Tue, January 17, 2017

“アマゾン外”でもよい買い物体験を【井野川拓也●アマゾンジャパン セラーサービス事業本部 事業開発部部長】

アマゾンジャパンが開始したネット販売事業者向けの新サービス「Amazonログイン&ペイメント」。アマゾン顧客が登録した住所やクレジットカード番号などの登録情報を“アマゾン以外の通販サイト”でも使用して、当該サイトでも簡単にログインや決済をできるようにするもの。発表直後からネット販売事業者からの反響は大きく、その注目ぶりがうかがえる。同サービスを担当するアマゾンの井野川拓也事業開発部部長が「EC事業者とユーザー双方にとってまったく新しいエクスペリエンスを作るプロダクト」と評する「Amazonログイン&ペイメント」とは一体、いかなるものなのか。また、ネット販売事業者へのメリットとは何なのか。話題の新サービスの現状と今後とは─。(聞き手は本誌・鹿野利幸)

ユーザー、EC事業者の双方に高いメリットある

注文成約率、34%アップ

――5月11日から開始した「Amazonログイン&ペイメント」の開始の狙いについて教えて下さい。

我々はお客様に簡単かつ便利で様々な商品を安心して購入できる“買い物体験”を提供したいと考えています。そのためにはどうしても“アマゾンの中”だけでは限界があります。例えば、食事のデリバリーやチケットの販売などは少なくともこれまでアマゾンでは取り扱っておりません。

新 た に 開 始 し た「Amazonログイン&ペイメント」はコマースIDと決済を組み合わせた新しいプロダクトです。これにより、お客様はアマゾン以外の通販サイトでも新規で会員登録などすることなく、“アマゾンID”を使って、商品を安心かつ便利に購入できるようになります。

導入されるネット販売事業者にもメリットは大きいと思います。初回購入時の最大のハードルとしてあげられるのが住所やクレジットカード番号などの会員登録です。この入力が面倒になったり、このサイトに個人情報を教えて大丈夫だろうかなどの不安に駆られたりして、途中で購入自体をやめてしまうユーザーも少なくないと思いますが、「Amazonログイン&ペイメント」を導入するとアマゾンアカウントの保有者であれば、新規登録の際にアマゾンで登録した住所やカード番号などの楼録情報がそのまま使用でき、面倒な新規登録作業を大幅に軽減します。

すでに2013年から同サービスを始めている米アマゾンでの事例で言うと、同サービスを導入しているファッションアパレルの通販サイト「オールセインツ」では普通に新規顧客が会員登録をしようとすると2分以上かかるのに対して、「Amazonログイン&ペイメント」を利用して登録した場合は30秒足らずと短時間で登録でき、この結果、カート画面からの注文成約率は導入前後で34%アップしているなどのデータも出ています。このようにお客様、事業者の両者にメリットのあるサービスだと思います。

買い物情報は「把握できない」

――「Amazonログイン&ペイメント」導入したサイトでの商品購入情報などを把握して、今後、アマゾンのサービスに活かす狙いなどもあるのでしょうか。実際、通販事業者からもそうした声が出ていますが。

それはありません。我々が把握できるのは「どのサイトでいくら使われたか」という決済に必要な売り上げ情報のみで、誰がどんな商品を買ったかなどはそもそもトラッキングできないようになっています。

――では、その決済情報についてはアマゾンのサービスに何らか活用することもあるのでしょうか。

そういう目的ではありませんので、そういったことはありません。

導入にはシステム連携が必要

――通販事業者が「Amazonログイン&ペイメント」を導入するためにはどのような手順を踏む必要がありますか。

まず、専用ページから我々に申請を頂き、我々が数週間をかけて申請頂いたサイトの取扱商材(※アダルト関連商材などいくつかの商材ジャンルは利用不可)や会社の登記簿などの確認など審査をさせて頂きます。

その後、導入頂くにあたってシステム連携が必要となります。社内にある程度、詳しい人材など開発のリソースをお持ちの企業であれば、さほど難しい作業ではないかと思いますが、システム開発などに対応頂く必要があります。

このシステム開発は自社によるもののほか、「Amazonログイン&ペイメント」に対応する通販サイト構築ツールを提供するソリューションプロバイダーのサービスを利用することもでき、その場合は比較的、簡単に導入できます。現状ではフラクタが運営する「FRACTA NODE(フラクタ・ノード)」が対応しており、9月にはフューチャーショップ「FutureShop 2」も対応すると聞いています。

――「Amazonログイン&ペイメント」の決済手数料は。

開示していませんが、業界水準並みと考えてもらって結構です。このサービスは「手数料で稼ごう」という趣旨ではなく、アマゾンのお客様の利便性向上が目的だからです。

登録・決済のデザインやフローの変更で効果アップ

効果引き出すアドバイスは?

