ECを支える 技術活用の 最前線 ~最新テクノロジーを使いこなせ!~

人の代わりに配送拠点で注文商品をピッキングするロボット、ひとっ飛びで商品を素早く届けるドローンでの配送などネット販売の業務を効率化したり、コスト削減、売り上げアップにつながりそうな最新のテクノロジーが日々、生み出され、改善されている。新しい技術を取り入れ、EC事業に活かしながら業務を進める先端を行く事業者の事例を見ながら、最新技術のEC への活用のポイントや効果などについて探った。

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進化するピッキングロボット汎用化に向けてさらに改善へ

【事例① アスクル】

将来的な労働力不足の問題や効率化のために開発に着手したピッキングロ ボット。カメラで商材を認識して、形状に合わせてピッキングする(大阪 の物流拠点に設置したロボットの様子)

アスクルは物流センターにおいて受注した商品をピッキングする作業で、人に代わって作業を行うピッキングロボットを導入している。2016 年からの試験導入以降、実証実験を繰りし、つかめる商材の形状が増え、また、作業スピードも速まるなど、「人によるピッキングとほぼ変わらない能力」を持つまでに進化しているようだ。2019年9月には大阪の大型物流拠点に進化したロボットを実戦投入。日々、運用を行い、エラー率を引き下げる改善を重ね、本当の意味で人に代わるピッキングが可能になる汎用ロボットの完成に向けて、進化を進めている。

毎時450ピックと生産性は4倍に

アスクルでは人手不足に伴い、将的に問題となるであろう労働力不足への対応や省人化のため、物流センター内の各種作業については自動化を進めてきたが、これまでどうしても自動化できず人手に依存してきた商品ピッキング作業の自動化に挑むべく、ロボットの知能にあたるソフトウェアを開発するMUJINと提携して、ピッキングロボットの開発に乗り出した。

実はこのピッキングロボットの開発は難しく一筋縄ではいかないという。製造現場などではロボット化はすでにかなり進んでいるが、通販、特にアスクルのように単一の商品でなく、注文ごとにピッキングする商品が変わり、かつ飲料、日用品、化粧品など多品種で多様な商品をピッキングする必要のある物流拠点で機能させるには、事前に設定された通りにしか動けない既存のロボットでは対応できない。そのため、高速高精度のカメラによる画像認識システムによって、ピッキングの対象となる商材の種類、形状、大きさを認識し、それらの情報を基にロボットが効率よく動くための動作計画と呼ばれるプログラムを都度、瞬時に作成し、状況に応じてロボットアームの軌道や掴み方を変えて、商材をつかみ上げられるようなロボットを開発することになった。

ピッキングロボットの開発に着手した直後は、ピッキング可能な商材は“箱型”の形状ものに限られ、シャンプーや洗剤などにあるパウチタイプの形状はつかめなかったり、ピッキングのスピードも毎時110ピックとのんびりしたものだったが、横浜の物流拠点に設けたピッキングロボット専用の実験施設でMUJINとともにトライ&エラーを繰り返してきたことで、開発から3年が経過した2018年には箱型はもちろん、ボトル形状のものなど様々な形の商材をつかめるようになり、また、ピッキングのスピードの毎時450ピックとなり、単純計算での生産性は当初の4倍となるなど大きく改善した。

実戦でも予想通りの成果

自動化を進め物流生産性の向上を進めていくと話す アスクルの天沼執行役員

3年の改善を重ねて、進化したロボットを大阪・吹田市内に構える同社最大の大型物流拠点「アスクルバリューセンター関西」に2019 年10 月に2台、実戦投入した。なお、導入したロボットは動作計画を作成する役割を担い、言わば“脳”にあたるMUJIN 製の「知能ロボットコントローラ」を搭載したロボットアーム(安川電機社製)となっている。導入後の状況は“人とほぼ変わらないピッキング能力”を持ったロボットの実力を発揮し、予想通りの成果をあげられているようだ。

ロボットの実用化に向けての壁

ただ、汎用化への道はまだ先だという。確かに人に比べてもそん色ないスピートを持ってピッキング作業を行えているものの、例えば、同じ商材を5個ピッキングする際、サイズにもよるが人であれば1回で5個をピッキングできるが、ロボットの場合は現状、1回で1個しかピッキングできないため、5倍の作業が発生することになる。

