高岡本州●エアウィーヴ代表取締役会長兼社長

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コロナを機に認識した通販の重要性

 寝具類の製造・販売を手がけているエアウィーヴでは、実店舗だけでなく通販事業も年々右肩上がりで売り上げが伸びている。2023年には日本通信販売協会に入会し、通販ビジネスに関する情報収集活動などを積極化。実店舗とは異なる非対面での販売方法について更なる磨き込みを図っている。また、2024年はパリオリンピックという大舞台において、出場選手への寝具供給を行う大仕事も控えている。国内外に活躍の場を広げている同社のブランディング戦略や通販活用の裏側に迫った。

寝具を売るのではなく「睡眠の質」を提供

業界に新しい価値を持ち込む

─現在の寝具市場全体の市況についてどう見ていますか。

 寝具は大きく分けて、ナショナルブランドと地方の小規模な会社があります。一つ言えることは、全体が今すごく伸びているという市場ではないわけです。そこに新しい企業が参入するということも多くはありません。結局、寝具はサイズが大きいため、物流が発展するとともに会社が大きくなっていき、集約化されていくようなところがあります。

 当社は16年前に作った会社で、考え方としては寝具を売ろうと思って事業を行っているわけではなく、睡眠の質を提供するという点で業界に新しい価値を持ち込みました。今では睡眠の質を上げようということが世の中の動きにもなっており、当社がそこに影響を与えているとも考えています。

 例えば、iPhoneが出たことによって、携帯が機械としての装置ではなくて社会と繋がる情報を伝えるという窓口になったわけです。電話をかけるということだけではなく社会との繋がりを作ったということ自体が、iPhoneの最大の功績だと思っています。当社も眠るための道具を売るのではなくて、睡眠の質を提供するという考え方が今の事業をやる上で大事なことなのではないかと思っています。

─コロナを境にした市場変化とは。

 2020年からコロナになり、家庭内消費というものが進んだことで、寝具業界が潤った面はあります。ところが今コロナが落ちつきはじめ、おそらく2023年度の寝具業界全体で見ると、前年よりもマイナスになっているのではないでしょうか。そういう中で、顧客はより本質的なものを求めるようになっていると感じています。当社の場合、ありがたいことに前年と同等以上に売れていますので、それは我々が取り組んできた、睡眠の質を提供するという部分が評価されているのではないかと思っています。

2023年にはJADMAに入会

─2023年7月に日本通信販売協会(JADMA)に加盟されましたが、この経緯や狙いについて。

 以前から(通販による)非対面の販売を行っていました。しかし、コロナになってから実店舗に訪問できない方が増えたことで、非対面での販売の重要性というものに改めて気づきました。そのために分かりやすい商品の伝え方など、いわゆる非対面での販売の方法について、様々な取り組みをいくつかのチャネルで行う中で、日本通信販売協会さんに私どもを加入させていただいて、寝具以外の他の商品も含めていわゆる非対面での販売の方法を学ばせていただこうと思っています。当社の中で非対面の販売をしている部隊がおりますので、そこで様々な情報収集活動や勉強をさせて頂いているところです。

─通販で売れ筋となる商品については

 

 やはり世の中の人が一般的に通販に期待するものは、多少お安くなるというイメージがあります。また、通販は店頭販売と違って、双方向のやり取りではなくどうしても一方向になってしまいます。さらに、複雑な内容や多くの情報量を伝えにくい部分もあるわけです。

 一方で、絞った情報量については、通販ではかなり強く伝えることができます。やはり、最も強くてシンプルなメッセージを出せる部分や商品に絞って展開していくということなのでしょう。そういったことを積み重ねていくと、お客様自身もその商品に対する知見が上がっていきます。

 当社の初期の頃は薄いパッド1枚だけでしたが、今はそのパッドの中でも硬さを変えた商品を出したり、あるいはもう少し複雑な機能を持たせたものもあります。実は、ベッドマットレスも通販でよく売れるものです。

