本誌が通販実施企業30社を対象に実施した10月1日から引き上げられた消費税による業績への影響などについてのアンケート調査によると、増税から半月後現在でほぼ半数の企業が消費の冷え込みを感じていると回答した。一方で増税前の駆け込みによる恩恵が「あった」と回答した企業は全体の6割となり、駆け込みと冷え込みで相殺し今期の業績に与える増税の影響は、限定的にとどまるとの見方を示す企業が多かった。
6割が駆け込みの恩恵受ける
通販実施企業各社に増税前の駆け込み消費の恩恵について聞いたところ、回答企業の過半数となる60%が「あった」と回答。高額商品を取り扱う企業で恩恵を受けたとするところが多いが、衣料品や服飾品を扱う企業では駆け込みの恩恵を受けたところもあれば、そうでないところもあり、必ずしも商品アイテムによる駆け込み消費の発生の明確な違いというのは見られなかった。また、駆け込み消費の発生が「9月下旬からの僅かな期間に限られた」(ヒラキ)という意見を寄せるところもあり、短期決戦で決着したのが今回の増税前の駆け込み消費の状況のようだった。
駆け込み消費の規模については「顕著な売上増はなかった」(インペリアル・エンタプライズ)、「想定以下だが売上が上がった」(ヤマサキ)というところがある一方、「9月売上は前年比約190%の実績。冷蔵庫や大型テレビ、ガスコンロ、マッサージチェアなど高額品を特に購入頂いたが掃除機や炊飯器などもよく購入頂いたので価格帯関係なく、増税をきっかけに何か買いたいというお客様が多くいた印象」(ジャパネットHD)など恩恵を大きく受けた企業もあり、各社により区々といった状況だったようだ。
駆け込み消費の恩恵が「なかった」との回答企業は16%、「ほぼなかった」が24%。これらの回答企業は健康食品など主力とするところが比較的目立った。ただ、健食で「あった」と回答した企業も少なくなく、取扱商品自体の差や駆け込み消費の取り込みに向けた施策の有無なども影響していると見られる。
その駆け込み商品の取り込みの施策では「9月に広告費を増額」(田中貴金属ジュエリー)、「ブランドごとに9月最終4日間でのまとめ買いフェア」(ストライプインターナショナル)、「ポイント還元キャンペーン」(ライトオン)、「生活用品のまとめ割施策などを実施」(アスクル)などが挙がった。施策を行った各社では、その効果の多少を別にして売上が上がったとするところは多い。ただし、特に何らの施策なしに売上増を果たした企業も見られた一方、施策の効果を得られなかった企業も少数ながらあった。
「冷え込みある」との回答が44%
次に消費増税となった10月以降に消費の冷え込みの状況を聞くと、28%が「ある」、16%が「多少ある」とし合計44%が増税の影響を受けていることが分かった。また「現状はない」と「まだ分からない」との回答も合計38%で、今後の推移を見定める必要があるとし、明確な回答を控えたところも多い。
冷え込みが「あった」と回答した企業に、増税前との変化について聞くと、「高額品など特定商品が売れなくなっている」(ダイワ)、「2014 年の増税時ほどではないが、明らかに売上は落ち着いている。日々の売上が前年比では50%~ 60%に落ち込んでいる状況」(ジャパネットHD)というように駆け込みの反動の影響を受ける企業があった。消費の冷え込みが「特にない」との回答は20%。同回答の多くは増税前の駆け込み消費の発生がなかったとするところが多い。増税後の冷え込みに向けた施策の取り組みについて聞くと、「期間限定の割引などのセール販売」(ディノス・セシール)、「アプリユーザー限定でポイントアップなど」(ファンケル)、「政府のキャッシュレス・ポイント還元事業への参加」(ディーライズ)、「売れ筋商品・限定商品の企画を毎月実施」(ヤマサキ)、「なるべく増税分を価格に転嫁しない方針」(テレビ東京ダイレクト)、「例年と時期をずらして通販カタログを発行」(田中貴金属ジュエリー)、「値引きやポイント還元でなくサンプル商品プレゼントなどを検討」(ティーライフ)、「抽選で割引クーポン券・ギフトのプレゼントやウェブ限定新規購入割引キャンペーン、メルマガ・LINE 会員向け割引クーポンの配布など」(ヒラキ)などが挙がった。
最後に増税後の冷え込みによる業績への影響を聞いた。「あまり影響がない」(八幡物産)、「ほとんどなし、あっても2~3%程度の落ち込みと見る」(エー・ビー・シーメディアコム)、「当社はBtoBもBtoCに消耗品がメインなのである程度の期間内(3カ月程度)で平準化されると考えている」(アスクル)という見解がみられ、大きな影響がないとの意見が大勢を占めている。
仮想モールへの影響は?