また、同センターではピッキングロボットのほか、物流生産性の向上のため、従来センターのようにピッキングのために、作業員が注文商品のストック場所まで歩いて取りにいく形ではなく、ピッキングすべき商材が入ったオリコンが作業員の手元にコンベアで自動的に流れてくる仕組みとし、作業員が一切、移動せずにピッキングできるようになっている。このピッキングスペースであるステーションに人に代わりロボットを置き換えることができれば理想的なのだが、現状はそうではなく、ピッキングロボット専用の少し複雑なステーションを設けている。ロボットがピッキングするためにはカメラで商材の形状を認識して行動計画を都度、作成しなければならないわけだが、直前の商材をピッキングする際に都度、作成すると時間がかかってしまうため、2列のオリコンが配置されるような形にして今まさにピッキングを行うオリコンの1つ後のオリコンの商材を認識し、事前に行動計画を作成することで作業の高速化を図るためだ。ただ、今後、ピッキングロボットを複数台、導入していく場合、このように人によるピッキングに比べて、ステーションがあまりに複雑なままでは効率化という点で本末転倒になりかねない。

そして最大の壁は商材をつかめなかったり、止まってしまったりというエラーが稀だが発生することだ。その場合は人が介在しなければ復帰が難しいという。「エラー率をさらに引き下げ、なくなるようにさらに改善していかなければならない。そうでなければいつもロボットに人が張り付き、お守りをしなければならない。本当に人から置き換えてロボットにピッキング作業をさせるためには、それが最も重要だ」(天沼英雄執行役員)とする。

そのため、現状は作業効率よりも、日々の運用に乗せながら本当の意味で実戦に耐えうるために精度の向上を進めている。それゆえ、実はすでに在庫商品のうち、半分程度はピッキングできる能力をもっているというが、中でもつかみやすくエラーの発生が少ないであろう箱形状の商材を中心とした1200SKUに絞ってピッキングを行っている。その中でエラーが発生した場合には、その都度、問題点を調べて、それを克服するために次にどんな改善していくのかなどのフィードバックを行い、改修を行って、「本当に力としてものになる状態まで作り上げていくことに重点を置いている」(同)として、エラー率を限りなく抑え、複数個を同時にピッキングできる機能や専用の設備がなくともより素早くピッキング作業ができるようにMUJIN とともにさらに改善を重ねて、同社にとって最適なピッキングロボットを作り上げ、汎用化していきたい考えだという。

パレット搬送用ロボなども導入

アスクルバリューセンター関西に導入したパレット搬送用ロボット

なお、アスクルでは開発中のピッキングロボットのほか、前述したピッキングすべき商材をピッキング作業員の前に自動的に流していく仕組みを実現する「自動倉庫型GTP」など、様々なテクノロジーを導入し、物流作業の効率化を進めている。

例えば、2019年2月から同社も出資するHacobu(ハコブ)が展開する「MOVOバース管理ソリューション」を導入。トラックと倉庫の間で荷物の積卸しを行うためにトラックを接車するスペース、いわゆる「バース」の利用時間をネット予約できるサービスで、トラックのドライバー自身が携帯電話などインターネット接続が可能な端末から、専用サイトにアクセスして、”空きバース”を10分単位で予約でき、SMSや電子メールなどで予約の詳細などをドライバーに伝達する仕組みだ。従来からバース予約システムを導入していたが、荷主が前日までに予約しなければならなかったため、予定が見えない場合などもあり、利用率は低かったようだが、「MOVO」の場合は当日にトラックのドライバー自身が予約可能であるため、サービスが浸透。これにより、アスクル側が届く荷物の量や時間を把握できるようになり、最適な人員配置できるようになったこともあり、バースが空くまでのトラックの待機時間が導入前の1/ 3以下に、1時間以上の待機率も同1/ 4以下になるなど作業効率が高まっているという。

なお、「MOVO」はアスクルバリューセンター関西のほか、BtoC 通販用物流拠点の埼玉・日高市の「アスクルバリューセンター日高」や都内、横浜、名古屋の各物流拠点にも導入している。

また、入荷した商品を自走倉庫まで効率的に運ぶため、アスクルバリューセンター関西に2019年9月にGeek 社製のパレット搬送用ロボット「Geek+EVE M1000R」を10台導入し、これまでハンドフォークによる人手で運んでいた作業を自動化し、省人化や効率化につなげている。アスクルでは今後もロボット化、自動化を進めて物流効率の向上につなげていくとしている。

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