 一つには、(オフィシャルパートナー契約を結んだ)東京2020大会の時に、表裏で硬さの異なる3分割のベッドマットレスを選手村に提供しました。こうした話は、情報として認知されているお客様がかなりの数でいたわけです。そのため、そういった商品を通販で見せると、そこで買っていただけることはかなりあります。おそらく、通販でこのような高価格帯のベッドマットレスが売れているのは当社くらいなのではないでしょうか。

 実店舗の場合、商品だけを置いておくということはなく当社では必ず販売員がいますので、そこではお客様と双方向で情報交換が起きます。ですから、通販のような一方向の場合、大きく商品露出をして認知されていけば大きく売れてくるというわけです。ただ通販の場合は、たくさんの商品種類を同じチャネルで見せていくと、お客様も迷われてしまいます。ですから、そのチャネルに応じた最も強い商品を1個お見せするやり方に絞っています。

─通販で展開している商品については。

 自社ECについては商品が全部揃っていまして、これは実店舗と一緒です。同じ商品が実店舗と同じプライス出ております。これについては商品構成を変えることはありません。一方で、自社ECではなく、紙媒体、あるいはテレビ通販、ラジオ通販といったところには1商品で行うという形です。双方向でのやり取りが難しいために、お客様が迷われてしまうことにもなりますので精査した情報を出すということです。

─通販と実店舗の連携による相乗効果はありますか。

 例えばテレビ通販の話です。これは、一方向の情報発信なのですが、様々な角度からお客様の質問をイメージして網羅的に情報を出しています。このマットレスは眠りが深く取れるとか、あるいは清潔だとか、分割構造になっていて、梱包が簡単になっているとか、今はリサイクルもできますということです。時には演者の方に寝てもらって、それで体験して使用感を語ってもらうこともあります。これはお客様が実店舗に行って実際に寝ているような疑似体験が得られる効果もあると思っています。もちろん、テレビ通販で情報を理解した上で実物を触ってみたいという人もいますので、そうした人たちは実店舗に来店されます。そのため、テレビ通販を放送した後は、実店舗に来る人が増えたりすることもあります。

 また、実店舗に関しては通常店舗だけではなくて、ポップアップで大きなイベントを行うこともあります。そうすると、そこに来て商品を見ることになりますが、寝具の場合、みなさん購入にはとても慎重になるため、1回の来店だけでは買わないというケースもあります。家に帰ってからネットを見て買う場合もあります。結局は、情報を様々なところから出して、最後はお客様が買われるルートをご自身で選ぶという話になるのでしょう。そういった意味では通販(ネット)と実店舗
(リアル)は必ずつながりがあるわけです。トータルでお客様の利便性を高める上では、実店舗と通販との連携というものはとても大事なことだと思っています。

 世の中の人に寝具を欲しいかと聞きと、誰も「欲しい」とは言われません。ただ、良い眠りを欲しいかと聞きますと、みなさん「イエス」と答えます。つまり、当社は睡眠の質という誰もが欲しいものを売ろうとしているわけです。眠りに対しての潜在的な需要を顕在化させることが、我々のビジネスの売り上げを作るということです。あくまでも、潜在的な需要のままだと、これは売り上げにはなりません。そのために実店舗や通販で商品を広く見せていけるよう、タッチポイントを増やしているわけなのです。

早い段階からブランディングへの投資

─通販事業が伸びている理由については

 

 実店舗も含めて全体的に伸びていますが、当然、通販も一緒に伸びています。やはり、当社の商品は実際に試してもらえると購入される比率が非常に高くなります。おそらくは半分ぐらいはご購入いただいているのではないでしょうか。通販の場合は、実際に商品に寝ることができないわけですが、それでも伸びている理由の一つには、我々がブランディングということに非常に早い段階から力を入れて取り組んできた部分が影響していると思います。