インターネット上の「売り場」を提供する仮想モールの運営者にも消費増税の影響を聞いた。
各社ともセールの実施など増税前の駆け込み需要を意識した積極的な販促施策などにより、恩恵を大きく受けたようだ。
「楽天市場」を運営する楽天では増税直前のセールとして、「増税前に多数の商品をお得な価格で用意し、売上は大変好調だった」という「楽天スーパーSALE」を実施するなどし、「増税前の1カ月間は駆け込みによる消費が目立っていた。特に増税1週間前は昨年と対比すると大幅に流通が拡大しており、想定以上の伸びだった」としている。商材カテゴリー別に売上伸長率をみると「本・雑誌・コミック カレンダー」が特に好調で前年同期(8月1~20日)比54%増となり、また、消費税前に購入する傾向が見られたとい「パソコン・周辺機器 ゲーム用機器」やまとめ買い需要などが目立った「CD・DVD ブルーレイ」のジャンルなども売れ行きが伸びた。
ヤフーでは運営する「ヤフーショッピング」で「増税前特集」のほか、「プレミアム会員セール」「5のつく日」などのセールを増税直前に実施し、特に「ダイソン」のコードレス掃除機などの売れ行きが目立ち、同期間の売高は「前年比でみても高い伸びとなった」とし、「9月に入り最終週に向けて取扱高が伸びた」とする。
auコマース&ライフ(aCL)が運営する「au Wowma !」では8月27日から9月25日までまとめ買いのクーポン企画などを実施。ゲーム機「ニンテンドーSwich」のほか、炊飯器やオーブントースターなどの家電の売れ行きがよく通常時と比較して、同企画経由の流通額が1.6倍となるなど好調だったという。
イーベイジャパンが運営する「Qoo10」では9月に「衝撃コスパ祭り」と「Qoo10の日」という2つのセールを実施。「Swich」やダイソンのコードレス掃除機などが売れ、9月10日には同モールでは過去最高の流通額を記録し、9月末日にはさらに最高流通額を更新したという。
リクルートライフスタイルが運営する「ポンパレモール」では9月19~22日まで通常よりもポイント還元率を高めた「家計応援秋の大感謝祭」を実施。買いだめ需要のあった日用品のほか、軽減税率に対応しなければならない小売り事業者からとみられる「Airレジスターターパック」などレジ関連商品などの売れ行きもよく、「前月比で約2倍の取扱高となり、増税前需要の効果が高かったと実感した」とする。
なお、アマゾンジャパンでは増税の流通額の変化については未回答だったものの、9月20日から87時間にわたって開催した「増税前、最後のビッグセール タイムセール祭り」と同時にポイントの還元率を増やした「Amazonポイントアップキャンペーン」を開催し、「多くのお客様に利用いただいた」とセールに一定の成果があったことを示唆した。
増税後の状況はどうか。増税前後の流通額は推移について尋ねたところ、「増税後は(増税前のような大幅な流通額増加の傾向は)落ち着いている」(楽天)、「増税前の9月までは月次で7~8%上昇していたが、10 月以降は一定期間低下を見込んでいる」(aCL)、「増税後は例年の成長率に戻った」(イーベイジャパン)、「増税前ほどの伸びは見られない」(リクルートライフスタイル)などとしている。
各モールでは消費喚起のため、キャンペーンやイベントなどの販促施策を展開しているが本命の施策は国が主導して中小規模の出店者を対象にキャッシュレス決済での買い物時に最大5%分のポイント還元を行う「キャッシュレス消費者還元事業」だ。楽天市場では全体の半数の店舗が参加しているが効果については「まだ開始直後のため、現時点では判断できない」、9月末時点で出店者のうち、662 店舗が参加しているポンパレモールでも「まだわからない状況」、アマゾンジャパン(参加店舗数は非公表)も「開始して間もないことなどを踏まえコメントを差し控える」とするが、ヤフーでは参加出店者数は明らかにしていないが、増税後、すぐに成果があらわれているようで「増税後、(キャッシュレス消費者還元事業の)対象ストアの取扱高が伸びている」とする。なお、aCLは11月からキャッシュレス消費者還元事業をスタート予定で全出店者のうち、対象となる中小店舗の7割以上が参加予定だという。また、イーベイは現状、参加申請中だという。
仮想モール各社に増税が年間の流通総額に与える影響を聞いたところ、「前回の増税時ほど流通額の乱高下はないと見込んでいる」(ヤフー)、「年末に向けて引き続き需要は堅調に推移すると考えている」(イーベイ)などとして、悪影響は限定的なものにとどまるのではないかという見方を示した。
※アンケート回答企業(順不同):八幡物産/ユーグレナ/ファンケル/ライトオン/ジュピターショップチャンネル/オルビス/アスクル/インペリアル・エンタープライズ/ヤマサキ/テレビ東京ダイレクト/リフレ/ダイワ/エー・ビー・シーメディアコム/田中貴金属ジュエリー/山田養蜂場/ティーライフ/フェリシモ/ストライプインターナショナル/ディーライズ/ディノス・セシール/千趣会/ジャパネットホールディングス(※ほか社名非公開希望企業数社)