労働人口の減少が続く中、通販を含めたあらゆる業界で人材の獲得競争が激化している。自社の魅力や働き甲斐を発信することで、将来を担う優秀な人材を確保することは企業にとって重要なテーマだ。また、入社後の育成プランや経験の積ませ方など、個人の能力をうまく引き出すようなマネジメント設計についても、今まで以上の工夫が求められている。ネット販売を実施する各社が取り組む人材育成・福利厚生や、2024年4月入社の新卒採用の状況などについて、本誌姉妹紙の「通販新聞」が2月末に実施したアンケート結果などをもとにその内容をまとめた
独自の育成制度や研修、福利厚生などの充実を図る
モノづくりや物流の現場で研修
まず、この4月に入社を迎える新卒社員に対して、どのような研修制度や育成施策を行っているかを聞いた。
ファンケルは、2023卒の場合、6カ月間(例年内容に一部変更あり)社会人スキルを身に着ける本社研修、モノづくりのこだわりを学ぶ工場実習、顧客視点を養う店舗研修などを実施。DINOS CORPORATIONでは、入社後1カ月間で、基本的なビジネスマナー、仕事の進め方、グループ研修、各部署の座学を実施。
QVCジャパンではバディプログラム、キャリアサポートプログラムを実施。その他職種別研修はチームによって内容が異なるが、例えば放送スタジオ関連のチームでは3年間の育成プログラムがある。これは、3年目の独立を目指して1年目には他チームとのつながりを学び、2年目に先輩社員のアシスタント、3年目に1人で現場に立つ、といったプロセスになっている。
ZOZOでは、年度によって異なるものの、2023年度は約1カ月の入社後研修期間で実施。ビジネス部門では、会社理解を深める研修、社会人としての基本マナー、スタンス研修、社内で使用するビジネスツールについての研修、プレゼンテーション研修などを行った。また、2023年度は前年同様に事業の根幹となる部門(EC事業、カスタマーサポート、物流管理)において、ECビジネスの基礎や仕組みを各部門の社員から直接学ぶという目的のもと、約1年をかけて短期ジョブローテーションを行った。開発部門では、これまでに会社理解を深める研修、専門知識を深める研修(主にエンジニア)、社会人としての基本マナー、外部講師を招聘しての講演、プレゼンテーション研修、開発実習などを行った。
アスクルでは、入社から配属までの約1カ月間で、基本的なビジネスマナー研修や自社の事業内容、組織構造や業務内容を座学で学び、顧客や物流の現場を学ぶ実地研修を実施。技術職においては専門的な研修を実施している。ゴルフダイジェスト・オンラインでは、入社後約2カ月間で、ビジネスマナー、自社理解(理念、事業、部門など)、office365研修、自己紹介コンテンツ、研修発表などを行う。
ジュピターショップチャンネルでは、4~5月の2カ月間を研修期間としており、ビジネスマナー、基礎知識を学び体現できるトレーニング、社内の各部署に関する理解を深めるためのプログラム、新しいアイデアで同社のビジネスをより良くするための提案を経営陣に行うこと、Eラーニングによる研修などを導入している。スクロールでは、2週間の新入社員研修、OJT制度、メンター制度などを実施。
ベルーナでは、入社後1週間で導入研修を行い、その後は異なる実務研修を行う。例年異なるが半年程度を目安としている。マガシークでは、1カ月の期間で実施。外部研修会社による新入社員研修、自社配送センター研修、社内研修を行う。新日本製薬では、半年間の中で、社会人基礎、論理思考、事業会社としての社会貢献の在り方、顧客対応などの研修がある。日本生活協同組合連合会は、入社後、約2週間で実施。その後、定期的なフォローアップ研修を行っており、研修ではビジネスマナーや基本的なルールを学ぶ講義、グループワークなどを行う。
定期面談で新卒者の離職を防止
また、新卒採用者の早期離職を防ぐ仕組みや、そうした場合の対策などについても質問した。
