店舗を「あえて」持たない利点と課題 アパレルEC限定ブランドの可能性は?

小売店を運営するアパレル企業がオンライン限定でブランドを立ち上げるケースが目立ってきた。店舗を持たないオンラインならではの身軽さを武器に、これまでとは異なる顧客層へアプローチを試みてみたり、生産背景を変えて新たな商品調達に挑戦し、そこから得た成果を既存ブランドに応用するといった狙いがあるよう。最初からECに特化しているわけではなく、店舗網を強みにしてきたアパレル企業が「あえて」仕掛けるEC限定ブランドについて、各社の取り組みを見ていく。

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買い取り中心に品ぞろえを拡充
インフルエンサーとのコラボで成果

【事例① 三陽商会】

前田紀至子さんとコラボした「ル ジュール」のワンピース

三陽商会は、2017年9月にオンライン限定ブランド「LE JOUR(ル ジュール)」をスタートした。同ブランドは2016年に休止した婦人服ブランドをEC専用にリニューアルしたもので、商標も含めて過去の資産を有効活用し、スピーディーに立ち上げられるメリットがあった。

当初は約7割がオリジナルの企画商品で、ウエアとファッション雑貨など約100品番で始動した。売り場は、自社通販サイト「サンヨー・アイストア」でスタートし、17年12月にはファッション通販サイト「ゾゾタウン」にも出店した。

それでも、ウェブ上の売り場が2店舗と少ない中、オリジナル商品を生産するにはそれなりの数量が必要で、在庫リスクを低減する目的で18年春夏シーズンからはオリジナル商品を縮小。買い付けをメインにして品ぞろえを拡大する戦略に切り替えた。在庫はなるべく積まず、スタート時の100品番に対し、足もとでは約300品番まで増やしている。

同社の自社通販サイト「サンヨー・アイストア」の中心顧客層は40代で、20~30代女性を開拓できていなかったことから、「ル ジュール」は当該層をターゲットにMDを組み、価格帯も三陽商会の他ブランドに比べて3~4割は安く、1万円前後の買いやすい価格を意識している。ただ、現状では「サンヨー・アイストア」の既存顧客が多く、購入者数では40 代、30 代、20 代50 代と続くとう。

チャネル別の売上高は自社ECが65%、外部モールが35%の割合で、モール出店は初年度の「ゾゾタウン」だけでなく、在庫連携方式で「マガシーク」や「楽天ファッション」「アマゾン」「マルイウェブチャネル」などにも売り場を広げてきている。

新規事業ビジネス部モールビジネス課課長代理の 石川雅也氏

リアル店舗を持つブランドとは異なり、オンライン限定ブランドは単品訴求型のため、あまりコーディネートの組み立てを意識しなくてよく、「その時々で売れるカテゴリー、アイテムを調達して販売できる機動力を重視している」(石川雅也新規事業ビジネス部モールビジネス課課長代理)という。

商品カテゴリーではワンピースが強く、一枚でコーデが決まる商品を消費者も求めているようで、ワンピースなどはオリジナル商品を作り込んで、販促もかける。

ただ、「ル ジュール」は三陽商会の生産背景をまったく使っておらず、独自路線の物作りをしている。立ち上げ当初は商社を介していたが、現状は協力工場と直接取り引きをしている。三陽商会のブランドとしての品質を守りながら、コスパの良さと同時に利幅を意識した事業展開を図っており、同社の他ブランドと比べてプロパー販売比率が高いのも特徴だという。

コラボ企画で重衣料も

同社では、路線変更した18年春夏シーズンからはインフルエンサーとのコラボ企画をスタートした。出だしこそ結果が伴わなかったものの、「サンヨー・アイストア」の顧客層と親和性が高く、落ち着いたテイストの服が得意なインスタグラマーの前田紀至子さんとのコラボをきっかけに、18 年秋冬にはヒット商品が出始めた。

「ル ジュール」は18 年下期(秋冬)、19年上期(春夏)とブランドの売り上げ計画を2期連続でクリアしているが、そのけん引役がインフルエンサーとのコラボ企画だという。

当該企画は、三陽商会が売れ筋などの情報を提供し、あとはインフルエンサーが“今着たい”と思う服をデザイナーが形にするもので、「サンヨー・アイストア」ではランディングページも用意して訴求する。

前田さんとのコラボ成功以来、高めのゾーンの服を着こなすのがうまいインフルエンサーと組み、ヒットが続いている。また、インフルエンサーを選ぶ際には、フォロワー数が非常に多いインフルエンサーは契約上、数回の情報配信で終了してしまうが、フォロワーが数万人規模のインフルエンサーの場合は、「コラボ商品に対する思い入れが強く、契約にしばられずに自ら発信してくれるメリットもある」(石川雅也課長代理)という。コラボ企画はインフルエンサーのインスタやツイッター経由の流入があり、新客開拓にもつながることから、三陽商会では引き続き、当該企画に力を注ぐ考え。

19年秋冬では5人のインフルエンサーとコラボし、6つの企画を展開する計画で、前田さんはシーズン立ち上がりの9月と11月の2企画で登場する。残りの4企画は新たなインフルエンサーとタッグを組む。

また、これまでのコラボ企画はワンピースなど買いやすい価格帯の軽衣料が中心だったが、19年秋冬からはアウターやコートといった重衣料にも取り組むという。

レンタルサービスに卸も

インフルエンサー活用以外のプロモーション施策では、月額制ファッションレンタルサイトの「エアークローゼット」や「アールカワイイ」に「ルジュール」の商品を卸し、ブランド認知の拡大につなげる取り組みを本格化。19年上期は「ル ジュール」の売上高の3割程度を卸が占めるなど、認知策と同時に安定的な売り上げにつながっているようだ。三陽商会の既存ブランドでファッションレンタルサイトに商品を卸すのはレアケースだ。

また、「ル ジュール」はオンラインが主戦場であることから、新作やコラボ企画などの投入に合わせて広告ビジュアルを作成しているため、「サンヨー・アイストア」が実施するウェブ広告の中では他のブランドに比べて露出も多いようだ。

一方、オンライン限定ブランドの課題は、買い付けを中心とした戦略に転換して以降、在庫量が薄く、大きな売り上げにつながりにくいため、今後、売れ筋アイテムについてはオリジナル品、買い付け品ともに一定の奥行きを持って臨みたい考え。

品ぞろえについては、拡大路線を維持する方針だ。MD 面では、従来はワンピースやブラウス、カットソーといった軽衣料をメインに生産、買い付けを行ってきたが、18年秋冬にトライアルで買い付けた防寒アイテムが想定以上に販売量を伸ばしたため、19 年冬シーズンはニット類を含め、前年比約2倍の防寒アイテムを仕込んで冬商戦に備えている。

三陽商会では、売上高だけでなく、「ル ジュール」単体でも営業利益を出して全社に貢献したい意向という。また、次のステップではポップアップストアの開設や、「ル ジュール」のセカンドラインの開発なども検討しているようだ。

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