実店舗での採寸を起点にネットへ誘導 オーダースーツEC

紳士服およびアパレル業界でオーダースーツのEC戦略が広がっている。かつては採寸やオーダー内容の細かさなどもあってECで提供することに高いハードルがあったものの、昨今はスマートフォンアプリによる自動採寸技術や実店舗との顧客データベースの連携などが進んだことでその潮目が大きく変わりつつある。オーダースーツ未経験の若年層を呼び込むための新たな入り口としても注目されており、各社とも様々な切り口での提案を実施。EC分野で先行している企業の事例をはじめ、直近の大手各社の動きをまとめた。

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若年層向けに低価格帯で提供

11月に本格リニューアルオープン予定の「洋服の青山・銀座本店」で もデジタル・ラボを導入。

紳士服の企画・販売を行う青山商事では10月7日より、「ユニバーサルランゲージ・メジャーズ」に次ぐ新たなオーダースーツブランドとして「クオリティオーダー・SHITATE( シタテ)」を立ち上げ、受注を開始した。2着目以降についてはスマホなどECでの受注も実施。若年層などに向けて訴求していく。

2016年に開始したユニバーサルランゲージ・メジャーズは、専門店を設けて1000種類以上の生地バリエーションから独自開発の3D仮想試着システムなどを活用してオーダーを受けるハイブランドのオーダースーツ商品であるのに対して、シタテは洋服の青山など既存店の中の1コーナーとして専用スペースを設けて展開。大都市圏を中心にまずは洋服の青山20 店舗、ザ・スーツカンパニーの55店舗にそれぞれ導入している。
最大の特徴は税別2万9000 円~という価格帯で、これまで、“高価で敷居が高い”というイメージを持たれていたオーダースーツのイメージを払拭。普段は既製スーツのユーザーやフレッシャーズなど比較的若年層に向けたオーダースーツの入門ブランンドとして位置付けている。

購入までの流れとしては、来店の2カ月前から前日までの期間で事前予約を受け付けており、常時200種類以上を取りそろえている国内外の生地ブランドから希望の生地を提供。スマホの採寸アプリと実店舗のスタッフによる採寸を組み合わせたフィッティングを実施。サイズは合計56種類で、スタイルは「ベーシック」と「スリム」の2種類で提供。そのほか、裏地やボタンの素材、ラベルやポケットデザインなど上着・パンツとも多彩なオプションを用意している。

縫製は中国の協力工場で行い、受注から最短14日で届ける。採寸時からサイズ変化があった場合は、1年間まで無料で微調整するアフターフォローも行っている。採寸したサイズ内容などは顧客ごとに個別データとして管理し、2回目以降の注文時にEC上でもそのデータが反映されるような仕組みを現在構築しているという。

2018年度のオーダースーツ事業の売上高についてはユニバーサルランゲージ・メジャーズの効果もあり、前年比で150%と伸長。今回のシタテについても、オーダースーツ事業の底上げを図る目玉ブランドとして、期待を寄せている。

デジタル・ラボの導入により、シタテの接客スペースを十分に確保 することができている「洋服の青山・銀座本店」

同社でオーダースーツブランドの充実が図れている背景の一つには、実店舗の有効活用を目的としたECとのオムニチャネル連動の成果がある。オーダー商品を展開する際に、欠かせないのが「採寸」の過程。しかし、ある程度の対応スペースが必要な採寸専用コーナーを実店舗内に設けるに当たっては、一部の既存商品の売り場を縮小せざるを得ないという課題があったという。

そこで、解決に向けて活用を進めているのが2016年より開始したデジタルサイネージなどを使って通販サイトの商品在庫と連動させた「デジタルラボ」だ。実店舗内で展開しきれないすべての商品を閲覧できる同機能は、タッチパネル式の画面を操作することで、電子カタログのように商品を探すことが可能で、気に入った商品は店内のタブレットなどから注文でき、商品も自宅に配送するという、店内でEC対応ができる仕組み。

当初は、都内の小型店舗といった商品陳列が限られていた実店舗で導入を行っていたが、最近ではその活用範囲も拡大している。

例えば、「カジュアルな服を求める客が多く来る店ではスーツ商品はデジタル・ラボにする」「実店舗リニューアルの際に急成長しているレディース商品の売り場を充実させようと思った際には、一部のメンズ商品をデジタル・ラボにする」など、郊外の店舗などでも応用できる取り組み事例が出てきたという。「今までは新しいものを入れようとすると売り上げ規模が低いアイテムを見て縮小していた。そうではなくて、(既存の)スーツやジャケットなどをデジラボにすることによって商品力を変えずに展開ができる」(星川敦EC 事業部長)と語る。