――「Amazonログイン&ペイメント」を導入にあたっての事業者へのアドバイスは何かありますか。「Amazonログイン&ペイメント」を導入する某サイトで実際に新規会員登録をしてみたのですが、アマゾンで登録した情報のほかにも入力項目が多く、期待とは裏腹に意外に面倒だった印象がありましたが。

そうなんですね。導入時に是非、通販事業者に考えて頂きたいのは会員登録や決済のフローや画面デザインに見直しです。この「Amazonログイン&ペイメント」の良さを一番、実現できるデザインを考え、新たに作って頂ければ導入効果は大きく高まると思います。

このサービスは簡単に素早く会員登録ができ、決済ができることが強みです。それを既存の登録フローやデザインにあわせようとすると本来は例えば2ページで済む登録や購入なのに、数ページも遷移させなければならず、ユーザーの利便性を阻害してしまうことになるかも知れません。やはりそれよりも例えば2クリックで購入が完了した方が利便性は高いわけですから。もちろん、システムの自由度とか制約もあると思いますが、開発の際はこのあたりを考慮に入れて頂きけると理想的だと思います。

――「Amazonログイン&ペイメント」の導入に向いているサイトなどはありますか。

どの通販サイトにもメリットが出てくると思います。あまり知名度や認知度のない中小規模のサイトでは「アマゾンだったら安心かな」という信頼感の部分が効いてくると思いますし、規模の大きなサイトでも新規登録の利便性という観点ではメリットは高いと思います。実際、すでに導入している米アマゾンでは中小規模のサイトから有名なアパレルブランドのサイトなどにも多数、導入頂いています。

課題はいかに簡単に導入させるか

――「Amazonログイン&ペイメント」の今後の展開について教えて下さい。

5月11日のサービス発表以来、通販事業者の皆様から、「Amazonログイン&ペイメント」に関する非常に多くの問い合わせを頂いています。まったく新しいエクスペリエンスを作るプロダクトですので、料金のほか、システム開発の難易度など様々な点について熱心にご質問頂いており、導入に検討を頂いています。

開始時点では導入サイトは(四季運営の演劇チケット販売サイト「劇団四季」と夢の街創造委員会運営の出前ポータルサイト「出前館」の)2サイトでしたが、すに準備中のサイトもいくつかあります。システム連携で多少、リードタイムがかかっていますが、近日中にかなり増えていくことになります。(編集部注:6月1日にバリューイノベーションが運営するアパレル雑貨ECサイト「SUPERCLASSIC(スーパークラシック)」、6月11日にジュンが運営するファッションアパレルECサイトの「J’aDoReJUN ONLINE(ジャドールジュンオンライン)」が導入した)。

通販事業者の皆様からの反響も大きかったですが、ソリューションプロバイダーからも非常に多くの“連携”に関する問い合わせを頂きました。我々としてもいかに通販事業者に簡単に早く導入頂けるかが1つの解決すべき大きな課題と認識しています。自社で時間をかけてシステム開発をせずとも、ソリューションプロバイダーのサイト構築ツールのパッケージの中で対応できるようになればスムーズな導入が可能になるはずです。先の「フラクタ」や「フューチャーショップ」と同じようにソリューションプロバイダーとの連携を進めていきたいです。

――具体的にどこのソリューションプロバイダーと連携したいという要望はありますか。

そこはオープンに考えています。当社に問い合せ頂いたソリューションプロバイダーの皆様ともお話をしてご説明していますし、また、「Amazonログイン&ペイメント」の開始後に導入に関して問い合せを頂いた通販事業者の皆様にも「どこのソリューションプロバイダーを使って、サイトを作っているのか」などをヒアリングさせて頂いています。通販事業者の皆様が多く利用されているソリューションプロバイダーには、そうした事実をフィードバックするなどして、我々サイドからもお話をさせて頂ければと考えています。

――「Amazonログイン&ペイメント」の導入サイトの目標は。

数値的な目標は特にありませんが、米アマゾンでは2年前からサービスを開始してすでに導入サイト数は数千社となっています。米国とは市場環境が異なるため、単純比較はできませんが、日本でもそのくらいの勢いで導入サイトを増やしていきたいです。

そのためには先ほどのソリューションプロバイダーとの連携など通販事業者が簡単に導入できるような施策や技術的なサポートなどを強化していきたいと思っています。

◇プロフィール◇

井野川拓也(いのかわ・たくや)氏

大学・大学院にて化学生命工学を専攻し、バイオの研究に従事。その後、石油会社にてエンジニアとして働いた後、米系の戦略コンサルティング会社にてクライアントの戦略立案から業務改善まで幅広いプロジェクトに参画。米系のコンピューター会社の日本法人、中国法人にて営業企画、マーケティングなどの部署を統括。2010年より、アマゾン ジャパンのセラーサービス事業本部にてマーケットプレイスビジネスの事業企画、マーケティング、グローバルセリング、広告サービス、事業者向けのID決済ビジネスなどを担当し、現在に至る。米国ペンシルバニア大学ウォートン校 MBA修了(ファイナンス、マーケティング専攻、2002年)、東京大学大学院 化学生命工学専攻 修士課程修了(1995年)

◇編集後メモ◇

あるネット調査によると、過去半年以内にネットショッピングを利用した人のうち、実に「5人に4人がアマゾンを使っている」そうです。「Amazonログイン&ペイメント」はEC利用者のほとんどが顧客登録済みであるほどの圧倒的なシェアを持つアマゾンだからこそできる“アマゾンならでは”のサービスだと言えそうです。新規登録時のドロップオフは各社とも課題の1つであり、その解決策の1つとも言えるこのサービスに多くのEC事業者が興味を示しているようです。明らかにしていないクレジットカードの手数料率が気になるところですが、検討してみる価値はありそうです。

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