通販実施企業のおせち商戦が早くもスタートした。各社とも本格的なプロモーションは10~11月頃となるが、おせち市場の競争が激化する中で既存顧客を早期に囲い込む狙いもあってECチャネルの受注開始時期は年々早まっている。また、新規顧客層の開拓に向けてZ世代向けやキャラクターおせち、肉づくし、スイーツおせちなど、各社のバリエーションも豊富だ。通販おせちのトレンドや有力企業の戦略などを見ていく。
Z世代向けおせちを開発
楽天グループは9月5日、今年のおせち商戦におけるトレンド予測を発表した。仮想モール「楽天市場」における、昨年のおせち商戦(2023年8~12月)流通額は、コロナ禍だった20年おせち商戦(20年8~12月)の約1.5倍に。取り扱い点数も9月2日時点で1.7万点となっている。
楽天市場における人気おせちは、容量は2~3人前、価格帯は1~2万円程度、定番の具材がバランス良く入っている和風おせちという。一方、おせちのカジュアル化も進んでおり、3年前と比較すると洋風おせちは約1.3倍、中華おせちは約2.3倍、キャラクターおせちは約1.7倍にそれぞれ流通額が拡大している(いずれも20年と23年通年における流通額を比較)。
また、おせちを割引で購入できる「早割」の浸透により、23年7~8月のおせち流通額は20年7~8月の約2.9倍まで拡大した。今年はすでに5人以上で食べる大容量おせちが好調に推移しているという。楽天市場では、9月30日9時59分まで対象のおせち購入で、25年1月16日~2月28日に楽天市場で使える3000円割引クーポンを配布するキャンペーンを実施している。
同社は今年のおせち商戦のトレンドとして「オードブルおせち」「ハイブリッドおせち」「ご当地おせち」の3つを予測。24~25年の年末年始は最大で9連休となることから、家族や大人数で過ごす時間が取りやすい傾向にあるほか、自宅や実家で過ごす人が多いとみられることから予測したトレンドだ。
まず「オードブルおせち」については、近年のおせちのカジュアル化を背景に、洋風の味付けを中心とした多種多様な品目を自由に盛り付けられる、オードブルスタイルのおせちに注目が集まるとみている。流通額は3年間で約1.8倍に拡大(同)。10月1日には「楽天市場おせち2025」特集ページ内でも、オードブルおせちを紹介するコンテンツを公開する予定。
「ハイブリッドおせち」は、和洋中の組み合わせおせちや、単品おせちを自分でつくったおせちと組み合わせるといったもの。和風+洋風の組み合わせおせちや、洋風+中華の組み合わせおせちの注目度が上がっていることから、トレンドになると予測した。
「ご当地おせち」は、地域特有の素材や調理法で作られたおせち料理のこと。楽天市場でも滋賀県の「赤こんにゃく」や山形県の「コイのやわらか煮」などを販売しており、家族や親戚など大人数で集まる年末年始の楽しみ方として、コミュニケーションのきっかけになることから注目度が高まっているという。
また同社では、楽天市場の人気店舗と「博多久松」との共同開発商品として、Z世代向け「推しおせち」を9月5日から個数限定で販売する(1段×4セット、価格は1万円)。
共同開発は楽天側から持ちかけたもので、おせちになじみの薄い若年層も少なくないことから、Z世代の好きな具材を採用し、おせちの継続的な需要を喚起するのが目的だ。15~29歳を対象に「おせちで食べたい食材」をインターネットで調査。約80品目から選んでもらうというもので、上位に入った16品目を具材として選んだ。
アンケート結果は、1位ローストビーフ、2位イクラのしょう油漬け、3位ガトーショコラ、4位かまぼこ、5位栗きんとんだった。ガトーショコラのほか、スノーボール(クッキー)や、イチゴのクリームロールケーキなど、通常はおせち料理では入っていない具材が上位にランクイン、具材として採用している。
ふるさと納税や冷凍おせち強化
大丸松坂屋百貨店の24年度のおせちは「慶びのシェア」をテーマに展開する。コロナ禍では1人用のおせちなどが広まったが、今年度は1つのお重を大切な人と一緒に食べてもらいたいという思いや、おせち文化を次世代に継承していくといった思いを込めた。
MD面では名店の味を堪能する贅沢おせち、料理研究家による監修おせち、人気料亭やホテルが手がけたコスパ抜群おせち、離れて暮らす大切な人に贈る冷凍おせち、地球にやさしいサステナブルおせち、おつまみや肉などのユニークおせちを数多く展開する。
贅沢おせちでは、和食料理人「一本杉川嶋」の主人が監修し、能登の食材をハレの日にふさわしい料理に昇華させた「和風おせち二段」(税込4万2000円)などを展開。冷凍おせちではリーズナブルで、和のメニューを中心に洋風も中華風も盛り込んでいる「かなで」(同1万3500円)などで新規開拓を図る。
昨年おせちの売り上げ1位だった料理研究家の大原千鶴さんが監修した「口福おせち」の三段重(税込2万9800円)や、同2位で酒場詩人として活動する吉田類さん監修の「おつまみ玉手箱」(同1万7800円)、同3位で販売個数では1位だった京都・祇園の京彩宴が手がける「天禄」(同1万1880円)も一部献立を変更して販売する。
大丸松坂屋百貨店ではコロナ前とは消費者のおせちの購入方法も大きく変化。19年度のおせち受注比率は店頭49%、EC30%、電話21%だったが、23年度は店頭33%、EC50%、電話17%となり、初めてECが全体の半分を占めた。
昨年はとくに冷凍おせちを強化。全国配送の冷蔵・冷凍おせちの売り上げが19年度比で3.6倍になったほか、おせちと一緒に食べる鍋・迎春料理も同2.2倍に拡大し、大きな成果を得たという。
24年度のおせち売り上げは前年比3%増を計画。ECチャネルは同8%増を目指す。目標達成に向けては、販売チャネルの拡大と冷凍おせちの拡充、ECの一段強化を掲げる。具体的には、ふるさと納税への参画に加え、小規模ECモールにも出品する。まだ売り上げ比率の小さい冷凍おせちは売り上げ30%増を目標に展開型数を増やす。
おせち市場は新規参入もあって競争が激化していることから、冷凍おせちを強化することで新規顧客層の囲い込みにつなげる。また、おせち市場全体としてMDの同質化が進んでいることから、料理研究家による監修おせちなど差別化されたおせちを強化する。
加えて、おせち商戦ではふるさと納税の存在感が高まっているという。12月の駆け込み需要として、ふるさと納税で高額おせちを選ぶ人は富裕層に近く、百貨店の競合になることから、同社でも昨年度から京都店がふるさと納税に参画。今年度は対象店舗を増やして、自らふるさと納税市場を開拓する。
おせちの受注については、「大丸松坂屋オンラインストア」では2日前倒して9月20日から予約を受ける。店舗は10月1日に始動。受注を早めることで既存顧客の囲い込みを図るだけでなく、販売数量が見極めやすくなり、廃棄ロスの削減にもつながるとする。
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