ファッションEC事業を手掛けるエニグモでは、海外出品者から日本向けにブランド商品などを販売するCtoC仮想モールの「BUYMA(バイマ)」において、商材や販路の拡大などを図っている。中古ラグジュアリー商品の買い取り・販売に加えて、若年層に人気の高い韓国ブランドの取り扱いも強化するなど、成長に向けた打ち手を追求。直近では、日本から海外向けに販売する越境ECで他社と連携しながら販路拡大を進めており、為替環境や関税ルールの急変にも対応できるバランスの取れた事業構造を目指している。同社が描く今後の成長戦略に迫る。
ブランド単価上昇で購買傾向に変化
─現在のバイマでの購入単価の推移や、トレンドについて。
2023年4月に次代の中心顧客層となり得る35歳から54歳の方々に認知を高め、新規のお客様になって頂くために「3554プロジェクト」を立ち上げました。テレビ視聴環境の変化などによってテレビ以外のチ 単価は年々上昇しています。主力商材がハイブランドやラグジュアリーであることは変わっていませんが、それらの定価が数年間で数倍に上昇しているため、それに引っ張られるように単価が上がっています。当然、買える人の数が減ってしまうため、大きな流れで見るとユーザー数や件数で少し苦戦していますが、単価の上昇でトータルのセールスを保っている形です。商材カテゴリーでは、やはりハイブランドのバッグが強く、あとは冬場になるとダウンなどの重衣料が売れ筋となります。
─利用動向の変化は。
セラー(出品者)については堅調に伸びています。為替環境や市況環境が良いと、誰でも活躍できるような状況になるのですが、今の環境の場合、日本(の実店舗などで)で買う方が安くなるブランドもあるため、ただ海外に住んでいるだけで販売してすぐに大きく売り上げ成果を出すということは難しいかもしれません。
そのため、セラーの伸び率としては鈍化傾向にあり、ある程度、バイマを一つの収入の軸としてやられているような方がベースになってきている印象です。基本は(現地の)個人事業主のような方ですが、最近は海外の大手法人の参入も目立っています。
ブランドの価格上昇もありますが、買い手としてはいわゆる富裕層というところが引き続きありがたいことに一定数いらっしゃいます。全体のユーザー数がやや減っていることが現在の課題であるため、対策としては商品ラインアップを拡充していくことを戦略的に進めています。
─具体的には。
ラグジュアリーが強い面を活かした戦略で言いますとまず、中古品があり、2024年には「BUYMAVINTAGE(バイマヴィンテージ)」を立ち上げました。今は(単価が上昇した)新品の購入が難しくなっている中、状態が良くて信頼のおける中古品のニーズはかなり強くあります。バイマですと、ニューヨークやパリのヴィンテージショップにある商品をはじめ世界中から商品を集めることができます。今は日本国内の大手中古販売業者にも多数参入してもらっています。
取り扱いブランドで言いますと、非常に幅があって、「エルメス」、「シャネル」、「ルイヴィトン」といったメジャーブランドに加え、ファッション性が高くて、今の市場で流行っているけれども新品の価格が高く、中古であれば手が届きやすいブランドなど様々あります。ビジネスモデル自体はバイマと一緒なので、我々が在庫を持つのではなく、世界中のセラーが中古マーケットから商品を探して来て提供いただいています。
─中古品ということで商品の信頼性を担保する仕組みなどは。
バイマヴィンテージについては完全審査制にしています。商品クオリティーの問題もありますので、これまで(新品の)バイマでの販売実績で一定のスコアや信頼性があるセラーに参加してもらっています。誰でも販売できるわけではないという点で、一つ安心ができる中古のマーケットだということです。当然、こうしたセラーは新品のラグジュアリーも販売していることから、今、どういった商品を顧客が望んでいるのかということが肌感覚でよく分かっています。そのため、バイマヴィンテージは立ち上げたばかりですが、毎月、前月を超えながら伸びています。
─既存のバイマ事業との関係で中古事業に活かせる部分は。
基本は我々マーケットプレイスなので、色々な人に出品していただいているのですが、やはり新品のラグジュアリーをこれだけ売ってきた実績というのも、他にはない強みだと思っています。そこで、今は新品で販売した商品をバイマが買い取って、またバイマ上に還流していくというようなこともやっています。
