決済の安全性と信頼感で利用を拡大する【長谷部豊 NTT東日本 ビジネス開発本部第二部門アライアンスサービス担当課長】

東日本電信電話(NTT東日本)は昨年7月、月々の通信料金と一緒に商品・サービスの購入代金が支払える決済サービス「フレッツ・まとめて支払い」の物販対応を開始した。同サービスは、通信回線認証技術の活用や独自の“3者合意の仕組み”の採用など安全性の担保に重点を置いたのが特徴。NTT東日本としては、安心してネット販売を楽しめる環境の提供を通じ、「フレッツ」回線の利用シーンを創出する狙いがあり、長谷部アライアンスサービス担当課長は全社的にも重要な役割を担うサービスだとする。(聞き手は本誌・後藤浩)

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安全性を重視した「まとめて支払い」

――「フレッツ・まとめて支払い」(以下、「まとめて払い」)は、どのような
決済サービスなのですか。

デジタルコンテンツの視聴料やネット販売の商品代金を月々の通信回線利用料金と一緒に引き落とせる決済サービスで、お客様の自宅にある「フレッツ」回線の認証技術を活用し安全性を高めたのが特徴です。

――事業者のサービス利用条件は。

NTT東日本とNTT西日本の両社で同じ内容のサービスを提供していますので、ネット販売事業者様には、東日本と西日本の2社と契約をして頂くことになります。初期費用として、サーバー接続料2万2000円を各社に支払う形になりますが、それ以外は利用手数料のみです。「まとめて支払い」では、デジタルコンテンツも物販も同じ料率のシンプルな手数料体系にしています。

――顧客はどのような手続きが必要になるのでしょう。

「フレッツ」回線に加入していることが条件になりますが、利用手続きとしては、最初にご自宅の「フレッツ」回線からIDやパスワードなどの初期登録をして頂く形になります。手間が掛かるように感じられるかも知れませんが、安全性とのトレードオフと考えれば、それほど大きな負担ではないはずです。

――「まとめて支払い」の展開で重視したことは。

安全性の確保ですね。カード決済の場合、お客様はネット上でネット販売事業者と取引を行い、ネット販売事業者がお客様から入力いただいた個人情報やカード情報をカード会社に伝える形ですが、お客様とネット販売事業者様、カード会社間の確認や情報のやり取りが分断されており、情報漏えいや不正使用のリスクもあります。それに対して、「まとめて支払い」では、お客様とネット販売事業者様の間に当社が入り、取引を仲介する“3者合意の仕組み”の採用で安全性を高めています。

――“3者合意の仕組み”とはどのようなものなのでしょう。

まず、お客様とNTT東日本の間で本人認証を行うのですが、その際にお客様の自宅の「フレッツ」回線、契約回線を自動識別する回線認証技術を使っているため、仮にお客様のIDの漏えいや盗難があったとしても、第三者が悪用することはできません。また、お客様が承認した取引内容も、当社からネット販売事業者様に確認します。

カード決済の場合、本人確認の不備で不正利用があると、カード会社からネット販売事業者様にチャージバックを求められることもありますが、「まとめて支払い」にはそうしたリスクがなく、事業者様にも安心して使って頂けると思います。

フレッツ回線の利用シーン創出へ

――ネット販売の決済手段は多様化しており、利便性も求められます。

お客様のニーズを考えると、まだ、ぽっかり穴が開いているところがあると思います。例えば、クレジットカードを持っているお客様でも、ネット販売では不安なため使っていないという方がいるはずです。そうした方の決済手段は、コンビニ決済や代引きになりますが、近くにコンビニ店舗がない、あるいは宅配便事業者が来るまで自宅にいなければならないなど不便に感じられている点もあると思います。「まとめて支払い」は、「フレッツ」回線に加入していれば自宅で決済ができ、回線利用料金と一緒に後で商品代金が引き落とされますから、前払いがい多いコンビニ決済、代引き手数料などに対する不満の解消にもつながると思います。

――「まとめて支払い」の展開を始めたのはいつからですか。

もともとは、当社の次世代ネットワークサービスを通じて高品質のデジタルコンテンツを配信する事業者様向けに、視聴料金回収手段として2009年に提供を始めたものです。その後、11年7月からインターネット上でのデジタルコンテンツ配信事業者様向けの展開を始め、物販事業者様向けのサービス提供を始めたのが昨年7月からになります。物販向けの展開は、NTT東日本として「まとめて支払い」を強化し、あらゆる商材に提供していく姿勢を打ち出した大きな転機と言えるものです。

――「まとめて支払い」は、全社的に見てどのような位置づけになるのでしょう。

「フレッツ」の契約回線数は、NTT東日本で約1000万世帯、NTT西日本を合わせ全国約1800万世帯にまで拡大していますが、ペースをおとさずに契約回線数を拡大させていくことが経営課題のひとつになっています。全国の世帯数を考えると契約回線数の伸びはいずれ限界がきますから、それに備えて既存ユーザーに「フレッツ」をより利用して頂くためのシーンを作っていかなければなりません。ネット販売で安心かつ便利に買い物ができる「まとめて支払い」は、「フレッツ」回線にプラスアルファの付加価値をつけ、利用促進を図るためのツールになります。

――全社的な事業戦略を考える上でも重要だと。

既存事業の通信サービスと親和性が高く強みも活かせますし、新たな収益源を求めてやっていることは確かです。回線認証技術の活用でお客様とネット販売事業者様が安心して取引をできる環境を提供し、ネット販売市場が拡大すれば「フレッツ」の需要も高まります。ですから、「まとめて支払い」を成長させることは、会社の方向性とも合致するわけです。

