景気後退の影響で、特に贅沢品や高額品などが売れにくくなっている昨今。ただ、そうした世の中の消費動向とは「逆の動き」がネット販売ビジネスでは盛り上がりを見せている。高級ブランドに特化したネット販売サイトが続々と日本でビジネスをスタートさせている。2009年3月に日本法人を立ち上げた米国の「ギルト・グループ」に続き、カナダの「ビヨンド・ザ・ラック」が2010年1月に日本版サイトを新設して日本上陸を果たしている。
不況の影響は深刻で、ブランド品を扱い、数年で年商約30億円と急激な成長を見せていたネット販売事業者のヴァイスロイ・インターナショネルが経営破たんに追い込まれる(48ページに詳細)など、日本人の好きな海外高級ブランドとはいえ、売れ行きは芳しくない状況。同じくブランド品を中心としながら、ギルトやビヨンド社が海外進出を進めるなどの成功を収めている所以は、両社のビジネスモデルにあるようだ。
ともに会員限定、期間限定で高級ブランド品を定価の半値以下という格安で販売するものだ。不況とは言え、ブランド品の人気は高く、それが格安で購入できるというインパクトは日本の消費者にも絶大のようで、すでに日本で事業を開始しているギルトでは事業開始半年後で「計画の1.5倍で推移している」(同社)としており、好調さが伺える。そういった意味でも後発のビヨンド社においても注目と期待が集まっている。
こうしたブランド販売サイトの台頭は今のご時勢ならではの現象と言えそうだ。平時ではあればイメージを崩しかねない値引きは高級ブランドにとってはタブー。商品の仕入れが難しい以上、「高級ブランドを激安で販売する」というギルトやビヨンド社のようなビジネスは成り立たなかったはずだ。とは言え、今は不況の真っ只中。ブランド側も在庫を抱え、何とか捌きたいという思惑がこうしたビジネスを生み出したとも言えそうだ。
ただ、確かにギルトもビヨンド社も本国では急成長を遂げたが、日本での成功が保障されているというわけではない。日本においては格安とは言え、数十万円はする高級ブランド品をネット上で継続的に購入する層がどのくらいおり、そうした可処分所得の高い層をどのようにネット上で獲得していくのかという問題もある。とは言え、実店舗でもネット販売でもモノが売れないご時勢で、今年はギルトやビヨンド社のような会員制格安ブランド販売サイトが1つの「台風の目」となりそう。既存の通販事業者にとっても、彼らのやり方や行方を注視しておく必要がありそうだ。
カナダNO.1の会員制ファミリーセールサイトが日本上陸
「高級ブランドの格安サイト」として先に日本への上陸を果たした米ギルトに続き、北米を中心に同様のビジネスモデルで急成長を遂げたカナダのビヨンド・ザ・ラックが2010年1月から日本でもネット販売を開始した。ビヨンド社は09年2月にサイトを立ち上げ事業をスタート。今では米国やカナダを中心に世界各地に会員を持ち、事業開始後、約1年で登録会員数は40万人を突破しているカナダではナンバーワンの会員制ファミリーセールサイトだ。
日本上陸にあたっては、ビヨンド社のほか、ネットプライスやデジタルガレージ、海外投資家が出資し、会員制で衣料品やアクセサリーのブランド品を期間限定・格安でネット販売する新会社「ブランディシモ」を新設。新会社の社長には「国内外のファッション事情に精通し、通販サイトの運営などの経験がある」(ネットプライス広報)高岸Juies治恵氏が就任した。1月22日から高価格帯のブランド品を定価の5~7割引きで販売し始めた。初年度で10億円の売上高を目指すとしている。
まずはエルメス、グッチから
新設した登録会員制通販サイト「Brandissimo.jp(ブランディシモ)」では高級ブランドの衣料品や貴金属、鞄を定価の50~70%引きで2日間から4日間という期間限定で販売する。基本は1ブランドごとに「イベント」と称して販売する形となる。1月下旬の販売開始時は週に3イベントから開始。半年以内に1日7イベントを毎日立ち上げる計画だ。
販売するブランドについては「一流ブランド」としており、まずは1月22日から2日間、「HERMES」を最大50%OFFで販売。次いで「GUCCI」を1月25日から最大60%OFFで同じく2日間、1月27日からは「BALENCIAGA」を最大70%OFFで販売する「イベント」を開催した。スタート時点での会員数などは公表していないが、日本でも人気の高い「エルメス」や「グッチ」などのブランドを持ってきたことで、順調なスタートを切ったと見られる。
今後、過剰在庫を抱えるブランドなどに「イベント」への参加を呼びかけ、初年度で250社と取引したい考えで「日本ではあまり値下げされていない商品なども幅広く取り扱う予定」(同)としている。
「魅力的な層」の獲得で横展開も?
ギルト、ビヨンド社など海外で成功をおさめた会員限定での格安ブランド販売サイトに日本上陸について、迎え撃つ日本勢はどう考えているのか。あるブランド品販売サイトの幹部は「まずは様子見。顧客層も若干、異なっており、すぐに直接的な競合になってくるわけではない」と余裕を見せる。
確かに米国やカナダで成功を収めているとは言え、そのビジネスモデルが必ずしも日本でも成功するとは限らない。海外ブランドは無論、日本でも高い人気を誇るが、鞄や小物などに人気が偏っているきらいがあり、本国のように日本でも高級ブランドの衣料品がバンバン売れるとは想像しにくい。
しかし、むしろ、日本勢にとって脅威なのは「海外ブランドに興味を持つファッション感度や消費意欲の高い層の会員化」ではないだろうか。現状は確かに商品群が限られているが、ギルトやビヨンド社が海外の有力ブランドに限らず、様々な商品を集めた会員に横展開してきた場合、衣料品はもちろんのこと、様々な日本のネット販売事業者にとって、両社は強力な競合となる可能性がある。
すでにギルトでは主力のアパレル以外へと取り扱い商材の幅を広げている。09年11月にはデザイン家電「アマダナ」の販売に着手したほか、今後はスキンケア商品も計画。2010年以降には米国でも展開する旅行サイトの構築も検討しており、物販以外の商材への拡大を強化している。「ブランディシモ」の横展開については現状、不明だが、恐らく同じような策を打ってくるものと思われる。
ベースとなる会員獲得については、ギルトではモデルのマリエさんをバイヤーに起用し、ニューヨーク発の人気ブランドのセール販売などを実施。人気ブランドの取り扱いだけでなく、モデル自身に商品を選定させることで、新たな顧客層の開拓につなげる狙いがあるようだ。
いずれにせよ、この消費不況のさなか、順調なスタートを切っている模様の両社の今後の動向は注視しておく必要がありそうだ。