 当社は(マットレスパッドの販売を)2007年に始めて、最初の頃はあまり売れていない時期もありました。ただその間でも、コストをかけながら様々なブランディングを行ってきました。これまでに行ってきたものでは、2010年に和倉温泉の加賀屋さんのお部屋に入れさせてもらったり、2013年からはJALさんのファーストクラス・ビジネスクラスで使われたり。ほかにも、パリ国立オペラ座バレエ学校であったり、誰もが憧れるようなところで採用していただいております。

 ブランドとは一体何かというと、その商品を信頼するだけの実績があるかどうかです。そこには認知度を上げるために広告的に社名を気づかせるようなマーケティングも必要ですが、同時にこうした(導入)実績作りも大事になります。実物に触ることができなくても、この商品を買うことで、自分が憧れるような世界を体験できるというように信じてもらえる部分がないと、やはり通販では分からないわけです。当社はそういういった訴求を行えるポイントが抜群に多いと思います。これは決してお金を出せばできるということではなく、我々の会社自身が「TheQualitySleep」というミッションを掲げているからこそ、様々なところに商品を入れていただいたのだと思っております。また、そうした部分を可視化するメッセージとして、ブランドアンバサダーに(フィギュアスケートの)浅田真央さんを起用して広告を出しており、我々が取り組んできたことが浅田真央さんという光によって皆さんに伝わっている。そういう総合的なものがあってブランドができているということです。

─2023年の通販事業の状況については。

 2023年もテレビ通販などを積極的に利用しております。テレビ通販の場合、過去にずっと行っていると、おおよその予算が局によって決められてくる面があります。「この時間帯にこれだけの尺だと、およそこれくらいの売り上げになる」というように。こうした予算は前年からどんどん上がっておりますが、当社の場合は、ブランド力が毎年強くなっているため、(上がっていく)予算はすべてクリアしております。

 現在はテレビやネットのほかに、新聞などでも通販を行っていますし、また、ラジオ通販でも非常によく売れています。当社でご購入いただいている層はやはり値段を考えると、やや年齢層が高く、ファミリー世帯の方が中心になります。ただ、2022年に(タレントの)田中みな実さんとの共同プロデュースで開発した枕については、ネットでとてもよく売れました。こちらは、明らかに(メイン顧客との)世代が異なるかと思います。やはり、商品によって分かれていくイメージです。

 通販向けに(卸で)販売している商品は、多少価格帯が安くなっていますが、ただ単に店頭にあるものをディスカウントしているわけではありません。ある程度機能などを絞り込むことで、通販でも購入しやすいような価格に設定しています。もちろん、決して機能を落としているということではありません。

─社内で通販事業に対して期待している役割とは一体どのようなものですか。

 実店舗での販売行為の中では、接客している当社の販売員がお客様の声を聴くことになります。お客様からの声は非常に貴重なものなのですが、販売員を通すことでワンステップ置くことにもなります。当社には400人ほどの販売員がおりますが、やはり人間である以上、どうしても聞き取った情報に対してそれぞれのフィルターがかかってしまうわけです。

 ところが、通販の場合はこちらが発信したメッセージに対してダイレクトにお客様が反応するわけです。ですから(実店舗と比べて)情報のバラエティー度はやや下がってしまうのですが、正確性は上がります。こうしたことをきちんと行うことで、いわゆるマーケティング的な施策、消費動向の捉え方というものが、より正確にできると考えています。通販を通じて得られた情報が新規商品開発などの何らかのアイデアにつながったりすることもあります。

 そしてもう一つは実店舗との(補完)関係です。当社では首都圏や大都市圏、あるいはそれ以外の地域での百貨店、GMS、家具店などでも商品が売れています。ただ、人が住んでいるところであっても店舗がない場所も当然あるわけです。そのようなところのお客様はなかなか商品に触れる機会が得られません。いわば空白地帯ですから。ところがそうした場所の人たちに対して、通販というものはダイレクトに訴求することができます。

 面白いもので、ネットで商品が売れている地域を調べてみると、やはり実店舗があるところが多かったりします。ですから、通販事業の中で、もし、あるエリアの周辺で高い需要が得られているということが分かれば、当然、そこに実店舗を新しく作るということにもなっていきます。要するに店舗立地のアイデアにもつながるというわけです。