我々としては、誰がいつどのブランドをいくらで買ったのかを知っていますので、その購入した人達に対して、次はこの価格で(中古として)売りに出しませんかというアプローチもしています。専用のページを作って、一部の顧客向けに買い取りができますというメッセージを出しています。そうした場合は我々が在庫を持つことにはなるのですが、新品や中古の販売データが集まってきていますので、顧客に対して魅力的なオファーができますし、我々もそこまでのリスクがなく在庫も出せます。我々が今まで売ったものを買い戻して海外に売っていくという動きは、今後の強みになっていくのではないでしょうか。
─バイマ利用者から中古買取ができることがメリットになっていると。
例えば「モンクレール」のダウンなど、この数年間で価格が1.5倍ぐらいに上昇したため、極論、購入当時と近しい価格で買い戻しても、中古品で販売できるという形です。また、買い取りの際にポイントなども少し上乗せすると、場合によっては次の購入にもつながっていく効果があります。
(買い取りの)顧客を集めてくるところと販売するところが全てバイマ内で自分たちでできますので、そこに大きく広告コストをかける必要はありません。高く買って安く売るということが構造的に非常にやりやすいと言えるでしょう。
─中古事業以外での強化は。
もう一つは全体のユーザー数で見た時に、当然、若年層を取っていかないとサイトの長期的な成長はありませんので、やはりそこに向けた獲得策を進めています。
以前はラグジュアリーが主で、あとはアメリカのブランドのアウトレット商品の取り扱いが目立っていたのですが、ここ数年の大きなトレンドとしては、韓国ブランドがファッション市場で人気の流れになっています。韓国ブランドは、ミドルからロープライスの手ごろなファッションアイテムが非常に好調です。バイマの顧客層は30代後半などがメインですが、(韓国ブランドの顧客は)それよりも若く、20代前半から場合によっては10代もいます。コスメも人気がありますが、やはりファッションが強く、トレンド商品が良い価格でそろっており、ブランドの種類も非常に豊富です。
円安受け、海外向け越境販売網を構築
海外向けの越境ECに本腰
─2024年8月から、BEENOS(ビーノス)グループのBeeCruise(ビークルーズ)と連携して、日本から海外に販売する越境ECも開始しましたが、その狙いとは
我々のバイマは海外の商品を日本で買えるというビジネスモデルで、シンプルに円安に弱いという課題があります。そのため、ここにばかり期待していくのではなく、逆(の販路)もきちんと持ってバランスをとるべきだということは数年前から考えていました。
以前は自社で「英語版BUYMA」を立ち上げて運営しており、米国向けをメインに展開していました。もちろん広告費をかけていけば流入が取れて売り上げが伸びるのですが、そこで自社でリードを取ってやっていくことに対して中々エコノミクスが成り立たないような状態が続いていました。世界的にもラグジュアリーのグローバルECは軒並み雰囲気が変わってきています。そのため、売り上げは取れるのですが、中々利益を出しづらい構造でもあったということで、一旦こちらはクローズしました。
ただ、引き続き海外からのアクセスがそれなりの数があったため、そのまま買えるようにしようというところで、ビークルーズさんの(越境EC対応ツール「(バイイーコネクト)」の)力を借りて実現させていただいたというのがこの1年間の動きです。
既存のバイマの仕様を色々と変えるのではなく、そのまま使ってできるという内容です。我々としてもどれぐらい売れるか分からない部分はありましたので、簡単に始められることが重要でした。非常に導入が簡単だったのでやらせていただいたという背景です。
─導入後の成果としては。
何かKPIを持ってスタートしたというよりかは、この1年はテスト期間のような形だったかと思います。とりあえずライトに導入したため、最初からUXが海外の顧客にとってとても使いやすいという訳でもなく、また、当然、既存顧客にも迷惑がかかるような仕組みになってはいけないこともありました。この1年は、まずは買えるようにして、次の段階としてもっと買いやすくしていくということです。今はそういった土台が一応整ったので、ここからはマーケティングコストをかけていくという状態です。
─この1年間の販売を振り返って。
