「より多くの人に長く何度も使ってほしい」──。ヤフーとソフトバンクの合弁でQRコードやバーコードを使った実店舗向けのスマートフォン決済サービス「PayPay」を展開するPayPayは2月12日から「PayPay」の利用者に、総額100億円を原資とした大規模なキャッシュバックキャンペーンを始めた。毎回、決済額の最大2割、さらに一定確率で全額相当を「PayPay」の残高に充当される「PayPayボーナス」で還元するもの。
「PayPay」を決済サービスに導入する家電量販店などで連日、キャッシュバックを求めて高額品を購入する来店客が殺到するなど大きな反響を呼び、すぐに原資の100億円を使い切り、スタートからわずか10日間で打ち切った2018年12月に実施した「100億円あげちゃうキャンペーン」の第2弾という位置づけだ。ただ、今回は1決済あたりのキャッシュバックの上限を1000円に設定するなど、前回とは条件を大きく変更。「日常的に利用頂くことで便利さやお得感を体験して欲しい」(中山一郎社長)とし、高額商品の購入を促すのではなく、少額な日用品の買い物での利用を促し、前回のように“キャンペーンの恩恵”が家電量販店だけに向けられるのでなく、広く加盟店へ振り分ける狙いがあるほか、大きな成果を上げた一方で、社会問題化した不正購入などセキュリティ面への配慮もあり、第2弾のキャンペーンは大きく方向性を変えた模様だ。
スタートから10日間が経過した現時点では前回のような連日、PayPayの決済導入店舗に行列ができるほどの現象は起きておらず、前回のように開始から10日間で原資を使い切り、予定しているキャンペーン期間(※ 5月31日までを予定)を前に早々に打ち切られるなど状況にもなっていない。言い換えれば、前回のキャンペーンほど消費者に与えるインパクトは弱いと言えそう。ただ、狙い通り、様々な加盟店への送客に繋がっている模様で“加盟店獲得”という点などで一定の成果をもたらしそうだ。
全額還元は10回に1回
2月12日から5月31日まで実施予定の「第2弾100億円キャンペーン」は2018年12月に実施した前回とは条件を変更。毎回、決済額の2割を還元することや一定確率での全額還元などは概ね同様だが、大きな違いは1回の決済で付与する「PayPayボーナス」の上限を1000円に設定したこと。前回は“2割還元”の場合、月額5万円の上限は設けていたが、1回の決済での付与上限は設けていなかった。また、“全額還元”では1回の付与上限は10万円分と高額だった。今回は“2割還元”では決済額5000円までは満額還元されるが、それ以上の額を決済しても1000円までの還元となる。“全額還元”でも1000円以上を決済しても還元額の上限は1000円分まで。なお、キャンペーン中の付与上限も設定しており、2割還元では5万円分、全額還元は2万円分までとなっている。
また、前回は一律、20%だった毎回の決済で還元する付与率を今回は支払方法によって変更。あらかじめ銀行口座やクレジットカードでチャージなどして「PayPay」内の残高で支払う場合は20%に、事前にチャージした残高を超える場合、登録したクレジットカードから決済される仕組みだが、このうちヤフーグループが発行するクレジットカード「Yahoo ! JAPANカード」では19%、他のクレジットカードは10%とした。
さらに“全額還元”の当選確率も変更。一般ユーザーは10回に1回(前回は40回に1回)に、ヤフーの有料会員「Yahoo !プレミアム会員」は5回に1回(同20回に1回)とした。なお、前回、最も当選確率を高く設定していた携帯電話キャリアのソフトバンクおよび「ワイモバイル」の利用者の優遇は今回は設けなかった。
「前回は馴染みのないQRコード決済や『PayPay』を知って頂き、一度でも使ってもらうことを目的に高額のお買いものでお得さを体感頂いた。ただ、“決済の本質”は繰り返し利用頂くこと。今回は多くの方々に日常的に繰り返しキャッシュレス決済を体験して欲しい」(中山一郎社長)として、少額決済を中心に利用されるよう条件を変更したようだ。
こうした条件変更は“安全策”の一環との見方も。前回は高額還元を狙い、ユーザーが殺到。その結果、「PayPay」の認知度は同社調べによると他の競合サービスと比較して名称認知度、サービス理解度はともに1位となるなど各段に上がり、ユーザーの登録者数も2018年10月のサービス開始時から4カ月で400万人を突破、加盟店数も実数は明らかにしていないものの「相当、増えた」(中山社長)など大きな成果を上げたもようである半面、キャンペーン期間中にシステム障害が複数回、発生したり、セキュリティ対策の甘さから悪意ある第三者が過去に流出したクレジットカード情報でなりすまし注文ができる余地を残し、不正注文の被害が出るなどの課題も発生していた。
PayPayではシステムの安定化を図るため、キャパシティの拡張や管理体制の強化を進めたほか、セキュリティ強化のため、前回は設定していなかったクレジットカードのカード番号や有効期限、セキュリティコードの入力回数制限や利用者がカード発行会社に登録したパスワードを入力することで本人認証を行い、不正利用を防ぐ本人確認サービス「3Dセキュア」の導入に加えて、キャンペーンを前にした2月4日からは本人認証済みのクレジットカードの利用上限額をこれまでの過去30日以内の決済合計額25万円から過去24時間以内の合計金額2万円および過去30日間の合計額5万円に引き下げるなど万が一、被害が不正注文などの被害が発生しても被害を軽減されるような施策を講じ、前回のような派手さはないが、より安全なキャンペーンを打つことにしたようだ。
第2弾キャンペーンの状況は?
第2弾キャンペーンがスタートして10日間が経過した現時点での状況はどうか。還元額の上限を1000円としたため、前回のようにPayPay決済待ちで連日、店舗に行列というような事態は発生していない。ただ、絶対額は小さいながら、プレミアム会員の場合、5回に1回は全額(最大1000円)が還元されるなど、全額バックの当選確率が前回よりも上がったため、プレミアム会員が5回、PayPayで決済した場合の実質の還元率が36%になると冷静に捉えるユーザーも多く、PayPay側の当初の狙い通り、日常の買い物になるべくPayPayを使い、20%還元や1000円当選を狙う利用者は少なくないようだ。キャンペーンによる送客効果が前回のように家電量販店だけでなく、ドラッグストアやコンビニのほか、一般の小売店など広い範囲で成果が出てくると、現在、競合サービス間でし烈な争いとなっている加盟店獲得競争が有利に進められる状況も出てきそう。
当初は2月からまずはヤフーが運営する仮想モール「ヤフーショッピング」およびネット競売「ヤフオク!」に導入させるとしていた「PayPay」のオンライン決済への対応については「システム開発の遅れもあり3月以降に延期する」(同社)とのことだが、今後、「オンラインでも積極的に(加盟店を)広げていきたい」(中山社長)としており、自社の新たな決済手段の選択肢の1つとしても「PayPay」の普及の行方はEC事業者にとっても気になるところ。第2弾キャンペーンの行方に注目したい。