セブン&アイHDがオムニ戦略を大幅転換 ――EC中心脱却、ニッセンは「カタログをゼロベースで再考」

記者会見する井阪隆一社長

セブン&アイ・ホールディングス(HD)がオムニチャネル戦略を大幅に見直すことが分かった。2015年11月に開設した通販サイト「omni(オムニ)7」を核とした施策から、グループ各社のシナジー効果を重視した施策に転換する。

セブン&アイHDでは10月6日、都内で記者会見を行い、同社の井阪隆一社長が「100日プラン」として、18年2月期からの中期経営計画を公表した。エイチ・ツー・オーリテイリングとの資本業務提携や、イトーヨーカ堂の再建計画などと並び、オムニチャネル戦略を転換することも発表された。

オムニチャネルのポータルサイトであるオムニ7は、コンビニエンスストアなどグループの店舗網と同サイトを連携させたのが特徴。購入した商品を店舗で引き渡すほか、購入した商品の返金・返品に店舗で対応する。このほか、店舗に設置した専用の接客端末を通じて御用聞きサービスを実施。当初はセブン―イレブン・ジャパンやイトーヨーカ堂、そごう・西武、ロフト、赤ちゃん本舗、セブンネットショッピングなどグループ8社の商品を集約していた。
セブン&アイHDは、オムニ7の優位性について、自宅や会社の近くの店舗でいつでも商品が受け取れること、店頭で現金や電子マネー「ナナコ」などさまざまな手段で決済できること、店頭でいつでも簡単に返品・返金できること、グループ各社の差別化された商品を取り扱っていること、という4点を挙げていた。
16年2月期のオムニチャネル関連売上高は1418億円。前期末の段階で、今期は4000億円(ネットで商品を見てから店舗で購入する「ウェブルーミング売り上げ」も含む)を予想。さらに、19年2月期には1兆円(同)に達する計画を掲げていた。ただ、今中間期のオムニチャネル売上高は663億円にとどまっている。

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グループ間シナジー発揮狙う

セブン&アイHDの井阪社長は「オムニチャネルは当と乖離(かいり)した状況になっている」と現状を説明。その上で、これまで進めてきたオムニチャネル戦略について、大きく舵を切ることを明らかにした。

これまでは、ネット販売をオムニチャネル戦略の中心としてきたが、今後はグループ各社に共通IDを導入し、購買情報を一元管理することでグループ全体の客数を増やす戦略に変える。同社グループには、セブン―イレブンを中心に、毎日2200万人の来店者がある。顧客ごとにグループ各社の利用状況を繋げ、全チャネルを通じてサービスの質を追求していくこと、つまりグループの顧客戦略をオムニチャネル戦略として新たに位置付けた。

具体的には、グループ各社のスマートフォン用のアプリとして「セブンアプリ(仮称)」を開発。アプリをダウンロード、さらにグループ各社共通のポイントプログラムに入会してもらうことで、個々の消費者のし好にあった提案を可能にする、といった手法を考えているという。
例えば、アプリで販促するのはもちろん、購買連動型ゲーム、買った商品のカロリーやアレルゲンといった情報も提供。顧客一人ひとりの属性にあわせたパーソナルマーケティングも行う。ネット販売については、スマホアプリと連動する形で、商品をオムニセブンに移動して購入できる仕組みを取り入れるという。共通ポイントプログラムにはナナコを採用するのか、さらにはアプリのリリース時期などは不明だが、グループ店舗をたくさん利用することでボーナスポイントを付与する仕組みを導入するなど、店舗の利用を促進するものとなりそうだ。