――デジタルコンテンツと物販では勝手の違う部分もあると思いますが何か課題は。

幾つかありますが、現在の課題は事業者様への支払いサイトですね。通信回線使用料と同じ月末締めなのですが、事業者様への入金が75日後になっています。これは「まとめて支払い」のスタートがデジタルコンテンツ配信を対象にしていたためです。デジタルコンテンツでは最初にコンテンツを作り、視聴された分の料金を徴収するため、支払いサイトを気にされる事業者様が少なかったのですが、物販の場合、仕入れ先への支払いが生じます。実際に営業をしても支払いサイトの問題で導入を見合される事業者様もあり、改めて重要性を感じました。そのため、年内をメドに翌月中には事業者様に入金できるようにする方向で調整をしているところです。
物販に参入して以降、利便性を高めるための見直しや機能強化を行っています。例えば、ダウンロードと同時に商品が消費されるデジタルコンテンツでは、予約販売や返品といったものがないため、「まとめて支払い」は、確定した課金データのやり取りが前提で金額の変更やキャンセルができない仕組みとなっていたのですが、物販では予約販売があるため、今年4月にインターフェースを作り、対応を図っています。

――ネット販売で利用が拡大しているスマートフォン対応の部分については。
当社のサービスでは、スマホで自宅のWiFiからアクセスすれば「フレッツ」回線認証ができる仕組みになっていますが、外出先からのアクセスでも「まとめて支払い」が利用できるオプション機能の提供を8月から試行的に一部の事業者様と開始しています。お客様が自宅で予め登録したメールアドレスにワンタイムURLを送信し、そこで30分以内に決済処理をしてもらう仕組みで、高いセキュリティレベルを維持しているのが特徴です。

利用者の9割が新規顧客の事例も

――現在の「フレッツ・まとめて支払い」の導入企業数は。

トータルで約200社、うち半数が物販系のネット販売です。当社では、「フレッツ」の利用シーンとセットとなるような商品・サービスをお持ちの色々な事業者とアライアンスを組んでいます。物販については、その伝手でご紹介を頂き、中小規模の事業者様を一気に開拓できたという部分もありますね。

――サービスの利用動向は。

ネット販売事業者様や決済代行事業者様の話を聞くと、新たにキャリア系の決済サービスを自社通販サイトに導入した場合、初期の利用率は全体の2~3%程度なのですが、「まとめて支払い」の場合、すでに導入されているネット販売事業者様の中には5~6%に達しているところがあり、当社でも手応えを感じているところです。

――「まとめて支払い」と相性のよい商材はあるのでしょうか。

まず挙げられるのはデジタルコンテンツですが、物販では、まだどの商材がフィットするかは検証しきれていません。ただ、最近需要が増えてきている日用品や食料品といった定期購入など毎月支払いが発生するような商材との親和性が高いと言えます。定期購入型の商品では、銀行引落も用意されていますが、新規のお客様の場合、新たに引落口座を申請する手間を考えると、すでに利用している電話料金と一緒に引き落とされた方が便利ですからね。
また、当社の通信回線料金の支払い率は非常に高く、事業者様も代金回収の不安や手間を心配しなくて済むというメリットもあります。

――導入事業者は、どのような評価をしているのでしょう。

NTTの「フレッツ光」で代金を支払えるということでサイトの信頼性が高まり、新規のお客様の獲得効果があったというお話を頂いています。早い段階から導入されているネット販売事業者様の場合、「まとめて支払い」を利用されるお客様の9割が新規で、受注単価や購入頻度が平均よりも高いという結果が出ています。

――かなりの導入効果があるようですが、このネット販売事業者では何か工夫をしているのでしょうか。

自社通販サイトの差別化策を考える中で「まとめて支払い」を導入された経緯があり、トップページの目立つ位置に決済方法の説明ページにリンクする大きなバナーを貼るなど、お客様への告知に力を入れられています。ネット販売を利用するお客様は、一度使った決済手段を毎回使い続ける傾向が強く、何か新しい決済手段を試そうということはあまりありません。そこで重要になるのは、サイト上での告知です。恐らく、「まとめて支払い」を利用されている9割の新規のお客様には、カード決済への不安などからネット販売の利用を敬遠していた層が含まれているのではないかと思います。それに対してトップページにNTTブランドの入ったバナーを貼付していることが、お客様に安心して買い物ができるサイトだと認識して頂けるきっかけになっている面があるのではのではないかと思います。

――今後の目標をお聞かせ下さい。

NTT東日本の「フレッツ」の契約世帯数は約1000万世帯あります。また、1世帯1回線として3人くらいでご利用いただいています。1年後には、「フレッツ」契約世帯数の1割程度のお客様、つまり100万世帯に契約いただき、その下の家族で3人くらいの方々にご利用頂けるようにしたいと考えています。現在導入事業者数は約200社ですが、利用できる通販サイトが少ないということがあると思いますので、導入事
業者様の拡大策として、大手の決済代行事業者様数社とシステム接続の交渉を進めており、早期にシステム接続を実現したいと考えています。中堅・中小のネット販売事業者様の場合、ほとんどが決済代行事業者様の決済サービスを利用されていますからね。
これが実現できれば導入事業者様が急速に広がるでしょうし、大手の通販事業者様に採用されるようになれば、また違った展開になっていくのではないかと考えています。

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