「ネット販売で売り上げを上げたい」と考えるEC実施企業に対し、様々な支援ツールや広告が提供され、また、かつてほどコストをかけずに様々な施策を打てる環境が整いつつある。一方で数多くの選択肢の中から、効果のある最適なものを選びあてることは容易ではない。そうした中でECで成功している事業者は何をどう選択し、そしてそれはどれほどの成果をあげているのだろうか。EC、リアルを問わず有力なネット販売実施事業者の事例を見てみる。
「あす楽」と「プライムマーク」がユーザーの信頼につながる
【事例① ストリーム】
家電ネット販売のストリームでは、主力店である「ECカレント」のほか、「イーベスト」と「特価COM」などの通販サイトを運営しており、それぞれの店舗名で仮想モールにも出店している。このうち、イーベストは「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤ(SOY)2018」において、楽天市場の翌日配達サービス「あす楽」を活用した店舗に与えられる「あす楽賞」を受賞した。
もともと、同社は価格比較サイト「価格.com」から自社サイトへの誘導をメインの販路としており、仮想モールにはあまり力を入れていなかった。マザーズへの上場を果たした2007 年頃は、価格.comで最安値を付けることも多かったが、2010年頃の家電エコポイント制度による特需後の反動が長引いたこともあり、近年は売り上げがやや低迷。価格.com も「集客ボリュームはあるが、やや落ちてきている」(右田哲也取締役)こともあり、以前ほどの安値戦略は取っていない。
そこで、ここ数年は仮想モールの店舗を強化。年末商戦施策や顧客へのポイント施策を積極的に行っている。「アマゾンマーケットプレイス」では、在庫管理・商品配送代行サービス「フルフィルメントby Amazon」を17 年11月に導入。業務効率改善を図っており、売り上げも好調に推移している。また、18 年にはKDDI の仮想モール「ワウマ」にも新規出店した。
右田取締役は「消費者のサイトの選び方はどんどん変わってきているので、当社もそれにあわせて変わっていかなければならない。最初に力を入れたのは楽天市場だが、ポイント戦略などもトライ&エラーを繰り返していた」と明かす。家電は価格を優先するユーザーが多い商材だが、利益率が薄いだけに、手数料が発生する仮想モールでは自社サイトよりも価格を上げざるを得ない。「モール内の競合も手数料は払っているので条件は同じ。楽天市場の良いところはポイントで囲い込めることで、楽天で買い物をし続けている人は、安くても当社の自社サイトには買いに来ない。これまでとは違う、いろいろな顧客を取り込めるのが仮想モールの良いところだ」(右田取締役)。
広告は化粧品で活用
アマゾンに出店したのは16年のこと。以前のアマゾンは直販がほとんどだったため、同社にとって紛れもない競合だったわけだが、最近のアマゾンは仮想モール事業にも力を入れており、成長率も非常に高いことから出店を決めたという。現在は楽天やヤフーを上回る売り上げとなっている。
とはいえ、以前ほどの価格訴求はしていないだけに、何らかの強みを打ち出さなければ消費者には選ばれない。右田取締役は「他社と違うのは配送サービス。納品の精度が高く、出荷遅れや誤配はまず起きない仕組みになっている」と力を込める。例えば、楽天市場では定期的にセールを開催しているが、注文をさばき切れずに出荷遅れを起こしてしまう店舗もある。同社の場合は「受けた注文は当初の約束通りに出荷するのが当然。納期遅れはユーザーの信頼を落とす大きな要因だと思っている」(右田取締役)。
こうした点が評価を受け、楽天SOY2018ではイーベストが「あす楽賞」を受賞している。「きちんと届くかどうかは買ってみないと分からないことではあるが、『あす楽』は配送面で信頼が置けない店では表示できないので、ユーザーも『あす楽』表示を信用して購入しているのではないか」(同)。これはアマゾンでも同じだという。アマゾンでは、有料会員であれば送料無料で受注日の当日・翌日に配送することを示す「プライムマーク」に関して、16年から同社サイトの出店者でも自社配送商品にも商品画面に表示できるようにしている。一定の配送レベルを持つ出店者に限定されたものだが、同社では表示を許されており、カート取得率や売り上げの向上に大きく貢献しているという。「配送遅延率が上がるとプライムマークはすぐに外されてしまうが、そういうこともなく継続できている」。
