楽天の〝出店料見直し〟に波紋、全店舗の送料課金に反発の声

楽天が11月1日から仮想モールの出店料金に新しい課金体系の導入を決めたことで、出店者を中心に波紋が広がっている。問題視されているのは従来の商品代金に加え、「送料」分を課金対象とする部分。楽天に支払う出店料の負担が増えることで「楽天市場」出店者から反発の声が出ている。

出店者のメリットは

楽天が見直す課金体系の対象として挙げているのは「送料」と「オプションサービス」の2つ。このうち問題となりそうなのが「送料への課金」だ。具体的には、「商品代金」に「送料」を足した金額に対して「システム利用料」を掛けるというもの。従来は「商品代金」にのみ「システム利用料」を掛けていたが、今後はこれに「送料」が加わるわけだ。

新たな課金方法は楽天が提供する物流サービスの利用有無などに関わらず、全店舗に一律に適応。つまり、これまで自前で物流業務を行ってきた店舗も、今後は送料分を足した金額に課金されることになる。
「送料課金」を導入する狙いとは何か。目的は大きく2つに分けられる。

まず挙げられるのは「楽天の物流サービスの拡充」だ。楽天では今後、今夏から始めている自社物流サービス「楽天スーパーロジスティクス」を強化。翌日配送サービス「あす楽」エリアを積極的に拡大するなどしてユーザーの利便性向上を図っている。

ただ、翌日配送や当日配送は近年、他の仮想モール事業者も注力しており、アマゾンやヤフーなどとの差別化は容易ではない。そこでさらなる物流サービスの強化が重要事項として浮上しているわけだ。
楽天では、将来的には「物流サービスで出店者に利益を還元していきたい」(楽天)とし、この部分の強化のために資金を徴収する、という。実際に、出店者に対しても「アマゾンなどに対抗するために必要な投資」などと説明しているようだ。
ただ、そのメリットはあくまで楽天の物流サービスを利用する店舗のみが享受できるもので、例えば自前で物流業務を行っている店舗が得られるメリットは不透明だ。さらには、実際にどの時期にサービスが始まるのかも確定していない。
楽天でもこの部分については言及しておらず、「一部店舗の負担が上がることはあるが、市場全体の伸びや楽天市場の伸びという共通の目標を達成するために何が必要か考えた。物流拡充でユーザーに利便性を提供するのが共通のメリットだと考えている」(楽天)としており、物流サービスを利用していない店舗からの反発も予想される。
送料課金は、うがった見方をすれば、楽天の物流サービスを全店舗が利用するための誘導策と取れるが、すでに自社で物流体系を確立している事業者も多いため、そのハードルは高そうだ。

全店舗を「送料無料」に

楽天が送料課金を導入するもう1つの狙いが「送料無料化の促進」だ。
現在、楽天市場では店舗によって、送料を商品代金に含めているケースと別途表示するケースがある。「送料課金」を導入すれば送料を商品代金に含めて表示する店舗が増えて「送料無料化」を促進できる、というわけだ。
実際に、商品価格を他店より設定、送料を高めにして利益を稼ぐ、という手法を使う店舗があるのは事実のため、消費者に分かりやすい形にするという名目が立つ。さらには、「送料別」の店舗は「送料込」の店舗よりも楽天に支払う利用料が少なくなるという不公平感を是正する狙いもあるようだ。

ただ、当然この場合は商品代金に送料が上乗せされるため、これまでより販売価格は高く表示されるようになる。価格競争で勝つためには送料込みでも販売価格を下げざるを得ないため、小規模な店舗が苦戦を強いられる可能性は高い。また、値上げ部分を商品価格に転嫁せざるを得ない店舗が出てくることも予想される。

オプション料金は値下げ

一方で楽天は既存のオプションサービスの見直しも実施する。「CSVデータダウンロードサービス」を30%、「楽天GOLD」を50%、「ウェブAPIサービス」を30%、従来の料金から引き下げて提供。このため、オプション利用数や送料の設定額次第ではあるが、送料課金が始まっても従来のコストを下回る店舗も一部あるようだ。