オーダースーツ売り場に関しても同様のことが言えるようで、直近では11月上旬にリニューアル本格オープンを予定している「洋服の青山・銀座本店」でもデジタル・ラボを導入。リニューアルに当たって同店では、前述のシタテの専用受注コーナーをはじめ、いくつかの特設コーナーを新設している。シタテのコーナーについては、採寸スペースをはじめ、生地見本を見せたり顧客対応するための机・椅子などがあることから同コーナーだけで約50 m2となっている。そのため、デジタル・ラボの導入によるEC連携は欠かせない条件だった。

実際に以前の同店では2000 着を展開していたが、デジタル・ラボの導入もあってリニューアル後は約半分となる1100着まで陳列商品が減少。しかしながら、顧客に提示できる商品は依然よりもさらに充実させることができており、サービス向上が図れている。

また、デジタル・ラボ自体の機能についても毎年拡充を実施している。今夏には「ランキング」と「デジタル接客」を導入。ランキングでは、デジタル・ラボ導入全店舗や当該店舗内での直近の人気商品がリアルタイムで分かるようになっている。デジタル接客については、画面に登場するキャラクター店員の誘導の元、商品を探せるようになったもの。キャラクターの案内に従って着用シーン、サイズ、希望の価格帯、デザイン、色柄などを選んで進んでいくことで商品を絞り込んでいき、店内にある在庫の表示なども実施。スーツ購入に慣れていない顧客でもストレスなく商品を探せる仕組みとなっている。「スタッフの人数も限りがあり、また、店内での接客を敬遠される顧客もいるのでこれを使ってもらえれば」(同社)と説明。現状では実店舗の店員が顧客に利用を促しているケースも多いデジタル・ラボだが、今後はより顧客自身が積極的にセルフで使えるようにさらに機能を充実させていく考え。

なお、同社の2019年3月期の通販事業のデジタル・ラボでの受注も含めた売上高は27億円となっている。2020年3月期の売上高については約36億円を見込んでおり、デジタル・ラボでの受注を除いた場合では21億円程度を見込んでいる。

「お気に入り」登録で店舗と情報共有

AOKI が展開しているオーダースー

紳士服販売大手のAOKI では2019年7月より、自社通販サイトのリニューアル行い、オーダースーツのEC受注サービスの本格展開を開始している。同社では、これまでも店内で採寸したオーダースーツの2着目以降についてはECでも受注していたが、新たに1着目の注文からでもサイト上で顧客が自由に生地やオプションなどを選択して購入することができるようになっている。

利用に当たっては事前に同社の「WEBパーソナルオーダー会員」に登録することが必要。その後、スーツまたはパンツ単品のアイテム選択から、ジャケットデザインやパンツのベースとなるシルエットを選択。続いて色、柄、価格、素材から生地検索を行い、好みに合わせて随時変更していくという仕組み。生地が決まった後は、オプションとしてジャケットデザインやボタンなど細かな箇所のデザイン変更も行え、顧客一人ずつに合ったデザイン・機能仕様にできる。

工場の生産状況により、異なる場合があるものの、通販サイトからの注文による納期については実店舗購入よりも1週間長くなる約4週間~となっている。スーツ1着の通常価格は税別3万8000 円~となる。

開始から2019年10月現在までの足元の状況を見ると、7月以降はクールビズの影響もあって受注数に大きな変化はないものの、スーツ需要が高まる秋冬からは増加することを見込んでいる。顧客層としては30~40代の顧客が中心となっている。

同社によると、ECでオーダースーツを受注できるメリットとしては、ウェブ上で自由に生地やオプションを選択して購入できるため、顧客の隙間時間に容易に購入することが可能となることに加え、事前に生地やオプション選択情報を「お気に入り」に登録し全国の実店舗で呼び出せるため、短い時間でのオーダー購入ができることがあるという。さらに、実店舗で生地を確認して自宅で購入を検討することができるなど顧客ごとの使い勝手に合わせた購入ができることも大きな魅力となっている。

なお、同社としても基本的には実店舗での採寸を推奨しており、全店舗で採寸を受け付けられるようにしている。同社の場合、自身でサイズが分かる場合は実店舗に来店したことがない新規の顧客でもECからの購入が可能。しかしながら、デメリットとして実店舗で採寸しない場合は細かなサイズ調整が難しくなる可能性も出てくるようだ。今後は、ECでのオーダースーツ受注の認知を高めていくことを大きな課題と捉えている。

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