始した、薄型テレビの設置イメージを確認できる、パソコンやスマートフォン向けサービス「ARレイアウトシミュレーター」にAR技術を提供している。薄型テレビは価格下落が進んでいるものの、高額な買い物であることに変わりはない。

実際の設置イメージをしっかり持ってもらうことで、購入の障壁を下げるとともに、もう1ランクサイズが大きいテレビを買ってもらうきっかけにしたい、という狙いがある。さらに、今年7月にパナソニックが始めた、マッサージチェアの設置シミュレーションを行う、スマートフォンアプリにも技術提供をしている。

課題は通販サイトとの連携

近年はARと相性の良いスマートフォンの普及が急拡大しており、通販での利用拡大が期待される。特に女性の場合、家具や家電を購入する際に、部屋に合うかどうかを気にすることが多く、サービスの潜在需要は高い。ただ、今のところはレイアウトシミュレーターを利用した消費者が、メーカーの直販サイトへ移動し、商品を購入しているかどうかのログは取っていないため、「コンバージョンレート向上につながっているかは分からない」(事業開発部)。今後は、通販サイトとアプリとの連携を進めることが課題となる。履歴が残ればマーケティングにも有効に活用することができるからだ。さらには、連携ができればアプリから直接商品を購入する仕組みの構築も可能となる。

システムの導入価格は、専用アプリを開発する場合は400~450万円。iPhone向けとアンドロイド向けを作る場合は、800万円以上必要となる。既存のアプリ(GnG)をカスタマイズする場合は、月額30万円にマーカー利用費用(1万2000円で4個まで)が発生する。また、商品の3D画像作成費用も10万円程度必要となるため、家具や家電といった単価の高い商品を扱うサイト向けのサービスといえそうだ。

また、商品の画像化は販売会社では難しいため、サービス導入の対象となるのはメーカーだ。家電のみならず、家具関連でも自社商品を販売する通販サイトに導入を働きかける方針だ。

テレビ視聴からスマホへ誘導

一方、BS-TBSでもARを使った取り組みを開始した。同社と電通、テレビ通販などを行う通販王国、3社共同で開始したテレビ通販番組「わくわく通販王国」がそれだ。

6月19日から放映を開始。放送時間は約5分で、放送日は月に10回程度となる。通販番組放送中にテレビ画面左に番組司会者のタレントの写真がアイコンとして表示される。あらかじめスマートフォン(アンドロイドのみ)無料専用アプリをダウンロードした状態のスマホで当該アイコンをスマートフォンで撮影すると、アプリが自動的に起動、商品を紹介する詳しい2~6分程度の動画がスマホ画面上に配信される。動画の閲覧中に視聴者がスマートフォンのボタンを押すと、当該商品が購入できる販売ページに誘導する仕組みだ。

今回の試みは3社共同事業としており、通販王国が番組制作、BS-TBSがARサービスの提供、電通がARサイトの制作を担当しているようだ。当該の通販番組における収益の配分などは不明。

AR技術の革新も進む

AR技術を活用した通販関連の取り組みとしては、テレビ通販のオークローンマーケティング(OLM)が今年4月に出稿したエクササイズDVDの新聞広告で実施した(6月号の当欄で既報)。紙面上の商品ロゴを撮影すると、スマートフォンの画面上に広告掲載商品の紹介動画が配信され、最終的にOLMの通販サイトに誘導する仕掛けを行っている。

今回紹介したAR技術のうち、BS-TBSはOLMと同様の仕組みだが、クウジットのものは通販の弱点を補強する新たな取り組みといえる。現在のARはマーカーを映すことで、AR用のCGや動画などの場所を指定する必要があるが、マーカー不要のAR技術「SmartAR」をソニーが開発するなど、さらなる技術革新も進んでいる。スマートフォンが普及する中、他メディアから通販サイトに誘導するフックとして、AR技術を活用する通販企業が増えそうだ。

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