井阪社長は「オムニチャネルの本当の狙いは(グループ間)シナジーの発揮だ」と断言する。今後のオムニチャネル戦略の柱とするのは赤ちゃん本舗だ。赤ちゃん本舗が実施したアンケートによれば、育児関連市場での同社認知率は96%と非常に高く、これを積極的に活用する。「アカチャンホンポ」を利用する、新生児のいる家庭に対し、「イトーヨーカドー」のネットスーパーを使ってもらう、あるいは宅配サービス「セブンミール」を使ってもらった場合、ボーナスポイントを付与するグループ間シナジー発揮狙うセブン&アイHDがオムニ戦略を大幅転換といったキャンペーンを実施する。子供が大きくなり、赤ちゃん本舗利用しなくなったら、イトーヨーカドーの子供服を提案、さらに小学校入学時にはランドセルを販売する。そして、その子供がさらに大きくなったら、セブン―イレブンを使ってもらう。「顧客のライフステージに合わせたサービスや商品の提供を通じて、ともに成長できる親しみのあるグループにしていきたい」(井阪社長)。

ポータルではなくなったオムニ7

オムニ7に関しては「実店舗との相互送客を図りながら、自主開発商品を中心とした魅力ある商品の販売を通じて、収益の拡大を図る」とはしているものの、これまでのようなポータルサイト的位置づけではなくなるわけだ。
井阪社長は「アマゾンや楽天市場といった専業各社が林立する中で、ネット販売という不特定多数の顧客に向けたアプローチをしてきたこと、システム起点で考えすぎたことが失敗の要因ではないか」と説明する。その上で「1日2200万人来訪する顧客に対し、わくわくするような、毎日見たくなるような情報などを提供することで顧客との接点を増やし、消費に結びつけていきたい」とした。
セブン&アイグループのネット販売への取り組みは、1999年にソフトバンクやヤフーなどとの合弁会社として設立した「イー・ショッピング・ブックス」に始まる。その後「セブンアンドワイ」としてグループ傘下に加え、2009年に「セブンネットショッピング」としてポータルサイト化を目指し強化してきたものの、アマゾンや楽天市場といった専業には大きく水を開けられていた。
セブン―イレブンを代表とするコンビニエンスストアは全国に存在するだけに、受け取り拠点としては非常に優秀だ。ただ、消費者にとって、コンビニで受け取る商品は、オムニ7で購入したものである必然性はない。オムニ7の失敗は、アマゾンや楽天市場などを利用している消費者を乗り換えさせるだけの魅力がなかった、という点に尽きるのではないか。

オムニ戦略から外れたニッセン

また、完全子会社化が決まったニッセンホールディングス(HD)については、「現在、立て直し計画を練っている最中だ。ニッセンの再建については、カタログをベースにした通販について、ゼロベースで考え直すべく打ち合わせをしている」(井阪社長)とした。

さらに、ニッセンの強みについては「大きめサイズアパレルの『スマイルランド』が強いので、さらに伸ばしていきたい。さらに、ささげ業務(商品画像の撮影、採寸情報、商品のコメント)や物流機能を持っているので、当社通販事業の共有機能として有効活用できないかと考えている」とコメントした。
ただ、中期経営計画において、井阪社長がニッセンについて説明することはなかった。オムニチャネル戦略に関して「あらゆる消費場面をつなげ、ライフタイムバリュー(LTV)に応じてサービスを付与する」と説明し、「誕生」から「定年・老後」までグループのサービスでライフシーンをカバー、LTV最大化を図る方針を明らかにした。しかし、ここでもニッセンについて触れられることはまったくなかった。
ニッセンが今後のオムニチャネル戦略から完全に外れたことが明確となったわけで、セブン&アイグループがニッセンHDを子会社としている意味すら問われる事態となっている。井阪社長の発言は、カタログの廃止を明言したものではないが、ニッセンが大幅な赤字を垂れ流している現状を考えると、何らかの手を早急に打つ必要があるのは明白だ。稼働顧客が減少し赤字が続いている状況で、主力商材である衣料品の競争力を早期に取り戻すのは極めて厳しい。そのため、主力となる女性向けアパレル事業については、カタログの廃止、さらには事業そのものの廃止・譲渡も考えられそうだ。

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