ただ、オプションがどこまで利用されているか分からないため、どれだけの店舗が今回の「課金見直し」にメリットを感じるかは不明だ。また、利用者のみ割引を享受できるオプションサービスとは異なり、送料課金は全店舗が対象となるため、こうした部分を理不尽に感じる出店者は多いだろう。

「楽天の倉庫は使いたくない」
「送料が売り上げに含まれるなんてとても信じられない話。一方的に通告されても『はいそうですか』と簡単にうなずくことはできない」こう気色ばむのは、スポーツ用品ネット販売企業の社長。「楽天に対して文句も言えないような小規模出店者が大多数の中で、ロングテールのような形で少しずつ出店料を搾り取ろうというのだから、悪意に満ちている」と憤る。
長年出店しているネット販売企業の担当者は「簡単に『分かりました』とは言えず、交渉をしていくしかない。とはいえ、それなりの売り上げ規模にもなっているので大きな負担になるだろう」とため息をつく。家電を中心に販売する事業者では「2002年の従量課金導入時は、楽天側も『嫌ならやめろ』というような態度だったが、今回はさすがにそこまで強くは出られないだろう。システム利用料率の値下げを交渉する」と話す。
ある有力店舗の社長は「月間で数万~数十万円のコスト増になりそう」と試算する。値下げとなるオプションの利用料は小さく、値上げ分を吸収できないためだ。
楽天からは「物流を円滑にするために値上げしたい」と説明を受けたという。「楽天物流の収益を上げるために、なぜサービスを使わない店舗が金を払う必要があるのか。意味が分からない」。さらに「荷物の量が増えればコストを抑えられるとのことだが、これは楽天物流を使用することが前提の話だ。規約を簡単に変更する会社の倉庫なんて使いたくない。後からどれだけ手数料を取られるか分かったものじゃないし、ヤフー店との在庫を一本化ができるかも疑問」と話す。
独禁法違反の疑いは
一方的ともいえる今回の値上げに問題はないのだろうか。値上げの根拠となるのが「楽天市場出店規約」の第35条だ。これによると、楽天が必要と認めた場合、出店者に予告することなく、規約を変更できるとしている。同規約第13条「システム利用料」の第2項では、「課金の基準となる売上高には送料は含まれない」と明記されているが、これを変えることになるわけだ。

公正取引委員会が2006年12月に公表した「電子商店街等の消費者向けeコマースにおける取引実態に関する調査報告書」によると、「出店事業者に対する取引上の立場が優越している運営事業者が、手数料率の引き上げに関して、出店事事業者にとって不当に不利
益な手数料率の設定を行う場合には、独占禁止法上の問題(優越的地位の乱用)につながる恐れがある」と指摘している。今回の値上げはこれに当てはまる可能性はあるのだろうか。
公取委の取引調査室では「個別の案件には答えられない」としながらも、「報告書の見解は変わっておらず、一般的な事実として、値上げが『不当に不利益な手数料率の設定』である場合は、優越的地位の乱用と判断する可能性はある」とする。一方、楽天では「顧問弁護士とも相談しており、独禁法上の問題はないと認識している」(PR推進グループ)と話す。

問題となるのが、送料に課金する今回の値上げが、出店者にとって「不当」に「不利益」なものなのかだ。やや高めの送料設定で利益を得ていた出店者にとっては大きな規約変更となるのは間違いない。楽天側にこうした事業者を“排除”する意図があったとしても、大多数の出店者には無関係なこと。さらには物流強化などへの投資を出店者が引き受けるのも筋違いだ。「不当な値上げ」と出店者が感じるのは無理からぬところだろう。
近年、アマゾンへの対抗策を強く打ち出している楽天にとって、物流強化によるサービス向上は必要不可欠なものといえる。とはいえ、実現に必要な負担を、メリットの見えない形で事業者に押し付けるのは筋違いではないのか。

ある有力店舗の社長は「巨大商圏から排除されるのが怖く、公正取引委員会に告発すらできない状態だ」と嘆く。自社サイトの集客力強化が難しいのは確かだが、出店者側も地道に依存度を下げる必要があるだろう。

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