ファンケルでは、初期配属前のキャリア面談があり、社員のキャリア形成について話し合う機会を設け、中長期的なキャリアを見据えた上で配属先を検討。メンター制度では、配属後の不安解消のため、先輩社員による個別フォローを行っている。DINOS CORPORATIONは人事担当者による定期的な面談がある。
QVCジャパンでは、新卒採用者の早期離職は多くはないとした上で、退職者が出てヘッドカウントが空いた場合には、次の年の新卒で募集枠を増やしたり、中途で第二新卒を募集したりしている。ZOZOでは、新卒採用者の早期離職が少ないため特化した対策は行なっていないものの、本人の希望や適性などを考慮した配属の検討や、内定者時代から社内環境に素早く馴染めるように配慮したオンボーディングにより、入社後のギャップが少なく抑えられ、早期離職も抑えられていると考えている。
ゴルフダイジェスト・オンラインでは、社内コミュニケーション施策、定期的な上司との1on1、綿密な目標設計、キャリア自立支援などを取り入れている。ジュピターショップチャンネルでは、早期離職防止として、入社後の新人研修の期間をしっかりと設けることや、各部署に配属された後もOJTトレーナー制度にて、個別フォローアップを行う体制を整えている。スクロールでは、OJT制度、メンター制度で1年間のフォローなどを取り入れている。
ベルーナでは、一部メンバーへの初期配属確約での採用(語学力のある人材など)がある。マガシークでは、アルムナイ採用制度、ジョブローテーション制度を取り入れている。新日本製薬では、先輩社員との関係強化、経営層への提案の機会創出などを行っている。
既存社員に向けても手厚い研修
次に、新卒社員だけでなく既存社員も含めて、優秀な人材に育て上げるための特徴的な研修や独自の社内制度などについて紹介していく。
ファンケルは、社員教育を行う「ファンケル大学」という部署を設けており、新入社員研修や中堅社員向け研修、経営層向け研修などを行っている。ほかにも任意参加型のグローバル研修、デジタル研修など専門性の強化を目的とした研修も行っている。DINOS CORPORATIONは入社後3年間のトレーニングジョブローテーション。MD職に必要な部署を計画的に経験する制度や、既存社員向けには評価の高い昇格候補に向けた異業種交流研修への派遣を行う。
QVCジャパンでは、メンター制度、マネージャー育成プログラム、1on1、社内公募制度を導入。ZOZOでは、「1on1ミーティング」において、上長と部下が定期的に1対1でミーティングを実施し、上長が部下の直面している課題の解決や目標達成への支援を行う。また、「社内公募制度」としては、新サービスの立ち上げや事業拡大により増員が必要になった時に、該当部署が募集をかけ、社員が自由に応募できる制度がある。応募後は課題や面談などを経て、選考に合格すると部署異動が決定する。年に1回実施している。さらに、「マネジメント・ワークショップ」では、新任管理職を対象に、対話をもって経験学習サイクルを回して、マネジメントの基本原則を学ぶ機会を提供。月1回程度で、毎回1時間30分程度、半年間で開催する。そのほか、「LYアカデミア」として、LINEヤフーグループの企業内大学がある。こちらは、グループのトップリーダーが集まるクラスや、グループ会社の社員であれば誰でも参加できるプログラムなどが実施されている。
アスクルでは、学びの支援制度、データサイエンス教室がある。ゴルフダイジェスト・オンラインでは、「GDOアカデミー」をはじめ、カスタムトレーニング制度、自己啓発支援制度、社内インターンシップ制度などを導入。ジュピターショップチャンネルでは、階層別研修やテーマ別研修に加え、選抜型の次世代リーダー研修を実施。自己啓発や資格取得支援などもある。スクロールでは、通販検定3級の取得、職種別研修などがある。
ベルーナでは、1年目・2年目・3年目の若手研修や、ブラザー社員研修、5年目・10年目の節目研修、社長塾などがある。マガシークでは、若手社員向けステップアップ研修、マネジメント研修、社員による各分野のスキルアップ研修を実施。新日本製薬では、自己研鑽制度を取り入れている。日本生活協同組合連合会は、昇格時の研修や研修カフェテリア制度、自主企画支援制度などがある。昇格時の研修以外は、基本的に自分の意志で選択して参加・活用する。