パリ五輪での成功が2024年の大きな山に

「unknown」を「known」に

─2024年の展望や計画について。

 当社ではあまり、これくらいの売り上げにしていこうという話をすることはありません。我々、終始一貫しているのは、売り上げではなくて「コトづくり」です。2024年の一番大きな目標ということでは、(オフィシャル寝具サポーターとして)パリオリンピックの選手村にきちんと寝具を入れて成功させようということです。

 我々にとって、2021年は(オフィシャル寝具パートナーとして寝具を提供した)東京オリンピックがあって、2022年はその流れで一般向けの商品をブラッシュアップしました。ただ、2023年はブランディングのアクティビティということで言いますと一番底にあるわけです。準備はしているのですが、モノを出していないわけですから。そうした面で、2023年はブランド露出も少なかったのですが、それは意図的なことなのでしょうがないと思っています。経営は山もあれば谷もあります。2023年は谷で、2024年はパリオリンピックがありますので、かなりの大きな山ができるでしょう。

 やはり、オリンピックの効果はとても大きいと思います。日本の寝具メーカーがフランスで採用されるということはなかなか無いことです。オリンピックというものはナショナルマターであり、どうしても開催国の企業が有利になります。ところが今回、ベッドの本場であるヨーロッパにおいて、日本の企業が1社で1万6000台を納めることができるのです。オリンピックで使われるマットレスは、3分割構造でそれぞれ表裏で硬さが異なり、自分の好みに合わせて入れ替えることもできるものです。すべて選手ごとに個別化されているというわけです。そういったことで、2024年は大いに期待できる年だと考えています。

─通販関連での取り組み予定としては。

 例えば、今も多くの通販企業さんとお付き合いしていますが、みなさんそれぞれ(保有している)お客様については色々と特徴があるかと思います。この通販企業さんはこうした顧客層に強いということであったり、あるいは各々得意とする販売チャネルなどもそれぞれあるかと思います。チャネルに応じてお客様が変われば、マーケティング手法も変わってくるわけです。自社で持っているブランドのメッセージをどうやって出していくのかということだと思います。

 当社としては、やはり、窓口をもっと増やしていきたいと考えております。もちろん、既存の取引先もあるのですが、今後も様々な新しいチャネルを作っていきたいです。理由は、それぞれのチャネルに応じたお客さんがいるからです。そこに対して売れるようにすることで、対面販売ではまだ伝わっていなかった人たちを発掘できるわけです。

 私はよく英語で「WeArestillun-known」という言葉を使います。「我々は未だに知られてない」ということです。つまり、「エアウィーヴ」というものがまだ知られていない。しかし、知ってもらうことができれば、商品には自信がありますから購入してもらえるわけです。ですから、「unknown」を「known」にしてもらえるようなチャネルを開拓していきたいです。若い層や海外向けなど様々あるかと思います。

 いずれにしても、今後、通販も実店舗も前年以上に伸ばしていくということは間違いありません。ここはかなり強く意識しているところです。


高岡本州(たかおか・もとくに)氏

1987年スタンフォード大学大学院経済システム工学科修士課程修了、1998年日本高圧電気代表取締役社長就任、2004年中部化学機械製作所(現・エアウィーヴ)を引き継ぐ、2007年社名を「ウィーヴァジャパン」に変更し代表取締役社長に就任、2017年社名を「エアウィーヴ」に変更し代表取締役会長兼社長に就任(現任)



◇ 取材後メモ

 今回の取材で訪れたのはエアウィーヴの東京本社でした。数多くの寝具が並ぶ中、目を引いたのが肩・腰・脚の各パーツの表裏で硬さが異なる3分割構造のマットレスです。アスリートも愛用しているというこの商品は、体形測定機を使うことで利用者自身にとって最適な組み合わせが分かるようにもなっています。寝具を提供するのではなく「睡眠の質」を提供するという言葉の背景には、最新技術も用いた様々な工夫が積み重なっているということを実感しました。

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