本当に色々な国から来ていただけているのですが、もちろんメインとなる国としてはアメリカが多くなります。あとはアジアも結構多いことが一つの特徴だということも分かりましたので、次はここを攻めていこうと思います。どの国に、どういった価格帯のどのような商品が売れるのかということは、やはり1年間やってきてデータが溜まりましたので。これをどうしたらもっと売っていけるのかということを考えられる素地が整った感じです。
世界中の在庫の最適化
─国をまたいだ取り引きとして、昨今の円安でバイマが受ける影響とは。
影響は大きくあります。実際に動きとして一番大きかったのはやはりバイマで日本から買う人が価格の高さを感じることです。これまで(円高だった頃)の日本の場合、海外で直接購入せずにバイマを通した方が安いというケースが圧倒的で、いわゆる内外価格差が非常に大きくありました。そうした時はとても強いのですが、今はそこが非常に埋まってきているため、我々としては売り上げに影響しています。海外のセラーにとっても、日本で高額な商品が売れなくなると、そういった意味では影響があるため、今は販売するものを工夫してもらう形です。
─工夫する内容とは。
それこそ、今はどこでも買えるものではなく、日本ではもうあまり手に入りづらくなっている商品などに売れ筋がシフトしていっています。メジャーなブランドであっても、例えば海外では人気があまり無い色柄が日本では非常に人気になるといったことも普通にあります。あるいは、日本で先に売り切れた商品で、海外ではまだ在庫が残っていることもあるでしょう。また、海外のアウトレットセールで買い付けたものなどはいまだに根強い人気です。海外のアウトレットは日本とは規模が全く違うので、割引率もかなり大きいです。やはり、世界中の在庫の最適化を行えるという部分はバイマのビジネスモデルの一つの強みだと思います。
─一方で、越境EC事業における円安の影響は。
当然、価格の部分でメリットは感じています。今までは日本向けの販売をしていたので、円の動きを集中して見ていたのですが、毎月のバイイーコネクト経由の海外販売を見ていると、国ごとに為替が振れたことでどこが伸びてくるのかということが分かりやすく、まだ規模は小さいのですが狙った通りの形が見えてきた部分はあるかなと思います。
─関連して、米国向け輸入品の「デミニミスルール」が8月末から廃止されましたが、その影響とは。
8月以降から明らかに米国向けの越境ECの販売が下がったと思います。一時的に、様子見されているのかなという印象はあったのですが、9月末、10月頭ぐらいからは徐々に回復傾向にあると思います。
─こうした場面での対策とは。
いわゆるラグジュアリーのような高額な商品になると、当然、関税も高くなってしまうので、例えばターゲットとする国の選び方などがあります。こういった問題がなく、安定してセールスが取れる国に向けてマーケティングコストを投下していくということです。今はShopee(ショッピー)を使った台湾向けの越境ECも始まっていますので、そういうところでバランスをとって、あまり(米国の)一極集中にならないように気をつけています。
─越境ECで特に狙いをつけている国・地域などは。
この1年間のアクセスや売り上げを見ていくと、台湾や韓国などが目を惹いたので、こうした地域は可能性があると思います。あとは、市況でいきますと、タイなどは日本の中古会社もすでに進出していますので、こうしたアジア地域は距離的にも近く、やりやすいのではないかと思います。先ほど申し上げた、バイマで中古を始めたという話とも関係してくるところなので、我々で集めた中古品をアジアに販売していくというのは、大きな流れに沿った動きだと感じています。いずれにしても、まだ本当に買えるようにしただけですので、広告活動もこれから力を入れていき、より各国での知名度を取っていくような動きを積極的にやっていきたいです。
今寺優介(いまでら・ゆうすけ)氏
早稲田大学理工学部建築学科卒業、2008年プロパスト入社、2009年エニグモ入社、2013年カスタマーマーケティング事業本部部長、2023年執行役員カスタマーマーケティング事業本部長
◇ 取材後メモ
昨今は歴史的な円安で、市場環境が大きく変化しています。国をまたいだ取り引きにとって、こうした為替の急変は大きな影響となり、同社も例外ではありません。逆風の中、新たな打ち手として期待されるのがビークルーズとの協業による海外向けECの展開や韓国アパレルの強化です。不安定な市況下でも、顧客のすそ野を広げる動きを積極化しており、バランスの取れた舵取りを目指していることが窺えます。世界規模で活動を進める同社の今後の施策についてその行方が注目されます。