育児中でも働きやすい環境を整備
そして、既存社員も含めて各企業では働き方環境の整備も進んでいる。定番の内容から、自社のサービスを組み合わせた独自の社内制度などを紹介していく。
ファンケルでは、資格助成制度、フレックスタイム制、育児・介護休暇、育児短時間勤務制度、「よい子手当」、社員割引制度などを導入。DINOS CORPORATIONはフレックス、時差勤務、時短勤務、週休3日制、副業、テレワーク、サテライトオフィス、モバイルワーク、ワーケーション、ブレジャー、資格報奨制度などを導入。
QVCジャパンはフルフレックス制度、在宅勤務制度、社員割引を実施。ZOZOは、フレックスタイム制度を「自分で考え自分で決める」という主体性を大切にし、楽しく働くことの実現を目的として実施。一般的なフレックスタイム制度とは異なり、コアタイムやその有無を部署ごとで決められることが特徴。「FRIENDSHIPDAY」もあり、同社ではEFM(EmployeeFriendshipManagement)という考えのもと、「従業員同士が親友のような関係になる」ことを目標にしている。その中で「絆を深めるきっかけ作り」というテーマで、社員同士が部署を越えて交流する機会として誕生した制度となっている。過去にはプレゼント交換、ボウリング大会、ブログリレーなど様々な取り組みを行った。コロナ禍だった2020年、2021年はオンライン開催、2022年はハイブリッド開催となっていた。また、「部活動支援制度」もある。これは、スポーツや趣味が共通するスタッフたちのコミュニティを公式に支援するために、それぞれのコミュニティを部活動として部活動費用を会社支給する制度。3人1組から新設でき、現在はサッカー、野球、陶芸、映画など様々な部がある。そのほか、「ZOZOTOWN」での買い物の際に使える「従業員割引制度」がある。割引率は非公開だが、制度を使ってサービスを積極的に利用し、その気づきをサービスに活かしている。
ゴルフダイジェスト・オンラインでは、フレックス勤務制(コアタイムなし)、時短勤務、有給休暇、特別休暇(慶弔休暇・看護育児休暇・ゴルフ休暇など)がある。ジュピターショップチャンネルは、在宅勤務制度、時差出勤制度、「ハッピーホリデー(記念日特別休暇)」、社員割引購入制度などがある。スクロールではD(ダイバーシティ)制度におけるテレワークの導入などがある。
ベルーナでは、「育児短時間勤務制度」として、小学校6年生までの時短勤務制度があり。退社時間を15時、16時、17時までと選択することが出来る。また、「ガンバレーション(表彰・インセンティブ制度)」では、社員のモチベーション向上を図り、頑張った社員を審査して、表彰していく部門活性化のための取り組みがある。表彰された社員には、報奨金の授与などがある。そして、社内販売・割引では自社商品を平常時の20%割り引きとなる特別価格で購入できるほか、自社が展開する宿泊施設を10~30%割り引きで利用できる。
ランクアップでは、母親社員向けに「スーパーフレックス制度」、「土日働いてもいいよ制度」、「ベビーシッター制度」などを取り入れている。マガシークでは、産育休からの復帰社員に対しての時短勤務制度、時差出勤制度、1時間ごとの時間単位有休制度、テレワーク制度、自社サイトの取扱商品に関する社員割引購入制度などがある。新日本製薬では、誕生日休暇、親孝行手当、結婚祝い金、出産手当、リフレッシュスペースの完備、自社製品の社販制度などがある。日本生活協同組合連合会は、フレックスタイム制・テレワーク制度を活用している。育休取得などの割合も高いが、独自の制度というわけではなく、福利厚生・制度を活用しやすい風土があることで利用につなげている。
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