名古屋高裁も請求棄却、「相談件数」評価に一石投じる判例ーーCネット東海の〝定期縛り〟差止訴訟

 適格消費者団体の消費者被害防止ネットワーク東海(=Cネット東海)が、健康食品通販のファビウス(旧メディアハーツ)を相手取り行っていた差止請求訴訟は21年9月、名古屋高裁がCネット東海の請求を棄却した。最大の争点は、初回価格の強調が景品表示法の「有利誤認」にあたるかということ。Cネット東海は是正を求めていた。ただ、判決は、これ以外にも多くの事業者に影響する重要な争点を含んでいる。

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〝定期縛り〟のトラブル増加受け提訴

 この裁判が注目されたのは、Cネット東海が健康食品や化粧品のネット販売市場でトレンドになっている〝定期縛り〟の広告表示の是正を求めたものであったためだ。

 〝定期縛り〟とは、初回購入時にあらかじめ複数回の定期購入を条件として示している定期コースのこと。3~5回の定期購入の約束を求める企業が多いが、企業からすれば、投資回収のめどが立ちやすいメリットがある。

 一方、これを条件に商品の初回購入価格を数十%オフの数百円で提示することで消費者側にもメリットがある。「初回〇〇円!」などと強力なオファー訴求が行え、企業にとっては事業展開上、〝おいしい〟マーケティング手法なわけだ。

ただ、購入に際して複雑な条件がつくために消費者に分かりづらく、こうした条件を初回価格などの強調表示と比べて小さいフォントで表示する事業者も現れていた。このため、「中途解約できないとは知らなかった」といった消費者トラブルが数年前から急増。問題化していた。

C ネット東海は、定期縛りをめぐる表示の是正を求め、ファビウスを提訴した。(画像は、C ネット東海のホ ームぺージ)

 Cネット東海の差止訴訟は、こうした「初回価格の強調」が、「中途解約できない」といったトラブルにつながる要因であり、景品表示法の有利誤認にあたるのではないか、という問題意識から行われている。同様のマーケティング手法を行う事業者への影響も大きいことから注目されていた。

初回強調は「有利誤認」と指摘

 まず今回の訴訟を振り返りたい。

 ファビウスは「すっきりフルーツ青汁」という商品の販売にあたり、最低4回の継続を条件に、定価3980円の商品を初回価格のみ84%オフの630円で提供する「ラクトクコース」を展開していた。いわゆる定期縛りだ。訴訟は、Cネット東海によるファビウスへの是正申し入れに始まり、両者の間で複数回の協議が行われたものの折り合わず、Cネット東海が2018年1月に名古屋地裁に提訴している。以降、19年12月の請求棄却を受け、20年1月、Cネット東海が名古屋高裁に控訴していた。

 Cネット東海が問題視していたのは、初回価格の強調、申込確認画面における初回支払金額のみの記載(注:実際は4回分の総額が表示されているが、見落とすとの指摘)。4回分の総額が分かりづらく「1回だけの契約と誤認させる」と指摘していた。また、初回価格を2回目以降の支払金額より強調したり、定価と比較することで、1回あたりの平均支払金額より低額とする表示が有利誤認にあたると主張していた。また、フォントサイズの違いなど、初回の割引価格の強調から、中途解約できないと認識できず、初回のみ購入できるかのように誤認させるとした。

訴訟で問題となったファビウスの広告表示(一部 抜粋)

 一方のファビウスは、初回価格と同一画面に4回の購入が必要であることなど継続条件を4回に渡り表示。画面遷移先でも「ご購入前の注意事項(必ずご確認ください)」と表示の上、目立つ背景色とともに、赤字で「特別価格コースのため、途中解約はできません」と表示。同画面のほか申込確認画面でも4回分の支払総額を表示していた。このため、「価格表示にある程度誇張があると認識している一般消費者が、表示をすべて見逃し初回のみ購入できると認識するとは到底考えられない」と主張した。

名古屋地裁「有利誤認にあたらない」

地裁は、申込ボタンの真下に継続条件が広告内に繰り返し表示されていることや、途中解約できない旨を目立つよう記載していることから、「どのような契約か関心のある一般消費者であれば、目を通すことが通常想定される」「健全な常識を備えた消費者は容易に認識し得る」とした。申込確認画面も総額が明記されており、「初回のみの契約と認識するとは言えない」と判断した。

 平均支払額と比較していないとの指摘も、「5回目以降も継続して購入できるから、平均支払額という金額自体を想定できない」とし、「社会一般に許容されている誇張の程度を超えて販売価格の有利性があると誤認させるものではない」としていた。

ファビウスは名古屋高裁の判決を受けてコメントを公表した。

Cネット東海、控訴で追加請求

 高裁への控訴に際し、Cネット東海は、初回価格の強調や、申込確認画面の支払金額の表示が「初回のみの契約と誤認させ、有利誤認にあたる」など一審と同様の指摘を行っている。

 加えて、一審判決後に仕様が変更された申込確認画面も、初回支払金額と4回分の総額の表示が「殊更分離している」「文字の大きさ等で初回のみ強調」と追加請求で差し止めを求めた。

 追加請求の広告表示も継続を条件に初回「630円(84%オフ)」で提供する点は変わらない。複数回に渡り継続条件や途中解約できない旨を表示。申込確認画面でも「※必ずお読みくだい」と契約条件を示す。

 Cネット東海は、裁判で「初回割引と2回目以降の価格差から初回で解約できる『お試し購入』の契約に類似。4回購入が義務の定期との認識に至らない」などと指摘した。

 申込確認画面も「(消費者は)枠に囲まれた部分に重要な内容があると認識して枠外に注意を払わない行動特性がある」との見解を披露。初回分のみ枠内に示し、総額を枠外に表示するなど「有利な部分のみ強調するのは許されず、有利誤認にあたる」と主張した。

 ファビウスは、条件を繰り返し表示することから「見逃すことは通常想定できない」と一審と同様に主張。申込確認画面も「初回のみの強調ではなく、仮に有利な部分のみ強調した表示でも、それだけをもって有利誤認とする法的根拠はない」と反論した。

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