これは在庫管理がきちんとできている点も大きい。在庫の数量がリアルに反映され、間違いもない。ネットショップにとっては「当たり前のこと」ではあるが、実はできていない店舗も多いのだ。右田取締役は「倉庫との連携、クレジットカードや銀行など支払い関連との連携がきちんとしている。ECカレントが立ち上がってから継続してできていることだ」と胸を張る。
同社が上場した頃の家電ネット販売は、家電量販店との資本関係のない独立系のネット専業が目立っていた。俗に「バッタ屋」と呼ばれる事業者も多く、家電量販店はヨドバシカメラや上新電機などを除くと、あまりネット販売には力を入れていなかった。「注文したのに商品がなかなか届かない」などというケースもあり、配送や在庫管理をおろそかにしなかった同社が信頼を勝ち得てきた。ただ、最近は大手家電量販店も仮想モールへと軒並み出店し、売上規模も大きくなっている。独立系とは違ってインフラが整っているだけに、こうした点では差別化しにくくなっているのも実情だ。
「正面から戦うのは難しい部分もあるが、『量販店でないと買わない』というユーザーは多くないはず。遜色のないサービスを展開し、取れる部分をきちんと取っていきたい」(右田取締役)。こうした観点から、最近は冷蔵庫や洗濯機、テレビなどの大型家電の設置サービスを自社サイトで強化している。同社はヤマダ電機子会社であるベスト電器の関連会社のため、ヤマダの設置サービスが全国で活用できる。宅配会社と契約し、自前で大型家電の設置サービスを手がける場合よりもコスト面でかなり優位という。昨年にはプレイドのウェブ接客ツール「カルテ」を導入。カルテのチャット機能により、商品購入の検討段階からリアルタイムでユーザーと会話できるようになり、コンバージョン率増につながったほか、ユーザーが希望する配送場所に応じた最短納期のスムーズな案内などが可能になった。
同社では、家電以外の商品を扱う「ワンズマート」を楽天市場に出店している。女性向け生活必需品を中心に、化粧品や健康食品のほか、鍋やフライパンといったキッチン用品などを販売する店舗だが、19年3月に同社子会社で化粧品を手がけるエックスワンのオフィシャルショップとして刷新した。同店ではクリック課金型の「楽天プロモーションプラットフォーム広告」と「クーポンアドバンス広告」を利用しており、エックスワンで展開する化粧品をアピールしていく。「家電は儲からないし競合も多いので、利益率の高い自社ブランド化粧品を売っていきたい。良さを知ってもらい、認知してもらうためにはモール内での広告展開も重要になってくる」。
アマゾンのECカレント店でもエックスワン化粧品を扱っている。いつも.の「Amazonスポンサープロダクト広告運用代行サービス」と「Amazon セラーコンサルティングサービス」を利用して広告を打っており、化粧品のサイト上に掲載された広告の見られた回数を表す「広告インプレッション」が、月間平均で導入前の10倍以上に増えたほか、商品ページの改善と広告運用を並行して行った相乗効果で、月別売上高も導入前の2倍~3.5倍で推移している。
自社サイトにも再び注力
楽天市場では「スーパーセール」や「お買い物マラソン」、ヤフーショッピングでは「5のつく日」など、各仮想モールでは定期的にセールを開催しており、それにあわせてポイント増量などの施策を打つことで売り上げを伸ばしている。
ただ、同社の前期ネット販売事業は広告宣伝費の増加もあり、営業赤字を計上した。右田取締役は「認知・集客・ブランディングを強化することで再び自社サイトを強化したい。リターゲティング広告やアフィリエイトなどはほとんどやってこなかったので、これらも含めて『買って良かった』というファン作りをしっかりやっていく。ただ、仮想モールにも良い部分はあるので、引き続き力を入れていきたい」と話す。